がんばれ!レッドビッキーズ・それゆけ! レッドビッキーズ

はじめに

この記事では1978年1月6日から12月29日まで全48話が放送された「がんばれ!レッドビッキーズ」とその続編に当たり、1980年8月29日から1982年3月28日まで全77話が放送された「それゆけ!レッドビッキーズ」を取り上げます。

「ロボット110番」の失敗

「がんばれ!レッドビッキーズ」は「ロボット110番」の後番組です。「ロボット110番」は「がんばれ!!ロボコン」の後番組として始まりましたが、1年間の予定を全うできず、1977年の年内に終わってしまいました。それは「がんばれ!!ロボコン」の後番組だったため、子供達がロボコンよりも物足りないと感じてしまったからでした。これは私自身の実体験からもそう言い切れます。

「ロボット110番」はロボット博士(石ノ森章太郎)の開発したガンちゃん達4体のロボットが、ロボットサービスセンターを結成し、「世のため・人のために活動する」物語です。ロボットサービスセンターは中村家(父を演じたのは工藤堅太郎で母を演じたのは久保田民絵)の庭を借りて事務所を構え、ロボット博士の研究所を建てるための資金を稼いでいるのです。リーダーは経理担当のミスターチーフ(声は八奈見乗児)。主に電話番を務めているのがパールちゃん。しっかりものケイくん(時計がモチーフで声は小原乃梨子)とドジなガンちゃん(声は野沢雅子)が外で働き、最後、ミスターチーフが売り上げを計算します。そして赤字だと判明するとミスターチーフが激怒して「バッテンパーンチ」と叫ぶと赤字を出したロボット(大抵はガンちゃん)に壁からパンチが飛び出てぶん殴られてしまうという流れでした。ごく稀にガンちゃんが黒字を出したことがあったのですが、いつもの癖でミスターチーフが「バッテンパーンチ」と叫んでしまったことがあります。これは本放送で見た記憶が残っています。

ですが、子供達にはさほど受けませんでした。まず一つ言えるのは「赤字」というのがわかりにくかったというのがあげられます。ガンツ先生の採点はテストの点を連想しやすいのですが、赤字というのは少なくとも私にはピンときませんでした。次に劇中で登場するロボットの数がロボコンと比べて極端に少なくなっています。ミスターチーフはガンツ先生のようなもの、パールちゃんはロビンちゃんのようなものだとしても他にはガンちゃんを除くと1体しか登場しません。「がんばれ!!ロボコン」の三期生はロボチャンを除いても6体いましたから明らかに数が減っています。あとロボコンは「ゴキブリこわい」という弱点があり、大暴れして周囲を破壊しまくるのも見どころでしたが、ガンちゃんの弱点は電話などのベルの音を聞くとお腹の蓋が開いてしまういうもので、ロボコンの弱点と比べるとさほど面白くはなかったです。なので私はいつしか「ロボット110番」を見なくなってしまいました。その関係で後述する番組も見ておらず、大人になってからファミリー劇場での再放送で見たのです。

がんばれ!レッドビッキーズ

というわけで「ロボット110番」の終了が早まったため、急遽制作が始まったのが「がんばれ!レッドビッキーズ」でした。ただ「柔道一直線」が始まった時とは違って企画はある程度進んでいました。また「柔道一直線」とは違って特訓が中心となったスポ根ドラマではなく、女子高生の女監督と少年少女達チームメイトやライバルチームとの交流が中心となった、ほのぼのとしたドラマでした。さて放送直前、『がんばれ!ベアーズ』(原題:The Bad News Bears)というアメリカ映画が1976年に公開されていました。この映画は弱小の少年野球チームを描いたものでした。私はレッドビッキーズの企画にはこの映画が影響しているのではないかと思います。それくらい、ヒットしていたのです。さてレッドビッキーズという名前は、女監督だから「赤」ということと、柳に飛びつくカエルを見た小野道風の逸話、そして石ノ森章太郎の故郷ではカエルをビッキと呼ぶことなどが元で名付けられました。柳の葉に飛びつこうと一生懸命跳ねる赤蛙達の姿をこの番組では描いていたのです。

物語は冒頭、野球部のマネージャーを務めていた江咲令子(林寛子)が女性なのでベンチ入りさえできないことに憤慨して野球部をやめてしまうところから始まります。その帰り道、令子は令子の母(高田敏江)が営むブティックの近所で長山庵という蕎麦屋をやっている長山茂造(深江章喜)が息子の長山茂雄(鈴木雅之)に野球を指導しているところに出くわします。それを見るうちに令子は子供達を集めて自分が野球チームを作り、監督となることを思いつき、茂造に話を持ちかけます。こうして茂造がオーナーとなり、選手を集めてレッドビッキーズが結成されました。令子はこれで連戦連勝だと甘い夢を見るのですが、実際はというと、初戦は1アウトも取れずに30点を取られて、1回コールド負けという惨憺たる結果に終わってしまいました。以後、令子はこの弱小チームを率いて行きますが、第2話から加入した石黒正人(日吉としやす)と彼の先輩の荒川尭の指導もあってチームの戦力は徐々にではありますが向上して行きます。途中加入したサウスポーのジュリ(高橋直子)とホームラン太郎(平山公彦)も戦力向上に貢献し、レッドビッキーズは最終話でリトルリーグの優勝チームになって終わるのです。ただ特に初めの頃は連戦連敗で相手チームから「ビッキー、ビッキー、赤蛙。車に轢かれてヒキガエル」とはやされるのがお約束でした。なお令子は野球好きで理論には精通していますが、ノックができないという弱点がありました。

チームのメンバーは当時の名子役が多数起用されています。途中からキャプテンに就任し、キャッチャーを守ったジュクこと野川信一を演じたのは増田康好、エースのノミさんを演じた古見則彦、チームの主砲のカリカリを演じた古川聡、主にショートを守った野球センス抜群の少女ナッツを演じた佐久間真由美、その兄のブラザーを演じた江村和紀など挙げていくとキリがありません。芸達者だったこともあったのでしょうが脚本も巧みで各人は長所もあれば短所もありました。例えばチーム最年少のトータス(加藤森士)はいつもミドリガメを持ち歩いており、トータスと呼んで可愛がっています。口癖もトータスが絡んだものが多いです。でエンディングではトータスに夢中でボールが飛んできても追わない場面が描かれています。彼がなぜそんなにトータスを可愛がるのかというと、それは亡くなった母に買ってもらったものだからです。彼は自動車修理工をしている父親(古川ロック)に可愛がられていました。また補欠のペロペロ(高柳裕之)はいつもペロペロキャンディーを舐めているおっとりとした太った少年ですが、亡くなった彼の父は柔道家で彼も柔道を得意としていました。そのため、バットに球が当たればホームランになりますし、負傷したジュクに代わってキャッチャーを守った時は柔道を応用して見事ランナーをブロックすることに成功しています。なおチームのメンバーにはあだ名がついており、皆、あだ名で呼び合っていました。

印象的な演出として石ノ森章太郎が描いた止め絵が何度も挿入され、登場人物の心情を表現していたのが挙げられます。これは次作でも踏襲されます。

またライバルも色々な人が出ていました。監督だけでも畠山麦奥田瑛二成川哲夫などが出ています。一番のライバルは同じ女性が監督だったビューティースターズでしょう。エースの小杉百合香(神亜子)はユリカボールを投げました。後にノミさんはジュクの協力でユリカボールを投げられるようになり、また小杉百合香とも仲良くなりました。余談ですが神亜子は増田や江村も出演していた「5年3組魔法組」では実質的主役と言ってもいいショースケを演じています。「5年3組魔法組」も人気番組で、これを見た子供達は皆、5年3組になることに憧れていました。残念ながら私は5年3組にはなれませんでしたが。

こうしてみると、劣等生の成長物語というのは「がんばれ!!ロボコン」と共通していたのだなあ、と思います。上原正三は半分強の27話を書いています。

レッドビッキーズの面々は今も交流があるそうで、少なくともファミリー劇場で再放送が行なわれていた頃はシゲこと長山茂雄を演じた鈴木雅之さんが幹事となって同窓会を開いています。DVDボックスが発売された時は当時の選手を演じた人が大挙集まって特別編が収録されていますが、それも鈴木さんの手腕があったからです。ただ全員集合したわけではなくて何人かは連絡が取れていない状態なのだそうです。40年以上前に制作されたドラマですから、仕方がないのかもしれませんね。

それゆけ! レッドビッキーズ

「がんばれ!レッドビッキーズ」が好評だったため次の作品もスポーツものになりました。ただ野球を題材にしたものではなく、バレーボールをテーマにした「燃えろアタック」でスポーツものの定番である、主人公の成長を中心に据えたものとなりました。当時はモスクワオリンピックを控えていたため、主人公はオリンピックの選手に選抜されて終わります。ただし、現実の世界では日本はモスクワオリンピックの出場をボイコットしていますが。

「燃えろアタック」の後番組が「それゆけ!レッドビッキーズ」でした。「がんばれ!レッドビッキーズ」の続編で前のレッドビッキーズのメンバーだったジュクこと野川信一その人がレギュラー出演しています。その他、前作でもレギュラーだった人が多数出演していますが、いずれも別人役です。

物語はこんな感じで始まります。子供達が野球を始め、選手募集のポスターを貼ります。それを見た野川信一が協力を申し出て「女監督はいいぞ」「シャボンの匂いがするんだ」と子供達に言います。子供達は小倉から音楽の勉強のために上京した星野ゆかり(斉藤とも子)に監督になってくれと頼み込みます。ゆかりは野球の経験がないので初めは断っていましたが、子供達の熱意にまけて一度限りという約束で監督を引き受けました。こうして試合が始まりますが、試合を通してゆかりは、子供達の中に音楽があることに気づき、以後も監督を続けることにしたのです。

この作品でも選手は当時の名子役が集められ、あだ名で呼ばれています。キャプテンのトロケンを演じた福田信義さんは「がんばれ!!ロボコン」で「まここ」こと大山まことを演じていた人です。ほぼ同時期の「仮面ライダー」(スカイライダーが出る方)にはボンゴ役で出演していますし、「5年3組魔法組」ではショースケの弟のユタカを演じていました。ただ作風は若干捻りが加えられています。ジュクは優等生でしたが、トロケンはガキ大将タイプでした。なので悪戯好きで終盤になると「悪巧み」を思いついては実行し、騒動を起こしていました。野球だけではなく、子供達が起こす騒動も番組の中心になっていたのです。他の登場人物絡みでも、エキシャは可愛い女の子に惚れるものの、その子はチームの他のメンバー(エースのミルクやトロケン)を好きになってしまうという話が2回も描かれました。なお2つ目の方は第59話「100パーセント片思い」(脚本:上原正三、監督:奥中惇夫)で劇中でトロケン達が「ハイスクールララバイ」を歌っています。かなり悪ノリしてますねえ。

もちろん野球にも力が入っています。第21話で前のレッドビッキーズのメンバーノミさんがゆかりに肘を痛めた時の話(「がんばれ! レッドビッキーズ」第26話「熱球をわが胸に」)をしたり、第40話ではシゲが登場して皆を指導しています。第51話ではレッドビッキーズの全国大会出場が決まり、トロケンの父小沢金平(小鹿番)が営む寿司屋が所属する町内会の会長(近藤宏)が大喜びしたりしています。

さて「それゆけ!レッドビッキーズ」では特筆すべきことがあと2つあります。その1つが監督交代劇です。第25話でゆかりは歌を作り、コンクールに優勝。その副賞として外国留学がついていました。ゆかりは悩んだ挙句、時を同じくして兄が出た体育大学を受験するために上京していた高原樹理(山田由紀子)にチームを託し、第26話で旅立ったのでした。なお樹里は器械体操が得意な少女でセオリーのいとこです。セオリーの母親が樹里の父親の妹でした。樹里はポパイというあだ名がつけられていました。交代直後はメンバーと軋轢が起きたのですが、すぐに仲良くなりました。またトロケンの父金平は樹里の指導に疑問を抱き、ついには自分がレッドビッキーズのメンバーの父兄を集めてオヤジチームを結成して対決したこともありました。やはりコメディーに力を入れていたのですね、当時のスタッフは。なお対戦結果はスタミナのなさを樹里に突かれてしまい、疲れ果てて白旗を挙げて判定負けと相成りました。この交代劇は斉藤とも子さんのスケジュールの都合だそうです。斉藤さんの所属する事務所の意向で契約が延長されなかったのです。

また「それゆけ!レッドビッキーズ」は当初は1年間の予定だったのですが、系列局の朝日放送の要望でさらに延長されることになり、当時朝日放送の制作枠だった毎週日曜19:00 - 19:30の枠に映って半年間放送が延長されました。朝日放送側のプロデューサーは辰野悦央でした。なお、上原正三は全77話中52話を書いています、私が数え間違えていなければ。毎週日曜日に移ってからは半年での放送にとどまり、後継作は作られませんでしたが、それでも全77話も放送されたのはすごいことだと思います。

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