必殺からくり人

この記事では必殺シリーズ第8弾の『必殺からくり人』を取り上げましょう。

流石に中村主水を主役の作品を三作連続で作成するのは無理があったのでしょう。山内久司プロデューサーは全編早坂暁さんの脚本でドラマを構築することに決めました。ただ早坂さんは名作が多い代わりに遅筆で有名な方でした。なので当初から14本と言う予定で執筆が依頼されました。ところが第1話の執筆から難航し、結果的に制作されたのは13本でそのうち3本(第6話と第9話が中村勝行で第10話が保利吉紀)が他の人の担当になりました。

この作品の舞台は天保の改革の頃。第1話で鼠小僧が引き回しの時に化粧をしていたこと引き回しの時に現代の銀座の歩行者天国が行なわれているところを通ったことを絡めていますが、冒頭で現代の様子が映ってから物語に入ると言うのがパターンになっていました。執筆に時間がかかったのは、こういう歴史を織り込む作業が難航したからなのでしょう。1999年に洋泉社から出版された、仲川利久と山田誠二 『秘録必殺シリーズの舞台裏 カルト時代劇に賭けた男たち』 に第1話を執筆した時の苦闘ぶりが描かれています。他にはシーボルト事件(第6話)、蛮社の獄(第12話)などが題材として盛り込まれています。

さて物語は『必殺必中仕事屋稼業』でも描かれた、弱い者の恨みを晴らす仕事を請け負うからくり人の物語です。夢屋時次郎(緒形拳)、仕掛の天平(森田健作)、花乃屋とんぼ(ジュディ・オング)、八尺の藤兵ヱ(芦屋雁之助)、八寸のへろ松(間寛平)、花乃屋仇吉(山田五十鈴)の6人は八丈島を島抜けした人達です。そして彼らは壺屋蘭兵衛(芦田伸介)と言う男の下でからくり人をしていました。しかし蘭兵衛は権力者と癒着する裏稼業「曇り一家」と敵対し、殺されてしまいます。そして仇吉が元締に就任し、弱い者の恨みを晴らすため「涙とだけ手を組みます」と宣言し、曇り(須賀不二男)との戦いを続けていくのです。

まず主人公は夢屋時次郎。安眠用の枕を船に売り歩く男で主に使う武器は枕を作るときに使うヘラ。これで相手の首を刺して殺します。ヘラを回す時の音は後に飾り職人の秀が簪を回す時の音に流用されました。補助武器として匕首も使用します。これはからくり人のほぼ全員がそうです。

仕掛の天平埋立地の掘立小屋に住む男で花火師です。殺しに使う武器は携帯型の花火で、相手の腹の中で爆発させて殺していました。花乃屋仇吉の娘のとんぼから好意を寄せられています。

花乃屋とんぼは殺しは行ないませんが、読唇術が得意です。普段は花乃屋の芸者です。天平同様、八丈島で生まれました。

八尺の藤兵ヱは怪力の男で普段は花乃屋の船頭を務め、花乃屋仇吉のボディーガードも兼ねています。

八寸のヘロ松は藤兵ヱの息子です。若干頭が弱いのですが、純朴な男です。第1話では壺屋蘭兵衛の営む壺屋に住み込んでいたのですが、第2話からは天平の家に転がり込みます。配役から明らかなようにギャグ要員でした。

そして二代目元締となったのが芸者の花乃屋仇吉です。演じる山田五十鈴が三味線が得意なこともあって、三味線のバチが武器でした。

第2話「津軽じょんがらに涙をどうぞ」(脚本;早坂暁、監督:蔵原惟繕)はギャラクシー賞を受賞するなど高質なドラマが展開されました。ただ視聴者に受けたかどうかは別の話で視聴率は高くはならなかったようです。これは『必殺仕業人』が殺伐とした物語だったことも影響していたのかもしれません。

早坂暁さんの遅筆は如何ともしがたく、第12話「鳩に豆鉄砲をどうぞ」(脚本;早坂暁、監督:蔵原惟繕)はなんと夢屋時次郎が爆死する場面のみが書かれた状態の原稿が現場に渡され、原稿が書き上がった順に制作されたそうです。確かにそういう作りをした匂いがする構成になっています。しかし、このドラマは名作との評判が高いです。夢屋時次郎がかつて愛した女とよく似た女性の病気を治してくれた小関三英を蛮社の獄で捕らえた鳥居耀蔵(岸田森)を暗殺しようとライフル銃を用意して上野寛永寺の近くの塔に潜り込むのですが、暗殺決行時、時次郎が撃った銃弾は飛び立った鳩に命中。やむなく時次郎が爆死すると言うのが大筋でした。

なお最終話は曇り一家とからくり人が全面戦争に突入し、藤兵ヱと天平が死亡。仇吉は曇りと相討ちになって死亡。とんぼとヘロ松は上方へ船で逃げ、後にとんぼがのちに清元の名手(山田五十鈴)となって明治初頭に活躍した事が語られて終わるのでした。

高質なドラマが展開された『必殺からくり人』の次は念仏の鉄が再登場する『新・必殺仕置人』となる予定でしたが、中村せん役の菅井きんさんが病気で出演不能になるなのどの事情が重なり、予定とは違った作品が制作されるのでした。