帰ってきたウルトラマン・ウルトラマンA

はじめに

この記事では第2期ウルトラシリーズの作品を取り上げます。

帰ってきたウルトラマン

番組開始までの流れ

白石雅彦著「「怪奇大作戦」の挑戦」では「怪奇大作戦」終了後の円谷プロの事情にも触れていますので簡単に紹介しましょう。

怪奇大作戦」の後番組「妖術武芸帳」が惨敗に終わったのは既に記述していますが、その後番組の企画は円谷プロにも依頼がされていたようです。1969年4月28日に印刷された「特撮怪獣シリーズ 続ウルトラマン」という企画書が存在します。しかし、この頃は怪獣ブームが沈静化していた時期だったため、この企画が実現することはありませんでした。そして「柔道一直線」の大ヒットも影響したのでしょう。面白いことにこの頃は「ミラーマン」の企画書もフジテレビに提出されています。映像化には至りませんでしたが、小学館の「よいこ」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」で漫画が連載されています。ただこの当時のミラーマンのデザインは後に映像化されたものとは大きく違っておりました。2006年に発売された特撮ビデオ「ミラーマンREFLEX」に近いものになっていました。

ただ1969年7月、フジテレビの依頼で「恐怖劇場アンバランス」の制作が決まりました。この作品には上原正三市川森一も参加しています。また後に市川が「仮面ライダー」のスタッフに紹介した滝沢真理も参加しています。そして市川は「コメットさん」などでも組んだ山際永三監督とも組んでいます。ただ、この番組、制作はされたものの、アダルトホラーな番組はスポンサーがつきにくいなどの理由からお蔵入りになってしまいました。放送されたのはそれから約4年後の1973年ですが、深夜枠だったため、本放送を観た人は少なかったのではないかと思います。

さて「恐怖劇場アンバランス」の制作が進んでいた8月、円谷英二がついに倒れます。糖尿病や高血圧を患っていたのですが、鳴門の渦潮を撮影しに行った関西で心臓発作に見舞われたのです。以後、療養生活を余儀なくされ9月からは入院生活に入ります。これを受け、円谷一は11月30日付でTBSを依願退職し、円谷プロの専務取締役に就きました。父の後を継ぐためです。そして翌年の1970年1月25日、円谷英二気管支喘息の発作に伴う狭心症により死去しました。よって以後は円谷一円谷プロ代表取締役となり、円谷プロは新体制となりました。

ただ明るい材料がありました。1969年4月から日本テレビが再放送した「ウルトラマン」が再放送にもかかわらず平均視聴率18%を記録したのです。つまり、ウルトラシリーズの需要があることが証明された格好になりました。1970年にはフジテレビにも「ウルトラマン」を再放送していますが、これも高視聴率をとったそうです。ここで円谷一は「ウルトラファイト」を企画し、9月28日から放送が始まりました。この番組は「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」から格闘シーンを抜き焼きしてTBSの山田二郎アナウンサー(当時)が実況中継するという内容でしたが、それだけではさほど制作本数が稼げないため、怪獣倉庫に保管されていた着ぐるみを使った新撮シーンも制作されました。これはマスコミからは「出がらし商法」と酷評されましたが、子供達には好評でした。怪獣ブームは沈静化したのですが、完全に消え去ったわけではなかったのです。

この流れに乗って作成された企画書が「怪獣特撮シリーズ 帰ってきたウルトラマン」でした。印刷されたのは1970年9月5日。円谷一と橋本洋二との間で進められたものでした。この企画では橋本の要請を受け、「前作にありがちだったモンスターもののパターンからの脱却」「その為のドラマ性の強化」「制作現場の合理化によるスピードアップとローコスト化」が謳われています。こうして1971年2月2日、「帰ってきたウルトラマン」が放送開始されたのでした。放送枠は毎週金曜日19:00 - 19:30でした。当時「柔道一直線」の放送は続いていたため、そのことも関係してかつての放送枠である毎週日曜日19:00 - 19:30の枠は確保できなかったのでしょう。ただこの枠もゴールデンの人気枠でした。制作費は380万円。かつてのウルトラシリーズが538万円だったことを考えると、かなり無理をしているのが伺えますが、このダンピングも功を奏したのでしょう。なお、実際の金額はどうだったまでは知りません。

放送開始

こうして「帰ってきたウルトラマン」は放送を開始しました。メインシナリオライター上原正三。上原は第1話から第7話までを独りで書き上げ、第17話まで17本中13本を執筆しています。金城哲夫が書いた「ウルトラマン」との差別化を図るため、上原と橋本は「帰ってきたウルトラマン」ではスポ根ものの要素も取り入れました。ウルトラマンに変身する郷秀樹はハヤタとは違って未熟で第2話では「よし、ウルトラマンになってやる」と思い上がった結果、ウルトラマンにはなれず、自分が精一杯頑張らないといけないのだ、ということを思い知ります。またハヤタは彼の家族構成は細かく設定されていませんでしたが、郷と坂田兄妹(岸田森演じる健、榊原るみ演じるアキ、そして川口英樹演じる次郎)との交流も描かれました。坂田健は郷の兄貴分というよりはMATの加藤隊長(演じたのは塚本信夫)同様父親代わりのような存在で、アキは郷の恋人、そして次郎は郷の弟代わりのような存在でした。MATでも人間ドラマが強化され、加藤隊長の他、郷のミスを庇う南隊員(池田駿介)、郷と対立する(もっとも第11話の事件をきっかけに和解しますが)岸田隊員(西田健)、郷とほぼ同格の上野隊員(三井恒)、そして男性顔負けの武術の腕を持つ丘隊員(桂木美加)、さらには加藤隊長の後任の伊吹隊長(根上淳)が登場しました。

さて怪獣の描き方も力が入っていました。第1話ではタッコング、ザザーン、アーストロンと3頭の怪獣が登場しました。これは円谷一の意向もあったのでしょうが、上原も怪獣を複数出すのが好きだったのでしょう。第3話でもサドラとデッドンが登場し、ウルトラマンは2頭を相手に戦います。「ウルトラマン」では複数の怪獣と戦うことはありませんでした。ウルトラマンを演じたのは菊池英一。怪獣を主に演じたのは遠矢孝信。怪獣や宇宙人が複数登場するときは当時菊池と遠矢が所属していたJFAのメンバーが演じました。アクションは菊池と遠矢が相談して決めていたそうです。菊池はミニトラも導入してウルトラマンがジャンプしたりするシーンも演じています。遠矢も4本足の怪獣では後ろ足を曲げずに演技するなど冴えたアクションを見せています。

第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」

この頃の怪獣の特徴として強力な怪獣が多数登場したこともあげられます。第4話に登場したキングザウルス3世は初戦でウルトラマンを倒してしまいました。郷はウルトラマンが勝てないなら自分が強くなろうと考えて思い出の地で特訓し、流星キックを会得します。そしてウルトラマンは流星キックでキングザウルス3世のツノを折り、勝利します。続く第5話と第6話ではツインテールグドンが登場。2体とも強力な怪獣でウルトラマンは西新宿で敗れ、アキは重傷をおってしまいます。MATは岸田長官(岸田隊員のオジ)にスパイナーという強力爆弾の使用を迫られます。スパイナーは強力な爆弾ですが、東京で使えば東京が丸ごと焦土とかするとんでもない爆弾でした。上原は東京をあっと一歩で滅ぼしかねない話を堂々と書いたのです。当然、東京都民には避難命令が出されるのですが、坂田健は東京大空襲の体験を加藤隊長に話し、それでも私は重傷のアキを置いて避難する事はできない、だから残る、と宣言します。この話を演出した富田義治は、この場面で原爆投下直後の広島の写真を挿入し、坂田健の心情を強調しています。これに奮起した加藤隊長をはじめとするMATの面々はスパイナーを使わずにツインテールグドンと戦闘を開始。またもウルトラマンは苦戦しますが、MATがツインテールの両目を潰して援護したことがきっかけでツインテールグドンに倒され、ウルトラマングドンを倒し、事件は解決しました。なお富田は東映所属の監督。円谷プロ東宝系列の制作会社でしたが、橋本洋二の要望により参加することになったそうです。富田は「柔道一直線」で上原と組んだこともあり、その活躍が認められたのです。そして面白いことに、この話は後に東宝チャンピオン祭りで上映されました。東映の監督が制作した話が東宝系列の映画館で上映されたのです。

第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」第14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」

さてこれに味をしめたのかどうかはわかりませんが、上原はさらに強力な怪獣を登場させました。それがシーゴラスとシーモンスです。これは雄と雌の夫婦怪獣でシーゴラスは二本足で歩き、シーモンスは4本足で歩きます。この話は最初から東宝チャンピオン祭りで上映されることが決まっていたため、予算も潤沢でした。なのでシーゴラスが起こす津波やらシーゴラスとシーモンスが起こす竜巻といった「天と地の怒り」が描かれ、ウルトラマンやMATは苦戦します。この話ではシーモンスは産卵のため晴海の埋立地にいついてしまい、またも東京は怪獣に占拠されてしまいました。MATはレーザーガンSP-70を開発。シーゴラスとシーモンスに苦戦するウルトラマンを援護し、シーゴラスのツノを破壊することに成功します。2頭はツノを使って竜巻を起こしていたので、これで「天と地の怒り」は発生しなくなり、2頭はほうほうの体で東京から逃げ去ります。おんや。シーゴラスもシーモンスも負傷はしましたが倒されていませんね。ですが、東京の危機は去ったため、物語は無事解決したわけです。なお、この話も富田義治が監督を務めています。特殊技術は佐川和夫で(一部、東宝映画からの流用がありますが)津波ウルトラマンがバリヤで押し返したり竜巻の場面などを巧みに表現しています。

市川森一参上

とまあ、上原主導で脚本が書かれていきましたが、「帰ってきたウルトラマン」の視聴率は初回こそ26.4%を記録したものの徐々に低下していき、第15話「怪獣少年の復讐」(脚本:田口成光、監督:山際永三、特殊技術:高野宏一)では番組最低視聴率の14.3%を記録しています。こうなったのは明白で予算を抑えるために怪獣が出現する舞台をビルなどの建物を用意する必要がある都市部ではなく、山奥や空き地、埋立地と行ったところにしてしまったのです。また、これは上原の責任とは言い切れませんが、強力な怪獣の出現により必然的にウルトラマンが敗れることが多くなってしまい、ウルトラマンがヒーローとしては弱く映ってしまったのもマイナス要因として挙げられるでしょう。このため、橋本洋二は強化策として第18話で市川森一を参加させました。市川は「帰ってきたウルトラマン」のスポ根ドラマやホームドラマには批判的で橋本のテーマ主義にも批判的でした。ですが皮肉にもこれが市川のテーマになっていました。それを橋本は強かに利用したのです。市川が初参戦した第18話「ウルトラセブン参上!」(監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)では坂田兄妹は登場しません。MATの宇宙ステーションが丸ごと宇宙怪獣ベムスターに飲み込まれ、加藤隊長が親友でもあった梶キャプテン(演じたのはクラタ隊長も演じた南廣)の復讐に燃えます。ウルトラマンスペシウム光線ベムスターに吸収されて敗れ、太陽へと飛びます。そしてこう叫びます。

「太陽、この私をもっと強くしてくれ。お前がお前の子である地球を愛しているなら、この私にベムスターと互角に戦える力を与えてくれ!」

市川はスポ根路線も否定し、郷やウルトラマンに特訓などさせませんでした。ところがウルトラマンは太陽に近づきすぎ、太陽の引力にとらわれてしまいました。このままでは流石のウルトラマンも焼死してしまいます。その危機を救うために参上したのがウルトラセブンでした。セブンはウルトラマンを救うとウルトラブレスレットを渡します。

お前にこれを授けよう。ウルトラブレスレットだ!! これさえ身につけておけば、いかなる宇宙怪獣とも互角に戦えるだろう。さあ地球に戻るのだウルトラマン!

そして地球に戻ったウルトラマンベムスターに撃墜された加藤隊長を救います。思わず加藤隊長はこう言います。

ウルトラマンが帰ってきた。

そしてウルトラマンベムスターをウルトラブレスレットで倒したのでした。余談ですが、この話を観た金城哲夫は「太陽の子であるウルトラマンが太陽に殺されかかるとは何事だ!」と憤慨し、市川に電話をかけてきたそうです。

 

閑話休題。市川の参加により「帰ってきたウルトラマン」の作風の幅は広がりました。かつて実相寺昭雄は「ウルトラマン」で飯島敏宏や円谷一が直球を投げたから自分が変化球で勝負できたと話していますが、それと同じ作用が働いたのです。上原と橋本が打ち出したスポ根ドラマとホームドラマを市川が否定する。当然、上原は刺激を受けてそれに対抗する。市川が書いたのは6本だけですが、ウルトラブレスレットの登場や加藤隊長と伊吹隊長の交代劇など重要な話も書いています。この上原と市川の戦い(ただし二人は仲良しであくまでも作風が違っただけです)が功を奏し、第23話「暗黒怪獣 星を吐く!」(脚本は石堂淑朗)から常時20%を超えるようになったのでした。

第33話「怪獣使いと少年

こうして「帰ってきたウルトラマン」は制作が進んでいったのですが、ここで一つの事件が起きます。第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)が問題作となってしまったのです。この話は怪獣ムルチからメイツ星人に救われた少年が宇宙人と疑いをかけられ、襲来した暴徒がメイツ星人を殺害し、結果、ムルチが再び暴れる、という話です。これは差別をテーマにした話ですが、東條昭平の過激な演出が問題視されたのです。私は脚本を読んだことがありますが、上原が書いた脚本は実際の映像よりも抑えた感じで書かれています。映像ではMATの隊員で姿が映るのは郷と伊吹隊長だけですが、脚本では普通に全員登場します。また映像では伊吹隊長は托鉢僧の姿になってムルチとの戦いを放棄しようとした郷を叱咤しますが、脚本では托鉢僧の姿になどなりません。東條昭平がああいう風に変えてしまったのです。最初に制作された映像はさらに過激でメイツ星人は暴徒の竹槍に刺されて死ぬなど、なんの救いもない話でした。流石の橋本洋二もこの話は受け取れないと再撮影を円谷プロに依頼せざるを得なくなりました。

ただ橋本はこういう脚本であることは事前に知ってはいました。それは橋本と上原とで予め打ち合わせがされていたからです。橋本は上原を庇いましたがTBS側はこの作品を問題視し、結果、上原も東條も「帰ってきたウルトラマン」を離れざるを得なくなりました。上原が第4クールを書いていないのはそのためでした。その代わり、橋本は「シルバー仮面」に上原を呼んで脚本を書かせています。

第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」第38話「ウルトラの星 光る時」第51話「ウルトラ5つの誓い」

降板が決まったものの、上原は「帰ってきたウルトラマン」のメインシナリオライターです。そのため、第3クールの最後と最終回を橋本洋二は上原正三に書かせました。第3クールでは坂田アキと坂田健がナックル星人に殺害されるという衝撃の話が描かれましたが、これは坂田アキを演じる榊原るみのスケジュールの関係です。この頃、榊原は「気になる嫁さん」の主役に抜擢されており、第27話を最後に「帰ってきたウルトラマン」には出演していませんでした。そのため、第28話から第36話までは坂田健と坂田次郎は登場するもののアキは出なかったのです。なお第30話「呪いの骨神 オクスター」の脚本(石堂淑朗作)ではオクスターに遭遇した健と次郎の身を案じたアキがMATの制服を借りてMATの隊員とともに現場に駆けつける場面が描かれていたそうです。

 榊原るみの降板は上原にとっては不本意なものでした。上原は郷とアキが結ばれる結末を思い描いていたそうですが、榊原の降板によって、それは不可能になりました。ならばいっそ殺してしまえとなったのかもしれません。最終回では第38話から登場した郷の隣人村野ルミ子が郷と自分との結婚式を夢想する場面が冒頭で描かれますが、上原の願望が入っていたのではないかと私は思います。なお、「帰ってきたウルトラマン」の最高視聴率は第51話で記録した29.5%でした。

ウルトラマンA

市川森一の迷走と子供向け番組からの飛翔

帰ってきたウルトラマン」は「ウルトラマン」ほどの視聴率は残せなかったものの平均視聴率は20%を超えました。そのため、ウルトラシリーズの次回作が企画されました。メインシナリオライター上原正三から市川森一に交代することになりました。企画を考えたのは市川と上原と田口成光の3人なので必ずしも市川独りで決めたわけではありませんが、市川が「ウルトラマンのようなロマン溢れる作品にしたい」と意気込んでいたためか、次回作「ウルトラA」は数々の新機軸が盛り込まれました。一つ目は男性一人で変身するのではなく、男女合体変身。二つ目はレギュラーの悪役異次元人ヤプールの登場。そして3つ目がウルトラ兄弟の設定です。また「帰ってきたウルトラマン」と違って坂田兄妹、特に坂田次郎のように主人公と絡む少年もレギュラーとして(当初は)設定されませんでした。なお当初は「ウルトラA」という題名で主題歌もそれにそって東京一こと円谷一は作詞したのですが、既にマルサンが「ウルトラA」という名の人形を販売していたことが判明したため、「ウルトラマンA」と改題されました。このことはその後の「ウルトラマンA」の迷走を暗示した出来事だったように思います。北斗星司役は高峰圭二、南夕子役は関かおりに決まりました。

こうしてまず市川森一が第1話「輝け! ウルトラ五兄弟」を執筆しましたが、この第1話も制作開始早々、トラブルに見舞われます。まず南夕子役の関かおりが劇団の稽古中に足を骨折し、出演が不能になり、代役として星光子がつくことになりました。この時、第1話と第2話の撮影はある程度済んでいたため、撮り直しを行うことになりました。次にベロクロンは当初は広島県広島市を襲うことになっており、平和の象徴である原爆ドームを破壊する場面も撮影が済んでいましたが、この設定は変更され、広島県福山市を襲う設定に変えられました。変更された理由は定かではありませんが、私は「原爆ドームを破壊する」ことがネックになったのではないかと個人的には思います。市川の試みは早くも挫折したのです。

また「ウルトラマンA」は「帰ってきたウルトラマン」とは違い、市川森一上原正三、そして田口成光が交代で初期の話を書いていましたが、3人が描く話は三者三様で設定の差異が顕著に現れるというマイナス要素を招きました。市川森一は敬虔なクリスチャンでしたから、ウルトラマンAヤプールの戦いを神と悪魔の戦いになぞらえていました。ウルトラマンAは人間の善の心の象徴でヤプールは人間の悪の心の象徴で、人間の心の歪みをヤプールが利用したりエネルギーにしたりしていたのです。これは第4話「3億年超獣出現!」で顕著に描かれています。ヤプールは漫画家久里虫太郎の美川隊員に対する一方的な愛情を利用して侵略をしているのです。ただこうした市川の考えを上原と田口が理解していたとは言い難く、上原ははっきりと、理解できなかった、と述べています。それでも上原は南夕子が主役の第17話「夏の怪奇シリーズ 怪談 ほたるヶ原の鬼女」や北斗と南の絆を描いた第11話「超獣は10人の女?」を書いていましたが、田口に至っては北斗主役で南は変身する時に北斗のそばにやってくる流れの話ばかりを書いていました。

また市川自身も第1話を書いた時点で「ウルトラマンA」を書く意欲を失ってしまったようです。講談社の「ウルトラマン大全集II」での橋本洋二と上原正三を交えた対談の中で、こう証言しています。

市川  「ウルトラマンA」は第一話を書かせてもらいましたけど、その時点でウルトラマンとしての表現のしかたは、僕の中で終焉が起こっていたんです。「ウルトラマンA」の前に、円谷プロの作品ではないけど「シルバー仮面」があったんです。その作品の企画にこめられた哀愁とメルヘンにほれこんだんです。あの世界は最終回がハッピーエンドじゃなくてもいいんですよ。あれは、ある巨大な正義が、ある家族(筆者注:春日兄妹)を追いつめていく話なんですよ。目に見えないものに追いつめられていく現代人の恐怖をひとつの家族におきかえて描いている。「シルバー仮面」で戦いつくしてしまったんです。その後で「ウルトラマンA」の第1話を書いたんですよ。

要するに市川は一種の燃え尽き症候群に陥ってしまったのでしょう。なので「ウルトラマンA」は迷走を始め、市川自身も作品を書く意欲をますます失ってしまい、第14話「銀河に散った5つの星」を書いた後、一旦、降板してしまいました。なお、この話は第13話「死刑! ウルトラ5兄弟」との前後編になっていましたが、第13話は田口成光が書いています。田口との共作は市川から持ちかけられたそうですが、ゴルゴダ星でウルトラ兄弟が集まり、ウルトラ4兄弟が十字架に磔にされたり、地球で超獣バラバが現れるというのは明らかに市川がイエス・キリストが磔にされた場面を元に発想したものです。おそらく田口は前半の大筋を市川に伝えられて脚本を書いたのでしょう。第13話ではウルトラ兄弟は人間のように話し合い、地球を守るために一人ゴルゴダ星を脱出するのを拒否したウルトラマンAウルトラマンがビンタするという場面が描かれています。最近のインタビューでも田口はこれを「いい場面でしょう」と自画自賛しています。ですが、そもそも市川はこうしたスポ根ドラマやホームドラマを嫌っていました。市川の企画意図を田口が理解していなかった証拠です。

その後、市川が去った「ウルトラマンA」の脚本を上原正三はしばらく書いていましたが、彼もまた第22話「復讐鬼ヤプール」を最後に降板します。彼もまた「帰ってきたウルトラマン」でウルトラシリーズを描きつくしてしまったのでしょう。その後、「ウルトラマンタロウ」で2本だけ書いていますがあくまでも助っ人としての参加に止まっています。

その後、ヤプールは続く第23話「逆転! ゾフィ只今参上」を最後に退場。一般的にはヤプールはこれで滅んだことになっていますが、脚本を書いて自ら監督も務めた真船禎はその意見を明確に否定しています。曰く、ヤプールは人間の負の心をエネルギーにした悪魔なのでまた蘇ると。市川の考えを真船禎はきちんと理解していたのです。残念ながら、その真船も別の仕事の関係で第24話を最後に「ウルトラマンA」を降板します。

さらに南夕子も第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」で唐突に「実は月星人だった」と語られ、退場します。これは本当に唐突に決まったようで、理由は未だに定かではありません。私はこの話を初めて観た時、北斗に南の指輪を渡しただけで北斗が一人で変身出来るようになった流れに子供心に納得が行きませんでした。ウルトラマンAは北斗と南の二人に別れているはずだからです。実際、第7話と第8話ではウルトラマンAがエースバリアを使うと南夕子の体力だけが著しく消耗されるという設定が語られていますし、第12話ではサボテンダーの針でウルトラマンAが傷ついた時は北斗だけが怪我をして南に傷の手当をしてもらっています。なので「ウルトラマン」第39話「さらばウルトラマン」のようにゾフィーウルトラマンとハヤタを明確に分離したような流れだったら納得したかもしれません。結局、市川森一が考えた設定はほとんどが番組前半で抹消され、ウルトラ兄弟の設定のみが残ったのでした。

しかし、市川森一は最終回を書くことになりました。これは橋本洋二の要請によるものです。第1話を書いて始めたのだから自分で物語の結末をつけなさい、と。これを市川は快く引き受けました。嬉しかったとも語っています。ですが、番組自体は市川の考えた設定が悉く否定されたものになっていました。ですので、第52話「明日のエースは君だ!」でウルトラマンAは超獣の王ジャンボキングを倒すものの、ヤプールの策謀にはまり地球を去らざるを得なくなるという、ハッピーエンドとは言い難い話になっています。最後にウルトラマンAはこう言って地球を去ります。

「優しさを失わないでくれ。 弱い者をいたわり、互いに助け合い、 どこの国の人達とも友達 になろうとする気持ちを失わないでくれ。 例えその気持ちが何百回裏切られようと。 それが私の最後の願いだ」

この言葉、市川は聖書にある場面から発想したのだろうと語っています。イエスが弟子に「自分たちが何編裏切られたら、何編まで許せばいいですか。」と問われたら、「10回でも100回でも裏切られても赦し続けなければならない」という風に答えたという話が。「何百回裏切られようと」というのが重要です。「ウルトラマンA」は市川森一の思いが何度も裏切られた作品でもあるので、それに対する失望の思いもこもっているようです。なお北斗星司を演じた高峰圭二は当時、自分が演じる北斗星司ではなくウルトラマンA(声は納谷悟朗)がこのセリフをいうことに納得が行かず、スタッフに頼み込んだそうですが、その願いは聞き入れられませんでした。そのため、「ウルトラマンメビウス」にゲスト出演した時に、そのセリフを言う場面を追加してもらったようです。また余談ですが、ジャンボキングの素体になった超獣はマザリュース・ユニタング・カウラ・マザロン人でいずれも市川が一時降板している時に登場した超獣ばかりです。これも市川の皮肉がこもっているような気もします。まあ邪推かもしれませんが。

ウルトラマンA」本来の最終回

さて当初の構想通り、北斗と南がともにヤプールと戦う話が続いていたら、「ウルトラマンA」の最終回はどうなっていたのでしょうか? 生前、市川森一はそれについて語っています。北斗と南は人間として愛し合うことにより、ウルトラマンAという神の力を必要としなくなることに気がつきます。そしてウルトラマンAヤプールも消滅します。愛によって心の弱さを乗り越えることにより、ヤプールウルトラマンAも存在意義を失ったからです。そして北斗と南は結ばれて結婚し、子供を産みます。こういう流れの最終回を観たかったと最初にこの話を聞いた時は思いましたが、残念ながら、それはかないませんでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」と「ウルトラマンA」を取り上げました。今までの記事とは違って「ウルトラマンA」では上原正三についてあまり語りませんでしたが、これは市川森一の作品だからなのでしょうね。実質的には「ウルトラマンA」を最後に市川も上原も円谷プロの作品を離れます。上原は東映を中心に活躍し、市川は大人向けのドラマを中心に活躍していくことになります。次回からは上原のその後の活躍を書いていきます。

 

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