必殺からくり人 血風編

この記事では必殺シリーズ第9弾の『必殺からくり人 血風編』を取り上げましょう。

当初、『必殺からくり人』の次は念仏の鉄を再登場させた『新・必殺仕置人』となる予定でした。ところが、制作開始前にそうできない事態が発生しました。菅井きんさんが出演不能になったのです。この件については「中村せんの婿いびりが娘の縁談に影響する事を恐れた」という説が流れていますが、京都映画のプロデューサーだった櫻井洋三さんは『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で次のように証言しています。

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-続いて『必殺からくり人 血風編』(76〜77年)は山崎努さんと草笛光子さんの主演ですが、撮影や制作主任などのメインスタッフが従来のシリーズと異なります。菅井きんさんの出演トラブルで『新仕置人』が延期になって急きょ作られたという逸話や『からくり人』と同時に撮影していたという証言がありますが?

櫻井 たしか並行して作ってたんですよ。あれはね、菅井さんがゴネたんと違いますねん。病気になったんですわ。佐藤のまあちゃんから電話かかってきて「家内が病気になった。櫻井さん、ちょっと延ばしてくれるか?」と。山崎さんを使いたいというのはかねてから思ってたし、草笛さんも「また出たい」言うてたし、前もってローテーションに入ってましたな。急場しのぎという感じでもなかった気がする。あのときは別班立てて、1クールずつやったんかな。

と言うわけで制作されたようです。なお「佐藤のまあちゃん」と言うのは映画プロデューサーの佐藤正之さんのことで菅井さんの夫でした。別班立てたと言うのは『必殺からくり人』での早坂暁さんの遅筆ぶりもあったようです。『必殺からくり人』で緒形拳さんが最後まで登場しなかったのもスケジュールが逼迫したからだそうです。

別班の名残は脚本陣にも現れています。初めて書く脚本家が3人もいるのです。大和屋竺さんが1話分書いてますし、にっかつで映画を撮っていた神代辰巳さんが2話分書いていますし、最終話は工藤栄一監督が書いています。ただ神代さんも工藤さんも自分が書いた脚本を演出することまではしていません。

このあたりの事情については製作補を務めていた佐生哲雄さんが『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』で次のように証言しています。

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-続いて『必殺からくり人 血風編』(76〜77年)は山崎努さんと草笛光子さんの主演ですが、撮影や制作主任などのメインスタッフが従来のシリーズと異なります。菅井きんさんの出演トラブルで『新仕置人』が延期になって急きょ作られたという逸話や『からくり人』と同時に撮影していたという証言がありますが?

櫻井 たしか並行して作ってたんですよ。あれはね、菅井さんがゴネたんと違いますねん。病気になったんですわ。佐藤のまあちゃんから電話かかってきて「家内が病気になった。櫻井さん、ちょっと延ばしてくれるか?」と。山崎さんを使いたいというのはかねてから思ってたし、草笛さんも「また出たい」言うてたし、前もってローテーションに入ってましたな。急場しのぎという感じでもなかった気がする。あのときは別班立てて、1クールずつやったんかな。

なお音楽は主題歌も含めて前作の『必殺からくり人』のものがそのまま使われました。

さてドラマで描かれる時代はレギュラー放送では一番新しい時代で戊辰戦争で官軍が江戸に向かおうとしている最中。そして場所は品川です。『暗闇仕留人』の初期の頃のように、幕末という時代を反映した話が制作されました。

主役は土左ヱ門(山﨑努)でこの男の正体は薩摩藩が放った密偵です。表の顔を隠すために「からくり人」に合流したのです。殺しに使う武器は様々で匕首を使ったり、拳銃を使ったり、ライフルを使ったりしていました。本名は不明で薩摩藩の人からも名前を呼ばれません。

元締は旅籠「白濱屋」を営むおりく(草笛光子)で、彼女はこの作品では殺しは行ないません。土左ヱ門は普段はこの旅籠で下働きをしています。

二人目の殺し屋は直次郎(浜畑賢吉)で彼の表稼業は女衒です。女郎に育てられた過去があるので女郎には優しいのですが、更に仲間の女郎に性的虐待を受けたために女嫌いという一面がありました。殺し技は足の指で喉笛の骨を折るというものでした。最終回でおりくに想いを寄せていたことが遺書で明かされました。

三人目の殺し屋は新之介(ピーター)。寺の小姓をしていますが、素顔は河内弁で啖呵をきる男っぽい性格です。名前からも分かる通り、ピーターこと池畑慎之介そのまんまの設定でした。殺し技は含み針でした。

もう一人のからくり人の仲間がおいね(吉田日出子)です。第1話で土左ヱ門を威嚇した時は鎌を使っていましたが、殺しは行ないませんでした。第7話を最後に登場しなくなります。スケジュールの都合があったのかもしれません。

急きょ制作された感じの作品でしたが、山内久司プロデューサーは1997年12月に洋泉社から出版された山田誠二『必殺シリーズを創った男―カルト時代劇の仕掛人、大いに語る(映画秘宝SPECIAL)』の中でもう少し続けてもよかった旨の発言をしていたのでした。それだけ完成度が高かったのは確かでしょう。