必殺仕置屋稼業

この記事では必殺シリーズ第6弾の『必殺仕置屋稼業』を取り上げましょう。

前作の『必殺必中仕事屋稼業』は好評だったものの朝日放送がTBS系列からNET(テレビ朝日)系列に移った事により放送時間帯も変更されてしまい、視聴率半減の憂き目に遭ってしまいました。またTBSは毎日放送に『影同心』を制作させて必殺シリーズの視聴者獲得を目論みました。この状況を朝日放送と京都映画が黙って見ているはずがありません。

と言うわけで『必殺必中仕事屋稼業』の次作は中村主水を主役にした『必殺仕置屋稼業』になりました。もっとも中村主水が登場した前作『暗闇仕留人』は黒船来航直後の時代の話。その時代を元にした話を『暗闇仕留人』で描き尽くしてしまったことがあったのと、そのまま続けると幕末を迎えてしまうことがあったのでしょう。時代は天保の改革の頃(南町奉行鳥居耀蔵(志村喬)であることからそれがわかります)に戻されました。また主水は北町奉行所から南町奉行所へ異動。この異動は『影同心』に登場する同心が南町奉行所所属で鳥居耀蔵(田村高廣)の指令を受けて動く事に対する対抗策というか嫌味のような気がします。

物語は中村主水南町奉行所へ異動し、役宅を増築した直後から始まります。中村主水は町中で竹串で鮮やかな殺しを見せる市松(沖雅也)を見かけます。直後に、主水は髪結いを営むおこう(中村玉緒)から仕置を依頼されます。『助け人走る』に出た時や『暗闇仕留人』冒頭と違って主水は乗り気ではなく、警戒して断ってしまいました。明らかに糸井貢の死をひきづっているのがわかります。ですが、おこうによって被害者や頼み人に引き合わされるうちに徐々にではありますが心情に変化が生じ、頼み人の葬列を見て仕置を引き受けることを決意します。ただ糸井貢の死の影響か、あくまでも稼業として仕置屋稼業をやることを決意したので、頼み人からの金だけを受け取り、頼み人が託した手紙は敢えて読みませんでした。主水は市松と捨三、そして印玄を仲間にし、仕置屋稼業が始動したのでした。なので仕置人と仕留人の時とは違って、この時のチームは殺伐とした雰囲気が漂ってました。

オープニングの映像などから中村主水が主役なのは明らかだと思いますが、一番最初にクレジットされていたのは市松(沖雅也)です。市松は竹細工を表稼業にする男で、その関係で竹林のそばにある家に住みます。彼は殺し屋で仕置屋以外の元締からも殺しを請け負っています。彼の父親(沖雅也)も殺し屋でしたが、市松が幼い頃に死に、以後は鳶辰(津川雅彦)という男に殺し屋として育てられたのでした。ただ殺し屋という稼業に後ろめたさがあるのか、ふとしたきっかけで引き取った子供を堅気に育てようとしたりしたこともありました。なお沖雅也さんが最初にクレジットされているのは彼のマネージャーの日景忠男さんの要望があったかららしいです。

置屋稼業三人目の殺し屋が印玄です。彼は破戒僧で元々は捨三の友達。捨三が務める風呂屋の釜場に出入りしては女風呂を覗いたり、仕置の前には女郎屋へ行ったりしています。印玄の過去は第13話で語られますが、この姿は生活のためになっただけでお経の知識はいい加減です。殺し技は怪力を活かして相手を屋根の上に運び込み、「行け!」と叫んで屋根の上から突き落とすのが主なものです。相手が「止めて、助けて、止めて、助けて」というのがお約束です。これは真面目に考えてこうなったそうですが、後半は屋根落としではなくて色々な力技を使うようになります。

置屋稼業の密偵が捨三(渡辺篤史)です。この人は中村主水に忠誠を誓い、甲斐甲斐しく働きます。殺し屋の市松の事は信用していないようです。変装して殺しの手伝いをする時もありました。普段は風呂屋の釜場で働いていて、そこがアジトになっていました。中村主水が殺しの裏稼業を知っていたことが第1話の様子からわかります。

仕置を仲介するのが先述した新富町で髪結いを営むおこうです。上方出身で金にはがめついこの人、何故か中村主水が仕置人をしていた過去を知っていました。殺しの仕事を請け負うとおさすり地蔵で主水と話を持っていき、五両のうち仲介料の一両を引いて主水に渡していました。市松の事は知っていましたが、印玄の事は知らなかったらしく、第13話では印玄殺しを引き受けてしまいました。

さて中村主水の表稼業の方も登場人物が増えました。上司は与力の村野(宗方勝己)で規律には厳しくうるさ型で主水を叱責する事が多いのですが、主水の意見をきちんと聞いて動くところもありました。

主水の下っぴきが亀吉(小松政夫)ですが、この人は実はせんに雇われた男で主水の行動をせんに報告しては小遣いをもらっていました。ただそんなに有能とはいえないようでしょっちゅう主水にまかれていました。主水の裏稼業には当然気がついていません。まあギャグ要員ですね。亀吉は後の新・必殺仕置人にも再登場します。

主水が同心の服を脱いで通う飯屋の娘がお初(石原初音)です。かなり主水よりも年下で主水はこの人が目当てでお昼にこの飯屋へ通っています。主水の事は「おじさん」と呼びますが、主水の好意には気づいていないようです。なお石原初音さんは一般公募でこの役に選ばれた人です。これも『影同心』対策だったのでしょう。ただ演技は棒読みでした。

さて最終回「一筆啓上 崩壊が見えた」(脚本:村尾昭、監督:蔵原惟繕)は名作です。市松は睦屋佐兵衛(観世栄夫)の息子を殺しますが、殺しを見られてしまいます。佐兵衛は下手人探しに力を入れ、頼み人の口からおこうの存在がバレてしまいます。それと前後しておこうが中村主水に好意を抱いていたことが判明。おこうは佐兵衛の一味に拉致されてしまい、拷問を受けます。市松と印玄はおこうを救出に向かいます。なんとかおこうを連れ出すことに成功したものの、印玄は佐兵衛の息子の徳太郎(大林丈史)と一緒に屋根から落ちて死亡。そしておこうも「中村はん、この稼業辞めたらあきまへんで。」と言い残して死亡。そして市松は佐兵衛からのタレ込みで奉行所に捕まってしまいます。主水は佐兵衛を殺す事には成功するものの、市松をどうするのか悩み抜きますが、最終的には捨三と協力し、護送の途中で自分が「ヘマをして」市松を逃亡させます。ですが、これが当然問題となり、主水は閑職である牢屋見回りに格下げ。村野は主水を気遣い、慰めます。市松が主水からもらっていたおにぎりを逃亡先で食べると中には小判が。ちょうどその頃、主水は書類を焼き捨てていたのでした。

番組はこのまま『必殺仕業人』へと続くのでした。