必殺仕掛人

必殺シリーズ第1作の必殺仕掛人が放送開始されたのは1972年9月2日(土)。それから50年以上が経とうとしています。それを記念して、阿佐ヶ谷では上映会が開かれています。

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というわけでしばらく必殺シリーズの思い出話を書いていこうかと思います。とはいうものの私が初めて本放送で観たのはおそらく『仕事人大集合』です。ただちょうどその頃、関東地方ではテレビ朝日必殺シリーズの再放送を行なっていました。毎週土曜日の午後の枠、そして一時期に平日16時台で恐らく選抜して行なわれた再放送、さらには当時販売されていた雑誌で旧作の存在を知りました。『必殺仕事人III』以降の作品はいわゆる後期必殺シリーズと呼ばれる作品群になりますが、私の食指は動かず、あまり本放送は観ませんでした。やはり私の好みは前期必殺シリーズと呼ばれる作品です。必殺シリーズの制作が途絶えてから後はCSのSky-A、時代劇専門チャンネルホームドラマチャンネルなどで旧作を観る事ができました。

さて『必殺仕掛人』を初めて観たのは平日16時台の再放送で第14話「掟を破った仕掛人」(脚本:石堂淑朗、監督:大熊邦也)でした。いきなり異色作を最初に観てしまったわけです。その後は、いつ、どういう順番で観たのかは定かではありませんが、全話観る事ができました。

池波正太郎仕掛人梅安シリーズがこのドラマの元になっているのは有名です。池波正太郎が書いた作品を元に書いた話もいくつかあります。この企画を出したのは京都映画の櫻井洋三プロデューサーだったと彼自身が高島都著『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で語っています。

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さて池波正太郎の原作があるとはいえ、ドラマの味付けは原作とは変わっています。西村左内は元々は藤枝梅安の相棒だったわけではなく、『殺しの掟』に登場する人物でした。西村左内も最初は竹脇無我を出そうとしたところ、断られたので林与一になり、藤枝梅安も最初は渡哲也を出そうとしたところ、「ぼくね、悪いんですけど汚れ役ができないんです。ごめんなさい。」と断られて緒形拳になったそうです。どちらも意外な話ですね。緒形拳さんは亡くなるまで『必殺仕掛人』を代表作に挙げていましたから彼以外の藤枝梅安は『必殺仕掛人』では考えられません。

櫻井プロデューサーは「深作欣二三隅研次工藤栄一蔵原惟繕…この4人と『必殺』やれたのは、ほんまによかった。」と高島都著『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』で語っていますが、前半の二名が『必殺仕掛人』からの参加です。松本明さんと大熊邦也さんは朝日放送のディレクターだった人で、朝日放送側からの紹介で参加したそうです。ただTBS映画部の監督もそうでしたが、結構予算を使いがちだったそうで、それで苦労したと櫻井プロデューサーは語っています。

登場人物も魅力的な人ばかり。藤枝梅安(緒形拳)は鍼医者で、貧しい人も場合によってはタダで診てやるような良心的な医者ですが、裏の顔は鍼の技術で知ったツボを一突きして殺したり、動きを封じたりする仕掛人です。裏稼業で得た大金は趣味の食い道楽でパッと使ってしまう享楽的な面も持っています。ただ表稼業も裏稼業もプロ根性は持っていて、第1話では的が辻斬り(実は西村左内)に斬られそうになると「冗談じゃない」と妨害に入る始末。自分の腕で殺さないと気が済まないのです。

西村左内(林与一)はある事件で脱藩(第8話)し、食い詰めて辻斬りをしているところを音羽屋半右衛門に拾われて仕掛人になった人。享楽的な梅安と違って真面目な堅物で、仕掛で得た大金は音羽屋半右衛門の妻のおくらに預けて生活に必要な分だけを受け取っています。家族思いで食事も自分だけ豪華なものになっているとそれを潔しとせず、妻を嗜めて息子に分けてやるという一面も持っています。なので自分が仕掛人であることは家族には隠しており、道場の師範代をしていることにしていました。ただ仕掛人としては未熟なところもあり、的に共鳴して仕事と割り切る梅安と対立することも多々ありました(第19話など)。スケジュールの関係か、終盤はあまり登場しませんでした。

元締は音羽屋半右衛門。この人は昔は仕掛人でしたが、島流しにされた過去があり、そこで知り合ったおくらと夫婦になり、表向きは口入屋を営み、裏では殺しの仕事を引き受けて梅安や左内に仕事を回します。妻のおくらを愛しており、おくらがゆすられた時は事件解決後は「夫婦の間に隠し事はいけないよ」と言ってゆすりとられた金を出したこともありました(第5話)。

密偵は岬の千蔵と櫓の万吉。岬の千蔵は元盗賊ですが血を見るのも嫌いな性格で仕掛人にはなりませんでしたが、伝馬町の牢破りを行なった実績を買われて変則的に仕掛を行なったこともありました(第12話)。

仕掛人以外の人も魅力的です。芸者のおぎん(野川由美子)は元々は的となった悪徳商人の愛人だったのですが、梅安が商人を仕掛てからは芸者になり、梅安と懇ろになります。結構、嫉妬深くて梅安を「お仕置き」することもありました。第24話で「仕掛人を始めた」のですが、その過程で藤枝梅安仕掛人であることを知ってしまったため、梅安が仕掛人であることを忘れさせるために梅安が「忘却のツボ」を刺したところ、梅安のことを全て忘れてしまいました。なので以後は登場しません。

好きな話を選ぶのは難しいですが、第27話「横をむいた仕掛人」(脚本:石堂淑朗、監督:大熊邦也)はぶっ飛んでいて面白かったですね。この話では西村左内は登場しないのですが、京都の隠れキリシタンに布教する神父(大月ウルフ)を殺すはずなのに藤枝梅安が「やめた」と言って逆に助け、結局現地の悪代官(穂積隆信)を殺してしまう、という話です。石堂淑朗さんは第30話「仕掛けに来た死んだ男」(脚本:早坂暁、監督:大熊邦也)ではトド松役で出ていますが、藤枝梅安が針を刺してもなかなか死なず、額を刺してやっと死ぬという役を怪演しています。その作風はトド松の如く自由奔放で『帰ってきたウルトラマン』にも似たような感じの話を書いていたなあと思いました。

結局、取り止めのない記事に終わってしまいましたが、堅物の西村左内と奔放ながらもプロ意識のある藤枝梅安、そして元締音羽屋半右衛門の組み合わせは絶妙だったのはたしかで、次作の『必殺仕置人』制作につながるのでした。