上原正三

秘密戦隊ゴレンジャーの脚本家はこれだけの人が書いています。

21日目はメイン脚本家を務め最多本数を誇った上原正三さんを取り上げます。

 

上原正三さんは1937年生まれで沖縄県那覇市出身。父親は警察官でした。太平洋戦争の激化で1944年9月に当時日本領で沖縄にも近かった台湾へ疎開しますが、その後、2週間も洋上を漂流した末に鹿児島に辿り着き、親戚を頼って熊本へ移ります。だがそこでは沖縄生まれであることを隠すように言われたそうです。終戦に伴い、沖縄に戻りますが、大学は東京にある中央大学に入ったため、一度上京します。そこでも沖縄県出身であることを理由にアパートへの入居を断られるなどの差別を受けたそうです。そしてこの体験が脚本家となった時の彼の作風や方向性を決める事になります。

 

大学卒業後は結核にかかったため沖縄に帰っていたのですが、25歳の時に同郷の金城哲夫と出会います。そしてその縁で円谷英二円谷一と出会い、円谷一から「脚本家になりたいなら、まず賞を取れ」と言われ、沖縄戦をテーマにした脚本『収骨』を執筆しました。同作を芸術祭一般公募に出品して佳作に入選したのを手土産に円谷プロに入社し、金城哲夫の助手として企画文芸部の仕事を務める事になります。なのでデビュー作は「ウルトラQ」の第21話となった「宇宙指令M774」です。ただその前に「オイルSOS」という脚本を書いています。円谷一金城哲夫との出会いもまた、彼の作風に影響を与えています。

 

上原正三さんは金城哲夫円谷プロを退社して帰郷した後も本土に止まり、脚本家を続けていきました。ヤマトにウチナンチュとしてとどまる事にしたのです。そして故郷沖縄をテーマにした脚本を書き続けることを決意します。彼は円谷プロ時代から子供向けの作品ばかり書いていますが、それは大人向けのドラマだと沖縄問題を真っ向から取り上げた時にクレームを受けやすい傾向があったからです。ですが、子供向けドラマなら悪の組織に沖縄の姿を投影させれば、堂々と東京を破壊する話を書いたりする事ができます。その事に気が付いた彼はその後もウチナンチュとしてヤマトに復讐する話を堂々と子供向け番組で書いていったのです。

 

他方、沖縄で育ったため、沖縄特有のおおらかな風土も彼に影響しています。秘密戦隊ゴレンジャーは硬派な話もあればギャグのような話もありますが、彼はその両方を得意にしていたのです。

 

キレンジャーといえばカレー好きというのが有名ですが、上原さんの書いた話ではそれが特に強調されています。第3話で青銅仮面がカレーライスを用意して「お口に合って私も嬉しい」と言っていますが、それは上原正三さんが書いたものです。高久進/新井光の師弟コンビが書いた第9話ではカレーを食べている隙に逃げられたというのが大岩からの電話だけで語られるのみですが、上原さんが書くと、その場面もより詳しく書かれます。一番壮絶なのが第34話でしょう。

 

黒十字軍は赤面仮面を敢えてバラバラにし、大岩に景品の賞品と称して渡します。スパイとして活動させるためです。ところがそうは問屋が卸さず、大岩がうっかり道路に落としたショックでスパイ回路が故障し、大岩が組み立てた時は大岩に忠実なロボットになってしまいました。それに気が付いた黒十字軍は大岩と赤面仮面が廃品回収に化けて輸送を行う任務に就いた事に目をつけ、ある作戦を決行します。

 

まずオバさんに化けたゾルダーが大岩に廃品を回収してと声をかけます。大岩がトラックを止めて断ろうとするとカレーの匂いが漂ってきます。オバさんの自宅には縁側にカレーライスが置かれており、ご丁寧にもコップに水が入れられています。更に、ゾルダーが団扇で扇いで匂いを飛ばしているのです。なんと芸が細かい事でしょう。そのため、大岩はカレーの誘惑に負けてしまい、つい車を降りて持ち場を離れ、オバさんと一緒に家の中に入り、カレーを食べ始めてしまいます。その隙に黒十字軍は赤面仮面を修理し、彼(?)を正気に戻すのです。ここまで回りくどい作戦を取らなくても赤面仮面を拉致するとかすればいいのに、そうしなかったのは、そのほうが面白いからに違いありません。

 

その前の第24話で大暴れしたカミソリ仮面は大岩を捕まえ、なんと手に持った大きなカミソリ(がついた杖)で大岩の無精髭を剃ってやります。御丁寧にも髭を剃る途中でカミソリを、(凄く大きな)砥石をゾルダーに持たせて研いでおり、剃った後はこれまたゾルダーが手に持った鏡で大岩に剃り具合を見せるのです。

 

そのほか、新宿の街を走り回り、フルーツパーラーゴンにも現れた機関車仮面が登場する話も上原正三さんが書いています。顔は蒸気機関車そのもので、御丁寧にも両腕で蒸気機関車のピストンの動きをしています。一見、意味なく走っているように見えますが、真の目的は足につけた特殊カメラに記録したデータを元にゴレンジャールームの場所を突き止める事でした。これを江戸川総司令はゴンで応対した時に見抜き、最終的には蒸気機関車の苦手な登り坂に誘導されて「わしの時代は終わった。」と叫んで最期を遂げました。

 

上原正三さんは本当に多作です。全84話中51話を書いています。彼の書いた話だけで1年間持たせることも可能だったでしょう。実際、後に「宇宙刑事シャイダー」の全脚本49話を書いています。驚く事に「秘密戦隊ゴレンジャー」とほぼ同時期に「がんばれ!!ロボコン」を書いており、そちらもほぼ同じペースで書いています。更に「ゲッターロボG」と「UFOロボグレンダイザー」も書いており、後者でもメインライターを務めていました。

 

彼は同じ話にたくさんの怪獣や仮面怪人を出すのも好きです。特に予算が潤沢で後の話に怪人を流用する事も可能な第1話に登場させる事が多く「鉄人タイガーセブン」第1話では7体の原人、「ゲッターロボ」では4体のメカザウルス、そして「秘密戦隊ゴレンジャー」では5体もの仮面怪人が登場します。ゴレンジャーの前半で使われたエンディングは第1話で登場した怪人が勢ぞろいし、子供心に壮観に思いました。ただ元々のルーツは「ウルトラマン」の「怪獣無法地帯」にあります。この話は円谷一監督が今までの着ぐるみを改造するなどしてたくさんの怪獣を出そう、と発案した事が元になっています。なので円谷一さんのアイデアを流用したともいえます。

 

2018年12月6日現在、上原正三さんは御健在です。昨年は『キジムナーkids』という小説を書いています。

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