鉄人タイガーセブン・電人ザボーガー -上原正三のピー・プロダクションでの仕事 -

はじめに

この記事ではピー・プロダクション上原正三が参加した「鉄人タイガーセブン」と「電人ザボーガー」を取り上げます。

ピー・プロダクション

ピー・プロダクションは1960年7月に漫画家のうしおそうじこと鷺巣富雄が設立した会社です。当初はアニメーション番組を制作していましたが、1966年7月4日にフジテレビ系列で放送開始の「マグマ大使」を皮切りに特撮番組の制作も始めました。元々アニメーションを制作していたからか、光学合成の代わりにアニメーションを多用しているのが特徴です。渡辺善夫が描いた精緻なマット画の多用も印象深いです。

うしおは漫画家になる前は東宝に所属して円谷英二に師事していました。「円谷特技プロダクション」の設立時には英二に請われて発起人として名前を連ねていた過去がありました。そのため、元々特撮にも興味があったのです。

風雲ライオン丸」の失敗

さて「ロボット刑事」放送当時の1973年、ピー・プロダクションはフジテレビで「風雲ライオン丸」を制作していました。「風雲ライオン丸」の前番組の「快傑ライオン丸」はヒット作でした。大洋ホエールズシピン選手がライオン丸とあだ名されたくらい流行っていました。その余勢を買って「風雲ライオン丸」が制作されたのでしたが、暗い作風だったのが災し、視聴率は低迷しました。「快傑ライオン丸」は全54話でしたが「風雲ライオン丸」は全25話で制作が終わったのです。余談ですが特撮ファンは脚本の最多執筆数を誇る高際和雄のことをよく話題にします。

「鉄人タイガーセブン」

さてピー・プロダクション制作の番組のフジテレビ側のプロデューサーは別所孝治でした。彼は「風雲ライオン丸」の次回作「鉄人タイガーセブン」のテコ入れのため上原正三藤川桂介を呼び寄せて脚本を書かせました。そのため、第1話から第3話までは上原が脚本を書き、第4話からは藤川が脚本を執筆。以後は上原と藤川が交代で執筆しました。第13話からは高際和雄も参加。以後はこの3人で脚本を執筆していくことになりました。音楽を担当したのは「仮面ライダー」や「ゲッターロボ」も担当した菊池俊輔で、これも別所孝治の意向によるものではないかと私は個人的には思います。

この番組は滝川博士率いる考古学探検隊がサハラ砂漠で発掘した遺跡から蘇ったムー帝国の原人達が日本への侵略を始め、それに滝川博士の息子の滝川剛や亡くなった滝川博士の後を継いだ高井戸博士が率いる高井戸グループがそれに立ち向かうという話です。滝川剛は一度ムー原人に襲われて死にますが、滝川博士の探検隊がミイラ蘇生用に持ってきていた人工心臓を移植されたことにより蘇生します。そして剛は父の形見のペンダントを受け取り、さらには鉄人タイガーセブンに変身する力を得て、ギル太子(声は小林恭治)率いるムー原人を倒していきます。前番組の「快傑ライオン丸」や「風雲ライオン丸」の顔はライオンでしたが、タイガーセブンの顔はトラそのものでした。

さて円谷一が発案した「怪獣無法地帯」のアイデアを上原は流用したのか、第1話「ムー原人 恐怖の大反乱」では砂原人スナウラミ、マグマ原人カエンジン、カッパ原人、ミイラ原人、半魚原人(アマゾンX)、オイル原人、エレキ原人と実に7人のムー原人が登場します。第1話でマグマ原人カエンジンと砂原人スナウラミは倒され、続く第2話でもミイラ原人、オイル原人、半魚原人(アマゾンX)が登場しました。ただ、両話とも複数のムー原人が一度に登場することはありませんでした。人件費の関係もあったのか、一人ずつ別カットで登場したのです。なので「怪獣無法地帯」のような爽快感は得られず、ただたくさん登場しただけに止まっています。私は「鉄人タイガーセブン」の脚本を読んだことはありませんので上原の責任なのか、演出したメイン監督の大塚莞爾の責任なのかは判断できません。ただ、あくまでも個人的な意見ですが、大塚監督のセンスの問題だったと思います。

さて第12話までは上原と藤川が交代で書いたのは既に述べましたが、この二人が脚本を担当した作品は既に暗い作風でした。と言うのは、この作品でムー帝国の存在を知るのは滝川剛と高井戸グループだけで警察も世間の人も高井戸グループの主張を信じなかったからです。よってムー原人の悪事もその場に居合わせた剛や高井戸グループの責任にされることが実に多かったのです。

また予算の関係からかタイガーセブンの必殺武器はファイトグローブという手袋をして繰り出すものになっており、それも人気があまり盛り上がらなかった理由として挙げられます。もっともタイガーヘッドビームという、アニメの合成を使って表現された武器もタイガーセブンは持ってはいますが。

上原が書いた暗い話の最たるものは第15話「ムー帝国大侵略」第16話「ムー帝国への挑戦」でしょう。この話でタイガーセブンはガス原人に襲われて瀕死の男を治療しようとします。タイガーセブンは自分の牙を男の首筋に突き刺すという「タイガーエネルギー注入」という技で男を治療しようとしますが、そこへ男の妹佐山陽子がやってきました。陽子にはタイガーセブンが兄に噛み付いているようにしか見えず、「やめて」と妨害します。それでもタイガーセブンは「噛み付くのをやめなかった」ため、今度はその場にあった果物ナイフでタイガーセブンの肩を突き刺してしまいました。思わずタイガーセブンは口を離してしまい、治療は失敗。男は死亡してしまいます。男がガス原人に襲われたことなど知らない陽子と弟の勝男はタイガーセブンが兄を殺したと誤解し、高井戸グループのメンバーもタイガーセブンの仲間だと非難する始末です。タイガーセブンはなんとかガス原人を倒すことに成功しますが、言葉巧みに騙された勝男の仕業もあってクモ原人の巣に捕まってしまったところで第15話で終わります。ただ幸いにして佐川姉弟の誤解は続く第16話で解けます。勝男はムー帝国に利用された挙句に重傷を負い、タイガーセブンが再度「タイガーエネルギー注入」で勝男を蘇生させたからです。「鉄人タイガーセブン」と言えば最終回を書いた高際和雄の作風ばかりが話題になりがちですが、彼が書く前から既に暗かったのです。

風雲ライオン丸」同様の暗い話が続いた「鉄人タイガーセブン」はさほど人気が出ませんでした。元々制作は1年の予定だったそうですが、別所孝治は半年での打ち切りを決めたのでした。

なお私は「鉄人タイガーセブン」をテレビで見た記憶はありません。あまり再放送はありませんでした。飛龍原人が登場した第9話「死斗!! 飛竜原人対タイガーセブン」(脚本:上原正三、監督:大塚莞爾)だけはテレビ埼玉での放送をチラッと見た記憶がありますが、私の食指は動きませんでした。なので「鉄人タイガーセブン」を見たのはのちに発売されたDVDを購入してからです。

電人ザボーガー

さて上原は「鉄人タイガーセブン」の後番組「電人ザボーガー」も担当することになりました。上原はオープニングとエンディングの歌詞も作詞しました。「電人ザボーガー」は別所孝治の発案で、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」上映により流行っていった空手アクションや、これまた当時流行っていたロボットアニメの要素を取り入れた、明るいものとなりました。上原が「鉄人タイガーセブン」の最終回を書かなかったのは「電人ザボーガー」の準備のためだったのかもしれません。

なお大筋はこうです。秘密刑事としての訓練を終えて帰国したばかりの大門豊(山口暁)は、父が亡くなったことを知ります。直後に大門豊は、亡き父、大門博士(細川俊夫)が開発した新エネルギー「ダイモニウム」を狙う犯罪組織Σ(シグマ)団の刺客、アリザイラーに殺害されてしまいました。しかし大門は、少年の頃、父によって埋め込まれていた電極回路の力で蘇りました。そして、電極回路から発する「怒りの電流」で博士が密かに開発したオートバイ、マシーン・ザボーガーから変形して起動するパートナーロボット、電人ザボーガーとともに、大門は父の仇でもあるΣ団とそれを率いる悪之宮博士(岡部健)に対し、敢然と戦いを挑んでいくのです。大門が秘密刑事であることを知るのは新田警部(根上淳)で血気にはやる大門をよく諭していました。他のレギュラーは新田警部の娘美代(星野みどり)と息子の浩(神谷政浩)、新田警部の部下の中野刑事(きくち英一)でした。対するΣ団側は悪之宮博士と部下のミスボーグ(藤山律子)でした。

技斗を担当したのは菊池英一です。実は彼は中野刑事を演じたきくち英一と同一人物で、当初は殺陣師として依頼がきたのですが、彼は顔出しでの出演を要求。結果、中野刑事としても出演することになりました。その代わりギャラは中野刑事として出演した分だけを受け取り、技斗はサービスで行なったのだそうです。サービスだと言ったものの、菊池は一時的にアクションチームを結成し、幹部やスーツアクターの配役も行ないました。その関係からか遠矢隆信や尾崎孝二、君塚正純など、彼が以前所属していたJFA(当時は既に解散していました)のメンバーが多数出演しています。JFAピー・プロダクションが以前制作した「マグマ大使」「スペクトルマン」「快傑ライオン丸」も担当していましたから、その関係で菊池に殺陣師として依頼が来たのだと思います。余談ですが、菊池は「帰ってきたウルトラマン」でも顔出しレギュラー出演を要望したそうですが、数回顔出ししただけで終わりました。ただ特撮撮影が過酷であまり時間が取れなかったためか、あれで良かった、と言っています。

電人ザボーガー」でも上原正三の作風はぶれませんでした。主人公が一度死に、父の敵と戦うのは「鉄人タイガーセブン」と似ています。また第2話と第3話ではΣ団の幹部が海外から一度に7人も日本支部に集結し、一堂に会します。「鉄人タイガーセブン」ではムー原人が7人登場する話を書いたものの一度に複数登場する場面は実現しませんでしたが、これに懲りたのか、それともそこまで深く考えてはいなかったのかまでは定かではありませんが。また第1話から第4話までと第12話から第15話まで、そして第19話を書いています。第19話「キリマンジャロの赤い豹」では「ウルトラセブン」の「700キロを突っ走れ」で書いた、主人公と仲間(「電人ザボーガー」では大門と中野、「ウルトラセブン」ではダンとアマギ)が運んでいたのは実は偽物で囮だった、という話を書いています。

電人ザボーガー」は「鉄人タイガーセブン」と違ってヒットしました。上原は第19話を最後に降板しましたが、番組はその後、ブルガンダーのようなトラックや自動車を改造したロボットが登場したり、大門を敵視する秋月玄が登場するなど、盛り上がりました。ただ模様替えして敵をΣ団から変更した第4クールの恐竜軍団編はあまり盛り上がらず、次作は製作されませんでした。「電人ザボーガー」は何度も再放送されましたが、なぜかΣ団の話だけで終わることが多かったように思います。

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