ウルトラ5つの誓い

はじめに

この記事では第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)を取り上げます。

第33話「怪獣使いと少年

第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)が問題作だった事は先述しました。橋本洋二は脚本「キミがめざす遠い星」の内容を事前に知っていました。その上で第33話「怪獣使いと少年」の初号試写を見ました。しかし、その出来は東條昭平の暴走のため、放送できる内容にはなっていませんでした。そのため、橋本は作り直さないと受け取れないと円谷プロに伝えました。こうしてパン屋のシーンが追加撮影されたり、金山十郎の死の場面が撮り直されるなどの修正が行なわれ、第33話「怪獣使いと少年」が放送されたのです。

ですが、橋本洋二の尽力にも関わらず、第33話「怪獣使いと少年」はTBS局内で問題になりました。そのため、監督の東條昭平は助監督に降格となりました。さらに脚本を書いた上原正三も番組を離れざるを得なくなったのです。

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第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」第38話「ウルトラの星 光る時」

とは言うものの、第3クール節目の脚本を作ることは決まっていました。最初、上原はマルチ星人の奸計にはまって敗れたウルトラマン初代ウルトラマンウルトラセブンが救出する、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で「『セブン暗殺計画』に類似している」と評された内容の話を書いていました。決定稿がこの内容で書かれたのですが、この後、坂田アキを演じる榊原るみのスケジュール調整問題が浮上しました。そのため、坂田アキを退場させる必要があり、坂田健までも非業の最期を遂げる最終稿が書かれ、制作されました。そこまで先述しました。

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シルバー仮面

そして上原正三は「帰ってきたウルトラマン」から一旦離れることになりました。橋本洋二は上原に「シルバー仮面」の脚本執筆を行なわせています。市川森一も「シルバー仮面」の脚本執筆に参加。当初は佐々木守がメインでしたが、途中で佐々木守が抜け、以後は上原と市川が「シルバー仮面」の脚本の中心となりました。上原は「シルバー仮面」の最終話も書いています。市川森一は生前、講談社の「ウルトラマン大全集II」での橋本洋二と上原正三を交えた対談の中で、こう証言しています。

市川  「ウルトラマンA」は第一話を書かせてもらいましたけど、その時点でウルトラマンとしての表現のしかたは、僕の中で終焉が起こっていたんです。「ウルトラマンA」の前に、円谷プロの作品ではないけど「シルバー仮面」があったんです。その作品の企画にこめられた哀愁とメルヘンにほれこんだんです。あの世界は最終回がハッピーエンドじゃなくてもいいんですよ。あれは、ある巨大な正義が、ある家族(筆者注:春日兄妹)を追いつめていく話なんですよ。目に見えないものに追いつめられていく現代人の恐怖をひとつの家族におきかえて描いている。「シルバー仮面」で戦いつくしてしまったんです。その後で「ウルトラマンA」の第1話を書いたんですよ。

こうした状況で上原正三は「帰ってきたウルトラマン」を締めることになったわけです。

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第51話「ウルトラ5つの誓い」

話を「帰ってきたウルトラマン」に戻しましょう。と言うわけで第4クールでは上原正三は脚本を執筆しませんでした。ですが橋本洋二は上原正三に最終話を書かせることにしました。上原正三が第1話を書いて始めたドラマですから、最終話を書くのは上原正三しかいない、と言うのがその理由でしょう。後の「ウルトラマンA」でも橋本洋二は番組を降板した市川森一を呼び戻して最終話を書かせています。それについて、市川は嬉しかったと述懐しています。では上原はどうだったのでしょうか。

話の冒頭は海岸で行なわれている郷秀樹と村野ルミ子との祝言の場面です。三々九度の盃が出てくるので本当に日本式の祝言です。とそこへ着流の男(遠矢孝信)がやってきて、伊吹隊長に耳打ちします。するとMATのメンバーは着物を脱ぎ捨ててMATの制服姿になり、出動、バット星人登場…というところで場面が変わり、この場面はルミ子の夢だったことがわかります。さてこの話を初めて観たのはいつだったのかは明確には覚えておりませんが、私にはこの場面は上原正三の夢だったのではないかと思います。当初の予定通り、坂田アキが最後まで登場していれば、当然、郷とアキは結婚していたはずです。その場面も描かれたことでしょう。ですが、榊原るみのスケジュール調整問題で「坂田アキが死ぬ」ことになり、郷とアキの結婚を描くことは不可能になりました。第4クールで郷と村野ルミ子が恋仲だったかというと、そうではなかったような気がします。だから、この祝言の夢の場面は唐突に登場した感は否めません。

さてバット星人は郷を東亜スタジアムに呼び出しました。そして郷は坂田次郎と村野ルミ子を人質にしていることを知ります。そこへゼットンが登場し、郷はウルトラマンに変身しようとしますが、初代ウルトラマンに止められます。するとバット星人はウルトラ抹殺計画なるものを高らかに語り始めました。

ウルトラ抹殺計画とは、ゾフィ、初代ウルトラマンウルトラセブン、つまり裏切り者のウルトラ兄弟を皆殺しにする計画なのだ

なお、これが「ウルトラ兄弟」と言う言葉が初めて劇中に登場した場面です。このセリフだとウルトラマンが含まれていないようにも受け取れますねえ。

閑話休題。そしてバット星人とゼットンを相手に郷とMATは戦うことになりました。初戦でMATはゼットンと戦いましたが、郷が乗ったマットアロー1号は燃料タンクを破損しながら不時着に成功。しかしもう一機のマットアロー1号は墜落してしまいました。さてバット星人はゼットンとMATが戦っている間にMAT本部に侵入し、心臓部とも言える原子炉を破壊してしまいました。そのため、MAT本部の機能は麻痺し、MAT本部からマットアローやマットジャイロを出動させることはできなくなりました。その状況で郷は自分が不時着させたマットアロー1号を修理して出動することを伊吹に進言し、伊吹はそれを採用します。ですが燃料はマットアロー1号が10分しか飛行する分しか確保できませんでした。マットアロー1号に乗り込み、出撃しようとする郷を見ながら、岸田がこう言います。

あいつ、まるで死にに行くみたいだ。

伊吹も同じことを感じたに違いありません。

さてMATとバット星人およびゼットンとの戦いが始まりました。郷以外の隊員はマットビハイクルとマットジープ2台に分乗して出撃です。MATは坂田次郎と村野ルミ子の救出に成功。郷が乗ったマットアロー1号は墜落してしまいますが、爆発の中からウルトラマンが登場します。MATの援護もあり、ウルトラマンはバット星人をウルトラクロスで倒し、強敵(のはずです)ゼットンはウルトラサイクロンで空高く投げた後、スペシウム光線で倒しました。ウルトラマン初代ウルトラマンを倒したゼットンを倒したのです(と思いましょう)。

戦いが終わった後、MATのメンバーは郷が死んだと思い、海岸に十字架を立てて郷のヘルメットを被せた墓をたてて黙祷し、MATの再建を誓った後、去ります。しかし、村野ルミ子も坂田次郎も郷の死を信じることができませんでした。とそこへ郷がやってきました。郷はMATの制服を着ておらず、スーツを着ています。そして郷は「旅に出る」ことを告げます。

次郎「どこ行くの?」

郷秀樹「ふるさとだ。」

ここで言う「ふるさと」が郷秀樹のふるさとではなく、ウルトラマンのふるさとであることが重要です。郷の意識はウルトラマンと一体化していたのです。

郷秀樹「平和なふるさとを戦争に巻き込もうとしている奴がいる。だから手助けに行くんだ。」

上原正三はお国のために戦う精神をうたうつもりなどサラサラありません。郷は村野ルミ子に次郎を託しました。さらに次郎にこう言います。

郷「ウルトラ5つの誓いを言ってみろ。」

次郎「いやだ。」

郷「言いたくなければいい。だが次郎、大きくなったらMATに入れ。MATの隊員はみんな勇気ある立派な隊員達だ。嫌なもの、許せないものと戦える、勇気ある男になると。」

郷は村野ルミ子に星のペンダント(おそらく流星をイメージしているのでしょう)を渡した後、次郎に別れを告げ、ウルトラマンに変身します。空を飛ぶウルトラマン。すると次郎は走り、空に向かってウルトラ5つの誓いを叫びます。その内容は

一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬこと
一つ、天気のいい日に布団を干すこと
一つ、道を歩く時には車に気をつけること
一つ、他人の力を頼りにしないこと
一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと

そして空を飛ぶウルトラマンに向かって次郎はこう言います。

次郎「聞こえるかい、郷さん。」

このセリフが良いじゃないですか。余談ですが、ルミ子も次郎の後を追っています。こうして郷秀樹はウルトラマンとなって地球をさりました。最後はこのナレーションで締められます。

ナレーション「こうして、ウルトラマンは去って行った。しかし、太陽のように強くたくましかった郷の姿と心はこの少年と少女の心の中でいつまでも燃え続けることであろう。さようなら、郷秀樹。さようなら、ウルトラマン。」

橋本洋二の証言

橋本洋二は第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)について白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

最後は本多さんにもう一回来ていただいたんですが、「5つの誓い」というのは上正が考えてきたんだと思います。その頃になれば僕と彼はもう一心同体ですから、細かい内容まで打ち合わせをした覚えはないんですよ。だからこれは文字どおり上正の子供に対する5つのテーゼという風になるんだと思います。これを書いてきた時、上正はものすごく明るい顔をしてきましたよ。重い物が肩から降りたような感じでした(笑)。本当に彼は一所懸命やってくれました。

橋本は第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)の出来に満足していたのです。事実、この話は「帰ってきたウルトラマン」の最高視聴率29.5%を記録しています。

ゼットン、そしてホリゾンドの影

最高視聴率を記録した第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)でしたが、残念な場面があります。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

〜二代目ゼットン登場〜

河崎 初代と比べてブカブカしてますね。動きも荒っぽいし。

きくち 一応、初代ゼットンを改造強化したと言われてますが、もうちょっとうまく作って欲しかったですね。

これは皆がそう思いますよね。「ウルトラマン」の最終話を意識してゼットンを登場させたのでしょうが、バット星人も造形したので予算がそれなりだったのでしょう。さらには、これは私は初見では気がつきませんでしたが、こんな場面もありました。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

ウルトラマンゼットンを空中に放り投げるが、ホリゾンドに影がうつる〜

きくち 今のカット、ちょっと残念だなあ。せっかく最終回なのに。

河崎 ある意味、このシリーズを象徴してます。ボロが目立つが、心には残るという。

たしかに見返すとホリゾンド(壁)に影がうつっていました。円谷英二だったら撮り直しを命じたところでしょうが、円谷一はそうしなかったのです。河崎実が述べる通り、「帰ってきたウルトラマン」を象徴する場面だったと思います。

市川森一の感想

橋本洋二はあのように証言していましたが、生前、市川はこのように評しています。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から引用します。

上原正三がこれだけ『帰ってきたウルトラマン』を書いたというのは、上原正三は、同じ橋本プロデュースの中で『刑事くん』を拒否してきましたからね。その分だけ、『帰ってきたウルトラマン』に専念させられたんだと思います。「ウルトラの星光る時」、これが彼にとって事実上の最終回ですね。

後述しますが、市川森一上原正三の心境を見切っていたのかもしれません。

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さて市川は「ウルトラ5つの誓い」の「一つ、他人の力を頼りにしないこと」に噛み付きました。曰く、「人は一人で生きていけない」と。上原正三はウチナンチュとしてヤマトで生きていくことを心情にしていました。市川はその心情を理解していた上で噛み付いたのです。私は上原も市川もどちらもその通りだと思います。私は自分ができることはできる限り他人の力を頼りにせずに自分で行ない、自分でできないことは他人の力を借りることが大事なのだと思います。実際、市川が問題視した部分について、上原正三は白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原 沖縄が舞台の『無風地帯』を読み返してみるとね、その後の僕の作品の全てのキーワードが入っているんだよ。〝お前は一人で生きろ〟と、親父に言われるとかね。それがそのまま〝ウルトラ5つの誓い〟になっていくんだね。
僕の中には、自分一人で生きるというのがカセとしてあったんだね。そうじゃなかったら、今日まで生きていなかった気がする。

残念ながら『無風地帯』は未見ですが、市川が噛み付いた部分は上原自身の生き様だったのです。と同時に市川の生き様にも関わる内容だったのです。

上原正三の証言

では上原正三自身は第51話についてどう思っていたのか。白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原怪獣使いと少年」で、草鞋履かされて旅に出たんだけど(干されたという意味)、橋本さんから「メインライターの責任上、最終回だけは書け」って言われて書いたんだけどね、あれが局内で問題になって、色々ゴチャゴチャあって、その頃から、僕の中でウルトラマンはもう……というのはあったね。
橋本さんは、この後も『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』ってずっとやっていくでしょう。ところが僕の中には、草鞋を履かされたというのがトラウマのようになっているから、『ウルトラマンA』になってくるとよくわからなかった。だから『ウルトラマンA』で僕の作品は、ひじょうに曖昧模糊としたものばかりですよ。
具体的にいうと、『ウルトラマンA』は、市川森一がメインライターで、男女が合体して変身するんだけど、そこから僕の中のウルトラマンは混乱を始めるんだよ。合体はセレモニーとして考えればいいんだけれども、変身した後のウルトラマンは、両性なのかどうなのか? とかね。だから筆が鈍ったんだね。

なんと。上原正三はイヤイヤ最終話を書いたのです。そう言われてみると、第37話と第38話が持っていたようなテンションの高さはあの最終話からは感じられません。なお市川森一は「ウルトラマンA」を自分の意志で降板した後で最終話の執筆を依頼された時、うれしかった、と証言しています。ただ、自分が創造した世界とは変わってしまった話を締めくくることになったため、作中には様々な毒も込められています。市川はうれしかったと同時にイヤイヤ書いたのでしょう。閑話休題。さらに上原は白石雅彦著『「帰ってきたウルトラマン」の復活』で、こう証言しています。

上原 この頃から、小学館がやたらに張り切ってきて、『ウルトラマンA』や『ウロトラマンタロウ』じゃ、ウルトラの父やら母やら出てきて、ウルトラのアレにはこういう兄弟がいるみたいなことをやられるとね。商業ベースに乗せられるんだったらもういいや、というのもあったね。だから『ウルトラマンタロウ』、僕は一本しか書いていないでしょう。
そうじゃなくて、僕は金城哲夫がやったウルトラマンに戻るべきだと思っていたんだけど、それは僕ら脚本家が発言する問題じゃないからね。それでも『ウルトラマンレオ』まで続いたから、それはそれで正解だったんだろうね。
そんな感じで、ウルトラマンにはあまり情熱を感じなくなってきた時、うまい具合に東映さんとか、フジテレビの別所(孝治)さんから声が掛かったんだね。それで『ロボット刑事』に行ったんだよ。何がよかったかというと、『ロボット刑事』という枠の中だったら、好きなものが書けたんです。〝あなたが書きたいものを書いて下さい〟とね。だから沖縄ロケやりたいな、というと〝書いてみて下さい〟みたいな感じだったね。

上原正三金城哲夫に対するコンプレックスは相当な物だと思いますが、メディアミックスにも反発していたのですね。実際、第4クールの第46話「この一撃に怒りをこめて」(脚本:田口成光、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)は小学館学年誌に掲載された漫画が元で制作された話なのだそうです。上原は「ウルトラマンA」も書きましたが、先述したように書く意義を見失ってしまい、途中で離脱しました。そして第51話の郷秀樹の如く、円谷プロを去り、東映作品などへ活躍の場を移したのです。

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おわりに

この記事では第51話「ウルトラ5つの誓い」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:真野田陽一)について取り上げました。似たような場面、「宇宙円盤大戦争」や「秘密戦隊ゴレンジャー」最終話でも観られると思います。

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帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021」を作るため「帰ってきたウルトラマン」を見返す作業もこれで終わりにすることができました。円谷一や橋本洋二などのプロデューサー、上原正三市川森一などの脚本家、その他スタッフの皆さんに改めて感謝します。そして参考になる文献を書いてくださった、白石雅彦、荻野友大、きくち英一、河崎実などの諸先輩に感謝いたします。

題材については心残りがあります。山際永三や真船禎なども取り上げたかったのですが、断念しました。

記事を書くにあたってはできる限り一次資料に当たりました。引用された段階で記事を書いた人の意図が入ってしまうからです。ですが、私は「帰ってきたウルトラマン」のスタッフとお目にかかったことはあまりありませんし、お話しする機会も今は作れません。イベントで熊谷健にお目にかかっただけです。そのため、どうしても私の力が及ばないところはあったと思います。でも私は私のできる限りのことをしました。だから上原正三が「帰ってきたウルトラマン」に自信を持っていたように、私はこれで満足しています。

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ウルトラ兄弟

はじめに

この記事ではウルトラ兄弟について取り上げます。

メディアミックス

ウルトラ兄弟を語るにあたって避けて通れないのがメディアミックスだと思います。ウルトラブレスレットの各形態の名前が劇中では一切語られておらず、小学館学年誌で紹介されていたのは先述しました。

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大伴昌司

ウルトラマンシリーズのメディアミックスで一番有名なのが大伴昌司でしょう。彼は1936年2月3日生まれで東京都本郷区出身。慶應大学に進学しますが、短期間、放送研究会にも在籍していたそうです。放送研究会での先輩に後に『ウルトラマン』の仕事で再会する飯島敏宏と藤川桂介がいました。

さて卒業後に円谷プロに出入りし、第1期ウルトラシリーズに登場する怪獣や宇宙人を図解した怪獣図解を連載し、単行本『怪獣図鑑』にまとめられました。大伴は設定を考え、イラストは他の人が描いていました。『怪獣図鑑』は当時の皇太子徳仁親王が購入した本としても話題になりました。ウルトラマンが地上で戦える時間を3分間、宇宙恐竜ゼットンが放つ「一兆度の火球」などは大伴が考案して設定して後に公式設定となったものです。

しかし、怪獣図解は子供たちの夢をなくすと考える円谷一と1967年の『怪獣解剖図鑑』をめぐって怪獣観の相違で怒りを買い、以後、大伴は円谷プロを出入り禁止になってしまいました。

それでも1973年1月27日に急死するまで大伴は活動を続けました。ツインテールはエビの味がするというのも大伴が考えた設定で、劇中では一切語られていません。

小学館学年誌

大伴に代わって台頭する形になったのが小学館学年誌です。第1期ウルトラシリーズでは講談社が版権を持っていましたが、第2期ウルトラシリーズ以降は小学館が版権を持っていました。また当時、小学館は『小学1年生』『小学2年生』『小学3年生』『小学4年生』『小学5年生』『小学6年生』と小学校の各学年向けの雑誌を販売していました。今は休刊になっているものが多いですが。そこで「帰ってきたウルトラマン」を大々的に取り扱ったのです。

さてTBSと円谷プロ小学館の学習誌の編集部員を呼んで意見交換を行なっていました。小学館のメンバーは『帰ってきたウルトラマン』にちなんで〝MATチーム〟と呼ばれていました。その隊長が当時入社4年目でチームでは最年長だった上野明雄です。上野は『小学1年生』の編集者でした。

MATチームは独自に『帰ってきたウルトラマン』の調査や分析をしていました。その成果を、小学館がTBSと円谷プロを呼んで行なったことがありました。それが箱根合宿です。時期は夏頃だったようです。おそらく箱根で行なわれたのでしょう。人気のある怪獣の特徴として、立ち怪獣である、ゴジラ型、色が黒に近い色であること、牙ある、角があるなどをMATチームは発表したそうです。名前にキングがついているというのも挙げたそうです。上野はブラックキングはこの箱根合宿が元になって名付けられたと考えています。円谷プロの窓口は企画文芸室にいた田口成光が中心だったようです。

第18話「ウルトラセブン参上!」

さて第18話「ウルトラセブン参上!」(脚本:市川森一、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)が放送されました。これを当然、小学館学年誌は大々的に取り上げました。そういえば市川は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」と証言していました。

ウルトラセブンで殴り込みをかけたらどうか」とか、橋本さんにおだてられたりして、それで僕は「ホームドラマは書けませんよ、スポ根ものは嫌いですよ。それでいいんですね。」というようなことで入ったんだと思います。僕は、ウルトラマンは、よりサイエンティフィクションであるべきだと主張してきましたから、アメリカのテレビ映画みたいなタッチでやりたいというのはありました。多少人間ドラマを入れるにしろ、あまりベタベタしたタッチを入れるのは嫌だ。だから特に「ウルトラセブン参上!」は、怪獣が暴れるだけの話になっちゃったんじゃないでしょうか(笑)。

誰の発案なのかが私にははっきりわかりませんが、ウルトラセブン登場で小学館のMATチームが誌面を盛り上げたのは確かです。

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第38話「ウルトラの星 光る時」

そして第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)が制作され、初代ウルトラマンウルトラセブンが登場しました。この話は当初から初代ウルトラマンウルトラセブンの登場を想定して描かれていたのは先述しました。

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これによって小学館学年誌の誌面が盛り上がったのは間違いありません。そしてこのことがウルトラ兄弟の設定に繋がっていくことになったわけです。

おわりに

この記事ではウルトラ兄弟、と言うよりは「帰ってきたウルトラマン」でのメディアミックスについて取り上げました。メディアミックス自体は「仮面ライダー」と講談社との連動や後の「マジンガーZ」と講談社との連動が有名ですね。私は第2期ウルトラシリーズと第3期ウルトラシリーズの中間辺りの世代ですが、「ウルトラマンレオ」終了後も小学館学年誌ウルトラ兄弟のことが盛んに取り上げられ、小学館から単行本も色々出ていたことをよく覚えています。この功罪は色々とありますが、私には判断できる話ではありません。さて、このメディアミックスを上原正三がどう思っていたかについては後で触れましょう。

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ウルトラ怪獣 - 帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021 -

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に登場した怪獣について取り上げます。

怪獣の特徴

ウルトラマンの成長を描くという目的もあったと思いますが、「帰ってきたウルトラマン」に登場した怪獣は強敵が多かったという印象があります。地球の怪獣でもバリアをはるキングザウルス3世、津波を起こしたり竜巻を起こしたりするシーモンスとシーゴラスがいますし、第18話以降はベムスターなどの宇宙怪獣、第31話以降は宇宙人も登場します。特にシーモンスとシーゴラスは地球の自然災害そのものが相手ですから、これに立ち向かうのは並大抵の事では勝てません。何しろ円谷一が「会社を潰す気か!」と怒鳴り込んだくらい佐川哲夫が予算を使って映像化したのです(もっとも一部は東宝の映画からの流用だそうですが)。MATの援護がなければ追い払うことはできなかったでしょう。

ウルトラマン」でもウランを食べたり(ガブラなど)金を食べたり(ゴルドン)する怪獣が登場しましたが、「帰ってきたウルトラマン」ではプラスチックを食べる怪獣(ゴキネズラ)や電波を食べて発信する怪獣(ビーコン)が登場しました。マグネドンは地球の磁力をエネルギーにしていますし、プリズ魔は光を吸収してしまう怪獣です。どれも魅力あふれる怪獣です。

怪獣のデザイン

さて「帰ってきたウルトラマン」の怪獣をデザインしたのは次のとおり、複数名います。

初めは池谷仙克が担当していました。企画書の段階でアーストロンなどは出来上がっていました。さて池谷は第5話と第6話を観て、2体の怪獣(グドンツインテール)が両方とも鞭を使う怪獣だったので驚いたそうです。つまり脚本ができる前にデザインしたのです。

池谷は実相寺昭雄監督の「曼荼羅」撮影のためにシリーズを離脱。第13話以降は熊谷健がデザインを担当しました。初めはプロデューサー補ではなく、デザインを担当したのです。なお池谷は後に大木淳の頼みで第32話「落日の決闘」に登場するキングマイマイのデザインを担当しています。

米谷は第27話「この一発で地獄へ行け!」のグロンケンから本格的にデザインを行なうようになりました。「帰ってきたウルトラマン」のプロデューサーは当初は円谷一と斉藤進でしたが、円谷一が社長を務めながらプロデューサーを務めることが難しくなってきたため、熊谷健がプロデューサーの仕事を助けるようになりました。それも関係しての登板だと思います。第34話「許されざるいのち」では小林晋一郎が投稿したデザインを元に合成怪獣レオゴンのデザインを行なっています。小林晋一郎がデザインしたレオゴンは「ベムラーの手の部分を葉っぱにして全身を緑色にした感じ」だったのですが、米谷のデザインでは4本足の怪獣でした。

さて井口昭彦は第35話「残酷! 光怪獣プリズ魔」から怪獣デザインを担当しました。米谷もプリズ魔のデザインを手がけていたのは先述しました。

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さてゴキネズラは末安正博が、サータンは利光貞三がデザインを手がけています。末安正博は「ウルトラセブン」などでプロデューサーを務めた末安昌美の実弟であり、本職は円谷プロの営業担当だったそうです。本当に色々な人がデザインを手がけたのですね。

怪獣の造形

東宝のステージを借りるために東宝特美に特撮美術をお願いしたのもあって、当初は怪獣の造形も東宝の美術部が担当していました。しかし、ガッチリ作ってしまうのでコストが高くなった上に動きづらかったという問題もありました。そのため、出来上がったタッコング、ザザーン、アーストロンを開米プロが改修し、以後は開米プロがそのまま怪獣の造形も担当しました。斉藤進曰く「開米さんは予算の相談に応じた作りをしてくれました。」とのことです。まあ、それが良くも悪くも「帰ってきたウルトラマン」の怪獣の出来に繋がっているのでしょうね。予算が高ければ後のファイヤーマンなどの素晴らしい造形になるのですが、そうでなければそれなりになってしまうのは、最終話のゼットンを見ればよくわかりますよねえ。

なお、高山良策グドンツインテール、ステゴンの3体を担当していますが、同時期にピープロダクション制作の「宇宙猿人ゴリ」(→「スペクトルマン」)も担当していたので、この本数にとどまっています。またキングザウルス三世は円谷プロの造形スタッフが担当したそうです。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に登場した怪獣について取り上げました。

ウルトラブレスレット

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第18話「ウルトラセブン参上!」(脚本:市川森一、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)から登場したウルトラブレスレットを取り上げます。

登場の経緯

ウルトラブレスレットは第18話で宇宙怪獣ベムスターに敗れて太陽に飛んだウルトラマンウルトラセブンが授けた武器です。ウルトラセブンはこう言って渡しています。

お前にこれを授けよう。ウルトラブレスレットだ!! これさえ身につけておけば、いかなる宇宙怪獣とも互角に戦えるだろう。さあ地球に戻るのだウルトラマン!

この言葉が全てを物語っています。なおベムスターウルトラマンが初めて戦った宇宙怪獣でもあります。

さてウルトラブレスレットは番組強化策の一つです。プロデューサーの橋本洋二は、「苦心の末に怪獣に打ち勝つ」という本来のテーマから外れるので当初は躊躇していたそうですが、「ウルトラマンが弱すぎる」という意見から採用に踏み切りました。

普段はその名の通りブレスレットの形でウルトラマンの左手首に装着されています。これは市川森一が妻がブレスレットをしているのを見て思い付いたのだそうです。

使い方

使用時は左肘を曲げてブレスレットを示し、右手でこれを掴んで外す動作が続き、変形させたり直接投げ付けたりします。ただ、一度に複数の用途には使用できず、第20話「怪獣は宇宙の流れ星」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)ではウルトラマンがそのジレンマに苦しむ様子も描かれました。脚本は初参加の石堂淑朗で、この話でも石堂の反権力志向が発露していることがわかります。

と言うわけで使い方を列挙しましょう。万能武器なので多種多様な使い方がされています。ウルトラマン史上最大の武器と言っても過言ではありません。なお、形態の名前は劇中では一切呼ばれていません。ほとんどが小学館の学習誌などで紹介されたものです。挙げていくとキリがないので、代表的なものを紹介しましょう。

ウルトラスパーク

スティック状の武器で最も多用されました。ウルトラセブンからウルトラマンにウルトラブレスレットが授与された際は、この形態でした。白熱化して飛び、敵を切り裂きます。ウルトラセブンアイスラッガーと互角か、それ以上の威力とされます。手に持ってナイフとしても使えます。ビルガモ戦では、3つに分裂させたウルトラスパーク3段斬りを使用しました。また、ブレスレットがゼラン星人にコントロールされた時も、数発のウルトラスパークに分裂したことがあります。

ベムスターを倒したのもこの武器ですが、不思議なことに、私は第18話でウルトラマンスペシウム光線を吸収されてベムスターに敗退し、ウルトラブレスレットで切断して勝利するのを観ても、「なぜ八つ裂き光輪を使わなかったの?」とは思いませんでした。それはウルトラブレスレットが第18話でウルトラセブンから授けられる話だと知っていたこともあったのでしょうが、話の構成も巧かったからだと思います。

ウルトラランス

次に有名なのが、ウルトラスパークの尖った柄を伸ばした槍であるウルトラランスです。ただ使用されたのは第29話のヤドカリン戦のみ。そして遠矢孝信が中に入ったまま、ウルトラランスを突き刺しています。これについてきくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』できくちがこう証言しています。

河崎 人が入っているときに刺した?

きくち 刺さっているけど、人間は中に入ってる。脇の空いてるところを貫いているんです。

河崎 中に入ったままですか。スゴいな、タイミングがずれたら最後ですな。

この河崎の言葉を受けてか、遠矢孝信はこう証言しています。

ぼくが入ったまま槍を突き刺して、脇腹のあたりを通過するカットがありますが、あれはアクションやっている人なら、なんてことはないんです。

ウルトラクロス

柄の先端に十字架がついた槍で、ドラキュラスやバット星人に投擲し、突き倒しました。なので使用回数はウルトラランスよりも多いです。撮影用の小道具は後にレッドマンのレッドアローとして流用されました。

さて十字架というのは作劇上の意味がありました。ドラキュラスはドラキュラがモチーフの宇宙人でした。バット星人が登場したのは最終話で、この話で郷秀樹は「死んだ」とMATの面々に思い込まれ、墓まで作られています。まあ最終話は深読みし過ぎなのかもしれませんので、私見でしかありませんが。

ウルトラディフェンダー

これは盾で第40話「冬の怪奇シリーズ まぼろしの雪女」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:真野田陽一)でスノーゴンの冷凍ガスを吸収、反転させ、スノーゴンを倒しました。

ダムせき止め能力

第20話で使用した能力です。マグネドンの攻撃で穴が空いた熊沢ダムに投げ付け、水を堰き止めました。しかし、戦っている最中はウルトラブレスレットをウルトラマンが使うことができないため、ウルトラマンは何度かブレスレットを手元に戻して水が流れ出し、仕方なくまたウルトラマンがブレスレットをダムに投げると言うのが繰り返されました。これも脚本を書いた石堂淑朗の反権力志向の現れでしょう。

磁力封じ能力

これも第20話で使用した能力です。マグネドンの磁力に捕らえられたため、ブレスレットから黄色い渦巻状の光線を放ち、敵の磁力を無力化しました。

反重力光線

これもまた第20話で使用しました。マグネドンを宇宙へ運ぶため、ブレスレットから緑の渦巻状の光線を放ち、マグネドンを空中に浮かび上がらせてから、ウルトラリフティングで宇宙へ運びました。

ウルトラマンを再生させる能力

さてウルトラブレスレットはウルトラマンを再生させる能力を持っています。第21話「怪獣チャンネル」(脚本:市川森一、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)ではビーコンの攻撃を受けて倒れたウルトラマンに吸収した太陽光線を転換したエネルギーを与えて復活させました。そして第40話ではスノーゴンに凍らされた上にバラバラにされたウルトラマンを復活させています。石堂淑朗ウルトラマンをバラバラにしてしまったのです。

ゼラン星人

そのウルトラブレスレットを悪用したものがいます。それが第31話「悪魔と天使の間に....」(脚本:市川森一、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)に登場したゼラン星人です。ゼラン星人は囮怪獣プルーマをウルトラマンと戦わせます。プルーマにはスペシウム光線が効かず、ウルトラマンはウルトラブレスレットを使って倒しますが、その直後、ウルトラブレスレットはウルトラマンに襲い掛かります。ゼラン星人はウルトラブレスレットを特殊な装置で操ったのです。この作戦に自信があったのか、ゼラン星人は口が不自由な少年に化けて伊吹美奈子と一緒にMAT基地に入り、わざわざ郷秀樹にウルトラマンを倒すと予告までしています。実際、ゼラン星人に操られた時のウルトラブレスレットは強力な光線技などを繰り出しており、ウルトラマンがバリアで弾いたりする羽目に陥りました。伊吹竜隊長がゼラン星人の射殺に成功していなければウルトラマンはウルトラブレスレットで倒されていたに違いありません。市川森一ウルトラマンにウルトラブレスレットを授けましたが、授けられたウルトラブレスレットに裏切らせたのです。

おわりに

この記事ではウルトラブレスレットを取り上げました。上記の能力以外にも多様な能力が劇中では描かれています。まさに万能武器で魔法の道具のようです。橋本が躊躇したのもわかりますが、それでも「帰ってきたウルトラマン」の人間ドラマが描かれなくなったかというと、そうではなかったと私は思います。話の幅が広がったと思います。

さて「帰ってきたウルトラマン」の制作終了後、ウルトラブレスレットのプロップはきくち英一に記念として渡されたそうです。なので「ウルトラマンA」や「ウルトラマンタロウ」や「ウルトラマンレオ」に登場した時、左手首には別のものがはめられていますが、これはよく観ないとわからないでしょうね。私もきくち英一に制作終了後に渡されたと聞くまでは気がついていませんでした。

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坂田兄妹

はじめに

この記事では郷秀樹の家族とも言うべき存在だった坂田兄妹(坂田健、アキ、次郎)について取り上げます。

カドクラ牧場

さて「帰ってきたウルトラマン」の企画がある程度固まった後、上原正三が呼ばれたのは先述しました。

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この時点での企画書では主人公の名前はバン・ヒデキ(晩日出輝)25歳となっており、カドクラ牧場で働いていました。そしてカドクラ牧場の子どもたち、17歳のカオルと10歳のマサユキもバンを慕っていました。この企画書ではバンはMATに入隊すると同時にカドクラ牧場でも働くという、後の「ウルトラマン80」を思わせるような設定になっていました。またアーストロンは初期に登場しますが、完成作とは違って1回目の対戦では倒せず、アーストロンを倒すべくウルトラマンことバンは新たな必殺技を編み出すことを決意したと言う流れになっています。

このカドクラ牧場が坂田家の原型になったわけです。私は後に上原正三が書いた「宇宙円盤大戦争」を思い出します。余談ですが、「宇宙円盤大戦争」のラストでは牧野ひかるが宇門大介ことデューク・フリードとの別れを前に拗ねたり、宇宙へ去るため大空を飛ぶUFOロボ・ガッタイガーに向かって走りながら大介にひかるが叫ぶ場面も用意されています。「帰ってきたウルトラマン」の最終回を思い出してしまいます。

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坂田健

さて坂田兄妹の話に移りましょう。坂田健は坂田兄妹の長兄で、郷が働いていた坂田自動車修理工場の経営者です。年齢は28歳。その関係から郷の後見人のような立場になります。

第2話でその過去が郷の口から語られます。元は一流のレーサーでしたが、5年前のレースでゴールを目前にスピンして脚を負傷し、脚が不自由になったため、レーサーを引退しました。以後は後遺症のため松葉杖をつくようになり、職も技術者に転向しました。第1話でオリジナルのレーシングマシン、流星号を郷と一緒に開発していましたが、郷が死んだため、手向けとして燃やしました。第2話最後で郷が慢心から立ち直ったのを見届けた後、流星2号の開発を郷とともに行ないたいと加藤と郷に申し出、以後はMATが休みの時は郷とともに流星2号の開発を続けています。またMATからの依頼でマットビハイクルにスタピライザーを取り付け、改良を行なっていることが最後の登場となった第37話で語られました。

パイプを愛用していますが、第7話「怪獣レインボー作戦」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では油絵を描いています。なお、坂田健を演じた岸田森は蝶の採集を趣味にしていました。

郷には何度も助言を与えています。第2話、第5話、映像では省かれてしまいましたが第33話が印象的です。第6話では東京からの避難を拒否し、それが加藤隊長の心を動かしたのは先述しました。

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第37話でアキをさらおうとした車にひき殺されますが、第41話で声だけ「再登場」します。もっとも岸田森の声ではなく、阪脩が担当していました。

坂田アキ

坂田アキは健の妹で次郎の姉です。年齢は18歳。健とは10歳離れていたんですね。本放送当時はこれくらい年の離れた兄弟は普通にいました。これも太平洋戦争の影響だったのでしょう。

郷とは周囲も公認する恋人同士で衣料品店に勤める姿が劇中では描かれています。第4話で丘に嫉妬することは先述しましたが、第16話「大怪鳥テロチルスの謎」第17話「怪鳥テロチルス 東京大空爆」(脚本:上原正三、監督:山際永三、特殊技術:高野宏一)では友人だった小野由起子(服部妙子)と郷との仲を疑う場面もあります。結局は誤解だったと知りますが。

第26話「怪奇! 殺人甲虫事件」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では郷とデートに出かけますが、郷からもらった口紅が宇宙甲虫ノコギリンの好物だったため、坂田家にノコギリンが現れるという受難に遭います。第5話と第6話の前後編では郷の服を買いに出かけますが、その際、ツインテールの卵が孵化した時の地下街破壊に巻き込まれ、重傷を負うという受難に遭います。皮肉にも、郷へのプレゼントを買いに行くと受難に巻き込まれてしまうのです。

そして第27話「この一発で地獄へ行け!」(脚本:市川森一、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)ではプロボクサーの東三郎(山波ひろし)から片想いされますが、アキは気づきません。東は郷からウルトラキックを伝授されます。そして勇気を振り絞ってアキに自分の試合のチケットを渡しましたが、郷がアキの恋人であることを知ってしまいます。そして観に行ったアキの目の前で、恋敵である郷から教わったウルトラキックを使わずに、敗北。夢破れて故郷へ帰る東は郷に「勝つだけが意地じゃないだろう。意地で敗けることだってあるさ。」と言い、去ります。因みに郷は東の故郷の松本で東の母と会っており、ウルトラマンは松本で怪獣グロッケンをウルトラキックで倒しています。東は郷へ母を助けてくれた礼も言っています。

さて第27話の登場を最後に、坂田アキは画面に登場しなくなってしまいました。これは榊原るみが「気になる嫁さん」のヒロインに起用されたため出られなくなったという、スケジュールの都合だと言うのは先述しました。第33話のシナリオ「キミがめざす遠い星」と第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)の準備稿に登場していたのは先述しましたが、さらには第30話「呪いの骨神 オクスター」(脚本:石堂淑朗、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)の脚本にも登場していました。脚本ではアキが健と次郎を心配し、MATの制服を着てMATのメンバーと一緒に現地へ飛ぶことになっていました。橋本洋二は「いつの間にかもう出なくなっているとか、海外に行きましたみたいな展開は止めようと思っていました。」と白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しており、ギリギリまでスケジュール調整が続けられていた模様です。しかし、ついにスケジュール調整がつかないことになったため、「逆にそれをどういう風にきっちり活かせるかと考えた末に、死なせることになったと思うんですよ。」と橋本は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しています。

上正は気が優しいから最初は殺せなかったんだと思います。書く時から殺さなきゃいけないとは僕は言わなかったと思いますが、俳優のスケジュール合わせにこっちが負けちゃいけないとは言いました。変わるんなら変わるでやっぱり劇的にして、その印象みたいなものを観てる人に残さなきゃいけないと言ったと思います。役者だって印象に残る芝居があった方がいいだろうと思ったし。でも、大体僕が殺したってことになっちゃうんですよね(笑)。

そのため、第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)でアキは死ぬことになったのです。郷の時計のバンドが壊れているのに気がついたアキは買い物に出かけますが、ナックル星人に襲われ、車でひきづられ、搬送先の病院で絶命してしまいます。その衝撃は郷秀樹、ウルトラマン、そして視聴者に大きな衝撃を与えました。橋本も上原も神経質になっていたそうですが、坂田健まで殺してしまった展開には驚きを隠せず、こう白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で証言しています。

(岸田)森ちゃんまで殺しちゃったのはちょとやり過ぎかなと思ったんですが、彼自身もそろそろ、坂田健としての役割はもう大体終わったという感じではあったんですよ。作家(シナリオライター)にしても、怪獣ものにあそこの家庭を出すっていうのが、かなり難儀な作業だったと思うんですね。第一森ちゃんの場合、顔見せみたいな芝居では書けませんからね。ですから結果的に坂田家をなくすことで、みんな気楽に書けるようになったと思うんです。僕としてもシリーズにひと区切り付いたという感じはありましたから。

こうして坂田次郎は天涯孤独の身となってしまったのでした。

坂田次郎

最後に坂田次郎について書きましょう。設定は11歳。郷を兄のように慕っていますが、アキを郷絡みでからかう場面も見られます。MATに憧れています。第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(脚本:上原正三、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)では怪獣サータンに襲われて重傷を負い、目の前でMATが敗れたのを見てさらにショックを受けますが、坂田が弱気になった郷にハッパをかけたのは先述しました。

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第29話「次郎くん 怪獣に乗る」(脚本:田口成光、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)では怪獣ヤドカリンが巣にしてしまったMATの宇宙ステーションに閉じ込められるという受難に遭います。この話は東宝チャンピオン祭りでも上映されましたが、佳作だったと思います。

第30話「呪いの骨神 オクスター」(脚本:石堂淑朗、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)では兄の健と一緒に山登りに出かけますが、そこで怪獣オクスターと遭遇してしまいます。

最大の受難は第37話で兄と姉が死んでしまったことです。以後は郷に引き取られ、郷が去った後は村野ルミ子と一緒に暮らしたようです。

おわりに

この記事では坂田兄妹について取り上げました。こうしてみると、坂田兄妹を一番うまく使いこなしていたのは上原正三だったと改めて思いましたが、市川森一が投じた変化球もかなりの毒、いや、切れ味だったと思います。市川森一ホームドラマの要素を嫌ったのは先述しましたが、それが理由で「ウルトラマンA」では当初、坂田兄妹のような擬似家族は設定されませんでした。しかし、市川が一時降板した時に梅津姉弟が一時的にレギュラーになり、「ウルトラマンタロウ」では白鳥家、「ウルトラマンレオ」では梅田兄妹が登場します。市川森一がこれを嫌ったのは当然ですが、皮肉なことに上原正三ウルトラマンシリーズへ参加する意義を見失う要因にもなったような気もします。これについては後で書くかもしれません。

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MAT隊員

はじめに

この記事では郷が働くMATのメンバーについて取り上げます。

南猛

南猛(みなみたけし)は年齢25歳。長野県出身。柔道5段の腕前を持つ設定がありましたが、第2話「タッコング大逆襲」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では郷を投げても郷は空中で回転して立ってしまい、その後

南「凄まじい技だ。お前が受け止めてくれなかったら、首の骨を折るところだったよ。」

という技を受けて驚嘆します。これと前後して郷の慢心が生まれてしまいます。タッコングを郷が独断専行で攻撃してタッコングを手負のまま逃してしまい、マットサブ2号機に乗っていた岸田に責められますが

南「1号の艇長は俺だ。俺が撃てと言ったから郷は撃ったんだ。責任はすべて俺にある。」
郷「そんな。」
南「お前は黙ってろ。隊長、すべて私のミスです。処分は私だけに。」

と言って郷を庇います。まあ実際には加藤隊長が事情をすべて把握していたため、郷は処分を受けますが。という風に、郷には優しい人です。第9話「怪獣島SOS」(脚本:伊上勝、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)では郷の代わりに怪獣ソナーの受け取りを引き受けています。また第25話「ふるさと 地球を去る」(脚本:市川森一、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)では弱虫だった過去が語られているのは先述しました。

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なお恋人がいたようで、第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)ではこんなやり取りを岸田としています。

マットアロー1号に乗る南が欠伸するのを聞きながら
岸田「(マットジャイロから)南さん、デートもほどほどにした方がいいんじゃないですか。」
南「そうひがむなよ、モテない男、岸田さんよ。」
岸田「ちぇ。鏡を見ろってんだ。」

こうして観ると、上原正三は南の優しさしか描いていなかったことがわかります。なお団時朗によれば、南を演じた池田駿介は本当にああいう感じの人だったそうです。「キカイダー01」のイチローもああいう感じの人格でしたね。

岸田文夫

岸田文夫(きしだふみお)は年齢25歳。ヘルメットの番号は「3」。
射撃の名手で、真面目であり、プライドも高いです。第2話で南が郷に投げられたのを見た後、今度は射撃で勝負しようとしますが、彼も郷に敗れます。南は素直に郷を褒め称えますが、岸田は無言。これが後々、郷との対立を繰り返す伏線となります。上原正三の興味も岸田にあったのは明らかでしたし、他の脚本家も岸田に焦点を当てた脚本を書いています。

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他に兵器開発を行なっているという設定があり、第8話「怪獣時限爆弾」(脚本:田口成光、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)と第44話「星空に愛をこめて」(脚本:田口成光、監督:筧正典、真野田陽一)でそれが描かれています。第44話では広田あかね(ことケンタウルス星人)との悲恋も描かれました。

演じた西田健はその後は悪役が多くなりますが、西田は、岸田のイメージが強すぎたからではないかと語っています。

上野一平

上野一平(うえのいっぺい)は年齢23歳。郷秀樹とは同年だったのですね。ヘルメットの番号は「4」です。郷同様、未熟なところが見られ、第11話「毒ガス怪獣出現」(脚本:金城哲夫、監督:鍛冶昇、特殊技術:高野宏一)冒頭では、喉が渇いたことを理由にパトロールを途中で打ち切って基地に引き上げてしまい、岸田に叱られます。岸田に叱らせているのが金城哲夫の作劇のポイントですが、岸田でなくても叱りたくなりますよね。

郷とは対立(第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一))したり、説得を試みよう(第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:高野宏一))としたりします。郷とは同年ですから、基本的には郷とは仲良しだったのでしょうね。

話のコメディーリリーフの役割を(脚本家や監督に)振られることもあります。第32話「落日の決闘」(脚本:千束北男、監督・特殊技術:大木淳)での暴れぶりが印象的です。脚本を書いた千束北男はもちろん飯島敏宏。この頃は木下プロへ出向し、同社の立ち上げに関わっていたので演出をする時間が取れませんでした。なので脚本だけの参加に留まっています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』での大木淳の証言によれば、「脚本は飯島さんにお願いしたいと思いました。」とのことでした。さて飯島は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

いよいよクランクインするに当たって早速、脚本冒頭の野外オーケストラの演奏シーンが、出演者が多く予算が掛かり過ぎるというのでカットされましたが、これはこちらも計算済みで、ここはカットされても、その代わりストーリー上カットできない他のところで贅沢すればいいという、条件闘争の結果です(もっともそのシーンは、のちに私が脚本監督で撮らせて頂いた円谷プロの映画『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』でしっかり実現させていただき、特撮を担当した大木監督を呆れさせました)。

映像化に当たって面白いやりとりがあったわけですね。ただ大木淳の本編監督は飯島の脚本をただ映像にしているという印象が私にはあります。また飯島も「帰ってきたウルトラマン」の設定を把握しきれていないのは否めず、坂田次郎は「ウルトラマン」のホシノ少年のような役回りで登場します。

閑話休題。上野には孤児という設定があります。第5話で語られていますが、この設定が生きるのは第50話「地獄からの誘い」(脚本:斎藤正夫、監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)のみです。恩人だった小泉博士(邦創典)と彼の娘で上野とは幼馴染の小泉チドリ(八木孝子)が登場します。この話で上野は小泉博士を殺したという容疑を受けてしまい、苦しみます。

丘ユリ子

最後に丘ユリ子を取り上げましょう。年齢20歳。最年少だったんですね。

第2話では剣道四段だと上野の口から語られていますが、郷に小手を取られてしまいました。男まさりの腕前を持ちます。にも関わらず通信を主に担当しており、この設定が生きるのは第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)のみとなってしまいました。第38話では丘(と郷)以外のMAT隊員がナックル星人の罠にハマって操られてしまいますが、郷と丘の二人で4人全員を倒し、MAT隊員の洗脳を解くことに成功します。

第4話「必殺! 流星キック」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では国連病院へ向かうアキと次郎を送ってあげますが、直後にアキからは嫉妬されてしまいます。もっとも、丘は郷への好意はなかったようですがね。

さて石堂淑朗は丘をひどい目に合わせています。第36話「夜を蹴ちらせ」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:佐川和夫)ではドラキュラス操る鈴村みどり(戸部夕子)(の死体)に襲われますが、こんなのは序の口。第47話「狙われた女」(脚本:石堂淑朗、監督:佐伯孚治、特殊技術:真野田陽一)では怪獣フェミゴンに憑依されてしまいました。第48話では丘の母親(葦原邦子)が登場。他にニュースキャスターを務める父親が設定されていましたが、劇中での登場はありませんでした。第48話では「新宿の目」の前で丘がアンニュイな感じのポーズをとるのが印象に残ります。佐伯の演出はやはり冴えています。

髪型は初期は黒髪の長髪でしたが、第5話以降は茶色の短髪に変更されています。

おわりに

この記事ではMAT隊員について取り上げてみました。改めて思ったのは、上原正三や製作者は岸田に注目して作劇していたのだなあ、ということです。他の隊員も色々と設定されていますが、彼らに焦点を当てた話は岸田ほど多くはなかったと思います。そのことにこの記事を書きながら気がつきました。

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伊吹隊長

はじめに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた、伊吹竜を取り上げます。

設定と描かれたドラマ

伊吹竜の年齢は45歳と設定されています。ヘルメットの番号は加藤同様「1」です。第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)で前任の加藤の口から、伊吹は加藤のニューヨーク本部勤務時代の上官だったと語られています。ですが、着任直前に起きた事件でニューヨーク本部からの転勤が遅れてしまいます。ニューヨーク本部で伊吹が戦った相手は奇しくも日本の夢の島に現れた相手と同種でした。

さて郷にとっては厳しい上司であると同時に温情も見せる上司でもあります。第22話では郷が独断でゴミの山である埋立地の火災を鎮火したことを責めて郷を出動停止にします。実は伊吹はニューヨークで怪獣ゴキネズラ(の同種)と戦っており、ゴキネズラがプラスチックを食料にしていることなども熟知していたのです。郷が酸素を封じて消火した事により、地下にいたゴキネズラの酸素が封じられてしまい、ゴキネズラが地上に姿を表してしまいました。なお、郷も伊吹もMATのメンバーもゴミ処理場職員(うえずみのる)も、これに先立ってピエロ(三谷昇)がゴキネズラに襲われていたことなど知りません。で郷が「この怪獣は俺が殺る」と無断で出撃し、右腕を負傷しても、「階段から転げ落ちたんだろう。」「だからそれでいいじゃないか。私も気をつけるとしよう、MATの階段を駆け上がる時はな。」と言ってそれを咎めませんでした。これに先立ち、日本ではマットアロー2号(黄色い線が入った隊長機)で駆けつけ早々、ゴキネズラを翻弄し、右腕を怪我してウルトラブレスレットが使えず苦戦するウルトラマンを援護し、勝利をもたらす活躍を見せています。なお、これにより、ピエロが救われたことは誰も知りません。

伊吹美奈子

伊吹隊長を語る上で外せないのが第31話「悪魔と天使の間に....」(脚本:市川森一、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)と第43話「魔神 月に咆える」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:真野田陽一)に登場する娘の美奈子(大木智子)です。教会に通う美少女でまさに天使のような存在です。その純真無垢な心をゼラン星人に利用され、郷秀樹は窮地に陥ります。第43話では休暇を無理矢理取らされた伊吹と伊吹の妻葉子(本山可久子)と一緒に伊吹の妻の実家がある蓮根湖(御神渡りが劇中で登場することから諏訪湖がモデルでしょう)付近へ向かう車中で、将来はMATの隊員になる、とまるで坂田次郎のようなことを言っています。ただ、石堂が書いた美奈子は市川が書いた美奈子と微妙に性格が違うような気がします。なお余談ですが、第43話で伊吹が娘の話を聞く車中でカーラジオからペギー葉山が歌う「南国土佐を後にして」が流れ、伊吹が楽しそうに思わずリズムを取るシーンがあります。伊吹竜を演じる根上淳の妻はペギー葉山。明らかにスタッフは遊んでいますね。なおペギー葉山は後にウルトラの母の人間体である緑のおばさん(と東光太郎の母)を演じ、ウルトラの母の声も務めています。ファミリー劇場の「ウルトラ情報局」にペギー葉山が出演した時、半分冗談だったのでしょうが、私の方が偉いのよ、と言っていたのをよく覚えております。

さて、伊吹美奈子はあの第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)の冒頭に脚本では登場しています。郷がいなくなり、ウルトラマンがナックル星へ連れ去られたと嘆く次郎を慰めるのです。実は当初、あの第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)と第38話は元々は坂田アキと坂田健が死ぬ場面はありませんでした。決定稿が書かれた後、最終稿が書かれ、その時に坂田アキと坂田健が死ぬ場面が付け加えられたのです。そして決定稿では坂田次郎の登場は全くなく、あの前後編はウルトラマンが宇宙人、そしてその宇宙人の操る怪獣と戦って敗れ、それを初代ウルトラマンウルトラセブンが救うという話だったのです。宇宙人の名前もマルチ星人で、第37話前半でウルトラマンが戦うのはシーゴラス、グドンベムスターの3体だったのです。でも完成作を知っている私には、その筋書きだけではあそこまでの傑作にはならなかったのではないかと白石雅彦と荻野友大同様、思います。閑話休題。伊吹美奈子は決定稿にも登場していますが、その場面は最終稿とは違って最後に登場します。伊吹が隊員達を教会へ連れて、美奈子ら聖歌隊が歌うクリスマスキャロルを聴かせるのです。このことから、上原正三市川森一が書いた話をきちんと見ていたことがわかります。

第33話「怪獣使いと少年

これまた伊吹隊長を語る上で外せないのが第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)でしょう。この話で伊吹は托鉢僧の姿になります。上原正三が書いたシナリオでは普通に登場していたことは先述しましたし、郷がシナリオでは「私にはMATという家があり、隊長という父があります。」とは言っていなかったことも触れました。これは東條昭平が、伊吹は郷を見守っている、という設定にしたからです。身勝手な群衆に怒る郷を叱咤するために、東條昭平は伊吹をあの姿にしたのだそうです。

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おわりに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた伊吹竜を取り上げました。第4クールの伊吹は郷がウルトラマンであるのを知っていたのではないかという気が私にはしました。もっとも最終話での言動を見る限りではそうではなかったようですが。私には加藤隊長の方が郷の父親のような存在に見えますが、東條昭平の見方はそうではなかったようですね、と改めて思いました。

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