イナズマン・イナズマンF

はじめに

この記事では「鉄人タイガーセブン」より少し後に上原正三東映で手がけた「イナズマン」と「イナズマンF」を取り上げます。

イナズマン

イナズマン」は石ノ森章太郎が書いた漫画「少年同盟」を元に企画された作品で超能力を持った少年少女が所属する少年同盟の指導者キャプテン・サラー(室田日出男)によって超能力を覚醒された青年渡五郎が少年同盟とともに帝王バンバ率いるファントム軍団と戦う物語です。初期のメインシナリオライター東映作品ではお馴染みの伊上勝でアクションを担当したのは大野剣友会です。渡五郎は初め「剛力将来」と叫んでサナギマンになり、エネルギーを蓄え、その後、「超力将来」と叫んでイナズマンに変身するという二段変身となっていました。デザインのモチーフは蝶で「ちょう能力」から連想されたようです。ただ、この作品で少年同盟の人達は全員超能力を持っているはずなのですが、劇中ではそれを使う場面は皆無で単に雑魚キャラが増えただけだったような気がします。これは石ノ森章太郎が書いた原作漫画「イナズマン」とは大きく違うところで、漫画では主人公以外のメンバーも変身するものがいますし、主人公はいきなりイナズマンに変身するのでサナギマンになるのは心臓を撃たれたために傷を癒すためになっただけ、つまり、たったの一回です。なお原作漫画ではキャプテンサラーはバンバの兄で、バンバはサラーに嫉妬して悪事を働いていたという設定でした。またサラーとバンバも老人で、これもテレビ番組と違うところです。なおサナギマンとイナズマンスーツアクター大野剣友会の中村文弥でした。

またイナズマンはキャプテンサラーからライジンゴーという特殊戦闘車を与えられます。ライジンゴーは空を飛べるほか、「イナズマンF」では水中を潜航したり地中に潜ったりしていました。前の半分はワニのような口がついており、噛みつき攻撃も行なっていました。口を開けて砲撃も行なっていました。ライジンゴーのおもちゃはポピーから発売されましたが、これは売れに売れ、「イナズマン」の続編「イナズマンF」に繋がったのもこのためです。

さて上原正三が「イナズマン」に参加したのは第17話。初期から書いていた高久進とともに番組を支えました。

イナズマンF

まあライジンゴーは好評でしたが番組の人気が高かったとは言い難かったようです。サナギマンの時は怪力頼りの戦いしかできず、雑兵にさえフルボッコされる始末で正直強くはなかったです。「サナギマンは待つ。イナズマンに成長する時が来るのを、ひたすら待ち続けるのだ!」というナレーションの通り、待っている状態なので仕方がありませんが。またイナズマンもライダーキックのように印象に残る決め技がなかったように思います。

メインのプロデューサーは平山亨になっていますが他にも番組を抱えていたため、実際には井上雅央がプロデューサーとしての実務を取り仕切っていました。ですが井上が離れることになったため、平山は加藤貢プロデューサーに実務を任せることになりました。こうして制作されたのが「イナズマンF」です。1974年4月9日からNET(今のテレビ朝日)系列で放送が開始されました。

加藤は上原正三、監督の塚田正煕、助監督だった長石多可男らと話し合い、番組強化のため、設定を刷新しました。まず少年同盟と渡五郎の悪友丸目豪作は「イナズマン」最終話で退場させ、代わりにインターポール捜査官の荒井誠(上野山功一)を登場させました。この荒井は非常に有能な男でイナズマンの危機を初回から何度も救っています。次に「イナズマン」の最終回でイナズマンは超能力増幅装置ゼーバーを作り上げ、パワーアップを果します。ゼーバーには逆転能力増幅機能(赤いレンズ)、透視能力増幅機能(黄色いレンズ)、テレポーテーション増幅機能(青いレンズ)を持つ他に、稲妻状の2本の突起を立てて敵に雷を落とす「ゼーバーイナズマンフラッシュ」という技を放つ機能がありました。この技で倒された敵が実に多かったです。またサナギマンでいる時間は超能力が向上したという設定により短くなり、話によってはサナギマンになった直後にイナズマンになるようになりました。ただサナギマンの設定が完全に消滅したわけではありません。

敵は帝王バンバ率いるファントム軍団からガイゼル総統率いるデスパー軍団になりました。デスパー軍団の幹部ウデスパーは「イナズマン」第24話から登場し、ファントム軍団の兵士を裏切らせ、弱体化させます。このウデスパーも強敵で、「帝王バンバはデスパー軍団の一部隊長に過ぎない」と豪語するほどです。そしてガイゼル総統は子供心に恐かったです。演じるのは安藤三男。顔は白一色で右目は潰れています。服は黒一色で黒い帽子もかぶっています。性格は冷酷非道な独裁者そのもの。ただし目をかけた者は許す包容力も持ってはいました。

ウデスパーは第7話で倒されましたが、その破片からウデスパーαとウデスパーβが作られました。この二人も強敵でしたが、第10話の最後に、この二人を合体させて作られた合体ウデスパーはさらに強力でした。初戦ではイナズマンを終始圧倒し、後一歩のところまで追い詰めましたが、オーバーヒートを起こしたため撤退を余儀なくされます。一度分離され、後に再合体手術が行なわれて再登場しましたが、第13話で弱点をイナズマンに見抜かれて倒されてしまいました。

さて「イナズマン」と「イナズマンF」はテレビ朝日で何度も再放送されました。なので私はどちらも観たことがありますが、やはり「イナズマンF」の方が面白かったです。敵も味方も魅力的なキャラクターばかりだったからです。ただファンの人がよく話題にするデスパーシティー(ガイゼル総統の超能力で地下に作られた巨大人工都市)はあまり覚えていませんでした。どちらかというとイナズマンライジンゴー、荒井誠の活躍やガイゼル総統率いるデスパー軍団との戦いの方に興味が行っていました。上原正三は第1話から最終話まで、全23話中12話を単独で執筆しています。なおデスパーシティーのモチーフは、かつて上原が「ウルトラセブン」で描いた第四惑星のそれをイメージしていたようです。荒井はかつて妻子とともにデスパーシティーに閉じ込められており、サイボーグに改造された後にデスパーシティーから妻子とともに逃亡を図るものの失敗し、自分だけが地上に逃れた過去があります。当初、荒井はその記憶を失っていたのですが、最終回で妻子の救出に成功します。

加藤貢プロデューサーは本当にやりたい放題やっており、楢岡八郎というペンネームで(共作ながら)脚本を2本書いています。そのうちの一本はギロチンを武器にするギロチンデスパーが登場する話で、サナギマンも傷つく展開は子供心に「やりすぎだなあ」と思った記憶が残っています。プロデューサーが暴走していたわけですから、他の作品も推してしるべしでしょう。ただし、当然のことながら、子供の頃は加藤貢プロデューサーが脚本まで書いていたことなど知りませんでした。

最終回は当初は「さらばガイゼル イナズマン最期の日」という題で荒井は妻子とともに死亡し、イナズマンはガイゼル総統を倒すものの、渡五郎はイナズマンへの変身能力を失い、最後は東映まんがまつりの「イナズマン」のポスターを何の感慨もなく見た後、雑踏の中へ去っていく、という話でした。ところが流石にこれには待ったがかかったようで結局「さらばイナズマン ガイゼル最期の日」になりました。この最終回には加藤貢プロデューサーは通行人役で妻とともに出演し、エンディングを歌った水木一郎もゲスト出演しています。ガイゼル総統は生身の人間のはずなのにイナズマンと互角の勝負を繰り広げました。それもそのはず、彼は強力な超能力を持つ男だったのです。最期は潰れていた右目をつかれて弱体化し、パンチでトドメをさされました。ゼーバーイナズマンフラッシュで倒されたわけではないのが若干意外ですが、こうして物語は終わり、荒井の娘は自然の太陽を拝むことができたのでした。

まあ私は普通に楽しんで見ていたので「イナズマンF」がカルトな人気を持つのは若干不思議な気もしますが、スタッフは後に「仮面ライダーアマゾン」に移行し、今度は緩急自在な物語を繰り広げることになったのでした。それについては後に触れましょう。