必殺必中仕事屋稼業

この記事では必殺シリーズ第5弾の『必殺必中仕事屋稼業』を取り上げましょう。

この番組は賭博すなわちギャンブルを全面に押し出した作風が特徴です。殺し屋の知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)と政吉(林隆三)は二人とも博打が好きで初めて顔を合わせたのも賭博場。なのでほぼ毎回ギャンブルが登場しました。博打だけではなく闘鶏や富くじ流鏑馬(の勝ち負けを賭ける)、挙げ句の果てにはポーカーまで飛び出しました。

半兵衛は坊主そばと言う蕎麦屋を営む男ですが、内縁の妻お春(中尾ミエ)に任せることも多く、店も博打で手に入れた過去を持ちます。負けることも多いのですが、度胸があり土壇場の勝負運は強いものがあります。得物は口髭の手入れに使うカミソリ。首筋にあて、返り血を浴びないようにするために手拭いをつけて切るのが殺し技です。坊主頭にしたのは博打をやめようと決意した時なのですが、結局やめられなかったのです。元々は殺し屋ではなかったのですが、第1話で起きた事件で嶋屋のおせいが営む裏稼業を知り、おせいを強請った彼の持つ度胸を買われておせいに雇われた経緯があります。

政吉は元は旗本で跡取りとして養子に迎えられた男だったのですが、家を飛び出し、「いかさま師」と名を馳せるようになってしまいました。得物は実の母から託されたという女物の懐剣です。政吉も殺し屋ではなかったのですが、おせいに北町奉行所の与力・三村敬十郎(石橋蓮司)殺しを依頼したみよ(水原麻記)から別口で三村殺しを依頼され、半兵衛と同時に三村を殺した事がきっかけでおせいに雇われます。賭場での喧嘩は慣れているもののそれほど強いわけでもないので半兵衛と二人一組で活動することが多かったです。初めは素人で出先で賭場を見つけて博打に興じるうちに依頼人の一人が殺されてしまうという失態を犯してしまった半兵衛と政吉でしたが、段々と殺し屋としてのプロ根性が目覚めていきます。その成長劇も見どころでした。

さてこの二人を率いる元締が嶋屋のおせい(草笛光子)です。嶋屋は飛脚屋が本業なのですが、亡き夫が清衛門が残した大金を使い弱者のための裏稼業「仕事屋」を始めたのでした。なので依頼主からお金は受け取らない事も多かったのですが、半兵衛と政吉には金を払っていました。実はおせいは政吉の母親で、政吉の使う懐剣もおせいが託したものでした。第1話で政吉が懐剣をしまう様子を観て、おせいはその事に気づきますが、政吉には隠し通します。しかし、第2話で半兵衛はおせいの政吉に対する態度から二人の関係に気づきます。おせいが殺しを行なうことはあまりありませんが、茶の湯で使う柄杓(に武器を仕込んだもの)や簪などで殺しを行なった事がありました。

さて密偵を務めるのは石井ふく子プロデューサーのドラマでもお馴染みだった岡本信人演じる利助です。利助は清衛門の子分だった過去を持つ男で身も軽く、蔵も破る事もできます。正直言って彼の方が半兵衛や政吉よりも役に立ったのではないかと思いますが、半兵衛や政吉とは違って博打には興味はなく真面目な男でした。

さて裏稼業とは関係のないレギュラー陣の話に入りましょう。まず外せないのが半兵衛の内縁の妻のお春です。半兵衛が行なっていた裏稼業の事は知らず博打で店を空ける半兵衛に代わって店を切り盛りしていました。

半兵衛の幼馴染の岡っ引が源五郎(大塚吾郎)です。源五郎は半兵衛に好意を抱き、「半ちゃん」と呼んではおかま言葉で話すのがお約束でした。お春とは仲良くしているのですが、政吉はライバル視して敵意を抱き、追い払おうとする事もしばしばありました。半兵衛にはおかま言葉で話すのですが、岡っ引の仕事の時は普通に乱暴な口調で話すのがお約束でした。まあギャグ要員と言っていいでしょう。

政吉が出入りする飲み屋を営むのがおまき(芹明香)で彼女は長崎帰りのアンニュイな感じの女性です。政吉とは気が合い、情婦のような関係になっています。

殺しの時にかかる曲は大まかには二種類ありました。主題歌「さすらいの唄」のアレンジも使われましたが、よく使われたのはそのB面に収録された「夜空の慕情」のアレンジの方でした。一説には元々は「夜空の慕情」がA面になる予定だったとも言われています。まあ「夜空の慕情」の方が軽快な感じの曲で「さすらいの唄」はバラードなので、殺しの場面で使われるのは「夜空の慕情」の方が多くなったのでしょう。

番組は明るい作風(とは言うものの悪役の行なう悪事も酷薄)が受けて近畿ではそれまでの最高視聴率を記録したのですが、ここで視聴率半減を招く出来事が起きます。それがTBS系列とNET(テレビ朝日)系列のネットチェンジです。必殺シリーズの制作局である朝日放送はTBS系列だったのですが、第14話が放送される1975年4月からNET(テレビ朝日)系列に移る事になったのです。それに伴い、必殺シリーズの放送時間帯は土曜夜10時台から金曜夜10時台へ移動してしまった上にTBSは毎日放送に空いた土曜夜10時台に『影同心』を制作させたのでした。実制作は東映京都です。東映必殺シリーズを研究した結果、中村主水に注目し、同心3人が殺しを行なう番組を制作したのでした。当時はテレビは一家に一台しかない家庭が多い時代。そのため視聴習慣を替える家庭は少なかったので必殺シリーズの視聴率が下がってしまったのでした。しかも金曜夜10時台は和田アキ子がゴッド姉ちゃんとして出ていた『金曜10時!うわさのチャンネル!!』が放送されていました。これも必殺シリーズの視聴率が落ちてしまった要因です。

制作陣は作風を変える事なく第26話まで制作しました。最終話は傑作です。ただ残念ながら視聴率半減の影響は大きく、中村主水が登場しない作品で2クール(26話)以上制作されたのは結果的にこの作品が最後になってしまったのでした。私がこの作品を最初に観たのはテレビ東京の昼間の時代劇再放送枠が最初でしたが、第12話「いろはで勝負」からでした。全話通して見たのはDVDを購入してからです。

最終回は傑作です。前の話でお春は半兵衛の裏稼業を知ってしまいます。半兵衛はカミソリを叩き割って裏稼業をやめることをお春に宣言するのですが、今度は火盗改に裏稼業がばれ、政吉が捕まってしまいました。おせいは取り乱しますが、秘密を守るため、おせいの目の前で政吉は自害。おせいと半兵衛は火盗改を殺して政吉の仇を討ちます。その時、半兵衛が使う得物は政吉が持っていた懐剣で殺しが終わった後、半兵衛はおせいに渡します。おせいは政吉の後を追って自害しようとします。ですが、半兵衛はおせいの自害をとめ、無様に生きていくことを宣言。半兵衛はお春にお金を渡して江戸から逃亡。最後は自分の人相書きを破る半兵衛を映して終わるのでした。

なお、おせいは後に必殺商売人で再登場するのです。