朱川審が放った光

はじめに

この記事では第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)を取り上げます。

朱川審

さて朱川審とは誰なのでしょうか? 岸田森ペンネームだと本放送当時は紹介され、長い間、私も含め、皆そう思っていました。しかし、そうではありませんでした。実際には第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」は脚本家・山元清多が盟友である岸田のアイデアに基づいて書いたものと判明しています(武井崇著「岸田森 夭折の天才俳優・全仕事」洋泉社、2017年。P74-76。「特撮秘宝 Vol.7」洋泉社、2017年。P180、P207)。私は「特撮秘宝 Vol.7」でこの事を知り、驚きました。山元清多が脚本を書いたドラマで私が思い浮かぶのは「ムー」ムー一族」、「刑事ヨロシク」と言った作品で硬質なSFである第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」とは対極に位置するコメディー(というよりはバラエティー?)ばかりです。ただ岸田森が発想したのは確かなのでしょう。山元は「六月劇場」にもいましたから、そこでの繋がりで岸田が脚本執筆を持ちかけたのです。

第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」

さて第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」を観てみましょう。

世界各地で灯台が消える事件が頻発していました。その原因を坂田健は推測しており、郷に話し、郷はMATのメンバー(岸田、上野、丘)にも話していました。しかし、岸田達は懐疑的で、伊吹隊長の帰還を待ってから動いた方が良い、と郷に忠告していました。ここまでが次郎と郷の様子からわかる話です。なお、伊吹隊長は南を連れて世界防衛組織の世界会議に出て留守でした。

さて郷が休暇をとって坂田家へ向かっている頃、坂田家では健がビニール袋に水を入れてプリズムを作り、原理を説明をしていました。このプリズムを作る場面はシナリオにはなく、山際永三が追加したのだそうです。シナリオでは既にプリズムが作られていて、虹の光を放っていたのだそうです。閑話休題。郷は地図を指差しながら坂田と話します。地図にはバツ印と線が書かれています。そのバツ印を指差しながら郷が言います。

郷「初めが南極で気象観測船、次が南氷洋捕鯨船、それから次々に灯台がやられていく。ここ。ここ。何かが日本を目指しているような気がしてならないんです。」

その頃、伊吹と南の乗るマットアロー1号がマゼラン岬の辺りを飛んでいました。会話の様子から、世界防衛会議はマゼラン岬の事件に関するものだったようです。実は先ほど、郷はマゼラン岬の辺りを指差しています。南が「この辺はもう探し尽くしましたよ。もう手がかりなんか…」とぼやいていましたから、相当長く飛び回っていたんですね。とその時、伊吹は海上に人(エフ・ボサード)がいるのを発見。早速救助しますが、顔は変化し、七色のようになっています。よく考えるとこわい映像ですが、初見の時(小学校低学年の夏休みだったと思いますが)はそこまで感じませんでした。で救助された人は船員だったようですが

船員「白い、白い悪魔…われても、なくなる…白くいなくなる…」

と聞こえましたが、非常に苦しそうです。伊吹と南はMAT本部に連絡し、病院を手配し、病院に運び込みました。

さて次郎がヤカンからコップにお湯を入れたら、コップは割れてしまいました。

健「そりゃそうさ。冷たいものに急に熱を加えれば歪みが起こる。」

初見の際は全く気づきませんでしたが、これも伏線です。さて、次郎の宿題は終わっていません。プリズムの説明は宿題のために坂田健が行なったみたいですね。で次郎はレンズがないことに気がつきましたが、レンズが光を集めて雑誌に火がつき始めるのが映ります。さてシナリオではセルロイドのオモチャが燃えるのですが、これも山際が変更した場面なのでしょう。ここで

健「次郎、兄さん、ここで遠出をしてくる。」

次郎「郷さんと?」

健「うん。二人で。」

次郎「僕も連れてってよー。」

そりゃ、次郎は御不満ですよね。

健「お前は行ったってしょうがないよ。留守番しといてくれ。」

次郎は郷にも連れてってと頼みました。郷はそれには応えず

郷「もし何だったら、僕だけでも…」

一応、次郎の頼みを聞いてあげたんでしょうね。それから、これは後でわかりますが、危険が伴いますからね。しかし健の決意は固かったのです。

健「いや、今度ばかりは行ってみたいんだ。どうしても。」

そりゃあ、自分の出番が減りますからねえ(嘘)。余談ですが、この話は岸田森扮する坂田健の最後の見せ場となってしまいました、結果的に。閑話休題。この時、健は焦げ臭いにおいがするのに気がつきました。レンズのせいで雑誌が燃えてしまったのです。郷があわてて雑誌をどけた後、

健「次郎、光の悪戯だよ。光は生物にとってなくてはならないもんだけど、一箇所に集中すると、こう大きな破壊のエネルギーになる。」

というわけで

ナレーション「郷隊員と坂田の二人は一つの予感に突き動かされて南の海を目指して車を走らせていた。」

実はこのナレーション、微妙に間違っていることが後で発覚しますが、郷も坂田健も視聴者もそれに気がついていません。

で画面変わってマットビハイクルが走っています。思わず郷と坂田が乗っているのではないかと思ってしまいましたが、それは勘違い。

ナレーション「一方、その頃、太平洋上で救助した外国人船員が入院では…」

どう見ても日本人で日本語でうわ言を言っていたような気がしますが、それは瑣末な疑問に過ぎません。というか、後で見返したら、確かに外国人であるエフ・ボサードがキャストされていました。閑話休題。病院で驚愕の事件が起きたのです。病室のドアも窓も閉め切っていたはずなのに、船員が消え去ってしまったのです。いや、正確に言えば、布団をめくったら、パジャマが残っているのが見えました。マットビハイクルに乗ってやってきたのは伊吹と南で岸田は外で警護していました。伊吹と南は船員が急に苦しみ出したという知らせを受けてやってきたのです。さて布団をめくった時、伊吹は「やっぱり」と言っていました。既にそういう事件が起きていたと防衛会議で報告されていたのかもしれません。そして伊吹がパジャマをめくってみると、透明なゴツゴツした塊がありました。拳くらいの大きさです。医者が「透き通った何かの結晶のようですねえ。」と手を伸ばそうとするのを伊吹は遮り、

伊吹「およしなさい。そうっと運んで研究所で分析させます。それまでこの部屋は立ち入り禁止にします。」

南はブラインドを立てて光を遮り、全員外に退避。中であの塊が光を出して点滅しています。

その頃、郷と坂田の車は海岸に到着しました。もう夕暮れ。灯台が見えます。

さてMAT本部(?)では丘が物々しい防護服とゴーグルを着けてシャーレの蓋を開けています。他の隊員は部屋の外に出ています。物々しい警戒ぶりです。

上野「なんだ。何も入っていないじゃないか。」

そう見えました。確かに伊吹はあの物質を入れてきたはずなのですが。伊吹達が議論している、その時、

丘「隊長、部屋の照明を消してみてください。」

部屋の明かりを消してみると

南「あ、発光しているぞ。」

あの結晶はまだあったのです。肉眼に見えなかっただけだったのです。これもよく考えたらこわい場面ですが、幼かった私はあまりこわさを感じませんでした。

丘「初めは結晶としてあったものが、どんどん透明度を増して小さくなっていきます。」

伊吹「消えていく…」

丘「もう物質は完全にありません。全部光に変わって消滅したものと思われます。」

つまり、あの船員は結晶になり光と化してしまったのです。

そして夜になり

健「次郎のやつ、晩飯食ったかな。」

郷「なんとかやっているでしょう。」

健「うん。」

二人あることに気がついていませんでした。ですが

郷「坂田さん」

オーロラが出ました。日本の南側の海、多分太平洋でオーロラが出たんですよ。これだけでも驚きですが、この時、郷と健が乗ってきた車のトランクが何故か開きました。次郎が中に潜り込んでいたのです。で郷と坂田は何も明かりを持っていないのに、次郎は手に懐中電灯を持っています! そして「オーローラー」という女性みたいな叫び声とともに白い大きなものが現れました。

坂田健「やっぱり来たな。俺の推理もバカにしたもんじゃない。」

坂田健はこの大きなものの出現を予期してやって来たのです。あの大きな塊が灯台を光にして吸収してしまいました。

郷「MAT本部へ連絡します。」

郷と坂田健が車へ向かった、その時、郷や健の計算外の事態が起きてしまいました。

次郎「ああ、すごいや。あいつ、光怪獣だ。プリズ魔だ。」

次郎が命名したのですね(違います)。繰り返しますが、次郎は手に懐中電灯を持っています。健はトランクが開いていて、中に落ちていたものを見て、次郎が潜り込んでついて来た事に気がつきました。慌てて次郎を探しに行く健。健の懸念は的中。

プリズ魔「オーローラー」

次郎の懐中電灯に引き寄せられて近づいて来ました。健も郷も次郎がいることに気がつきました。郷は次郎に懐中電灯を投げ捨てるように言いました。そう言われて懐中電灯を投げ捨てる次郎。その途端、懐中電灯はプリズ魔に光と化されて吸い込まれてしまいました。恐ろしや。恐ろしや。

健は「以前やったところ」を痛めてしまいましたが、郷によって何とか車に戻ることが出来ました。そして健は次郎を乗せて車を発進させましたが、うっかり、ヘッドライトをつけてしまいました!

郷「坂田さん、ライトを消して!」

しかし、坂田健は逃げるのに夢中でライトがついていることに気がついていません。当然、プリズ魔が近づいて来ました。そしてついに坂田の車にプリズ魔の魔の手が伸びました(手はついていませんが、意味はわかるでしょう)。この絶体絶命の危機を迎えたところでCM突入です。

さてCM明けてもプリズ魔の魔手はのびています。ついに車は乗り上げて止まってしまいました。絶体絶命の危機。郷は信号弾を撃ってプリズ魔の気をひきます。その狙いは的中しましたが

郷「(プリズ魔に襲われ)うわあああああ。」

郷はウルトラマンに変身します。さてウルトラマンはプリズ魔と戦い、チョップやキックを繰り出しますが、全然歯が立ちません。ここで定番の疑問が起きるでしょう。いつも怪獣に入っている遠矢孝信さんは何をしていたのでしょうか。きくち英一が河崎実にこう明かしています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

きくち プリズ魔ね。これ人間入ってない。遠矢(孝信)は後ろで押しただけでいつもと同じギャラを貰った。(笑)

河崎 後楽園ロケですね。プリズ魔って戦いようのない怪獣ですよね。

きくち これは全面プラスチックでできてましたね。

(中略)

きくち これは遠矢が腰までの長靴履いて水の中に入って押してるんですね、ただひたすら。僕らは「遠矢、見えるよ、見えるよ」なんて言って笑ってた。下からピアノ線で引けばよかったんだけど。

河崎 このシリーズではこのプリズ魔が最強じゃないかな。光のエネルギーを武器とするウルトラマンにとって光を吸収する怪獣の設定はまさに最強でしょう。その姿もベムスターなどとは違って顔や手足は無く物質そのもののイメージが強く、とらえどころのない雰囲気が最終回のゼットンより強そうですね。ウルトラマンも勝つには勝ったが、ずいぶん痛めつけられた。

河崎の意見に同意します。ただ当時河崎も知らなかったであろう事実がありますが、それは後ほど触れましょう。閑話休題ウルトラマンはしばらくプリズ魔と戦っていましたが、ついにプリズ魔はウルトラマンをも吸収しようとしました。最初にいつも流れる音楽が流れたかと思うと、後の「ミラーマン」のオープニングやら後のヤプールがいる異次元の映像やら、ありとあらゆる合成素材が流れまくる中、シルエットのウルトラマンが右往左往と動き回ります。さて、きくち英一と河崎実のお話をきくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

河崎 ハハハ、きくちさんこれ何やってるんですか。

きくち 踊ってる、バレエやってる。

河崎 どういうリクエストだったんですか?

きくち なにしろ踊ってくれって。動きの激しいやつを。

河崎 どれくらいカメラ回したんですか?

きくち けっこう回したなぁ。ほら、こう寝て、足上げて。

河崎 このバレエみたいなのどんな気持ちでやってるんですか。白鳥の湖かな? (笑)

きくち 気持ちも何も、とにかく踊ってくれって。

閑話休題。しかし、ウルトラマンはプリズ魔に吸収されませんでした。カラータイマーが赤にはなりましたが、なんとか脱出し、両手を合わせて霧状のものを噴射。これはウルトラフロストと書籍で紹介される技ですね。日の出とともにプリズ魔は姿を消しました。ここへやっとマットアロー1号が飛んできました。

坂田健「遅かったな。」

郷「どっちみちマットアローでは歯が立ちませんよ。」

どちらの意見も正しいと思います。

さてMATは早速プリズ魔を倒す作戦を立てます。郷が坂田の推理を説明します。プリズ魔は限りなく凝縮された光が物体化した怪獣で南極の氷山に閉じ込められ、長らくその活動を停止していたが、太陽の黒点が変動した影響で活動を再開したのです。自動車修理工の坂田健がこんな事を思いつくのがある意味すごい気もしますが、そんなのは瑣末な疑問に過ぎません。岸田森(と山元清多)の発想は素晴らしいです。閑話休題。議論が白熱する中

上野「なーるほど、頭を冷やさなければいかんな。」

これを聞いた丘が閃きました。

丘「待って。冷やす?」

これを聞き

伊吹「そうだ。奴は南極の氷の中に閉じ込められていたんだ。」

かくして急激にプリズ魔の周りを冷やして活動を停止させるという冷凍弾作戦が発案されました。余談ですが伊吹は「絶対温度マイナス273度」を作り出さなくてはならないと言っていますが、これは正しくは「絶対零度」でしょう。まあこれも瑣末な指摘に過ぎません。閑話休題

郷「絶対温度。活動を止めるだけじゃダメだ。破壊しなければ。」

というや否や、下田にプリズ魔が出現し灯台が被害に遭ったという連絡が入りました。もはや猶予はありません。

ナレーション「MATの要請によって東京周辺のあらゆる光が消されていった。暗黒の大都会。光怪獣プリズ魔を迎え撃つ捨て身の作戦が用意されていたのだ。」

MATは野球場にプリズ魔を誘き寄せる作戦を実行しました。ロケは後楽園球場で行なわれたように見えますが、セットのミニチュアは大昔にあった東京球場に似ています。とはいうものの今はどちらも現存しないのであくまでも私の印象ですが。これについては後述しましょう。閑話休題。狙い通り、プリズ魔は光を求めて現れました。郷と上野はスタンドの中。伊吹と丘、そして南と岸田が操縦するマットジャイロ2機が飛んでいます。マットジャイロが投下した冷却弾で野球場が冷やされ、プリズ魔は動けません。ですが、冷気が足りないのは否めず、破壊までは至りません。焦る郷の目に、上野が冷気にまかれて苦しむ姿が見えました。

郷「そうだ。こうなったら小さくなって奴の体の中に入り込むんだ。そして中で…」

というわけで郷はウルトラマンに変身。小さくなって中に入り込みました。そしてウルトラマンはプリズ魔の体内でスペシウム光線を発射。なおアップになったウルトラマンの身体中についているものは、きくちによれば雲母だそうです。

伊吹「プリズ魔が苦しんでる。爆発するぞ、危ない。上昇だ。」

慌てて上昇する2機のマットジャイロ。プリズ魔は爆発四散しました。うーむ。次郎がコップにお湯を入れてしまった時と同様、急激に冷やされたプリズ魔の体が急激に温められたため歪みが生じてしまったからです。山際永三恐るべし。次郎がコップにお湯を入れてしまう場面は脚本にはありません。山際が伏線として入れた場面だったのです。閑話休題ウルトラマンも飛んで脱出し、郷に戻りますが、郷はグランドの芝の上で這いつくばりながらこう言います。

郷「俺にとって、俺にとって、ギリギリの賭けだった。」

この場面。初見の際は衝撃を受け、凄いラストだなあ、と私は感動しました。ですが、そう思わない人もいたようで、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではこう書かれています。

ただ、前半から中盤の盛り上がりに比べて、クライマックスからラストにかけての展開が急すぎ、唐突なラストはユニークではあるが、ドラマの幕引きのボリュームを急速に下げすぎてしまった印象が強く残る。

でダメ押しとして

筆者たちの子供時代の印象。

「CMの後、まだ続きがあるかと思ったら終わっていた」(白石雅彦、当時小学5年生)。

「来週続きがあると思ったら、別の話だった」(荻野友大、当時小学2年生)。

とまで書かれています。まあ感性が私と違う人がいるのは仕方がありませんよねえ。

プリズ魔のデザイン

さてプリズ魔のデザインは井口昭彦が担当しましたが、実は米谷佳晃も検討用にデザインをしています。米谷佳晃著『華麗なる円谷特撮デザインの世界 ミラーマンジャンボーグA 米谷佳晃デザインワークス 1971〜1973』44ページにそのデザインが載っていますが、実際に映像と使われたものとは違って顔や足のある怪獣然としたものでした。ただモチーフであるプリズムを意識したのか、水晶のような形をした硬質なものが身体中から生えていました。ハリネズミが二本足で立ち上がり、腹にも背中にも水晶のようなものが生えているイメージと言えば伝わるでしょうか? シナリオでは「2本足の怪獣」と表現されていたプリズ魔ですから、これはシナリオに即して創られたと言えますが、完成作でのプリズ魔に馴染んでいた私には、このデザインのプリズ魔がウルトラマンと戦う映像を思い浮かべることは難しいです。こちらが採用されたら、かなり作品の雰囲気が変わったのは間違いありません。遠矢孝信さんが中に入って戦ったでしょうねえ、いや、作品自体の雰囲気が大きく変わったに違いありません。

坂田アキ

さて完成作では坂田アキは出ません。これは演じる榊原るみが「気になる嫁さん」のヒロインに起用されたため出られなくなったという、スケジュールの都合なのです。坂田アキは第27話を最後に第3クールでは登場しないようになります。第27話の次に登場したのが、坂田アキが衝撃の最期を遂げるあの第37話です。

で準備稿では坂田アキが登場していました。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から、その場面を引用しましょう。

坂田「お前の休みを利用して、少し遠出のドライブとしゃれこむか。(中略・アキに)郷と二人で行くよ。」

アキ「そう。(快活を装って)いいわ、行ってきても。(出ていく)」

郷「坂田さん、そうまでして…」

坂田「感じるんだ、妙に。行ってくれ、確信はないが…」

なんと。前半で坂田が郷と行く割を食うのは次郎ではなくてアキだったのですね。アキと次郎とでは当然場面の意味が変わります。準備稿ではさらにこんな場面が用意されていたのです。調理場でのやりとりを白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から引用しましょう。

アキ「玉ねぎ奴、目にしみるったらたまらないわ。腕によりをかけてんだから、食べてってね。」

郷「もちろんだよ。そう聞いたとたん。腹の奴グーグー鳴きはじめた。」

アキ「どらどら!」

アキ、ふざけて郷の腹に耳をつけてみる。

でこの話は元々は第28話に予定されていたシナリオだそうです。第35話まで延びてしまったのは決戦が野球場で行なわれたからでしょうね、白石雅彦と荻野友大が書いている通り。第28話は10月15日に放送されていますから、撮影時、まだV9時代のプロ野球日本シリーズに入っていなかったはずです。奇しくも山際永三監督の作品の「ウルトラ特攻大作戦」が放送されています。

決戦が行なわれた野球場

さて決戦が行なわれた野球場ですが、私も河崎実と同様、後楽園球場だと思っていました。というのは当時はV9時代で東京読売巨人軍が強かった上に、最近まで巨人戦の中継が頻繁に行なわれていたため、野球と言えば巨人、そして巨人の本拠地の後楽園球場というイメージが強かったからです。また後楽園ゆうえんちでショーが行なわれた関係で東映作品では後楽園球場でロケされていた事が多く、それも影響したことは否めません。

ところが、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で佐川和夫がこう証言しています。

かなりハーフミラーで現場合成しています。この頃ロッテが、2年くらいしか使わなかった球場があったんですよ(東京スタジアム、南千住にあった)。その年の最終の試合に、試合が終わってお客さんが出るまでライトを消さないでもらっておいて撮影した覚えがありますよ。球場なんかライト当てられないじゃないですか。コダックが商品化テストで作った高感度フィルムを使って、増感(現像時間を2倍にする)してやって撮ったんですよ。でも半分はセットを作ったはずですよ。

編集の時、山極監督、いつ合成したの? って言ってましたね。だって現場で合成しているから(笑)。

光がワーッと当たると、それがスーッとなくなっちゃうとか、復活するとかいう話じゃなかったかなあ? 光線とかいろんな光をハーフミラー合成したというのが多いんじゃないですか?

なるほど。実際は東京スタジアムで撮影されたのですね。私の思い込みでした。

おわりに

この記事では第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)を取り上げました。初見の際はこの記事に書いたことなどほとんど知らずに観て楽しんでいました。色々と面白い事情があったのだなあと改めて思いました。

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