ウルトラ5つの誓い

はじめに

この記事では第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)を取り上げます。

第33話「怪獣使いと少年

第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)が問題作だった事は先述しました。橋本洋二は脚本「キミがめざす遠い星」の内容を事前に知っていました。その上で第33話「怪獣使いと少年」の初号試写を見ました。しかし、その出来は東條昭平の暴走のため、放送できる内容にはなっていませんでした。そのため、橋本は作り直さないと受け取れないと円谷プロに伝えました。こうしてパン屋のシーンが追加撮影されたり、金山十郎の死の場面が撮り直されるなどの修正が行なわれ、第33話「怪獣使いと少年」が放送されたのです。

ですが、橋本洋二の尽力にも関わらず、第33話「怪獣使いと少年」はTBS局内で問題になりました。そのため、監督の東條昭平は助監督に降格となりました。さらに脚本を書いた上原正三も番組を離れざるを得なくなったのです。

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第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」第38話「ウルトラの星 光る時」

とは言うものの、第3クール節目の脚本を作ることは決まっていました。最初、上原はマルチ星人の奸計にはまって敗れたウルトラマン初代ウルトラマンウルトラセブンが救出する、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で「『セブン暗殺計画』に類似している」と評された内容の話を書いていました。決定稿がこの内容で書かれたのですが、この後、坂田アキを演じる榊原るみのスケジュール調整問題が浮上しました。そのため、坂田アキを退場させる必要があり、坂田健までも非業の最期を遂げる最終稿が書かれ、制作されました。そこまで先述しました。

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シルバー仮面

そして上原正三は「帰ってきたウルトラマン」から一旦離れることになりました。橋本洋二は上原に「シルバー仮面」の脚本執筆を行なわせています。市川森一も「シルバー仮面」の脚本執筆に参加。当初は佐々木守がメインでしたが、途中で佐々木守が抜け、以後は上原と市川が「シルバー仮面」の脚本の中心となりました。上原は「シルバー仮面」の最終話も書いています。市川森一は生前、講談社の「ウルトラマン大全集II」での橋本洋二と上原正三を交えた対談の中で、こう証言しています。

市川  「ウルトラマンA」は第一話を書かせてもらいましたけど、その時点でウルトラマンとしての表現のしかたは、僕の中で終焉が起こっていたんです。「ウルトラマンA」の前に、円谷プロの作品ではないけど「シルバー仮面」があったんです。その作品の企画にこめられた哀愁とメルヘンにほれこんだんです。あの世界は最終回がハッピーエンドじゃなくてもいいんですよ。あれは、ある巨大な正義が、ある家族(筆者注:春日兄妹)を追いつめていく話なんですよ。目に見えないものに追いつめられていく現代人の恐怖をひとつの家族におきかえて描いている。「シルバー仮面」で戦いつくしてしまったんです。その後で「ウルトラマンA」の第1話を書いたんですよ。

こうした状況で上原正三は「帰ってきたウルトラマン」を締めることになったわけです。

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第51話「ウルトラ5つの誓い」

話を「帰ってきたウルトラマン」に戻しましょう。と言うわけで第4クールでは上原正三は脚本を執筆しませんでした。ですが橋本洋二は上原正三に最終話を書かせることにしました。上原正三が第1話を書いて始めたドラマですから、最終話を書くのは上原正三しかいない、と言うのがその理由でしょう。後の「ウルトラマンA」でも橋本洋二は番組を降板した市川森一を呼び戻して最終話を書かせています。それについて、市川は嬉しかったと述懐しています。では上原はどうだったのでしょうか。

話の冒頭は海岸で行なわれている郷秀樹と村野ルミ子との祝言の場面です。三々九度の盃が出てくるので本当に日本式の祝言です。とそこへ着流の男(遠矢孝信)がやってきて、伊吹隊長に耳打ちします。するとMATのメンバーは着物を脱ぎ捨ててMATの制服姿になり、出動、バット星人登場…というところで場面が変わり、この場面はルミ子の夢だったことがわかります。さてこの話を初めて観たのはいつだったのかは明確には覚えておりませんが、私にはこの場面は上原正三の夢だったのではないかと思います。当初の予定通り、坂田アキが最後まで登場していれば、当然、郷とアキは結婚していたはずです。その場面も描かれたことでしょう。ですが、榊原るみのスケジュール調整問題で「坂田アキが死ぬ」ことになり、郷とアキの結婚を描くことは不可能になりました。第4クールで郷と村野ルミ子が恋仲だったかというと、そうではなかったような気がします。だから、この祝言の夢の場面は唐突に登場した感は否めません。

さてバット星人は郷を東亜スタジアムに呼び出しました。そして郷は坂田次郎と村野ルミ子を人質にしていることを知ります。そこへゼットンが登場し、郷はウルトラマンに変身しようとしますが、初代ウルトラマンに止められます。するとバット星人はウルトラ抹殺計画なるものを高らかに語り始めました。

ウルトラ抹殺計画とは、ゾフィ、初代ウルトラマンウルトラセブン、つまり裏切り者のウルトラ兄弟を皆殺しにする計画なのだ

なお、これが「ウルトラ兄弟」と言う言葉が初めて劇中に登場した場面です。このセリフだとウルトラマンが含まれていないようにも受け取れますねえ。

閑話休題。そしてバット星人とゼットンを相手に郷とMATは戦うことになりました。初戦でMATはゼットンと戦いましたが、郷が乗ったマットアロー1号は燃料タンクを破損しながら不時着に成功。しかしもう一機のマットアロー1号は墜落してしまいました。さてバット星人はゼットンとMATが戦っている間にMAT本部に侵入し、心臓部とも言える原子炉を破壊してしまいました。そのため、MAT本部の機能は麻痺し、MAT本部からマットアローやマットジャイロを出動させることはできなくなりました。その状況で郷は自分が不時着させたマットアロー1号を修理して出動することを伊吹に進言し、伊吹はそれを採用します。ですが燃料はマットアロー1号が10分しか飛行する分しか確保できませんでした。マットアロー1号に乗り込み、出撃しようとする郷を見ながら、岸田がこう言います。

あいつ、まるで死にに行くみたいだ。

伊吹も同じことを感じたに違いありません。

さてMATとバット星人およびゼットンとの戦いが始まりました。郷以外の隊員はマットビハイクルとマットジープ2台に分乗して出撃です。MATは坂田次郎と村野ルミ子の救出に成功。郷が乗ったマットアロー1号は墜落してしまいますが、爆発の中からウルトラマンが登場します。MATの援護もあり、ウルトラマンはバット星人をウルトラクロスで倒し、強敵(のはずです)ゼットンはウルトラサイクロンで空高く投げた後、スペシウム光線で倒しました。ウルトラマン初代ウルトラマンを倒したゼットンを倒したのです(と思いましょう)。

戦いが終わった後、MATのメンバーは郷が死んだと思い、海岸に十字架を立てて郷のヘルメットを被せた墓をたてて黙祷し、MATの再建を誓った後、去ります。しかし、村野ルミ子も坂田次郎も郷の死を信じることができませんでした。とそこへ郷がやってきました。郷はMATの制服を着ておらず、スーツを着ています。そして郷は「旅に出る」ことを告げます。

次郎「どこ行くの?」

郷秀樹「ふるさとだ。」

ここで言う「ふるさと」が郷秀樹のふるさとではなく、ウルトラマンのふるさとであることが重要です。郷の意識はウルトラマンと一体化していたのです。

郷秀樹「平和なふるさとを戦争に巻き込もうとしている奴がいる。だから手助けに行くんだ。」

上原正三はお国のために戦う精神をうたうつもりなどサラサラありません。郷は村野ルミ子に次郎を託しました。さらに次郎にこう言います。

郷「ウルトラ5つの誓いを言ってみろ。」

次郎「いやだ。」

郷「言いたくなければいい。だが次郎、大きくなったらMATに入れ。MATの隊員はみんな勇気ある立派な隊員達だ。嫌なもの、許せないものと戦える、勇気ある男になると。」

郷は村野ルミ子に星のペンダント(おそらく流星をイメージしているのでしょう)を渡した後、次郎に別れを告げ、ウルトラマンに変身します。空を飛ぶウルトラマン。すると次郎は走り、空に向かってウルトラ5つの誓いを叫びます。その内容は

一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬこと
一つ、天気のいい日に布団を干すこと
一つ、道を歩く時には車に気をつけること
一つ、他人の力を頼りにしないこと
一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと

そして空を飛ぶウルトラマンに向かって次郎はこう言います。

次郎「聞こえるかい、郷さん。」

このセリフが良いじゃないですか。余談ですが、ルミ子も次郎の後を追っています。こうして郷秀樹はウルトラマンとなって地球をさりました。最後はこのナレーションで締められます。

ナレーション「こうして、ウルトラマンは去って行った。しかし、太陽のように強くたくましかった郷の姿と心はこの少年と少女の心の中でいつまでも燃え続けることであろう。さようなら、郷秀樹。さようなら、ウルトラマン。」

橋本洋二の証言

橋本洋二は第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)について白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

最後は本多さんにもう一回来ていただいたんですが、「5つの誓い」というのは上正が考えてきたんだと思います。その頃になれば僕と彼はもう一心同体ですから、細かい内容まで打ち合わせをした覚えはないんですよ。だからこれは文字どおり上正の子供に対する5つのテーゼという風になるんだと思います。これを書いてきた時、上正はものすごく明るい顔をしてきましたよ。重い物が肩から降りたような感じでした(笑)。本当に彼は一所懸命やってくれました。

橋本は第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)の出来に満足していたのです。事実、この話は「帰ってきたウルトラマン」の最高視聴率29.5%を記録しています。

ゼットン、そしてホリゾンドの影

最高視聴率を記録した第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)でしたが、残念な場面があります。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

〜二代目ゼットン登場〜

河崎 初代と比べてブカブカしてますね。動きも荒っぽいし。

きくち 一応、初代ゼットンを改造強化したと言われてますが、もうちょっとうまく作って欲しかったですね。

これは皆がそう思いますよね。「ウルトラマン」の最終話を意識してゼットンを登場させたのでしょうが、バット星人も造形したので予算がそれなりだったのでしょう。さらには、これは私は初見では気がつきませんでしたが、こんな場面もありました。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

ウルトラマンゼットンを空中に放り投げるが、ホリゾンドに影がうつる〜

きくち 今のカット、ちょっと残念だなあ。せっかく最終回なのに。

河崎 ある意味、このシリーズを象徴してます。ボロが目立つが、心には残るという。

たしかに見返すとホリゾンド(壁)に影がうつっていました。円谷英二だったら撮り直しを命じたところでしょうが、円谷一はそうしなかったのです。河崎実が述べる通り、「帰ってきたウルトラマン」を象徴する場面だったと思います。

市川森一の感想

橋本洋二はあのように証言していましたが、生前、市川はこのように評しています。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から引用します。

上原正三がこれだけ『帰ってきたウルトラマン』を書いたというのは、上原正三は、同じ橋本プロデュースの中で『刑事くん』を拒否してきましたからね。その分だけ、『帰ってきたウルトラマン』に専念させられたんだと思います。「ウルトラの星光る時」、これが彼にとって事実上の最終回ですね。

後述しますが、市川森一上原正三の心境を見切っていたのかもしれません。

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さて市川は「ウルトラ5つの誓い」の「一つ、他人の力を頼りにしないこと」に噛み付きました。曰く、「人は一人で生きていけない」と。上原正三はウチナンチュとしてヤマトで生きていくことを心情にしていました。市川はその心情を理解していた上で噛み付いたのです。私は上原も市川もどちらもその通りだと思います。私は自分ができることはできる限り他人の力を頼りにせずに自分で行ない、自分でできないことは他人の力を借りることが大事なのだと思います。実際、市川が問題視した部分について、上原正三は白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原 沖縄が舞台の『無風地帯』を読み返してみるとね、その後の僕の作品の全てのキーワードが入っているんだよ。〝お前は一人で生きろ〟と、親父に言われるとかね。それがそのまま〝ウルトラ5つの誓い〟になっていくんだね。
僕の中には、自分一人で生きるというのがカセとしてあったんだね。そうじゃなかったら、今日まで生きていなかった気がする。

残念ながら『無風地帯』は未見ですが、市川が噛み付いた部分は上原自身の生き様だったのです。と同時に市川の生き様にも関わる内容だったのです。

上原正三の証言

では上原正三自身は第51話についてどう思っていたのか。白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原怪獣使いと少年」で、草鞋履かされて旅に出たんだけど(干されたという意味)、橋本さんから「メインライターの責任上、最終回だけは書け」って言われて書いたんだけどね、あれが局内で問題になって、色々ゴチャゴチャあって、その頃から、僕の中でウルトラマンはもう……というのはあったね。
橋本さんは、この後も『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』ってずっとやっていくでしょう。ところが僕の中には、草鞋を履かされたというのがトラウマのようになっているから、『ウルトラマンA』になってくるとよくわからなかった。だから『ウルトラマンA』で僕の作品は、ひじょうに曖昧模糊としたものばかりですよ。
具体的にいうと、『ウルトラマンA』は、市川森一がメインライターで、男女が合体して変身するんだけど、そこから僕の中のウルトラマンは混乱を始めるんだよ。合体はセレモニーとして考えればいいんだけれども、変身した後のウルトラマンは、両性なのかどうなのか? とかね。だから筆が鈍ったんだね。

なんと。上原正三はイヤイヤ最終話を書いたのです。そう言われてみると、第37話と第38話が持っていたようなテンションの高さはあの最終話からは感じられません。なお市川森一は「ウルトラマンA」を自分の意志で降板した後で最終話の執筆を依頼された時、うれしかった、と証言しています。ただ、自分が創造した世界とは変わってしまった話を締めくくることになったため、作中には様々な毒も込められています。市川はうれしかったと同時にイヤイヤ書いたのでしょう。閑話休題。さらに上原は白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原 この頃から、小学館がやたらに張り切ってきて、『ウルトラマンA』や『ウロトラマンタロウ』じゃ、ウルトラの父やら母やら出てきて、ウルトラのアレにはこういう兄弟がいるみたいなことをやられるとね。商業ベースに乗せられるんだったらもういいや、というのもあったね。だから『ウルトラマンタロウ』、僕は一本しか書いていないでしょう。
そうじゃなくて、僕は金城哲夫がやったウルトラマンに戻るべきだと思っていたんだけど、それは僕ら脚本家が発言する問題じゃないからね。それでも『ウルトラマンレオ』まで続いたから、それはそれで正解だったんだろうね。
そんな感じで、ウルトラマンにはあまり情熱を感じなくなってきた時、うまい具合に東映さんとか、フジテレビの別所(孝治)さんから声が掛かったんだね。それで『ロボット刑事』に行ったんだよ。何がよかったかというと、『ロボット刑事』という枠の中だったら、好きなものが書けたんです。〝あなたが書きたいものを書いて下さい〟とね。だから沖縄ロケやりたいな、というと〝書いてみて下さい〟みたいな感じだったね。

上原正三金城哲夫に対するコンプレックスは相当な物だと思いますが、メディアミックスにも反発していたのですね。実際、第4クールの第46話「この一撃に怒りをこめて」(脚本:田口成光、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)は小学館学年誌に掲載された漫画が元で制作された話なのだそうです。上原は「ウルトラマンA」も書きましたが、先述したように書く意義を見失ってしまい、途中で離脱しました。そして第51話の郷秀樹の如く、円谷プロを去り、東映作品などへ活躍の場を移したのです。

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おわりに

この記事では第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)について取り上げました。似たような場面、「宇宙円盤大戦争」や「秘密戦隊ゴレンジャー」最終話でも観られると思います。

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帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021」を作るため「帰ってきたウルトラマン」を見返す作業もこれで終わりにすることができました。円谷一や橋本洋二などのプロデューサー、上原正三市川森一などの脚本家、その他スタッフの皆さんに改めて感謝します。そして参考になる文献を書いてくださった、白石雅彦、荻野友大、きくち英一、河崎実などの諸先輩に感謝いたします。

題材については心残りがあります。山際永三や真船禎なども取り上げたかったのですが、断念しました。

記事を書くにあたってはできる限り一次資料に当たりました。引用された段階で記事を書いた人の意図が入ってしまうからです。ですが、私は「帰ってきたウルトラマン」のスタッフとお目にかかったことはあまりありませんし、お話しする機会も今は作れません。イベントで熊谷健にお目にかかっただけです。そのため、どうしても私の力が及ばないところはあったと思います。でも私は私のできる限りのことをしました。だから上原正三が「帰ってきたウルトラマン」に自信を持っていたように、私はこれで満足しています。

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