必殺仕業人

この記事では必殺シリーズ第7弾の『必殺仕業人』を取り上げましょう。

『必殺仕置屋稼業』の続編で唯一江戸に残った捨三も引き続き登場します。このタイトルは一般公募してつけられました。TBS系列では引き続き東映毎日放送制作の『影同心II』が放送されていたので、その対策もあったので、中村主水を引き続き登場させたのでしょう。

さて第1話は牢屋見回りに格下げとなり、町に出て袖の下も貰えなくなって困窮を極める中、裏稼業を続ける中村主水が描かれます。この時点での仲間は捨三の他は鍼灸師のやいと屋又右衛門のみ。仕置屋の時代とは違って殺しを行なうのが二人しかいないので腕の立つ殺し屋を主水が探していた、ちょうどその時、主水は赤井剣之介と出会います。この第1話で赤井剣之介の過去も語られます。元は上州沼木藩の上士で本名は真野森之助。惚れた女芸人お歌(中尾ミエ)のために人を殺してしまい、そのまま脱藩した過去があり、お尋ね者です。大道芸で生活をしていますが、顔を隠す必要があるため、白粉で顔を塗りたくったり、お面を被ったりしていました。旅先で出会った市松からの紹介で中村主水のことを知り、江戸にやってきました。

仕業人のグループは本当に金だけで繋がっただけで仕置屋よりも殺伐とした関係でした。第1話での中村主水のこのセリフが象徴的です。

中村主水「やいと屋、俺だっておめえなんか、はなっから信じちゃいねえや。おめえだけじゃねえぞ。あの捨三も、あのノッポも、俺あ、だ~れも信じちゃいねえ。俺達、お前、他人様の命頂戴して金稼いでる悪党だ。だから仲間が欲しいんじゃねえか。地獄の道連れがよ。その道連れを裏切ってみろ。地獄にも行けやしねえぞ。」

このセリフ、安倍徹郎が書いた脚本にはなく、工藤栄一監督が演出している時に現場で付け加えられたものだそうです。仕業人の世界を象徴するセリフと言って良いでしょう。なお捨三は風呂屋から洗濯屋に商売替えしています。主水への忠誠心は相変わらず高いのですが、このセリフを聞いた時の心中はどうだったのでしょうか。

またこのドラマを象徴するセリフとしては第2話「あんたこの仕業をどう思う」(脚本:田上雄、監督:松本明)で苦戦する剣之介を助けもせずに見てるだけだった主水をなじるお歌に対して返した言葉

中村主水「銭払ってるんだ。やるだけのことはやってもらう。」

も印象的です。ちなみにこの時の剣之介の相手は松本明監督の盟友で度々悪役として必殺シリーズに登場した津川雅彦さんでした。

赤井剣之介の殺し技は元結を切って乱れた髪で首を絞めると言うもの。この殺し技は演じる中村敦夫さん自身の発案だそうです。お歌は仕業人ではないのですが、死ぬ時は一緒という覚悟を持っているため、殺しの現場にはいつもついて行きます。

やいと屋又右衛門は携帯用の火種で針を熱し、真っ赤になった針を悪人の眉間や急所に刺して殺します。彼は腕力はさほどないので相手の不意を打って殺すのが実に多かったです。またやたらと縁起を担ぐ性格で殺しの前には色々な占いなどで吉兆が出るのにこだわる様子が毎回描かれていました。

さて新規追加のレギュラーは主に二人です。まず一人目が牢屋見回りの同僚の島忠助(美川陽一郎)。この人は定年間際の老役人で人生を達観しており、主水とも仲の良い人物でした。ただ演じていた美川陽一郎さんが亡くなったため、第17話以降は登場しません。そして二人目が小悪党の出戻り銀次(鶴田忍)で、牢屋の中が天国だと考えている男です。そのため微罪を働いては牢屋に戻り、(微罪のため)またすぐに牢の外へ出ていくのを繰り返し、「がんばりま〜す」が口癖のコメディ要員でした。この口癖は工藤栄一監督の発案だったそうです。なお、ひどい時には牢がいっぱいなので百叩きされて牢にも入れずに娑婆に戻されたこともありました(第21話)。彼と主水のやり取りが最後の場面になることも多くなりました。

中村家も困窮しているため傘貼りの内職などをしています。そして『必殺仕置屋稼業』の時に増築して作られた離れに人を住まわせるようになりました。まず最初に入ったのがお澄(二本柳俊衣)ですが、この人は回船問屋の妾のため、夜の営みが激しくて主水達が困り果てたため、やいと屋の協力も得てすぐに転居してもらいました。次に来たのは祈祷師の玄覚(田渕岩夫)。奇行が多かったため、彼もすぐに追い出され、最終的に入るのが千勢(岸じゅんこ)という若い女性でした。この人は中村家で寺子屋を開いた他、穢れ本(春画)集めの趣味があり、主水と意気投合して本を交換しあったりしていました。

本題の殺しの話はやはり悲惨なものが多くなりましたが、第24話「あんたこの替玉をどう思う」(脚本:中村勝行、監督:大熊邦也)はシリーズ通算200回となったため、過去作にも登場した人が大挙して少しだけ出演しています。この話で出演したのは石坂浩二緒形拳沖雅也、大塚吾郎、草笛光子田村高廣中村玉緒中谷一郎野川由美子、三島ゆり子と言った面々。「なりませぬ」というセリフも飛び出します。本当に少しだけの出演で脚本を現場で手直しして登場させたそうです。

最終回となったのは第28話「あんたこの結果をどう思う」(脚本:安倍徹郎、監督:渡邊祐介)です。次作『必殺からくり人』の準備が遅れたために2話分延長されたという説がありますが、それを証明するかのように第26話と第27話に大出俊さんは出演していません。

第28話冒頭に映るのはやいと屋又右衛門ですが、手に持っているのは「凶」と書かれたおみくじ。これがこの話の展開を暗示するかのようですが、やいと屋はくしゃくしゃに丸めて捨ててしまいました。そしてやいと屋は会津屋忠七(堀北幸夫)を殺し、剣之介は柴山藩の家老土屋多門(永野達雄)を殺しました。実はこれが仕業人としては最後の殺しとなりますが、冒頭の部分のみで描かれています。この殺しの頼み人は柴山藩の領民ですが、殺しを仕業人に頼んだ理由は後で明かされます。

さて土屋多聞の娘の澄(宮田圭子)と婿養子の小十郎(浜畑賢吉)は国元から江戸に入ります。そして多聞を殺した連中の調査を口入屋の江戸屋源蔵(田崎潤)に依頼しました。そしてやいと屋がくしゃくしゃに丸めて捨てた「凶」のおみくじから足がつき、仕業人の仕業だと判明。小十郎はやいと屋を捉えに向かいますが、実際にとらえられたのはやいと屋のところに来あわせていた剣之介でした。剣之介は柴山藩の屋敷で拷問を受けますが

赤井剣之介「己に訊け。柴山藩に訊け。」

というのみで口を割ろうとはしませんでした。

これを黙って見ている主水ではなく、会津屋殺しを調べていた同心の服部(外山高士)と同行して剣之介の身柄を引き取り、牢屋から逃す事を考えますが、小十郎に拒絶されて失敗します。

それを受けてお歌はやいと屋の力も借りて柴山藩の屋敷に忍び込み、剣之介を逃がそうとしたのですが、一歩及ばず、剣之介とお歌はドブ川で斬られてしまい、絶命。やいと屋も捕まってしまいます。

さて捨三から剣之介とお歌の死を聞いた主水は衝撃を受けます。ボーっとしていると折悪く千勢が厠から出るところ。千勢には厠を覗かれたと間違われ、せんとりつが主水をなじる声も耳に入りません。心の中で

中村主水「死んだか。死んだのか、剣之介もお歌も。」

と言うのみです。

その矢先、小十郎は藩の重役から調査打ち切りを命じられます。多聞が会津屋と組んで不正を働き、領民を苦しめた挙句に若い女を囲って入れ上げた事が判明したからです。小十郎も澄も衝撃を受けます。仕方なく小十郎はやいと屋を解放。そして澄は自害してしまいました。もう小十郎は武士としては後がなくなった状態になりました。

まず小十郎は江戸屋に書状を託し、「仕業人」に渡します。書状を渡す時、江戸屋はこう捨三に言っています。

江戸屋源蔵「江戸屋源蔵だ。これを小屋の中の方(中村主水)に渡してくれ。それから、この御神籤はやいと屋又右衛門にけえしてもらおう。 仕業人にしてはどじなことをした、そう伝えてくれ。」

おみくじと書状の内容から中村主水は全てを理解しました。書状の内容はこうです。

土屋小十郎の声「事の真相を識るに及び只只驚愕仕候。国勢を乱し、 民百姓を途端の苦しみに追いやりたる談、 成敗もまた止むなしと覚悟いたしおり候。但し、舅を失い、今又妻をも失いたる談、真に無念にて、このまま帰国では侍の一分も立ち申さず、よって明朝、果し合いを望むものにて御座候。これはあくまで私の恨みなれば卑怯未練の振舞あるまじく、曲げて御承引下されたく候。土屋小十郎」

この後、主水はやいと屋と会いますが、やいと屋は上方へ立ち去ると言い放ちます。主水は無言で「凶」のおみくじを渡して立ち去ります。流石にやいと屋も事情を察するのでした。

翌朝。土屋小十郎の真意を承知した上で中村主水は果し合いの場にやってきます。その様子を捨三とやいと屋も観ています。この場面、厳密には中村主水が金をもらって殺すわけではありません。小十郎には舅と妻の仇を討つ必要があり、主水には剣之介とお歌の仇を討つ必要があるという状態。主水は殺し屋としてではなくて武士として果し合いに臨んだのです。この時点で主水は裏稼業を既に辞めていたのでしょう。小十郎に斬られても良いと思っていたのかもしれません。だから仕業人としてではなく、一人の武士として小十郎と果し合いを行なう事にしたのです。

土屋小十郎「良く来てくれた。礼を言うぞ。奥州柴山藩土屋小十郎。」
中村主水中村主水だ。」

そして二人は刀を抜いて戦うのですが、剣の腕は主水の方が上で小十郎は胴を斬られてしまいました。

土屋小十郎「こ、これで、これでいい。」

これが小十郎の最期の言葉。思わずやいと屋は呟きます。

やいと屋又右衛門「恐ろしい男だ。」

そして主水はやいと屋にも捨三にも何も言わず、羽織を拾い、朝靄の中へと去って行き、そのまま裏稼業からも足を洗ったのでした。この剣之介の死は主水に大きな衝撃を与え、後の作品でも少なくとも二度、語られるのでした。