ジャッカー電撃隊

はじめに

1977年4月9日から12月24日まで、テレビ朝日系列で毎週土曜19:30 - 20:00に全35話が放送された「ジャッカー電撃隊」を取り上げます。

制作までの流れ

秘密戦隊ゴレンジャー」は2年間も放送されました。これはスーパー戦隊史上最長で、これを破る作品は登場しないと私は思います。ですが、流石に2年間も続くと綻びが生じ、出演者のスケジュール調整も大変になりました。また新たなマーチャンダイジング展開(おもちゃの販売など)や番組の長期化によるマンネリ化対策として新たな作品が制作されることになったのです。今思えばバリブルーンを失ってバリドリーンやバリタンクが登場したのも、新たにオモチャを売り出すという狙いがあったのでしょう。

こうして新番組の企画が立てられました。Wikipediaでは次の通りとなっています。

前作の大きな特徴である色分けされたグループヒーローという要素は継承しつつ、前作との差別化として人数をトランプをモチーフとした4人に変更。また、娯楽性の強まっていった前作へのアンチテーゼも込めて、企画書ではドラマ性とメカニックを重視した作風とすることが強調されている。ドラマ性については、前作序盤で追求しきれなかったスパイアクション要素を発展させ、よりリアルな犯罪捜査を描き、さらに主人公側の人間像を描写することでアクション面以外で視聴者を惹きつけることを意図していた。

カニック要素としては、サイボーグという設定が導入されたほか、当時のスーパーカーブームを反映してメカデザインに取り入れている。第7話と第14話では実在のスーパーカーを登場させている。

企画段階のネーミングとして『科学特捜隊ボーグハンター(科学防衛隊ボーグハンター)』および『電撃戦グロスボンガー』が挙げられていた。「ジャッカー電撃隊」の名称は、トランプのイメージを強調するため「J・A・K・Q」から命名された。

ドラマ性を高めるというのはより高い年齢の人向けにしようという狙いもあったのでしょう。2年間続いたということはそれを見ていた子供達もそれなりに歳をとります。私はゴレンジャーの放送開始時は幼稚園に通っていましたが、「ジャッカー電撃隊」が放送された頃は小学校2年生でした。

番組の初期の概要

こうして「ジャッカー電撃隊」の放送が始まりました。初期のレギュラーはジャッカー電撃隊側が5人、敵組織クライムが1人です。

まずジャッカー電撃隊のメンバーを軽く紹介しましょう。スペードエースこと桜井五郎(丹波義隆)は核エネルギーで動くサイボーグです。オリンピック近代5種競技の金メダリストで彼がリーダーになりました。当初はオリンピックへの夢を大事にしたいという理由から、電撃隊加入を当初は拒否していましたが、後述する理由で考えが変わり、ジャッカーに加わりました。桜井五郎の姿のままでも中性子スコープという透視技が使えます。スペードエースの顔は赤地でスペードのマークが描かれています。武器はスペードアーツで鞭になったり弓になったりします。ゴレンジャーではアイマスクを変形させて武器にしていたのですが、ジャッカーが自分の武器をどうやって出していたのかは、そう言われてみれば覚えておりません。スペードマシーンという自動車を使っています。

二人目がダイヤジャックこと東竜(伊東平山こと後の吾羽七朗)は電気エネルギーで動くサイボーグです。元はプロボクサーでしたが八百長試合を強要されてボクサーをやめ、ハスラーをしていたところ、殺人事件に巻き込まれて逮捕されて日本に護送され、今の羽田空港で鯨井に出迎えられ、ジャッカーに勧誘されました。東竜の姿でも手からノコギリを出して使えるほか、電気エネルギーを使って透視もでき、ポーカーをする時は相手の手札を見ていました。ダイヤジャックの顔は白地に青いダイヤが描かれています。武器はダイヤソードという剣です。彼はマッハダイヤというフォーミュラーマシンに乗っており、この車も電気エネルギーで動きます。マッハダイヤは自動車レースのF2マシンを改造して作られており、撮影前は調整が大変だったそうです。なのでよく故障して撮影には苦労したそうです。

三人目はハートクイーンことカレン水木(ミッチー・ラブ)。彼女は元々はアメリカの刑事でクライムの犯罪を追っていましたが、クライムの策略で父ともども事故に巻き込まれ、父を失います。その事故現場に桜井が居合わせ、桜井はカレンを救出しますが、彼女は両腕を失うという重傷を負っていました。病室にやってきた鯨井に懇願し、磁力で動くサイボーグとなりました。武器はハートキュートというQの字をあしらった刃がついた盾(だそうですが、防御には向いていないと思います)を使い、磁力パワーを駆使してクライムの戦闘員クライマーを翻弄しました。そして桜井に命を救われたことがきっかけで桜井を愛するようになっていきます。彼女はハートバギーという車に乗ります。

四人目はクローバーキングこと大地文太(風戸佑介)。彼は元々は鯨井大介の弟子にあたる海洋学者でした。ある時、潜水艦などで海に潜って海洋調査をしていたのですが、酸欠事故で窒息死してしまいました。なので否応なくサイボーグ手術を受けて重力エネルギーで動くサイボーグとなりました。当初は寡黙な性格で他の3人にも敬語を使っていたのですが、第4話からはひょうきんな性格に変わり(というよりは変えられ)、他のメンバーを呼び捨てで呼ぶようになりました。また第4話では5年前に両親と幼い妹・奈美を飛行機事故で喪った過去が語られており、事件で知り合った少女の事故死に妹の面影を重ね合わせて事件解決に躍起になっていました。ひょうきんな性格になった理由は明白で、「ジャッカー電撃隊」には大岩大太のような愛すべき三枚目がいなかったからでしょう。武器は右手を変形させたクラブメガトンパンチ。そのまま殴ったり、電人ザボーガーのチェーンパンチのように右手を飛ばしたり、振り回したりしていました。他には自分が持つ重力エネルギーを使ってクライマーを押しつぶすキング重力プレスも得意技です。彼はオートクローバーというオートバイに乗っていました。

以上の4人を率いるのが鯨井大介ことジョーカー(田中浩)です。彼はサイボーグ手術の権威で4人のサイボーグ手術を自ら執刀しています。当初は彼が指揮をとっていました。現場に出ることは滅多にないのですが、なぜか第22話ではクライマーに変装して軽妙な演技をしておりました。彼は江戸川権八総司令のような世を忍ぶ仮の姿は持っておらず、あくまでも国際科学特捜隊の日本支部の長官として活動しておりました。

ジャッカーが操るマシンは他にスカイエースと呼ばれる飛行要塞とジャックタンクと呼ばれる特殊装甲車がありました。名前にある通り、スカイエースのメインパイロットは桜井でジャックタンクの主な操縦者は東でした。さて面白いことに東はダイヤジャックの姿でジャックタンクを操縦したことは皆無です。Wikipediaにそう書かれていたので「本当かなあ」と思って東映チャンネルで再放送された時にチェックしたのですが、確かにそうでした。また両マシンとも変身するのに使用する強化カプセルを積めますが、スカイエースからスカイコンテナをおろし、その中に積まれている強化カプセルを使っていた回数が多かったように思います。SF性を高めたのでしょう。

さて強化カプセルというのは変身に使うカプセルです。桜井達4人はこのカプセルに入り、エネルギーを充填されて変身していたのです。ゴレンジャーだとその場で「ゴー!」と叫んでくるっと回ると即座に変身できましたが、ジャッカーはそうではなかったのです。なので潜入捜査を行なっている時は後から仲間が現場に駆けつけてジャッカーの姿で登場し、例えば「エース、チェンジしろ」と言うのが定番でした。

対するクライムの方は大幹部が石橋雅史演じる鉄の爪(アイアンクロー)です。この人は右手が鋼鉄製の義手になっており、部下を処刑する時にこの義手を飛ばして倒しておりました。それが名前の由来です。普段は要塞島という孤島にあるアジトの中にいるのですが、まれに前線に出動したことがありました。「クライムに失敗は許されない」が唯一の掟です。

当初、クライムはクライムボスと呼ばれる幹部が機械怪物と呼ばれるロボットを率いて暗躍していました。他にクライムはデビルシャークという戦闘機やクライム装甲車を使って活動していました。

さてジャッカーの必殺技はジャッカーコバックというものでした。これはまず機械怪物を4人で敵の周りを取り囲み、頭部を密着させて、原子・電気・重力・磁力の4つのエネルギーを足から送り込み、空中に蹴り上げ、爆破させる、という技でした。

視聴率低迷

ところが、番組は子供達には受けず、視聴率は低迷しました。これにはいくつか理由が挙げられるでしょう。「ジャッカー電撃隊」という番組単独だったら上記のようなものでもよかったのかもしれませんが、「秘密戦隊ゴレンジャー」のような緩急自在の番組の後だと言うのが最大の不幸で、ゴレンジャーを見ていた子供達は物足りなさや難解さを覚えてしまったのです。これは実体験として言い切れます。まず暗い話が多すぎました。例として第12話「10ピラミッド!! 黄金仮面の迷路」(脚本:上原正三、監督:奥中惇夫)を挙げましょう。クライムに捕まった桜井は拷問を受け、さらに自白剤をうたれてしまい、ツタンカーメンの黄金のマスクのありかを吐くように強制されます。桜井は自分の記憶自身を喪失することによって秘密を守ることを考え、実行します。そのため、救出された時は廃人同様の状態になっていました。カレンは第1話で自分が逢った事件を再現し、それにより、桜井は記憶を取り戻し、回復するのです。「秘密戦隊ゴレンジャー」でもこういう話はありましたが、大岩大太のカレー好きやなぞなぞやマスターの軽妙なやり取りでその暗い場面を中和してバランスをとっていました。先述したとおり、「ジャッカー電撃隊」ではそういった場面は少なかったので、ただ暗いイメージが残りました。

またいちいち強化カプセルを使わないと変身できないというのも大きな制約になりました。そのため展開がどうしてもまどろっこしくなってしまったのは否めません。ゴレンジャーなら「ゴー!」と叫んでクルッと回ったりジャンプすれば即座に変身できましたが、ジャッカーではそうは行きません。そのため、序盤や中盤でジャッカーが変身した姿で登場することは皆無に近く、終盤に登場するのが実に多かったです。これも物足りなさを感じたことは間違いありません。

さらに必殺技はゴレンジャーストームやゴレンジャーハリケーンに比べると地味でした。全員が協力して放つという設定は受け継がれていたのですが、色々なものに変形していたゴレンジャーハリケーンの後というのが不幸でした。

そして最大の要因は強力な裏番組「クイズダービー」の存在です。「秘密戦隊ゴレンジャー」が始まった頃、TBSは毎週土曜日19:30 - 20:00には大橋巨泉司会の「お笑い頭の体操」を放送していました。「仮面ライダー」や「秘密戦隊ゴレンジャー」の企画が必要となった強敵でした。しかし「秘密戦隊ゴレンジャー」が放送された頃はマンネリ化していたこともあったのか、視聴率は低迷するようになり、「秘密戦隊ゴレンジャー」放送中の1976年1月6日からは「クイズダービー」に変わりました。「ジャッカー電撃隊」放送時には既にはらたいら竹下景子がレギュラーになっていましたが、私ははらたいらの前任者の黒鉄ヒロシが3枠に座っていたのを見た記憶もあります。以後、1992年12月19日まで放送が続く長寿番組となりました。「ジャッカー電撃隊」に物足りなさを感じた子供達はこの番組に流れてしまったのです。私も「ジャッカー電撃隊」をいつしか見なくなってしまいました。その流れで「ジャッカー電撃隊」の後番組である「透明ドリちゃん」などはほとんど本放送では見ていません。

ビッグワン

というわけで視聴率強化策がこうじられることになりました。石森プロは、クライムの背後にいた悪の未来人「エムペリアン」を追って来た未来人「ペイジワン」が、ジャッカーとともにタイムマシンで時間移動して悪の陰謀を砕くという案「タイムファイターの謎」を提案しました。トランプから連想したのでしょうが、これは今までの世界観とは大きく異なるため、採用されませんでした。そこで登場したのが宮内洋演じる行動隊長ビッグワンこと番場壮吉と林家源平演じる姫玉三郎です。

番馬はニューヨーク本部の科学技術長官となった鯨井大介の後任として第23話から登場します。機械怪物よりも強化された侵略ロボットであるアトミック魔女にジャッカーコバックが通じず、ジャッカーは磔にされてしまいました。ジャッカーは謎の白い超人に救われ、本部に戻ったジャッカーは全身真っ白の服と帽子に身を包んだ男が鯨井の席に座っているのを見て驚きます。彼が行動隊長の番場壮吉だったのです。番場はいつも手にステッキを持っていました。また神出鬼没でそれまでのジャッカーとは違って強化カプセルなしで瞬時に変身ができました。なお番場は鯨井より地位は低いらしく重傷を追ったカレンの手術のためにジョーカーが帰国してからはジョーカーの指令を受けて番場は行動しています。

時を同じくして着任したのが松山支部からやってきた姫玉三郎です。彼を演じていたのは初代林家三平の弟子の林家源平愛媛県出身です。なので伊予弁が得意という設定で落語も得意です。よくカレーやラーメンを作っていましたが番場はなぜか玉三郎が作る料理が好物でした。ですがさほど強くはなく、本部を侵略ロボットが襲ってきた時は真っ先に逃げようとする始末です。明らかにギャグメーカーですね。

必殺技もビッグボンバーに代わり、戦い方も若干変化しました。まずジャッカーのメンバーは事件の探索に乗り出します。そして事件の核心に迫りますが、一歩及ばず危機に陥ります。そこへ番場が変装した珍妙な人物が玉三郎を連れて登場。もちろん玉三郎も変装しています。ちなみに第27話「独裁者の野望!! 砕け!死の収容所」(脚本:上原正三、監督:竹本弘一)では番場はクロコダクル総統が尊敬するヒトラーに扮しています。番場と玉三郎は珍妙なやりとりを披露し、侵略ロボットやジャッカーを呆気にとらせた後、隙をついてジャッカーが変身する時間を作ります。その後はジャッカーの4人が今までと同様に侵略ロボットと戦い、追い詰めたところでジャッカーがビッグワンを呼び出します。そしてジャッカーは大砲ビッグボンバーを完成させた後、

ビッグワン「ジャッカー必殺武器ビッグボンバー」

と叫び、砲弾を放つのです。さてビッグボンバーは当初は普通の大砲でしたが、第29話からはゴレンジャーストームやゴレンジャーハリケーン同様、色々なものに変形するようになりました。その内訳は順に、クモの巣攻め、アフリカ象、とうもろこし、ウソつき退治、ビッグアロー、どぶねずみです。これだけではなんだかわからないでしょうが、詳細は映像を見て確認してください。ゴレンジャー以上にシュールなものです。ゴレンジャーに作風を近づけようとしたのでしょう。

ただ上記の強化策が成功したとは言いがたく、視聴率は向上しませんでした。私は小学館が出していた雑誌「テレビくん」でビッグワン登場とビッグボンバー登場を知ってはいたのですが、食指は動かず、本放送では全く見ておりません。上記の流れを正確に把握したのは大人になってから、それもテレ朝チャンネルで再放送したのを見てからです。なのでそれまではビッグワン登場後は5人で侵略ロボットと戦っていたものと思っていました。結局、「ジャッカー電撃隊」は全35話で終了となりました。上原正三はそのうち26話を書いていました。後番組は路線をかなり変更したファンタジー色豊かな「透明ドリちゃん」になりましたが、これも上原がメインシナリオライターを務めています。

奇遇なことに、ほぼ同時期に放送されていた「ロボット110番」も子供達の人気は得られず打ち切られています。それについては別の記事で扱いましょう。

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