必殺からくり人 富嶽百景殺し旅

この記事では必殺シリーズ第13弾の『必殺からくり人 富嶽百景殺し旅』を取り上げましょう。

この作品、困ったことに新規に語る要素が特にありません…というのは言い過ぎかもしれませんが、山田五十鈴さんから電話がかかってきて「わたし出ますわよ」という感じで作られたのでしょう。さて第1話はやはり早坂暁さんの脚本。『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で櫻井洋三プロデューサーが早坂さんについて、次のように証言しています。

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櫻井 あの人は麻雀が好きで、撮影所に電話かけてきては「櫻井さん、メンバー集めて」。あの人は名前が暁ですから〝ギョウさん〟って呼んでましたが、まぁ二晩徹夜で麻雀打って、あとは寝る。「ギョウさん、いつ書くんだよ!」って言ったことありまっせ。ものすごい日数かかりましたな。しかし書くのはええホンで、唸りました。朝日放送のすぐ前に「ホテルプラザ」っちゅうのがあった、そっちでギョウさんが書いてたのは麻雀の仲間が見つけやすいから(笑)。

まあ真の理由は山内久司プロデューサー主導の人事だったからなのでしょう。さて今回は葛飾北斎(小沢栄太郎)の富嶽三十六景がモチーフです。頼み人は浮世絵の版元を表稼業とする西村永寿堂与八(岡田英次)となりました。この人は実在する人物だそうです。

さて第1話「江戸日本橋」はATG(日本アート・シアター・ギルド)の映画で活躍していた黒木和雄監督が演出しています。その理由について『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で櫻井洋三プロデューサーがこう証言しています。

櫻井 黒木さんはね、誰かを経由して「『必殺』を撮らしてほしい」と、あの人のほうから申し込んできたんです。でも、ちょっと合わんかった。京都映画というより、時代劇と合わんかったね。わりあいに論理的な人やから。

と証言しています。実際に制作に携わった照明の林利夫さん、録音の中路豊隆さん、演出部の都築一興さんも次のように証言していますが、やはりご自身、満足行かなかったようです。

「よーい、ハイ、スタート!」って2回声かける人やねん、黒木さん。ちょっと難しいような社会派のシャシン撮らはる人や。これは技師やりましたけど、やっぱり現場でも〝重い〟感じがするねん。あの話は小沢栄太郎さんが、ごっつい印象に残ってる。ボソボソっとセリフしゃべるだけで、なんともいえん味のあるええ芝居してたんや。」
中路 吉田日出子と親子の役でな。「おとっつぁん、行くよ」って。
都築 ATGの『飛べない沈黙』(66年)とか学生時代に見てたし、現場は楽しみにしてたんですが、ご自身としても満足のいく作品にならなかった。そのときの黒木さんの言葉でよく覚えてるのが、「日本には90から100のプロダクションがある」と。いろんな会社があるから、どこかで失敗しても次がある。「だから自分のやりたいことをやれ」という意味やと思うんだけど、わたしも京都映画を離れて大阪で仕事をするようになったから、印象に残りましたね。 

さてからくり人のメンバーは基本的には『新・必殺からくり人』の泣き節お艶一座が出雲のお艶一座に変わったという設定があるようですが、『新・必殺からくり人』とは違って殺しを行なうのは正式にはお艶(山田五十鈴)と宇蔵(芦屋雁之助)の2人だけ。そのため、英寿堂は配下の唐十郎(沖雅也)を助っ人として派遣しています。この唐十郎グラスファイバーの釣竿(でしょう)を武器にしていて、釣竿の先で刺したり、柄に仕込んだ針を抜いて刺したりと遠近自在の戦法を行なっていました。必然的に彼が雑魚大勢を始末することが多く、宇蔵とお艶は一人一殺戦法をとるのが基本的な流れです。殺し屋を減らした理由は明白で、その人数分の悪党を揃えたり、殺しの場面を描く時間が足りなくなるからでしょう。

宇蔵の武器はどじょう救いの魚籠。魚籠を相手の頭に被せて縄を引っ張ると魚籠が潰れて頭蓋骨も砕かれるという技の持ち主です。んなバカな、と思う技ですが、アニメーションも使って表現していました。まあ深く考えてはダメなのでしょう。なお、お艶の武器はバチの他に三味線自体にも武器が仕込まれたものになりました。

密偵は2人。一人は虫の鈴平(当時は江戸家子猫で後の四代目江戸家猫八)で虫のモノマネなども得意としていたので、それを活かしてお取りなどを務めたこともあります。

もう一人は一座の踊り子のうさぎ。初期は高橋洋子さんが演じていたのですが、第5話から真行寺君枝さんが演じることになりました。この事情について必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で櫻井洋三プロデューサーが次のように証言しています。

櫻井 高橋洋子が早い段階で降ろしてくれって自分から言うてきたんです。真行寺君枝は、わたしが掘り出した子ですが、よかったですよ。アタマがええから芝居が上手い。山田さんがものすごく褒めてたね。芝居にしても感が良くて、すぐ反応があるから「あの子は仕事ずっと続けたら、いい女優になるわよ」と。

とりあえず13話制作された『必殺からくり人 富嶽百景殺し旅』は無難に終了。次は山内久司プロデューサーの発案でオカルトをテーマにした野心作『翔べ! 必殺うらごろし』が制作されることになったのですが、この作品がある意味、必殺シリーズの歴史を決めてしまうのです。と言うわけで必殺シリーズの作品を取り上げるのはあと2回くらいになるだろうと思います。