田口成光のデビュー

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で脚本家としてデビューした田口成光について取り上げます。

円谷プロに入社して

田口成光は1944年2月4日生まれ。長野県飯田市出身で日本大学芸術学部を卒業後、脚本家を志望して1967年に円谷プロに入社しました。研究室の助手をしていた先輩から金城哲夫を紹介してもらい、入社したのだそうです。ただ企画文芸室には入れず、特撮助監督の仕事に回され、「ウルトラセブン」や「怪奇大作戦」を担当しました。「怪奇大作戦」の途中から文芸部に出入りするようになったそうです。「怪奇大作戦」で仕事が途絶えた円谷プロではリストラが断行され、田口成光も無給状態に陥りましたが、なぜかなんとなく円谷プロに出入りしていました。そして円谷プロ金城哲夫が辞める直前、「雪が見たい」と言う金城の頼みで彼を自分の実家へ連れて行っています。それについては以前、触れました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

やがて円谷プロから金城哲夫上原正三も去り、気がつけば田口は円谷プロの文芸担当になっていました。その後は企画書を書いては放送局や広告代理店へ売り込む日々が続いたそうです。そして実った企画の一つが「帰ってきたウルトラマン」であり「ミラーマン」であったわけです。当時は陽の目を見ませんでしたが、後に「ジャンボーグA」となる企画も手がけていたのは間違いありません。また「戦え! ウルトラセブン」と言う「ウルトラセブン」の続編も日本テレビなどに売り込んでいましたが、この企画内容は武器などの設定が「ミラーマン」にも流用されています。

第8話「怪獣時限爆弾」

さて最初は企画書を書いていた田口でしたが、念願の脚本家デビューの機会が訪れます。それが第8話「怪獣時限爆弾」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)です。この話、後の田口成光作品の特徴が全て表れている話だと思います。

あらすじはこうです。怪獣ゴーストロンが現れます。その容貌を遠隔監視のカメラで見たMATのメンバーは弱そうな奴だとバカにします。そして岸田が開発したX弾を使用することになり、X弾を積んだマットアロー2号で郷は出撃しました。郷が出撃するために部屋を出るのを見届けた後、加藤隊長は南にこう言います。

加藤隊長「南、今夜はお袋さんが上京するんだったな。」

南は照れ笑い。一応、最後の場面に繋がるセリフですので、覚えておきましょう。

郷は怪獣に近づきます。がこの時、油断した郷は怪獣に近づき過ぎてしまいました。それまでノロマで身動きをしなかったゴーストロンは突如、マットアロー2号の方を向き、火の玉(のようなもの)をはきました。慌てて郷はX弾を発射。X弾は確かにゴーストロンの尻尾に命中…はしたのですが、なぜか爆発はしませんでした。ゴーストロンはそのまま地中に潜ってしまいました。当然、この件は問題になり、マットアローの点検などが行なわれました。そしてビデオレコーダーに記録されていた郷の動きの解析により、郷が誤ってX弾を時限装置付で発射していたことが判明しました。時限装置により、怪獣はあと10時間で爆発することが判明。南は「よかったな、郷。怪獣はあと10時間で天国へ急行だ。」と郷を慰めましたが、加藤隊長はその甘さを一喝し、怪獣が街中で爆発したらどうすると指摘します。その直後、郷は加藤隊長と柔道の組手をしますが、郷は加藤隊長を投げられません。この話のテーマの一つは油断大敵なのです。さて映像では、それを加藤隊長に指摘された郷が加藤を投げる事ができて加藤がニヤリとします。

困ったことに怪獣は東京を吹っ飛ばしてしまうほどの量のニトログリセリンがあるダイナマイト工場の目の前に現れ、文字通り、居座ってしまいました。そのため、東京には避難命令が出されました。それを受け、坂田健は次郎に大事なものを持って逃げろと言います。次郎は一番大事なものを持ちました。それは

次郎「郷さんの花だ。」

坂田健「アキと次郎の宝物だな、その花は。」

と言う鉢植えの花でした。なお、この話には坂田アキは登場しません。

加藤隊長と一緒にマットジャイロに乗った郷は怪獣に近づき、分析するために写真を撮りまくりますが、20mのところまで近づいた途端、また怪獣は火の玉をはき、慌ててマットジャイロは退散する羽目に陥りました。

さてMATは作戦を立てました。100mまで近づいたくらいでは反応はせず20mまで近づかないと見えないらしい、と加藤隊長は判断。作戦としてはどこかへ誘き出す作戦と、怪獣の動きを止めて尻尾からX弾を取り出す方法の2種類が考えられると加藤が言ったところで、郷は「音には反応するのではないでしょうか。」と指摘します。これに岸田が噛みつき、根拠はあるのかと郷に質問。郷はその根拠を説明できません。「そんな感じがします」と思っただけだからです。なので加藤隊長は「感じでものを言うやつがあるか。私は多少でも可能性の強い方法を作戦として採用する。」と郷の意見には耳も貸しません。加藤隊長は岸田が発案した麻酔弾作戦を採用しました。うーむ。上原正三が描いた加藤隊長は父親みたいな存在で、真偽を確かめるために自分で現場へ行ったり、郷を叱る時でも密かに坂田健に連絡してサポートさせるなど郷への気遣いは怠らない人だったはずなのに、この話の加藤隊長はそうではないようです。まあ現場へは郷と一緒に行ってはいますけどね。なおも誘き出し作戦の採用を直訴する郷にダメ押しとしてこう告げて立ち去ります。

加藤隊長「私は安全確実な作戦に決めた。お前は少し休め。疲れているよ。」

これでは郷は孤立するだけです。その後、郷は自分なりに状況を思い返し、やはり怪獣は視覚は弱くても聴覚には敏感だという結論を弾き出し、独りで、そう、本当に独りでマットジープを改造し始めます。

その頃、次郎のところに友達(矢崎知紀)が来ていました。友達は親戚の女の子を連れてきていました。女の子は友達のところに逃げてきていたのです。近くに怪獣が現れたからです。次郎は、おうちに帰りたいだろうと同情しますが、それを受けて友達は、こう言います。

友達「MATがいけないんだ。怪獣なんか逃すからだよ。うちでもみんな、MATが悪いって言っているよ。」

このセリフの途中で次郎は襟につけたMATのバッジを思わず隠してしまいます。友達が立ち去った後、次郎は

次郎「ちくしょう。郷さんのバカ。」

次郎はバッジを外して投げ捨て、さらには郷とアキの花を植木鉢ごと投げ捨てて割ってしまいます。うーむ。郷のあずかり知らないところでこんな騒動も起きていたんですね。

さて刻一刻と爆発の時刻は迫ります。郷は単独で出撃。他の5人は麻酔弾作戦を決行しています。郷不在なのを咎める人は誰もいません。先に麻酔弾が怪獣に打ち込まれましたが、麻酔弾は全く効きそうになく、寝ていた怪獣を刺激して、かえって暴れさせてしまう始末です。そのとき、郷が乗ったジープが現れます。郷は怪獣に近づくとジープに積んだサイレンを鳴らしました。そして郷の読み通り、怪獣はサイレンの音に反応し、ジープを追いかけて行きました。必死にダイナマイト工場から離れるジープと、それを追いかける怪獣。郷の作戦は成功したかに見えましたが、郷の乗ったジープは溝の手前でジャンプした格好になり、その勢いで転倒。ジープは怪獣がはいた火の玉で爆発してしまいました。さらに間の悪い事に今度は工場からサイレンが鳴り出しました。折角の郷の作戦も水の泡と消え、怪獣は工場の方へ引き返してしまいました。

とここでウルトラマン登場。ウルトラマンは怪獣としばらく戦いますが、怪獣が工場の前に文字通り居座ってしまうと今度は手も足も出せずにジッとしたままです。

ナレーター「時限爆弾を抱えた怪獣にスペシウムは使えない。ウルトラマンは何を考えているのだろう?」

このナレーションの直前と途中からの計2回、時計が映って時間が経ってウルトラマンスペシウム光線を発射して怪獣が爆発し、ダイナマイト工場も誘爆するという映像が流れます。もちろん、隊員がそう思っていたというイメージ映像です。

さて実際はというとウルトラマンのカラータイマーが赤になり、突然、ウルトラマンは回転して地中に潜ります。そしてウルトラマンは地中から怪獣を抱えて空へ飛び、怪獣は空中で爆発。東京の危機は去ったのでした。郷は無事に現れ、それを確かめた加藤隊長は唐突にこう言います。

加藤隊長「南、お袋さんの汽車は未だ間に合うか?」

南「はあ。」

南は怪訝な表情ながらも間に合うと返事をしました。

加藤隊長「郷の奴、何をもたついているんだ。早く呼んでこい。さもないと汽車に乗り遅れてしまうぞ。」

ようやく加藤隊長の意図を理解した南が郷を迎えに行き、一同が合流したところで話は終わるのでした。

 

田口成光は橋本洋二と議論して10回も直したそうです。田口も橋本も大変だった事でしょう。まあ橋本は「10回」ではないと否定してますけどね。でも残念ながらこの話、細部で綻びが目立ちます。

私がこの話を観たのは多分大学生になってからだと思いますが、その前に、子供の頃に「ウルトラマン」第25話「怪彗星ツイフォン」(脚本:若槻文三、監督:飯島敏宏、特殊技術:高野宏一)を見ていたので、初見の際は「水爆を飲み込んだレッドキングみたいに怪獣を八つ裂き光輪でバラバラにして空へ運べばいいじゃないか」と疑問に思ったものです。「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンも第3話と第4話で八つ裂き光輪を使っています。だから余計にそう思いました。

他にも冒頭で語られた、南の母親が上京すると言うのも最初と最後の場面で語られるだけで話全体には絡んでいませんし、郷はMATのみんなに責められ、あずかり知らないところで次郎の友達にも次郎にも責められ、最終的には独りで独自の作戦を立てて出動しています。なんか見ていてスカッとはしないのです。面白そうな場面を並べてはいますが、バラバラに並んでいるだけで有機的に結びついていないのです。

さてこの話、今まで上原正三が書いていた話、特にウルトラマンが冒頭で敗北する第4話に似ています。田口の発案だったのか、橋本洋二の発案だったのかは定かではありませんが。ただ不思議なことに、私は第4話を初めて見た時、それは子供の時でしたが、「ウルトラマンは空を飛べるのになぜジャンプ力を鍛えなければならないのだ?」と言う定番のツッコミは思い浮かべず、普通に特訓の話を受け入れていました。これがなぜだかよくわかりません。でも改めて見返すと、各場面はそれぞれ有機的に結びついていて、特訓をするのも、精神的な弱さを克服する目的もあったからではないのかなあ、と子供心に感じたからではないかと、個人的には思います。また、この話では坂田兄妹が全員登場し、郷の特訓を見守ります。坂田健は行きませんが、アキと次郎に場所の当たりをつけて教えてあげます。これと前後してアキが丘隊員に嫉妬する場面が入ります。郷と暖かく接する人や彼らの見せ場も上原正三は用意していたのです。これも効いていたのだと思います。

さて主人公のことを他の登場人物が誰も信じず理不尽に責められるという話は後に田口成光が書いた話で頻出します。ウルトラマンA(ヒッポリットが登場する話など)でもウルトラマンタロウ(バードンの話など)でも、そしてウルトラマンレオでもそういう話が並びます。あくまでも私見ですが、知らず知らずのうちに、田口成光は第8話「怪獣時限爆弾」をひきづってしまったのでしょう。でこういう人間ドラマが田口に向いていたかというと、そうではなかったのではないかと私は思います。それを田口が自覚していたかどうかはわかりません。おそらくそうではなかったのかなあと思います。

おわりに

なんだか辛口な論評になってしまいました。まあ田口が第2期ウルトラシリーズを支えた功労者の一人だという事実は変わらないとは思います。さて次はホラを吹いて大暴れした石堂淑朗を取り上げましょう。

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