助け人走る

さてこの記事では必殺シリーズ第3弾の『助け人走る』を取り上げましょう。

前作の『必殺仕置人』は好評でしたが、「必殺仕置人殺人事件」が起きた関係で途中で路線変更を余儀なくされたり、放送延長が行なわれなかったりしました。そのため、このドラマでは人助けが中心となり、題名からも「必殺」の文字が抜かれました。ただ配役や人物構成を見るとわかりますが、やはり『必殺仕掛人』を参考にしています。

まず主人公の浪人は中山文十郎(田村高廣)。茶屋で働く妹のしの(佐野厚子)を溺愛していて、芸者のお吉(野川由美子)とも懇ろの剣の達人です。兜割という短刀と太刀を駆使して殺しを遂行するのが基本です。また太刀の代わりに「鉄心の太刀」と呼ばれる、鉄棒を使って相手の骨を砕くこともありました。表稼業は清兵衛(山村聰)が営むどぶさらいなども引き受ける「助け人」と呼ばれる日雇人足業ですが、裏の稼業も請け負っており、殺しも厭わない、一筋縄ではいかない人助けを相棒の辻平内(中谷一郎)とともに行なっていました。辻平内からは「文さん」と呼ばれています。

二人目の坊主頭の男が文十郎の相棒の辻平内で、この人は元武士。タバコが好きで女好きの坊主頭の男です。元武士なので太刀も使えますが、殺しの時の得物は針を仕込んだキセルです。元々は辻家に養子に迎えられたのですが、離別して辻家を出ていき、毎月「八の日」に妻の綾(小山明子)から養育費を取り立てられる日々を送っています。文十郎などからは「平内さん」と呼ばれています。また平内の父親は御蔵島島流しになった過去があり、それがらみで御蔵島へ渡ったこともありました。また第10話では変則的にキセルをシュノーケル代わりにして池の中で戦ったこともありました。

さて密偵は何人もいます。まず一人目は油紙の利吉(秋野太作)で、この人は元々は清兵衛配下の盗賊でした。文十郎の妹のしのとは恋仲なのですが、文十郎にはそのことを打ち明けられずにいます。この設定、おそらく前作の『必殺仕置人』第12話「女ひとりの地獄旅」での様子を観て取り入れられたのだと思います。終盤の第29話で出羽国本荘郡日吉村の出身であることが明かされます。

二人目の密偵は為吉(住吉正博)。この人は利吉の弟分で元盗賊。生真面目な性格で口も硬く、奉行所に捕まって石を何段も積まれても口を割らなかった過去があります。利吉と一緒に登場するのは少ないです。最後の登場となった第24話で妻子がいたことが明かされます。

三人目の密偵となったのが文十郎と懇ろだったお吉。助け人が裏の仕事も請け負っているのを知ってしまったのがきっかけで助け人の仲間になりました。野川由美子さんが演じていることもあって、鉄砲玉のおきん同様の姐御肌。文十郎にぞっこんでした。

頭領は清兵衛(山村聰)で、この人は元盗賊です。大工も営んでおり、利吉と為吉は盗賊時代からの子分でした。あまり殺しは行なわないのですがのみを武器にしています。

さて人助けをテーマにして作風が仕置人よりもマイルドになったかと思いきや、結構凶悪な話が多かったです。島抜けを手伝ったり(第4話)、素人の将棋指しを助けたり(第9話)、スリを助けたり(第16話)します。第12話「同心大疑惑」(脚本:安倍徹郎、監督:三隅研次)では江戸に残っていた中村主水も登場。この時は殺しは行ないませんでしたが、裏稼業のことを調べ上げ、「俺にも一枚のせろ」と言わせたりしています。私が一番最初に観たのは偶然にも第12話でした。なお中村主水を出したのは、仕置人のメンバーで一人残っていた、という理由だけだったようです。

視聴率も好調だったようで当初の予定の26本から10本延長されました。それに伴ってか、路線変更が行なわれました。

一つ目は三人目の殺し屋の島帰りの龍(宮内洋)の登場です。この人は当初は文十郎達と張り合っていたのですが、清兵衛の迫力に圧倒され、仲間入りしました。この人は寺の軒下に野宿し服も道着を着ている事が多かったです。殺し技は怪力を生かしたもので、プロレスのブレンバスターのような技で相手の頭を打ちつけて倒すことが多かったです。

二つ目は助け人の裏稼業が奉行所にバレてしまった事です。為吉がうっかり元文小判を使ったことから足がつき、為吉は奉行所に捕縛され、激しい拷問を受けた末に殉職。この事件を機に清兵衛は助け人の店を閉めて巡礼の旅に出ます。山村聰さんのスケジュールの問題もあったのでしょう。それでも残ったメンバーに文十郎の妹で利吉の恋人でもあったしのが仲間に入り、裏稼業が続けられていくのです。どちらかといえば明るめの作風だったのがこの話から暗めになり、アジトも芝居小屋の舞台の裏側に変更になります。奉行所の目を掻い潜って仕事を遂行するのが見どころになりました。

この作品は文化文政の頃の話になっていますが、第2話だけ変則的に高田馬場の仇討ちが行なわれた時代になっています。これは中山安兵衛(後の堀部安兵衛)を田村高廣の父親の阪東妻三郎が演じたフィルムを流用したことに伴うもの。ご丁寧にも文十郎が瓦版を観て「どこかで見た顔だなあ。」という楽屋落ちネタも挿入されています。もしかしたら中山文十郎もこのネタに絡めた命名だったかもしれません。

番組は上述したように好評で、次作の『暗闇仕留人』制作につながるのでした。