必殺仕置人

必殺シリーズ第2作目が必殺仕置人です。この番組は必殺仕掛人のヒットを受けて作られた作品ですが、池波正太郎が書いた小説からは離れて独自の世界が構築されました。これは池波正太郎の原作を使い切ってしまったというのも影響しているそうです。

企画に参加したのは山内久司プロデューサーの他は深作欣二監督、深作欣二監督との繋がりから紹介された脚本家の野上龍雄さんでした。そして必殺仕掛人も書いていた安倍徹郎さんと国弘威雄さんなども参加したようです。

主人公は念仏の鉄。坊主頭という風体は藤枝梅安を踏まえたものでしょう。藤枝梅安は鍼医者でしたが鉄は骨接師という設定です。坊主頭ということから元僧侶という設定が付け加えられたのでしょう。そこから発展して元僧侶だったが檀家の妻と不義密通して佐渡に送られて金山堀をし、独学で骨接の技術を覚えたという設定が生まれたようです。

二人目の殺し屋が棺桶の錠。野上龍雄さんの証言によれば、職業を棺桶屋にしたのは野上さんですが、琉球出身というのは深作欣二監督の発案だったそうです。ただ野上さん本人がおっしゃる通り、ドラマでは琉球出身という設定はあまり活きてはいなかったと私は思います。それは兎に角、琉球空手も取り入れた殺陣を沖雅也さん自ら演じる様子は見応えありました。

さて三人目の殺し屋が中村主水。そう、必殺仕置人では中村主水は主人公ではなく、念仏の鉄が主人公なのです。それが証拠に中村主水が殺しをする話は必殺仕置人では結構少なく、登場しても鉄と錠が仕置する話が多かったです。ただ中村主水の設定は全部野上龍雄さんが作ったと野上さんは証言しています。婿養子という設定もそうです。『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』に収録された証言を紹介しましょう。

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ぼくはどっちかと言うと無政府主義者なんだ。で、ちょうどそのころ、無政府主義の波がずっと下に下がっちゃっていた。だから、ぼくはゲリラをやりたかった。ぼくの発想では、中村主水無政府主義のゲリラなんだよ。

普段は一般人の中に混じっていて、しかも家では嫁と姑のケツにしかれて、姑には名前すら呼んでもらえない。「ムコ殿」としか呼ばれない。これはいいなと思った。普段はなるべく目立たなくしていて、なにかあったらガラッと変わる。それこそがゲリラだから。それを誇張していくと中村主水になる。「あいつは昼行灯だ」とバカにされながら、ゲリラであることを隠して暮らす存在。もともと、そういうのを作りたかったから、発想はどんどん浮かんだね。それで山内さんと深作とで、でっち上げたんだ。これなら池波さんも文句言わないんじゃないかと思った。そしたら、それが当たっちゃったんだね。

野上龍雄さんの中では中村主水はゲリラだったのです。後期必殺シリーズを野上さんが書かなくなってしまったのもそれが影響していたようで、内容が緩くなったからだと野上さんははっきり証言しています。

さて深作欣二監督は必殺仕置人の企画に参加していますが演出はしていません。それは必殺仕掛人第24話「士農工商大仕掛け」(脚本:池田雄一、監督:深作欣二)制作時に起こした騒動が元です。その事情を裏でホン直しをしたという松原佳成さんが証言しています。『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』に収録された証言を紹介しましょう。

あれは深作が「東映で顔なじみのライターを使いたい」という要求をして呼んだんです。役者もほとんど東映でやりたいと不思議なことを言うもんで雪代敬子をゲストで使ったと思います。そういうことがあって「今後は使えんな」と仲川氏が深作の起用を打ち切ったと言っておりました。わたしの存在は過去のいきさつがあるので深作には言わなかったそうです。

私は必殺仕掛人第24話「士農工商大仕掛け」を初めて観た時、この話だけ妙に浮いているなあと思ったのをよく覚えています。後に「キイハンター」を観て、ああなった理由がなんとなくわかりましたが。まあこの時の暴れぶりが元で深作欣二監督は外されたのは間違いありません。そして、その代わりかどうかまでは定かではありませんが、工藤栄一監督と蔵原惟繕監督が必殺仕置人から参加しています。

さて密偵役はスリの鉄砲玉のおきん(野川由美子)と瓦版屋のおひろめの半次(秋野太作)で二人とも必殺仕掛人からの続投です。殺し屋だけではなく、密偵の活躍も見所の一つでした。

準レギュラーで登場するのが闇の世界の大物ながら普段は牢の中に住んでいる天神の小六(高松英郎)で、この人は中村主水や念仏の鉄達を信じて仕置に協力したり仕置の頼み人になったり仕置の口利きをしたりしていました。

さて仕置人が行なうのは正確には殺しではなくて制裁です。初期の話にそれが顕著に現れていますが、殺すだけではなくて、晒し者にしたり、佐渡の金山に人足代わりに置いてきたりしたりもしました。後に山内久司プロデューサーが企画を立てた「ザ・ハングマン」は当時は現代版必殺仕事人と呼ばれたりしたものですが、実際は必殺仕置人を元に企画されたのです。

必殺仕置人も好評でしたが、必殺仕置人殺人事件と呼ばれる事件が第7話「閉じたまなこに深い渕」の放送直後に発生。その影響でTBSは番組を打ち切るように朝日放送に要請したそうですが、当時必殺シリーズのスポンサーだった中外製薬日本電装および、日本電装の親会社のトヨタ自動車がTBSに中止をしないように要望したことにより、中止は回避されました。しかし、事件の影響で必殺仕置人は中盤から路線変更を余儀なくされ、放送延長も行なわれず、次の作品からは「必殺」の文字を外さざるを得なくなったのでした。

さて私が最初に観たのは中1の時ですが、第5話「仏の首にナワかけろ」(脚本:山田隆之、監督:大熊邦也)が面白かったのをよく覚えています。あの話は大熊邦也監督の実体験(隣家が少しずつ塀の位置をずらして乗っ取る)が元になった話なのだそうです。

私の一番好きな殺し屋はやはり念仏の鉄ですが、新・必殺仕置人の頃に比べると若干おとなしめな感じだったのは確かです。でも楽しそうに仕置する姿は仕置人の頃も同様でした。