黒十字総統

14日目は黒十字軍の総統を取り上げます。

 

黒十字総統を初めに演じたのは安藤三男さんです。彼は1928年東京市生まれ。そのため江戸っ子特有の下町の言葉で「火の山仮面」を「しのやまかめん」と読んでいました。元々は劇団文化座の出身。東映制作の映画『源九郎義経』に出演し、この時、助監督を務めていた平山亨さんの目に留まったことが後の役歴に繋がります。

 

東映制作の特撮作品では恐い悪役が印象的です。「ジャイアントロボ」のドクトル・オーバ、「人造人間キカイダー」のギル教授、「イナズマンF」のガイゼル総統。いずれも恐かったです。それは役作りに力を入れていたからです。

 

ドクトル・オーバは異星人ということだからかハゲ頭のカツラをつけた上で顔に銀粉を塗りたくっていました。この格好は安藤さん自身が発案したそうです。言葉はドスの聞いた下町の言葉を使っていました。

 

キカイダーで主演した伴大介さんによれば「ギルは日の当たらないところで機械に囲まれながら暮らしているのだから、放映回が重なるごとに顔色を蒼白に、痩せて見えるメイクをして欲しいとメイクスタッフに注文した」そうです。ギル教授はアジトに篭り、暗闇の中にいる事が多かったため、そのような注文を出したのでしょう。

 

ガイゼル総統は前作「イナズマン」の帝王バンバよりも恐かったです。顔は真っ白で片目だった上に黒い軍服に身を包み、デスパー怪人を一喝するのです。最終回では自ら変身もせずにイナズマンと戦いますが、生身の筈なのに互角の勝負を繰り広げます。それはイナズマン同様、彼も超能力者だったからです。今の東京都庁の辺りの空地で決戦が繰り広げられた後、最終的にはイナズマンが勝ちますが、とても見応えのある戦いぶりでした。

 

そして「秘密戦隊ゴレンジャー」に黒十字総統を安藤さんが演じます。当初の衣装は頭巾を被り、ずっと腕を組んでいる姿。彼は声だけではなくてあの衣装を着て演じていたのです。一度その姿でゴレンジャーと直接戦った事がありますが、両眼を光らせて撃退しています。ただ安藤さんの顔は全然映らないため、造形を担当したエキスプロの前澤代表に直談判し、黒十字型の顔の衣装を作ってもらったそうです。鉄人仮面テムジン将軍が戦死した直後から、その衣装が使われます。

 

安藤さんが演じていた時の黒十字総統は常に威厳に満ちており、本当に恐かったです。顔が出るようになってからも白粉で真っ白にした顔にペイントを施しており、目をカッと見開いた姿はガイゼル総統同様、子供心に恐かったです。本放送当時はこちらが印象に残っています。

 

ところが転機が訪れます。安藤さんは病弱だったため、途中で降板する事になってしまったのです。これは本当に突然だったようで、第54話と第55話は姿は安藤三男さんなのに声が別人のものになっていたのです。アフレコに参加できないほど病状が深刻だったのでしょう。その声を演じ、第56話から黒十字総統を演じたのが八名信夫さんです。

 

八名さんは1935年生まれで岡山市出身。元々は東映フライヤーズの投手だったのですが、1958年に腰を骨折して選手生命を断たれ、東映の俳優に転身しました。元プロ野球選手ですから当然大柄です。そこで悪役の仕事が中心となりました。「キカイダー01」ではシャドウの首領を演じています。ただ八名さんはどちらかと言うとガラの悪い感じの役が多く、彼が黒十字総統を演じるようになってからは総統というよりもヤクザの親分という感じの性格になってしまいます。私は本放送で観ていた筈なのですが、本放送時点だけの記憶では黒十字総統の顔というと安藤さんが演じた時の顔しか思い浮かびません。役者が交代した事にも気づいていませんでした。

 

黒十字総統の武器は黒十字剣。水爆を受けてもビクともしないと豪語していましたが、実際、最終回ではゴレンジャーの攻撃はゴレンジャーハリケーンも含めて全く効かず、ゴレンジャーは窮地に追いやられます。ところが突然苦しみ出し、黒十字の顔だけの姿になってしまいました。慌ててゴールデン仮面大将軍は彼をシェルターに格納して退避させます。無敵と思われた黒十字総統にも弱点があったのです。

 

ゴレンジャーのメンバーの名前は海城剛、新命明、大岩大た、ペギー葉山、明日香健二で苗字の頭文字を繋げると「カシオペア」これは番組初期から考えられていた伏線で黒十字総統の弱点と関係したものでした。黒十字総統の弱点はカシオペアX線という宇宙線だったのです。これを見抜いたゴレンジャーはゴレンジャーハリケーンカシオペアで黒十字総統にダメージを与えました。これを受けた黒十字総統は黒十字城という正体を表して逃げ、最終的に、バリドリーンとスターマシーンに寄る爆弾突撃攻撃を受けて最期を迎えます。この流れ、今まで黒十字城の中に黒十字総統がいる場面が最終回も含めてあるので大きなツッコミどころがありますが、文句は上原正三さんに言って下さい。