MAT隊員

はじめに

この記事では郷が働くMATのメンバーについて取り上げます。

南猛

南猛(みなみたけし)は年齢25歳。長野県出身。柔道5段の腕前を持つ設定がありましたが、第2話「タッコング大逆襲」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では郷を投げても郷は空中で回転して立ってしまい、その後

南「凄まじい技だ。お前が受け止めてくれなかったら、首の骨を折るところだったよ。」

という技を受けて驚嘆します。これと前後して郷の慢心が生まれてしまいます。タッコングを郷が独断専行で攻撃してタッコングを手負のまま逃してしまい、マットサブ2号機に乗っていた岸田に責められますが

南「1号の艇長は俺だ。俺が撃てと言ったから郷は撃ったんだ。責任はすべて俺にある。」
郷「そんな。」
南「お前は黙ってろ。隊長、すべて私のミスです。処分は私だけに。」

と言って郷を庇います。まあ実際には加藤隊長が事情をすべて把握していたため、郷は処分を受けますが。という風に、郷には優しい人です。第9話「怪獣島SOS」(脚本:伊上勝、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では郷の代わりに怪獣ソナーの受け取りを引き受けています。また第25話「ふるさと 地球を去る」(脚本:市川森一、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)では弱虫だった過去が語られているのは先述しました。

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なお恋人がいたようで、第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)ではこんなやり取りを岸田としています。

マットアロー1号に乗る南が欠伸するのを聞きながら
岸田「(マットジャイロから)南さん、デートもほどほどにした方がいいんじゃないですか。」
南「そうひがむなよ、モテない男、岸田さんよ。」
岸田「ちぇ。鏡を見ろってんだ。」

こうして観ると、上原正三は南の優しさしか描いていなかったことがわかります。なお団時朗によれば、南を演じた池田駿介は本当にああいう感じの人だったそうです。「キカイダー01」のイチローもああいう感じの人格でしたね。

岸田文夫

岸田文夫(きしだふみお)は年齢25歳。ヘルメットの番号は「3」。
射撃の名手で、真面目であり、プライドも高いです。第2話で南が郷に投げられたのを見た後、今度は射撃で勝負しようとしますが、彼も郷に敗れます。南は素直に郷を褒め称えますが、岸田は無言。これが後々、郷との対立を繰り返す伏線となります。上原正三の興味も岸田にあったのは明らかでしたし、他の脚本家も岸田に焦点を当てた脚本を書いています。

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他に兵器開発を行なっているという設定があり、第8話「怪獣時限爆弾」(脚本:田口成光、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)と第44話「星空に愛をこめて」(脚本:田口成光、監督:筧正典、真野田陽一)でそれが描かれています。第44話では広田あかね(ことケンタウルス星人)との悲恋も描かれました。

演じた西田健はその後は悪役が多くなりますが、西田は、岸田のイメージが強すぎたからではないかと語っています。

上野一平

上野一平(うえのいっぺい)は年齢23歳。郷秀樹とは同年だったのですね。ヘルメットの番号は「4」です。郷同様、未熟なところが見られ、第11話「毒ガス怪獣出現」(脚本:金城哲夫、監督:鍛冶昇、特殊技術:高野宏一)冒頭では、喉が渇いたことを理由にパトロールを途中で打ち切って基地に引き上げてしまい、岸田に叱られます。岸田に叱らせているのが金城哲夫の作劇のポイントですが、岸田でなくても叱りたくなりますよね。

郷とは対立(第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一))したり、説得を試みよう(第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:高野宏一))としたりします。郷とは同年ですから、基本的には郷とは仲良しだったのでしょうね。

話のコメディーリリーフの役割を(脚本家や監督に)振られることもあります。第32話「落日の決闘」(脚本:千束北男、監督・特殊技術:大木淳)での暴れぶりが印象的です。脚本を書いた千束北男はもちろん飯島敏宏。この頃は木下プロへ出向し、同社の立ち上げに関わっていたので演出をする時間が取れませんでした。なので脚本だけの参加に留まっています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』での大木淳の証言によれば、「脚本は飯島さんにお願いしたいと思いました。」とのことでした。さて飯島は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

いよいよクランクインするに当たって早速、脚本冒頭の野外オーケストラの演奏シーンが、出演者が多く予算が掛かり過ぎるというのでカットされましたが、これはこちらも計算済みで、ここはカットされても、その代わりストーリー上カットできない他のところで贅沢すればいいという、条件闘争の結果です(もっともそのシーンは、のちに私が脚本監督で撮らせて頂いた円谷プロの映画『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』でしっかり実現させていただき、特撮を担当した大木監督を呆れさせました)。

映像化に当たって面白いやりとりがあったわけですね。ただ大木淳の本編監督は飯島の脚本をただ映像にしているという印象が私にはあります。また飯島も「帰ってきたウルトラマン」の設定を把握しきれていないのは否めず、坂田次郎は「ウルトラマン」のホシノ少年のような役回りで登場します。

閑話休題。上野には孤児という設定があります。第5話で語られていますが、この設定が生きるのは第50話「地獄からの誘い」(脚本:斎藤正夫、監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)のみです。恩人だった小泉博士(邦創典)と彼の娘で上野とは幼馴染の小泉チドリ(八木孝子)が登場します。この話で上野は小泉博士を殺したという容疑を受けてしまい、苦しみます。

丘ユリ子

最後に丘ユリ子を取り上げましょう。年齢20歳。最年少だったんですね。

第2話では剣道四段だと上野の口から語られていますが、郷に小手を取られてしまいました。男まさりの腕前を持ちます。にも関わらず通信を主に担当しており、この設定が生きるのは第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)のみとなってしまいました。第38話では丘(と郷)以外のMAT隊員がナックル星人の罠にハマって操られてしまいますが、郷と丘の二人で4人全員を倒し、MAT隊員の洗脳を解くことに成功します。

第4話「必殺! 流星キック」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では国連病院へ向かうアキと次郎を送ってあげますが、直後にアキからは嫉妬されてしまいます。もっとも、丘は郷への好意はなかったようですがね。

さて石堂淑朗は丘をひどい目に合わせています。第36話「夜を蹴ちらせ」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:佐川和夫)ではドラキュラス操る鈴村みどり(戸部夕子)(の死体)に襲われますが、こんなのは序の口。第47話「狙われた女」(脚本:石堂淑朗、監督:佐伯孚治、特殊技術:真野田陽一)では怪獣フェミゴンに憑依されてしまいました。第48話では丘の母親(葦原邦子)が登場。他にニュースキャスターを務める父親が設定されていましたが、劇中での登場はありませんでした。第48話では「新宿の目」の前で丘がアンニュイな感じのポーズをとるのが印象に残ります。佐伯の演出はやはり冴えています。

髪型は初期は黒髪の長髪でしたが、第5話以降は茶色の短髪に変更されています。

おわりに

この記事ではMAT隊員について取り上げてみました。改めて思ったのは、上原正三や製作者は岸田に注目して作劇していたのだなあ、ということです。他の隊員も色々と設定されていますが、彼らに焦点を当てた話は岸田ほど多くはなかったと思います。そのことにこの記事を書きながら気がつきました。

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伊吹隊長

はじめに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた、伊吹竜を取り上げます。

設定と描かれたドラマ

伊吹竜の年齢は45歳と設定されています。ヘルメットの番号は加藤同様「1」です。第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)で前任の加藤の口から、伊吹は加藤のニューヨーク本部勤務時代の上官だったと語られています。ですが、着任直前に起きた事件でニューヨーク本部からの転勤が遅れてしまいます。ニューヨーク本部で伊吹が戦った相手は奇しくも日本の夢の島に現れた相手と同種でした。

さて郷にとっては厳しい上司であると同時に温情も見せる上司でもあります。第22話では郷が独断でゴミの山である埋立地の火災を鎮火したことを責めて郷を出動停止にします。実は伊吹はニューヨークで怪獣ゴキネズラ(の同種)と戦っており、ゴキネズラがプラスチックを食料にしていることなども熟知していたのです。郷が酸素を封じて消火した事により、地下にいたゴキネズラの酸素が封じられてしまい、ゴキネズラが地上に姿を表してしまいました。なお、郷も伊吹もMATのメンバーもゴミ処理場職員(うえずみのる)も、これに先立ってピエロ(三谷昇)がゴキネズラに襲われていたことなど知りません。で郷が「この怪獣は俺が殺る」と無断で出撃し、右腕を負傷しても、「階段から転げ落ちたんだろう。」「だからそれでいいじゃないか。私も気をつけるとしよう、MATの階段を駆け上がる時はな。」と言ってそれを咎めませんでした。これに先立ち、日本ではマットアロー2号(黄色い線が入った隊長機)で駆けつけ早々、ゴキネズラを翻弄し、右腕を怪我してウルトラブレスレットが使えず苦戦するウルトラマンを援護し、勝利をもたらす活躍を見せています。なお、これにより、ピエロが救われたことは誰も知りません。

伊吹美奈子

伊吹隊長を語る上で外せないのが第31話「悪魔と天使の間に....」(脚本:市川森一、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)と第43話「魔神 月に咆える」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:真野田陽一)に登場する娘の美奈子(大木智子)です。教会に通う美少女でまさに天使のような存在です。その純真無垢な心をゼラン星人に利用され、郷秀樹は窮地に陥ります。第43話では休暇を無理矢理取らされた伊吹と伊吹の妻葉子(本山可久子)と一緒に伊吹の妻の実家がある蓮根湖(御神渡りが劇中で登場することから諏訪湖がモデルでしょう)付近へ向かう車中で、将来はMATの隊員になる、とまるで坂田次郎のようなことを言っています。ただ、石堂が書いた美奈子は市川が書いた美奈子と微妙に性格が違うような気がします。なお余談ですが、第43話で伊吹が娘の話を聞く車中でカーラジオからペギー葉山が歌う「南国土佐を後にして」が流れ、伊吹が楽しそうに思わずリズムを取るシーンがあります。伊吹竜を演じる根上淳の妻はペギー葉山。明らかにスタッフは遊んでいますね。なおペギー葉山は後にウルトラの母の人間体である緑のおばさん(と東光太郎の母)を演じ、ウルトラの母の声も務めています。ファミリー劇場の「ウルトラ情報局」にペギー葉山が出演した時、半分冗談だったのでしょうが、私の方が偉いのよ、と言っていたのをよく覚えております。

さて、伊吹美奈子はあの第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)の冒頭に脚本では登場しています。郷がいなくなり、ウルトラマンがナックル星へ連れ去られたと嘆く次郎を慰めるのです。実は当初、あの第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)と第38話は元々は坂田アキと坂田健が死ぬ場面はありませんでした。決定稿が書かれた後、最終稿が書かれ、その時に坂田アキと坂田健が死ぬ場面が付け加えられたのです。そして決定稿では坂田次郎の登場は全くなく、あの前後編はウルトラマンが宇宙人、そしてその宇宙人の操る怪獣と戦って敗れ、それを初代ウルトラマンウルトラセブンが救うという話だったのです。宇宙人の名前もマルチ星人で、第37話前半でウルトラマンが戦うのはシーゴラス、グドンベムスターの3体だったのです。でも完成作を知っている私には、その筋書きだけではあそこまでの傑作にはならなかったのではないかと白石雅彦と荻野友大同様、思います。閑話休題。伊吹美奈子は決定稿にも登場していますが、その場面は最終稿とは違って最後に登場します。伊吹が隊員達を教会へ連れて、美奈子ら聖歌隊が歌うクリスマスキャロルを聴かせるのです。このことから、上原正三市川森一が書いた話をきちんと見ていたことがわかります。

第33話「怪獣使いと少年

これまた伊吹隊長を語る上で外せないのが第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)でしょう。この話で伊吹は托鉢僧の姿になります。上原正三が書いたシナリオでは普通に登場していたことは先述しましたし、郷がシナリオでは「私にはMATという家があり、隊長という父があります。」とは言っていなかったことも触れました。これは東條昭平が、伊吹は郷を見守っている、という設定にしたからです。身勝手な群衆に怒る郷を叱咤するために、東條昭平は伊吹をあの姿にしたのだそうです。

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おわりに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた伊吹竜を取り上げました。第4クールの伊吹は郷がウルトラマンであるのを知っていたのではないかという気が私にはしました。もっとも最終話での言動を見る限りではそうではなかったようですが。私には加藤隊長の方が郷の父親のような存在に見えますが、東條昭平の見方はそうではなかったようですね、と改めて思いました。

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加藤隊長

はじめに

この記事では、MAT日本支部の初代隊長を務めた加藤勝一郎(かとうかついちろう)について取り上げます。

設定と描かれたドラマ

年齢38歳。ということは郷秀樹より15歳年上です。これだけ離れているので郷秀樹の父親のような存在だと私は思ったのでしょうね。で実際、物語では郷とは父親のように接します。もっとも、上原正三は自分の父親に対しては複雑な思いを抱いていたそうで、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではそれが理由で「刑事くん」を書くのを拒否したと証言しています。

閑話休題。劇中では語られていませんが、元は陸上自衛隊の一佐だったという設定がありました。また、以前はMATのニューヨーク本部に勤務していた事が最終登場話となった第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)で語られています。

ヘルメットの番号は「1」です。

第1話「怪獣総進撃」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)で郷秀樹と知り合い、彼の勇気ある行動と生命力に感銘を受け、MATへの入隊を薦めました。温厚な人物ですが、任務に対する責任感が強く、規律には厳しい面もあり、それが第2話「タッコング大逆襲」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)で描かれています。思い上がった郷は南の制止も振り切って、独断で勝手にタッコングを攻撃して逃すという過失を犯してしまいます。南は「艇長は私です。」と言って庇いますが、加藤はドライブレコーダーを再生して郷の独断専行であったことを指摘し、郷を「除隊」しています。ただ加藤は郷の後見人的存在である坂田健に連絡を入れており、郷のサポートは怠りません。ドライブレコーダーには郷が「こうなったら、ウルトラマンになってやる。」と言うのも録音されていたはずですが、この時、加藤はそのことを指摘しませんでした。これは瑣末な指摘なのかもしれませんが、後述する理由もあってか、劇中では上記の描写にとどまっています。

第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では怪獣の存在を指摘する郷の意見を巡ってメンバーが対立するのを見兼ねて単身霧吹山に登って自分の目で確かめようとします。和をもって尊しと成す性格のようです。

部下思いの性格は第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)でも描かれています。この話でも郷を謹慎させますが、坂田には連絡を入れています。また岸田長官の強引な指令に対する態度にも、部下思いの性格が現れています。それについては先述しました。

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第15話「怪獣少年の復讐」(脚本:田口成光、監督:山際永三、特殊技術:高野宏一)では兄が鉄道会社の社長をしていることが語られており、兄の息子、すなわち加藤の甥も劇中には登場します。

第18話「ウルトラセブン参上!」(脚本:市川森一、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)では宇宙ステーションの隊長を務めている旧友・梶(南広)が冒頭で登場しますが、彼はベムスターに宇宙ステーションごと飲み込まれてしまいました。その復讐に加藤は燃えますが、ベムスターは強敵でした。ウルトラマンも敗れ、苦戦を強いられます。それでも戦う加藤隊長でしたが力及ばず、加藤の乗るマットアロー2号は墜落してしまいます。その危機を救ったのが、太陽から戻ったウルトラマンでした。思わず加藤はこう言います。

加藤「ウルトラマンが帰ってきた。」

そして第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)でMATステーションに転任したのです。

塚本信夫が考えた裏設定

さて演じた塚本信夫は制作当時、監督の筧正典と議論したことがあったと『ウルトラマン大全集II』(講談社・1987年)215頁の座談会で明かされています。この座談会には二人とも出席しています。で筧と塚本は「やっぱり隊長は(郷がウルトラマンであると)知っているんだ」という結論に達したそうですが、画面の中では「隊長は郷がウルトラマンであるとは知らない」ことにして描くことにしたと述べています。第2話を演出したのは筧ではありませんが、塚本信夫は加藤隊長を演じる時にそんなことまで考えて演じていたのは確かです。

おわりに

この記事ではMAT日本支部の初代隊長を務めた加藤勝一郎について取り上げました。塚本信夫が降板した理由は定かではありません。坂田健同様、郷秀樹の後見人だったのは確かでした。隊長の交代劇の脚本を書いたのは市川森一ですが、もしかしたら上原正三は郷秀樹は後見人がいなくても行動できる立派な人物になったと考えていたのかもしれません。坂田健が郷を励ます場面が第22話以降はあまり描かれなくなったのも確かですし、あの悲劇の第37話に繋がったのかもしれません。もっともこれはふと思った私見に過ぎませんが。

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郷秀樹

はじめに

この記事ではウルトラマンに変身する郷秀樹について取り上げます。

郷秀樹の設定

郷秀樹の設定は次の通りです。

年齢23歳。坂田自動車修理工場に勤務しながら、カーレーサーを目指していました。「帰ってきたウルトラマン」第1話の時点では、坂田自動車修理工場の主人坂田健の設計・開発中のレーシングマシン「流星号」のレーサーとして、その完成を目前に控えていました。趣味はギターで坂田アキにギターを教えてあげる場面があります。なお設定では台東区浅草在住なのだそうです。

タッコング襲来時に逃げ遅れた少年浩(藤江喜幸こと後の伍代参平)と彼の愛犬を救おうとして命を落としますが、それを目撃し、郷の正義感と勇敢さに感動したウルトラマンが(勝手に)一体化したことで復活しました。復活直後は坂田とともに流星号の開発を目指すつもりだったのですが、アーストロンとの戦いと、その直後にウルトラマンから自分が復活した経緯を聞いたことで人類の自由と幸福を脅かす敵と戦うことを決意し、MATに入隊しました。既にMATには加藤隊長を含めて隊員が5人いたのでヘルメットの番号は「6」になりました。

さて少年時代から運動神経に恵まれていましたが、ウルトラマンと一体化したことでさらにその能力が増幅されています。第2話では、剣道(上野、丘)や射撃(岸田)といった先輩隊員たちの得意種目でも初心者ながら勝利するという成績を打ち出しました。しかし、その超人的な能力に思い上がって身勝手な攻撃を行なってタッコングを逃すという過失を犯したため、加藤隊長から除隊を命じられ、坂田からも「もう組むつもりはない。」と言い放たれたことがありました。もちろん、二人の本音は郷を見捨てることではなく、郷に独りで考えて反省を促すことにありました。自らの思い上がりを悟り、人間郷秀樹としてギリギリまで頑張ることを決意した郷は、加藤の目論見通りにタッコングの上陸現場を訪れます。そして郷秀樹はウルトラマンに変身することができ、タッコングも倒された後は、加藤が郷のMATへの復帰を要請し、さらには坂田の要請で休暇の時は流星2号を開発することになったのです。

こうして心の弱さを一つ克服した郷でしたが、超能力を身に付けたことで怪獣出現の前兆を他人よりも鋭敏にキャッチできることが仇となり、事件の有無を巡って他の隊員との対立を起こすことも度々ありました。代表的なのが第3話での上野(と岸田)との対立であり、第5話での岸田との対立です。ですが、人間的に成長するにつれ、他の隊員とも打ち解けるようになります。第5話で上野は「MATを辞めた」郷にMATに戻るように説得を試みますし、第6話では上野に加えて南からも仲間として扱われています。上原正三は明確に描いていませんが、第11話の毒ガス怪獣モグネズンとの戦いを通じて岸田とも和解したようです。もっともこれは度重なる歪み合いにメインの視聴者だった小学年低学年層がついていけず、視聴率が下がったことも要因としてあったのでしょう。上原正三と橋本洋二は「帰ってきたウルトラマン」の直前に「柔道一直線」を手がけていました。上原(と橋本)は「柔道一直線」で描いた作劇(先輩と一条直也との対立)を「帰ってきたウルトラマン」にも導入したのですが、これが仇となってしまったのです。

なお第1話で(この時は)亡くなっていた郷を思い出す坂田とアキが、郷がレースで優勝したら母親に楽をさせたいと語っていたことが描かれています。また父親については第3話で、13歳の時に父が登山中の遭難事故で死亡したことが語られています。救助隊が目の前まで来ていながら救助隊が発見できず、死亡してしまったのです。

坂田家とは家族同然のつきあいで、健は郷の後見人、アキは郷の恋人、そして次郎は弟のような存在でした。MATの隊員と歪みあっている時も健は郷を保護し、アキは郷を愛し、次郎は慕っていたのです。「柔道一直線」で言えばミキっぺや一条直也の母親にあたる存在を上原はちゃんと用意していたのです。それが後の「ウルトラマンレオ」との違いで、おおとりゲンには坂田健に当たる人物が存在しませんでした。余談ですが、私は大人になってから「ウルトラマンレオ」を観た時はあまりにもゲンが責められるのでスカッとしませんでした。第一期ウルトラシリーズの時代に私は生まれておらず、第二期ウルトラシリーズの中で「ウルトラマンレオ」は本放送を観た唯一の番組なのですが、第1話を観た記憶は残っているのに私には特訓編を本放送で観た記憶が全く残っていないのです。「ウルトラマンレオ」といえばウルトラマンキングやアストラ、ババルウ星人に騙されてウルトラ兄弟と戦った話、そして円盤生物のイメージしか残っていません。マグマ星人が再登場したローランの話は本放送で観た記憶が残っています。おそらく、特訓編の話を観て私は引いてしまい、観なくなってしまったのだと思います。

坂田健とアキの死後は次郎を引き取りました。郷のマンションの隣の部屋に住んでいたのが村野ルミです。

そして第51話でバット星人とゼットンを倒した後、次郎に「ウルトラ5つの誓い」を残し、ウルトラの星の危機を救うべく、ウルトラマンとしてウルトラの星に旅立っていったのでした。この頃はウルトラマンと意識が一体化していたのでしょう。

郷秀樹を演じた俳優

さて郷秀樹を演じたのは団次郎(団時朗)です。当時、資生堂の男性化粧品「MG5」のテレビCMに出演していてファッションモデルとして注目を集めていました。団時朗に決まったため、ウルトラマン役もきくち英一に代わったことは先述しました。

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さて団時朗が起用された件について、熊谷健が白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

熊谷 主役の団次郎さんについては、僕の以前からの知り合いで芸能事務所をやっている井沢さんという女性がいまして、彼女が「どうかな」ってプロフィールを持ってきたんですね。柄もいいしCMで好評だったから局のほうでも受けるんじゃないかと思って。それから円谷一さんを通して局の了解をいただいて主役に決定しました。僕はその頃『ウルトラファイト』をやってたりいろいろ忙しい時期だったんで、立ち上がりの部分はそれぐらいしか参加してなかったのです。

「それぐらい」と謙遜してますが、大事な仕事をしていたわけですね。

余談ですが南隊員を演じる池田駿介は主役の話も来ていたそうです。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンに変身する郷秀樹について取り上げました。「ウルトラマン」ではハヤタの家族構成まで踏み込まれることはありませんでしたが、郷秀樹は坂田兄妹の存在など、かなり踏み込まれて人物設定が行なわれました。これは上原正三が「ウルトラマン」との差別化を図るために行なったことと言えるでしょう。「帰ってきたウルトラマン」は上原の自信作でもあると生前語っていましたが、と同時に、金城哲夫が作った「ウルトラマン」にはかなわない、と作る前から思っていることも明かしています。上原正三にとって金城哲夫は絶対的存在だったのです。

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ウルトラマン -帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021-

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンについて取り上げます。

名称

企画当初は「ウルトラマン」に登場したウルトラマンが帰ってくるという設定だったのは先述したとおりです。その名残で劇中では一貫してウルトラマンと呼ばれています。

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デザインも当初は初代ウルトラマンに線が追加されただけのもので、実際に第1話の撮影では、その姿で作られたスーツでアーストロンと戦う場面が撮影されています。しかし、商売上の理由もあってデザインが変更され、今の姿になりました。

ウルトラマンA』第14話のナレーション、および劇中での北斗星司とヤプールからはウルトラマンII世(ウルトラマンにせい)、『ウルトラマンタロウ』や『ウルトラマンレオ』のナレーションでは新ウルトラマンを略した新マン(しんマン)と呼ばれています。私は新マンと呼んでいました。

しかし、1984年に公開された映画『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』の公開に先立ち、ウルトラファミリー紹介時に各々に固有名詞の必要が生じました。この時、当時の円谷プロ社長・円谷皐によってウルトラマンジャックという正式名称が設定されました。なおウルトラマンジャックは元々はウルトラマンタロウ企画時に没になった名前でした。私は『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』を見て、あの「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンが新マンではなく「ウルトラマンジャック」と呼ばれるのに違和感を覚えたのをよく覚えています。なので未だに新マンと呼んでしまいます。郷秀樹を演じた団時朗も「ウルトラマンジャック」という呼び名には違和感があるそうです。劇中でそう呼んだことはありませんからね、制作当時は。

変身方法

さて企画時は「ウルトラマン」に登場したウルトラマンが登場する予定だったので、変身方法もベータカプセルを使って変身する予定だったのですが、別人の設定だったのでそうではなくなりました。

さて変身方法ですが、郷が生命の危機に陥ったときに自然に変身することが多いです。郷の頭上に十字状の光が降ってくると、それに呼応するように郷が右手または両手を斜め上に挙げ、変身するというパターンが基本でした。これは第1話から見られますね。これは郷秀樹としてギリギリまで努力しなければならない、というウルトラマンの意志のようなものがあったからなのでしょう。第2話で慢心した郷秀樹が「よーし、ウルトラマンになってやる。」と叫んで右手を挙げても変身できなかったが印象的で、この話のテーマでもあります。

さて郷秀樹の成長に伴い、中盤以降は郷の意思による変身も多く見られるようになりました。これは郷が危機に陥るという描写を挟まなくてはならないので煩雑になるという作劇上の理由もあったのでしょう。意識的に変身する場合は右手を高く掲げることが多いです。私には第28話「ウルトラ特攻大作戦」(脚本:実相寺昭雄、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)での変身が印象的です。

郷秀樹との関係

さてウルトラマンと郷秀樹との関係について書きましょう。当初は明らかに郷秀樹とウルトラマンは意識上は別人格として描かれていました。第2話が印象的です。ただ第4話ではキングザウルス3世に角を突き立てられて脚を負傷すると郷秀樹も脚を負傷していたりするなど、肉体は一体化していたことが明らかになっています。第22話では変身前に郷が腕を負傷したため、ウルトラマンも腕を負傷し、ウルトラブレスレットを使えずに窮地に陥っています。なお、映像では端折られましたが、市川森一が書いた脚本では腕を負傷した後も郷秀樹の姿でしばらく戦っています。

またウルトラマンの意識も郷と一体化されるようになりました。第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)が印象的ですね。

宇宙電波研究所長(成瀬昌彦)「郷の心は嵐の海のように荒れ狂っている。今なら勝てる。」

この時、郷秀樹は病院の屋上から飛び降りて変身します。ウルトラマンに変身できなかったら、郷秀樹は死んでいたところですが、宇宙電波研究所所長すなわちナックル星人が看破した通り、死んでも構わないと思ったわけです。これでは勝てるわけがありません。でウルトラマンも郷と同じ思いだったようで、こう言っています。

ウルトラマン「やはりそうか。私の技を研究し、私を倒すため訓練されているが、負けない,必ず坂田兄弟の復讐をしてやる。」

しかし健闘虚しく、ウルトラマンは一敗地にまみれることになります。

ウルトラマンの技

帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンも「ウルトラマン」に登場した初代ウルトラマン同様、多彩な技を持っています。初代ウルトラマンと同様、スペシウム光線や八つ裂き光輪が使えます。ただ八つ裂き光輪は2回(第3話と第4話)しか使わず、キングザウルス3世に破られてからは一切使わなくなってしまいました。ウルトラブレスレットが切断しまくる武器としても使えることも影響しているのでしょう。

ウルトラマンといえばスペシウム光線です。ウルトラブレスレットをウルトラセブンに授けられてからは決め技としての地位をウルトラブレスレットに明け渡してしまった感がありますが、最終話でゼットンを倒すなど、威力は初代ウルトラマン同様健在です。もっとも、「帰ってきたウルトラマン」で登場したゼットンは(おそらく予算の関係で)開米プロの造形の酷さも相まって、初代ウルトラマンが戦ったゼットンよりも力が劣るという説を唱える人がいるのは否定しません。

またウルトラブレスレット登場後も、宇宙甲虫ノコギリンを倒したウルトラショットなどの技を披露しています。(作劇の理由もあって)郷秀樹同様、心の弱さを度々見せたウルトラマンでしたが、能力自体は初代ウルトラマンに劣るものではなかったのです。

おわりに

この項では「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンについて取り上げました。新マンという名に親しんでしまった私はウルトラマンジャックという公式設定を素直に受け入れる気になかなかなれず、制作が進んでいる「シン・ウルトラマン」という名前にも複雑な思いを抱いてしまいます。円谷皐がビジネス・ライクに名付けた名前というのもありますね、ウルトラマンジャックを受け入れがたい気持ちには。それに「ウルトラマン」ではバルタン星人も初代と2代目(と3代目?)も登場していて初代ウルトラマンという名前に親しんでいたので、別に無理にウルトラマンジャックと名付けなくても良かったんじゃないのと思います。

もっとも、これから再放送を見ていく人には関係のない話ですけどね。

きくち英一とJFAのみなさん

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」でウルトラマンを演じたきくち英一と、彼が所属し、怪獣を演じた遠矢孝信なども所属していたJFA(ジャパンファイティングアクターズ)のみなさんを取り上げます。

きくち英一の著書『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』

この本の発行日は平成7年8月3日。私は社会人になっていました。この本が出版されることになったきっかけは次のとおりだそうです。ある時、きくち英一は『昇天! 酔っ払いOL』に出演し、撮影中に河崎実と話をしました。河崎はウルトラマン愛好家で、それならばときくちが撮影の合間に当時のスクラップブックを見せたところ、河崎は大興奮。そして河崎実はがきくち英一に招待状を出しました。河崎が作った映画の上映会を開くと言うのです。そして会場へ行ってみればいたのはきくちの子供と同世代の人ばかり。で河崎に控室に呼ばれ、話をしてと頼まれて「帰ってきたウルトラマン」撮影当時の話をしたら、これが大ウケし、打ち上げなどにも呼ばれるうちに朝になってしまったのだそうです。そして後日、その場に居合わせた風塵社の社長からハガキが届き、当時の話をまとめて出版しようとの話になったのだそうです。

きくちは河崎と共に「帰ってきたウルトラマン」を全話見返し、河崎の質問にきくちが答えるという感じで本が出来上がりました。合間には遠矢孝信の談話も挿入されています。そして全話見返した後、きくちと河崎が団時朗を呼んで話をしたのですが、その時の話も収録されています。さらには橋本洋二、満田かずほ、高野宏一、大木淳、佐川和夫、東條昭平、鈴木清の談話、そしてきくちが芸能界入りする経緯やきくちの(出版当時の)全出演作リストまで載っています。

きくち英一の略歴

きくち英一は1942(昭和17)年8月21日生まれ。世田谷区経堂で生まれ、次男として生まれました。きくちの兄は6歳離れていました。きくち曰く、父親がわりのような兄だとのこと。きくちの兄は1995(平成7)年当時で剛柔流空手8段だそうです。

そしてきくちは日本大学芸術学部演劇学科に進学。まず入ったのが落語研究会。次に入ったのが、日大芸術学部にしかないという、殺陣同志会と言うクラブです。これがその後のきくちの人生を決めます。

映像関係の初めての仕事が殺陣同志会でのアルバイトでした。日大殺陣同志会のOBからのつながりです。そして数々の仕事をこなしていたのですが、4年の時に転機が訪れます。それが日大OBが制作する東北新社の『戦国群盗伝』の撮影です。監督が土居通芳で新東宝の渡辺高光も出ていました。この二人との出会いがきくちに大きな影響を与えたときくちは述懐しています。

それからしばらくして、きくちは渡辺高光から声をかけられました。渡辺がJFA(ジャパン・ファイティング・アクターズ)を結成することにし、顧問に土居通芳と土屋啓之助監督を迎え、アクションもできる若手俳優を育成する、と言う話を聞き、きくちはJFAに入ることを決断しました。メンバーは日大の同期数人だったそうです。のちに日大の後輩も入りますが、その中に遠矢孝信がいました。

ウルトラセブン

そんなきくちに円谷一から電話があったそうです。

「正月放送の『ウルトラセブン』前編・後編(ペダン星人が操るキングジョー、脚本家金城哲夫氏からもじったとしか)の放送が間に合いそうにない。しいては君やってくれないか」との由。

と、きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』には書かれています。きくちは一回だけの約束で引き受けました。

さてウルトラセブンを演じていた上西弘次は身長172cmの「ガッチリタイプ」できくちは身長178cmの「ヒョロッとしたモヤシタイプ(当時)」で当然、今まで使っていたウルトラセブンのスーツをきくちが使うことはできません。そのため、ウルトラセブンのスーツは新宿御苑のアクアラング屋へ行って新調されました。

こうして撮影が行なわれ、きくちは大変な仕事だったと実感します。余談ですが、キングジョーを演じた中村晴吉よりもきくちは高身長だったため、キングジョーの強さを見せるためにスタッフは苦労したそうです。

帰ってきたウルトラマン

さてウルトラセブンを演じてから4年経ったある日、きくちのところにまた円谷一から電話がかかってきました。

「今度、帰って来たウルトラマンをやることになった。しいてはお宅に誰かいい人いないか」とのことでした。

と、きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』には書かれています。きくちはウルトラセブンを一回やっていたため、その大変さをわかっており、1年通してやるにはその動きのセンスもともかく、相当の体力を要するだろう、と考えました。そこで新東宝出身の中岡慎太郎を紹介することにしたのです。中岡の身長は170cmくらいでしたが、ボディビルで鍛えた身体は胸にビール瓶が挟めるほどの筋肉マンだったそうです。面接を受けた中岡は採用となり、きくちも一安心しました。

ところが、また円谷一から電話がかかってきました。

「主役が団次郎君になった。しいては中岡君だとあまりにも体型が違う。君がやってくれないか」とのこと。

と、きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』には書かれています。さあ、困りました。過酷な仕事な上に東映のヤクザ映画に出始めた頃で、この仕事を受ければ1年は他の仕事には手を出せなくなります。そこできくちは体よく断る作戦を考え、次の2条件を提示しました。

  1. ギャラをふっかける。
  2. 隊員とか顔出しの役の要求。

まず1については中岡に提示されたギャラを知っていたので、その1.5倍を要求したそうです。きくち曰く、「はっきり言ってこれはむちゃな額でした。その証拠に翌年、それまであまり貯金もなかった私がマンションを買ったんですから。」だったのですが、あっさり「いいですよ」と返って来たそうです。で2については隊員の役を要求したのですが、「いやね、もう隊員は決めちゃったんだ。でもまあ何か考えるから」というわけで断る理由がなくなってしまい、渋々きくちはウルトラマン役を引き受けざるを得ませんでした。なお、きくちは第13話と第51話に顔出し出演しています。

次に怪獣役もきくちは紹介を頼まれました。重労働であることは知っていましたから、アクションセンス、体力、何より素直なやつということで、日大の後輩でJFAに入りたてだった遠矢孝信に頼むことにしました。遠矢がきくちに飲むとよく「先輩、やれと言われれば断れる状況じゃなかったでしょ。」言ったそうですが、まあこうして怪獣役も決まりました。きくちのウルトラマン、そして遠矢の怪獣はスタッフが賞賛していたそうです。遠矢はタッコングのような2本足の怪獣からキングザウルス3世やステゴンのような4本足の怪獣まで演じていました。よく4本足の怪獣は人間が入る関係で後脚が折りたたまれてしまうことが多いのですが、キングザウルス3世やステゴンは後脚が折りたたまれていません。

きくちも遠矢もいやいや参加したのですが、いつの間にか仕事にはのめり込んでいました。殺陣師がいなかったこともあり、またウルトラマン出現まで比較的ヒマだったこともあり、きくちは出来上がった怪獣を見て絵コンテを描いて監督や遠矢と相談しながらアクションを決めていたそうです。きくちはトランポリンの使用も発案し、ウルトラマンがシーゴラスに角で空へ飛ばされる場面が撮影されました。今まで「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」ではトランポリンは使用されていませんでしたが、これが初めてのトランポリン使用となったのでした。

そのかいもあり、JFAの渡辺高光の妻からは「きくちさんの仮面には表情がある」と誉められ、スタッフからは「お前と遠矢は最強コンビだ」と言われたのです。

さて怪獣は話によっては2頭登場しましたし、またウルトラセブン初代ウルトラマンが登場したこともあるので、きくちと遠矢だけでは当然人が足りません。そこでJFAの他のメンバーも呼ばれました。その内訳は、現在判明しているのは次のとおりです。まずヒーローについては次のとおりです。

で怪獣については次のとおりです。

  • 遠矢孝信(メイン)
  • 菊池英一(ザザーン)
  • 関国麿(デットン)
  • 森平(下の名前は不明)(ツインテール、シーモンス)
  • 有川兼光(ブラックキング、パラゴン〈前部〉)
  • 斉藤忠治(ミステラー星人〈善〉、バット星人)
  • 高山(下の名前は不明)(メシエ星雲人)

ただ全員がきくちや遠矢ほど巧かったわけでもありません。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』で遠矢孝信がこう証言しています。

監督はね、かなりきくちさんを信頼してました。怪獣が複数出てJFAから若いのが来る時なんか、そいつ当然慣れてないですから下手で、監督が何か言いたくても、これ以上はきくちさんに悪いかなって、少し遠慮していたくらいです。

そういうときは、僕がね、雰囲気察してつないだりもしてました。

メシエ星雲人は河崎が茶化すほど、お手上げの状態だったそうです。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

〜宇宙人走りながら無意識にマスクのズレ直す〜

河崎 あ〜、マスク直してる! 計算してできる動きじゃないですね。なんか変ですよね。

きくち 監督もね、あきらめちゃって、「もう何でもいいからとにかく動け」ってね(笑)。

これは本当にあった場面で、見返して気がついた時、私は笑ってしまいました。実際、よく見ると本当にメシエ星雲人は「とにかく動」いているだけで、遠矢が入ったナックル星人とは雲泥の差のヘタクソぶりです。スーツが細くて遠矢孝信が入れず、仕方なく起用されたのだそうです。

なお同時期に「スペクトルマン」が制作されており、JFAのメンバーは同番組に参加していました。遠矢孝信は(当初の)主役のゴリを演じていたため、当然掛け持ちとなり、きくちの自転車やピープロが用意した車に乗ってスタジオを行き来する羽目に陥りました。それでも日程が合わなかったこともあったそうで、きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』で遠矢孝信がこう証言しています。

当時僕は『宇宙猿人ゴリ』もやってましたから、時にはウルトラマンとスケジュールがかちあうこともありました。先輩のチャリンコを借りて往復したり、向こうの制作さんが迎えに来てくれたり大変でした。東條昭平助監督さんが、僕が帰ってくるまで入ってたこともありましたね。ウルトラマンとのからみは僕ですが、サドラの出現のシーンとか東條さんが入ってたと思います。

おわりに

この記事ではウルトラマンを演じたきくち英一と怪獣を演じたJFAのみなさんを取り上げました。最終的に遠矢孝信はぎっくり腰を発症して番組の打ち上げには参加できず、ウルトラマンを演じたきくち英一も塩分不足との診断が出たため、次の「ウルトラマンA」役を固辞しました。ただ彼らの苦闘があったおかげで「帰ってきたウルトラマン」は名作になったのだと思います。

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富田義治の他流試合

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で監督を務めた富田義治について取り上げます。

監督デビューまでの略歴

富田義治は1935年12月25日生まれで岐阜県出身。1959年に東映に入社し、初めは東映京都撮影所に配属されていました。1965年の暮れまで加藤泰幸監督やマキノ雅弘監督、内田吐夢監督の他に10人の監督に助監督としてついたそうです。その頃から労働組合闘争が激しくなり、会社側の組合対策の一つで富田は折田至(後に「仮面ライダー」などで活躍します)などと共に東京撮影所内の東映東京制作所というテレビ映画専門の関連会社に移りました。以後はずっと大泉にある東映東京撮影所で仕事をしています。

さて最初に監督を務めたのが「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」の間に放送された「キャプテンウルトラ」第18話「ゆうれい怪獣キュドラあらわる」(脚本:長田紀生、特殊技術:上村貞夫)と第19話「神話怪獣ウルゴンあらわる!!」(脚本:金子武郎、特殊技術:上村貞夫)でした。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での富田の証言によれば

あの時はカメラの村上(俊郎)さんも抜擢されて、お互い好きにやろうっぜって言って、セットで大クレーンなんか使ったもんだから、お金がかかっちゃってしばらく干されました。だから次の『河童の三平』まで随分空いてるんですよ。

という暴れぶりだったそうです。東條昭平同様、気負いがあったのでしょうね。なお、上記の『河童の三平』は『河童の三平 妖怪大作戦』のことです。

柔道一直線

さて時が流れ、東映は「柔道一直線」を制作しました。この番組の制作に富田も参加しました。第2話「地獄車の弟子」(脚本:佐々木守)を皮切りに全92話中16話を監督しています。ここで橋本洋二と出会い、上原正三(第14話「剛道にぶち当れ」)と出会い、岸田森に出会ったわけです。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で「柔道一直線」について富田はこう証言しています。

(前略)それとやはり特撮やトランポリン使って、予算の厳しいところをどうしようかって考えた印象のほうが多い作品ですね。ハイスピードカメラが使えないから健ちゃんにスローモーションの動きの芝居をやってなんて無理して頼んだこともありました(笑)。私は高校編に入って先生役で出演された岸田森さんの、大ファンになりました。でももうラストのほうになってくると、どうしても時間も予算もかけちゃう僕は外されちゃって(苦笑)。ロケで1日ワンシーンしか撮れないときもあって、撮影所に帰ってきたら同期入社の斉藤頼照(プロデューサー)に怒られたりしましたし(笑)。「柔道一直線」のあと「刑事くん」をやりました。

余談ですが、「刑事くん」も平山亨と斉藤頼照がプロデューサーを務めています。さて予算を使いすぎてしまう富田は東映にとっては頭の痛い存在ではあったのですが、この演出を放送局のTBSはどう見ていたのでしょうか。

帰ってきたウルトラマン」への参加

橋本洋二は富田の演出を高く評価していました。そして「帰ってきたウルトラマン」に富田を呼ぶことにしました。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での証言です。

富田(義治)さんは僕の推薦です。『柔道一直線』の頭のほうを富田さんがやってくれてね。感性がヴィヴィッドで繊細な神経の持ち主でした。僕の主観的、感覚的なものなんだけど、気に入った監督で、僕自身、気持ちに納得がいくものがあったんですよ。『柔道一直線』は〝スポーツドラマ〟ですから、強引な作り方をしても番組は成立するんですが、それを細かく細かく作ってあるんですね。それもただ細かいだけではなく、彼の作品にはドラマ全体に爽やかな風が吹くんですよ。富田さんが監督をしてくれたお陰で『柔道一直線』は間違いなくうまくいくと直感しました。あの雰囲気がウルトラマンでも出せないかと思ったんです。それで彼に無理言って、円谷から東映に監督起用書のような書類を出してもらってわざわざ来てもらったんです。

さて上記で「円谷から東映に監督起用書のような書類を出してもらって」とありますが、これは円谷プロダクションが当時は東宝の系列会社だったことも関係しています。1971年をもって自然消滅したそうですが、五社協定を松竹、東宝大映、新東宝東映は結んでいました。後にこの協定に日活も参加しています。東映の専属監督である富田が東宝系列の円谷プロ制作の番組を監督するのは非常に難しかったのです。ですが、それでも橋本は富田を「帰ってきたウルトラマン」に参加させたかったのです。

富田義治の監督担当作品

富田は「帰ってきたウルトラマン」では次の話で監督を務めています。

  • 第5話「二大怪獣 東京を襲撃」(脚本:上原正三、特殊技術:高野宏一)
  • 第6話「決戦! 怪獣対マット」(脚本:上原正三、特殊技術:高野宏一)
  • 第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」(脚本:上原正三、特殊技術:佐川和夫)
  • 第14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」(脚本:上原正三、特殊技術:佐川和夫)
  • 第24話「戦慄! マンション怪獣誕生」(脚本:上原正三、特殊技術:大木淳)
  • 第25話「ふるさと 地球を去る」(脚本:市川森一、特殊技術:大木淳)
  • 第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、特殊技術:大木淳)
  • 第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、特殊技術:大木淳)

第24話と第25話以外は前後編です。これも橋本の意向です。第5話と第6話での活躍については以前も取り上げました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

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第13話と第14話は津波怪獣が登場するとあって特殊技術の佐川和夫が頑張りすぎ、円谷一が「会社を潰す気か!」と怒鳴り込んだという逸話も残っています。

さて遠矢孝信はきくち英一著『ウルトラマンダンディー 〜帰ってきたウルトラマンを演った男〜』でこう証言しています。

シーゴラス、シーモンスの時の監督の富田さんは、隊長役の塚本信夫さんとかいろいろな俳優の動きを見てからカット割りしておられました。ですから撮影の時間がすごくかかって現場が大分終了が遅くなって文句を言うスタッフが多かったです。でも面白いことにそんな監督だと案外いいものができるんです。

現場でねばる監督は、30分番組では喜ばれない。でもそういう時でも熱意が伝われば、スタッフが協力していいものができたりするんですね。

遠矢の証言通り、第13話と第14話は傑作です。元々東宝チャンピオン祭りで上映が決まっていた作品だったので、それなりに力が入った作品でした。それでも円谷一は佐川和夫に怒鳴り込んだんですけどね(苦笑)。で面白いことに第5話と第6話も後に東宝チャンピオン祭りで上映されています。苦笑しながら富田は東映の岡田社長も知らなかっただろうと回想しています。事実関係は分かりません。で上映された4作品(映画では前後編をまとめたので2作品)は非常に素晴らしい傑作だったと思います。上原正三の力もありましたが。

第24話「戦慄! マンション怪獣誕生」第25話「ふるさと 地球を去る」

ただ前後編ではない、以下の作品は富田も苦しんで演出したようです。

第25話は佳作だったと思います。「刑事くん」でも富田と組む市川森一白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

富田さんは、もう全面的に脚本お任せとおっしゃってました。富田さんというのはひじょうに感性豊かな方でしたが、山極さんのように論理で話を組み立てている監督ではありませんから、一緒にホンを作っていくということは不得手だったと思います。面白いかつまらないかということで判断する方でした。

でも富田さんと僕は、非常にいい感じで、「ふるさと地球を去る」なんか、富田さんと僕の代表作だと本当に思ってます。校長の像のところとか、ちょっとした描写を富田さんは非常に丁寧に撮ってました。普通、南隊員の台詞で終わるんですけど、ラストのために、あえて予定調和的な台詞を持ってきたんでしょうね。でも少年の「また起こらないかな?」というのが問題になってね(笑)。

「ふるさと地球を去る」は南と事件が起きた村の少年との交流を描いた話です。南は少年の頃、「ジャミっ子」と呼ばれるような弱虫でした。同じような少年と南は出会い、少年がマットガンを持ち出して怪獣に撃つのを見かけますが、クマと立ち向かった時の自分とダブらせ、敢えてそのままにします。怪獣は倒されますが、その後、少年は「また起こらないかな?」と言って、またマットガンを何発も撃つのです。これに衝撃を受けた南は「もういいだろう」とマットガンを取り上げます。市川の言う南隊員の台詞とは少年が「また起こらないかな?」と言う直前に南が言った台詞のことです。つまり

南「ふるさとはなくしても、ふるさとで戦った思い出は一生忘れないよ。これから先、どこの地へ移り住んでもくじけそうになったら、思い出すんだ。僕は昔、怪獣とふるさとで戦ったことがあるんだってな。」

のことです。こうした予定調和的なセリフを入れた後で「また起こらないかな?」と言う毒を市川は入れたのでした。それを映像化したわけですが、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で富田はこう証言しています。

僕は脚本に手を入れて撮っていくことはほとんどしないし、基本的にはでき上がったものを受け止める方なんですよ(笑)。唯一の例外が〝ふるさと怪獣〟でしたね。これは市川さんと打ち合わせで詰めていきました。

(中略)

ラストシーンは後で東映の平山(亨プロデューサー)さんから「富ちゃん、ああいうことはやっちゃいかんぞ!」って言われたけど、自分では満足してます。

冒頭の部分は市川の証言通りのことも述べられていますが、この話だけは例外だったのですね。それでも、そのまま放送されました。

さて第25話「ふるさと 地球を去る」(脚本:市川森一、特殊技術:大木淳)で力を入れすぎたからか、第24話「戦慄! マンション怪獣誕生」(脚本:上原正三、特殊技術:大木淳)は普通の作品というレベルにとどまっていると私も思います。これについて、富田は脚本に負けたと証言しています。第25話で力が入りすぎたこともあったのでしょう。それが最後の演出となった第37話と第38話に影響してしまいます。

第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」第38話「ウルトラの星 光る時」

まず、本編撮影を担当していた鈴木清の証言を紹介しましょう。彼は富田義治にもついてカメラを回していました。白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」からの引用です。

鈴木 坂田アキ役のるみちゃんが死ぬ回、冨田さんだったんですが、僕は降りたんです。というのも冨田さんの演出方法に、自分が納得出来ない部分があったからです。冨田さんはなぜか、「よーい、スタート」をかけたあとはホンしか見ていなくて、役者さんの芝居を見ていない。ノンモンのところでもホンを見ていて、「はい、OK」と言っちゃう。だからある時、「監督!芝居見てください!」って、つい言ってしまいましたよ。そんなことが重なって、五、六本やって、結局降りてしまった……若気の至りですかね?でも不思議と冨田さんの作品は重厚感があって心に残る。きっと心眼で見てたのかも知れませんね。

これは富田自身の証言、橋本の証言、そして遠矢の証言とは一致しない話です。ただ、鈴木清も撮影にはこだわるタイプで白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」では鈴木に関する証言が鈴木自身や山際永三の証言として、そのこだわりぶりが紹介されてます。第33話の撮影も鈴木が担当しています。なのでがんばりすぎるタイプの鈴木清には富田の姿が納得できなかったのでしょう。時期から考えると、第24話と第25話、特に第24話の演出に納得がいかなかったのだと思います。このため、第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」と第38話「ウルトラの星 光る時」で本編撮影を永井仙吉が務めることになります。

その時の戸惑いを白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で富田はこう証言しています。

今まで本格特撮ができたのもある意味じゃ鈴木(清)さんあってのものだったんですけど、この時、鈴木さんが抜けちゃいまして。交代のカメラマンの永井(仙吉)さんから「監督、ファインダー覗いて決めてください」って言われた時は、え? ちょっと困ったなあって思ったんです。僕は勿論特撮との打ち合わせもしてコンテは決めてあるし、アップとかロングとかの指示はしますけど、画面の最終決定権はカメラマンに任せるって考え方だったんです。カメラマンが「監督、どうですか」じゃなくて「決めてください」って言うのを聞いたのは初めてだったのでとまどいました。

そして作品が作られました。私は非常によく作られた話で傑作だと思います。ナックル星人のウルトラマン研究、坂田アキの死、(それと前後しますが)坂田健の死、心が嵐のように荒れ狂い、病院の屋上から飛び降りてウルトラマンに変身する郷秀樹、ウルトラマンの敗北、初代ウルトラマンウルトラセブンの登場、洗脳されたMATメンバーを郷が丘と協力して解き、敵の本拠である宇宙開発センターへ向かっていく郷、ウルトラマンおよびMATが協力してナックル星人とブラックキングと戦い勝利する、最後に村野ルミと出会う。でも富田義治は傑作だとは思っていなかったかもしれません。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で富田はこう総括しています。

現場に入ってると夢中になっちゃうんですが、今思うと最後の登板作品が一番アラが目立って悔いが残ってます。鈴木さんのカメラのつもりで現場に入って違ったものだから勝手が違っちゃいましてね。それでもカメラマンを引っ張って行けなかった自分の力不足でした。永井さんも急に頼まれて、僕とは初めてだし、お互いにわかり合えないうちに終わってしまって自分でも反省してます。

対する鈴木清にも悔いが残ったそうです。白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」での鈴木の証言を引用しましょう。

その回でるみちゃんも岸田さんも死ぬということを知らなかったんで、後日作品を見た時ちょっとショックを受けました。あんな映像表現で殺すなんて酷いな、と思いましたね。今さらですが、僕だったらああいう撮り方をしなかったと思い後悔しています。

鈴木は富田が証言していた

僕は勿論特撮との打ち合わせもしてコンテは決めてあるし、アップとかロングとかの指示はしますけど、画面の最終決定権はカメラマンに任せるって考え方だったんです。

と言うのを誤解してしまったのでしょうね。

鈴木 (前略)冨田さんはなぜか、「よーい、スタート」をかけたあとはホンしか見ていなくて、役者さんの芝居を見ていない。ノンモンのところでもホンを見ていて、「はい、OK」と言っちゃう。だからある時、「監督!芝居見てください!」って、つい言ってしまいましたよ。そんなことが重なって、五、六本やって、結局降りてしまった……若気の至りですかね?でも不思議と冨田さんの作品は重厚感があって心に残る。きっと心眼で見てたのかも知れませんね。

と誤解してしまったのです。もし、鈴木清が降板せずにいたら、どうだったのかなあ、と私は思います。

とまあ、最後は富田は悔いが残ったようですが、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での富田の証言はこの言葉で締められています。

スタッフはどこの会社に行っても活動屋だ、という感じで良かったですね。

似たような言葉を富田は講談社の本でも述べています。本当に良い思い出だったわけですね。

おわりに

この記事では富田義治監督を取り上げました。橋本が会社の垣根を超えて参加させただけあって、どれも作品の出来は良いと私は思います。なお富田と入れ替わりで佐伯孚治が東映から参加していますが、彼も大きな爪痕を残しています。

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帰ってきたウルトラマン」のスタッフは良い作品を作ろうと頑張っていたのです。富田と鈴木の対立はお互いに悔いが残ったそうで、それは鈴木や冨田の言う通り、彼らの力不足だったのかもしれません。でも作品から受けた印象は大きなものであったと私は思います。

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