坂田兄妹

はじめに

この記事では郷秀樹の家族とも言うべき存在だった坂田兄妹(坂田健、アキ、次郎)について取り上げます。

カドクラ牧場

さて「帰ってきたウルトラマン」の企画がある程度固まった後、上原正三が呼ばれたのは先述しました。

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この時点での企画書では主人公の名前はバン・ヒデキ(晩日出輝)25歳となっており、カドクラ牧場で働いていました。そしてカドクラ牧場の子どもたち、17歳のカオルと10歳のマサユキもバンを慕っていました。この企画書ではバンはMATに入隊すると同時にカドクラ牧場でも働くという、後の「ウルトラマン80」を思わせるような設定になっていました。またアーストロンは初期に登場しますが、完成作とは違って1回目の対戦では倒せず、アーストロンを倒すべくウルトラマンことバンは新たな必殺技を編み出すことを決意したと言う流れになっています。

このカドクラ牧場が坂田家の原型になったわけです。私は後に上原正三が書いた「宇宙円盤大戦争」を思い出します。余談ですが、「宇宙円盤大戦争」のラストでは牧野ひかるが宇門大介ことデューク・フリードとの別れを前に拗ねたり、宇宙へ去るため大空を飛ぶUFOロボ・ガッタイガーに向かって走りながら大介にひかるが叫ぶ場面も用意されています。「帰ってきたウルトラマン」の最終回を思い出してしまいます。

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坂田健

さて坂田兄妹の話に移りましょう。坂田健は坂田兄妹の長兄で、郷が働いていた坂田自動車修理工場の経営者です。年齢は28歳。その関係から郷の後見人のような立場になります。

第2話でその過去が郷の口から語られます。元は一流のレーサーでしたが、5年前のレースでゴールを目前にスピンして脚を負傷し、脚が不自由になったため、レーサーを引退しました。以後は後遺症のため松葉杖をつくようになり、職も技術者に転向しました。第1話でオリジナルのレーシングマシン、流星号を郷と一緒に開発していましたが、郷が死んだため、手向けとして燃やしました。第2話最後で郷が慢心から立ち直ったのを見届けた後、流星2号の開発を郷とともに行ないたいと加藤と郷に申し出、以後はMATが休みの時は郷とともに流星2号の開発を続けています。またMATからの依頼でマットビハイクルにスタピライザーを取り付け、改良を行なっていることが最後の登場となった第37話で語られました。

パイプを愛用していますが、第7話「怪獣レインボー作戦」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では油絵を描いています。なお、坂田健を演じた岸田森は蝶の採集を趣味にしていました。

郷には何度も助言を与えています。第2話、第5話、映像では省かれてしまいましたが第33話が印象的です。第6話では東京からの避難を拒否し、それが加藤隊長の心を動かしたのは先述しました。

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第37話でアキをさらおうとした車にひき殺されますが、第41話で声だけ「再登場」します。もっとも岸田森の声ではなく、阪脩が担当していました。

坂田アキ

坂田アキは健の妹で次郎の姉です。年齢は18歳。健とは10歳離れていたんですね。本放送当時はこれくらい年の離れた兄弟は普通にいました。これも太平洋戦争の影響だったのでしょう。

郷とは周囲も公認する恋人同士で衣料品店に勤める姿が劇中では描かれています。第4話で丘に嫉妬することは先述しましたが、第16話「大怪鳥テロチルスの謎」第17話「怪鳥テロチルス 東京大空爆」(脚本:上原正三、監督:山際永三、特殊技術:高野宏一)では友人だった小野由起子(服部妙子)と郷との仲を疑う場面もあります。結局は誤解だったと知りますが。

第26話「怪奇! 殺人甲虫事件」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では郷とデートに出かけますが、郷からもらった口紅が宇宙甲虫ノコギリンの好物だったため、坂田家にノコギリンが現れるという受難に遭います。第5話と第6話の前後編では郷の服を買いに出かけますが、その際、ツインテールの卵が孵化した時の地下街破壊に巻き込まれ、重傷を負うという受難に遭います。皮肉にも、郷へのプレゼントを買いに行くと受難に巻き込まれてしまうのです。

そして第27話「この一発で地獄へ行け!」(脚本:市川森一、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)ではプロボクサーの東三郎(山波ひろし)から片想いされますが、アキは気づきません。東は郷からウルトラキックを伝授されます。そして勇気を振り絞ってアキに自分の試合のチケットを渡しましたが、郷がアキの恋人であることを知ってしまいます。そして観に行ったアキの目の前で、恋敵である郷から教わったウルトラキックを使わずに、敗北。夢破れて故郷へ帰る東は郷に「勝つだけが意地じゃないだろう。意地で敗けることだってあるさ。」と言い、去ります。因みに郷は東の故郷の松本で東の母と会っており、ウルトラマンは松本で怪獣グロッケンをウルトラキックで倒しています。東は郷へ母を助けてくれた礼も言っています。

さて第27話の登場を最後に、坂田アキは画面に登場しなくなってしまいました。これは榊原るみが「気になる嫁さん」のヒロインに起用されたため出られなくなったという、スケジュールの都合だと言うのは先述しました。第33話のシナリオ「キミがめざす遠い星」と第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)の準備稿に登場していたのは先述しましたが、さらには第30話「呪いの骨神 オクスター」(脚本:石堂淑朗、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)の脚本にも登場していました。脚本ではアキが健と次郎を心配し、MATの制服を着てMATのメンバーと一緒に現地へ飛ぶことになっていました。橋本洋二は「いつの間にかもう出なくなっているとか、海外に行きましたみたいな展開は止めようと思っていました。」と白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しており、ギリギリまでスケジュール調整が続けられていた模様です。しかし、ついにスケジュール調整がつかないことになったため、「逆にそれをどういう風にきっちり活かせるかと考えた末に、死なせることになったと思うんですよ。」と橋本は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しています。

上正は気が優しいから最初は殺せなかったんだと思います。書く時から殺さなきゃいけないとは僕は言わなかったと思いますが、俳優のスケジュール合わせにこっちが負けちゃいけないとは言いました。変わるんなら変わるでやっぱり劇的にして、その印象みたいなものを観てる人に残さなきゃいけないと言ったと思います。役者だって印象に残る芝居があった方がいいだろうと思ったし。でも、大体僕が殺したってことになっちゃうんですよね(笑)。

そのため、第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)でアキは死ぬことになったのです。郷の時計のバンドが壊れているのに気がついたアキは買い物に出かけますが、ナックル星人に襲われ、車でひきづられ、搬送先の病院で絶命してしまいます。その衝撃は郷秀樹、ウルトラマン、そして視聴者に大きな衝撃を与えました。橋本も上原も神経質になっていたそうですが、坂田健まで殺してしまった展開には驚きを隠せず、こう白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しています。

(岸田)森ちゃんまで殺しちゃったのはちょとやり過ぎかなと思ったんですが、彼自身もそろそろ、坂田健としての役割はもう大体終わったという感じではあったんですよ。作家(シナリオライター)にしても、怪獣ものにあそこの家庭を出すっていうのが、かなり難儀な作業だったと思うんですね。第一森ちゃんの場合、顔見せみたいな芝居では書けませんからね。ですから結果的に坂田家をなくすことで、みんな気楽に書けるようになったと思うんです。僕としてもシリーズにひと区切り付いたという感じはありましたから。

こうして坂田次郎は天涯孤独の身となってしまったのでした。

坂田次郎

最後に坂田次郎について書きましょう。設定は11歳。郷を兄のように慕っていますが、アキを郷絡みでからかう場面も見られます。MATに憧れています。第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(脚本:上原正三、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)では怪獣サータンに襲われて重傷を負い、目の前でMATが敗れたのを見てさらにショックを受けますが、坂田が弱気になった郷にハッパをかけたのは先述しました。

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第29話「次郎くん 怪獣に乗る」(脚本:田口成光、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)では怪獣ヤドカリンが巣にしてしまったMATの宇宙ステーションに閉じ込められるという受難に遭います。この話は東宝チャンピオン祭りでも上映されましたが、佳作だったと思います。

第30話「呪いの骨神 オクスター」(脚本:石堂淑朗、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)では兄の健と一緒に山登りに出かけますが、そこで怪獣オクスターと遭遇してしまいます。

最大の受難は第37話で兄と姉が死んでしまったことです。以後は郷に引き取られ、郷が去った後は村野ルミ子と一緒に暮らしたようです。

おわりに

この記事では坂田兄妹について取り上げました。こうしてみると、坂田兄妹を一番うまく使いこなしていたのは上原正三だったと改めて思いましたが、市川森一が投じた変化球もかなりの毒、いや、切れ味だったと思います。市川森一ホームドラマの要素を嫌ったのは先述しましたが、それが理由で「ウルトラマンA」では当初、坂田兄妹のような擬似家族は設定されませんでした。しかし、市川が一時降板した時に梅津姉弟が一時的にレギュラーになり、「ウルトラマンタロウ」では白鳥家、「ウルトラマンレオ」では梅田兄妹が登場します。市川森一がこれを嫌ったのは当然ですが、皮肉なことに上原正三ウルトラマンシリーズへ参加する意義を見失う要因にもなったような気もします。これについては後で書くかもしれません。

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