今回はイナズマンF 第20話「蝶とギロチン 花地獄作戦」(脚本:さとうかずゆきと楢岡八郎、監督:前川洋之、擬斗:高橋一俊 (C) 東映、東映エージェンシー)を紹介しましょう。楢岡八郎というのは加藤貢プロデューサーのペンネーム。終盤の話を私は子供の頃の再放送で観た記憶がほとんど残っていないのですが、この話は覚えています。何しろ砂浜でサナギマンが傷ついて流血するのです。でも話の筋は理解できなかったに違いありません。そしてこの話は珍しく、サナギマンの登場時間が長いのです。サナギマンからイナズマンになるという設定を一番活かした話がよりによってこの話なのです。
さて五郎は荒井誠の別荘にいました。砂浜(ロケ地は多分辻堂の辺り)がそばにあり、五郎が幼い頃に住んでいたところでもありました。荒井誠は用事ができたので五郎を起こそうとしたのですが、五郎は起きず、諦めて出て行ってしまいました。すると荒井の悲鳴が。五郎が起きて部屋の外を見ると、なんと荒井が首と胴体が別れた姿で倒れているのが見えました。首からは血まで出ています。五郎が行ってみると実はマネキン。思わず五郎は笑ってしまい、マネキンの首を投げると胴体に当たり、それがスイッチになったのか、テープが再生されました。
荒井誠の声「ごめん、ごめん。ちょっと冗談が過ぎたかな。君の膨れっ面が目に浮かぶが正直言って君の寝起きの悪いのには閉口さ。今朝早く、インターポール本部から連絡が入って俺はヒマラヤへ向かう。人里を遠く離れたこの地を一夜にしておびただしいケシの大群が埋め尽くし、これがデスパーの手にも渡ったら大変な事になる。」
すると画面にこういう字幕が表示され、ナレーターの村越伊知郎が読み上げました。
〝ケシ〟ノ花ハ地上ニ生キル
全テノモノヲ眠リ狂ワセテ
シマウ地獄ノ華デアル
この後、サブタイトルが表示されます。今回行なう作戦は「蝶と花ギロチン作戦」で実行者はギロチンデスパー(声:大宮悌二)。ガイゼル総統にサデスパーが作戦を説明しますが、ギロチンの説明の最中に表示される絵が中々残酷です。フランス革命の頃にギロチンで首が切られる様子を描いているからです。
次に映るのは首と胴体を離された人形が砂浜の波打ち際に置かれている場面。その傍に女(奈良富士子)が倒れていました。彼女の上を赤い蝶がたくさん飛びます。この時点で力込め過ぎているのがよくわかりますが、我慢して観ていきましょう。五郎が気がついたのでしょう。その夜、荒井誠の別荘に女は寝かされていました。そして午前3時。
渡五郎「半日も経つというのに気を失ったままだ。それにしても、どこから流れてきたのだろう。」
すると女がうわ言を言いました。
女「来る。血の臭いのする赤い悪魔が来る。」
突然部屋が暗くなり、入ってきたのはギロチンデスパー。五郎は素早く交わし、明かりをつけて戦闘開始。ギロチンデスパーは頭のギロチンの部分にも右腕の刃にも血糊が付いているというとんでもないデザイン。暴走しすぎです。でも子供の頃は別に恐いとは思いませんでした。
渡五郎「剛力! 将来!」
五郎はサナギマンに変転。すると女は目を覚まし、目だけを動かして様子を伺いました。そして目を閉じました。何かあるようですが
女「恐い。恐い。」
というのみ。サナギマンはギロチンデスパーと戦いましたが最終的には女を庇いました。ギロチンデスパーは何故か襲うのをやめて捨て台詞を吐いて立ち去ったのでした。
サナギマン「何故攻撃しない? 何故攻撃しないんだ、ギロチンデスパー。」
女はしっかり目を覚ましています。
翌朝。ガイゼル総統の御前。小手調べの段階で何もしないで引き上げた事にサデスパーは御立腹。鞭でギロチンデスパーを打ち据えようとしましたが、その鞭はギロチンデスパーの刃で切られてしまいました。この屈辱に怒るサデスパーをガイゼル総統は宥め、
ガイゼル総統「サデスパー、渡五郎とともに花地獄の友を殺すわけには行くまい。」
そして入ってきたのは赤いワンピースのドレスを着た女。ジュディ・オングの『魅せられて』の衣装よりもこちらの方が遥かに早いですし、偶然にもベルサイユという松竹芸能所属の芸人もいますが、そんなのはどうでもよくて、そんな感じの衣装です。蝶をイメージしたのでしょう。
ガイゼル総統「おう。待っていたぞ。花地獄の友よ。行け。今こそ行って赤いケシの花の毒を空一面に振りちらせ。」
赤いドレスを着た女は立ち去りました。
ところ変わって荒井誠の別荘。女は一言も言わずに立ち去ったのです。ギロチンデスパーが襲ってきた理由もわかりません。
渡五郎「まさか、あの娘が。」
場面変わって砂浜の波打ち際には砂の城が作られていました。そのそばに女が座っていました。五郎が駆け寄ると女は立ち去り、砂の城も波で壊されました。そして今度は赤い蝶がたくさん飛ぶ絵が映り、赤い蝶がたくさん飛ぶ場面が映り、その後はガイゼル総統のドアップ。寄って右眼に蝶が写り込むのが見えます。
ガイゼル総統「きれいだ。」
その後は先ほどの砂浜。波が映ります。本当に学生映画のような出来。五郎は女に尋ねましたが女は自分の事を思い出せない様子。女は朝日が爽やかだったので風に吹かれてみたかっただけと出て行った理由を話します。
女「ここ、気に入っちゃった。居てもいいでしょ、このまま。ここはね、とっても懐かしい風の匂いがするのよ。何か思い出せるかもしれない。そう。私が誰かっていう事。遠い昔の事。」
夜になりました。ここから童謡『赤い靴』のメロディーが流れます。女は砂の城を思い出しながら、荒井誠の別荘に置かれた赤い靴を観ていました。その赤い靴は何かといえば
渡五郎「それはね、遠い昔の思い出さ。」
それを聞きながら赤い靴を慈しむ女。砂の城も思い出し、何かを思い出したようですが
女「あっち行ってて。着替えるから。」
五郎は部屋を出ました。
CMが挿入された後、流れるのは赤い蝶が飛ぶ場面。翌朝です。そして赤い蝶が飛ぶ中、砂浜にころがるたくさんの死体。なんと切断された首(実際は砂浜に胴体を埋めたのでしょう)が置かれて、すぐそばには血がたくさん流れています。
五郎が女の部屋に入るとまた女はいません。そこへ荒井誠が血相変えて戻ってきました。
荒井誠「俺がヒマラヤに着いた時にはケシの花畑は全て姿を消してしまっていた。」
渡五郎「え?」
荒井誠「謎の女に操られた超の大群が一夜にしてケシの花粉を運び去ったんだ。」
蝶が花粉を運ぶんですかねえ、というのは瑣末な疑問に過ぎません。
渡五郎「デスパーだ。だとしたらみんなの命が危ない。急ぎましょう。」
渡五郎は荒井誠とともに外へ出ました。よくみると、部屋にあった赤い靴がありません。
さて砂浜にはたくさんの死体が。ギロチンデスパーの仕業です。なんという悪趣味な映像。
渡五郎「やめろ。やめるんだ、ギロチンデスパー。」
ギロチンデスパー「やっと来たか、若造め。血に飢えたギロチンの餌食となって死ね。」
というわけでギロチンデスパー軍団との戦闘開始。戦闘の最中、赤い煙が砂浜の一角から噴き出しました。そして赤いドレスを着た女が登場。五郎に保護された女です。
渡五郎「君は!」
赤い蝶がたくさん飛んできました。蝶が落とす粉(鱗粉ではないようです)により、荒井誠と渡五郎は苦しみます。不敵に笑うギロチンデスパー。
渡五郎「剛力! 将来!」
サナギマンになんとか変転した渡五郎。荒井誠は倒れ込んでしまい、戦闘どころではなく、サナギマンは荒井誠を庇いながら戦います。
サナギマン「荒井さん。」
荒井誠は這々の体で逃げました。さてここからサナギマンとギロチンデスパーの長い戦いが始まります。戦ううちにサナギマンは仰向けに倒れてしまい、腹にギロチンデスパーの刃の直撃を受けました。傷ついて流血するサナギマン。ウデスパーが回転ノコギリで切らせた時は刃がボロボロに溢れてしまったほどサナギマンの皮膚は硬いはず。そのサナギマンが流血するのです。
ギロチンデスパー「俺のギロチンを受けてみろ。」
何度も刃を振り下すギロチンデスパー。サナギマンは避けるのが精一杯。一方、荒井誠はデスパー兵士に襲われていました。なんとか倒しましたが、荒井誠も倒れてしまいました。一度は立ち上がったサナギマンも力尽きて倒れてしまいました。そこへ近づく赤いドレスの女。
サナギマン「焼け付くように熱い。熱過ぎる。これ以上体が痺れたら、俺の命の火も消える。」
サナギマンは気が付きました。女が赤い靴を履いている事を。ここからまた童謡『赤い靴』のメロディーが流れます。
村越伊知郎のナレーション「霞む視界の中にサナギマンは少女の赤い靴を見た。」
サナギマン「そうだ、思い出したぞ。君と会ったのは海も空もまだ青かった頃。悲しい時には海を見た。いじめられても歯を食いしばって堪えていた君がいじらしくって、砂のお城を作って、遊んだもんだ。でもいじめっ子にちっちゃな幸せを壊されてしまった。ある日、一人の背の高い外国人(バート・ヨハンセン)が君を連れて行った。赤い靴だけを残して、それっきり君は帰って来ない。」
そしてサナギマンは気がつきました。
サナギマン「君はあの時のテレサだ!」
テレサはこう言いました。
テレサ「あなた、やっぱり思い出したのね。あれがあたしの父だった。一緒にアメリカに渡った。父は向こうで再婚すると邪魔なあたしを追い出した。あたしはこの世で迷子になって彷徨い流れた。今じゃ地獄の手品師。呪う事さえ覚えてしまった。」
そんなメロドラマの応酬にイラついたギロチンデスパーはこう言いました。
ギロチンデスパー「ええい。何をグズグズしているんだ。この世の別れに極上の甘い香りを吹きかけてやれえ。ええい、面倒だ。俺の必殺技を受けてみろう。」
と叫ぶや否や、サナギマンに向かってジャンプ。そのサナギマンをテレサが庇い、ギロチンデスパーの刃を受けてしまいました。
サナギマンはテレサを傍に置き
微妙に設定が変わっている気がしますが
サナギマン「超力! 将来!」
サナギマンはイナズマンに変転。後の展開は書かなくてもわかるでしょうが、一応、書くと、格闘の末、戦いの場が砂防林の前に移り、
イナズマン「念力キーック!」
を放った後
でギロチンデスパーは倒されました。
戦い終わった後、五郎は寝たままのテレサを抱き上げます。傍には荒井誠が立っています。
テレサはまだ生きていました。
渡五郎「どうして君が。」
テレサ「お説教なら無駄よ。死にかけているみたいなようだから。あたしはまだこの世を恨んでる。あたしはもうダメ。」
渡五郎「違う。悪いのは君じゃない。砂のお城を壊した奴らだ。」
テレサ「あたしは汚れて変わってしまったわ。変わらないのはあなたの優しさだけ。」
渡五郎「そうじゃない。君は命をかけて俺を守ってくれたじゃないか。昔の君に戻ったんだ。」
テレサ「五郎。」
とその時、子供が三人駆け寄りました。テレサはあの頃のいじめっ子を思い出し
テレサが倒れると同時に子供達は走って離れました。テレサの胸にはいつの間にか赤い蝶の飾りのようなものがついていたのでした。実は子供達はデスパー軍団の一員。ガイゼル総統に報告します。
子供達「裏切り者を始末しました。」
サデスパー「海は青かったか?」
子供達「ノー。」
サデスパー「空は青かったか?」
子供達「ノー。」
サデスパー「では人間の未来は?」
子供達「灰色なのでーす。」
サデスパー「デスパーの未来は?」
子供達「明るい光でいっぱいなのでーす。」
この答えにサデスパーは満足し
サデスパー「よーし。実地試験は合格した。すぐさま人の世の姿を脱ぎ捨ててデスパー少年兵士となれ。」
と命じました。こうして少年達は例のガスマスクを被り、デスパー少年兵士となったのでした。
村越伊知郎のナレーション「花地獄作戦は阻止された。恐るべきガイゼルは少年兵士まで誕生させつつある。脆く壊れやすい砂のお城を守ってイナズマンの戦いはさらに続く。」
初号試写を見た、当時の東映社長だった岡田茂が「学生映画なんか作ってるんじゃない!」と叱ったという逸話が事実ではないかと思う出来でした。最後は少年の洗脳で終わりますが、海や空の色が青くないというのは同じく洗脳を扱ったウルトラマンA 第23話「逆転!ゾフィ只今参上」(脚本・監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)で登場したセリフも思い出します。ただ幼かった私は少年兵士が登場することなど覚えていませんでした。サナギマンが傷ついて血を流す映像が強烈だったこともあったのでしょう。
サナギマンを長く出した意図は明白ですが、このような見せ場を毎回設けるのも大変だったのも事実でしょう。なお原作漫画ではサナギマンの姿になることはたったの一回しかありません。心臓を撃たれた風田サブロウが傷を癒すためになる時だけ。サナギマンの設定をうまく活かした話が異色作となってしまうところが、設定の難しさを現しているのかもしれません。