伊吹隊長

はじめに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた、伊吹竜を取り上げます。

設定と描かれたドラマ

伊吹竜の年齢は45歳と設定されています。ヘルメットの番号は加藤同様「1」です。第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)で前任の加藤の口から、伊吹は加藤のニューヨーク本部勤務時代の上官だったと語られています。ですが、着任直前に起きた事件でニューヨーク本部からの転勤が遅れてしまいます。ニューヨーク本部で伊吹が戦った相手は奇しくも日本の夢の島に現れた相手と同種でした。

さて郷にとっては厳しい上司であると同時に温情も見せる上司でもあります。第22話では郷が独断でゴミの山である埋立地の火災を鎮火したことを責めて郷を出動停止にします。実は伊吹はニューヨークで怪獣ゴキネズラ(の同種)と戦っており、ゴキネズラがプラスチックを食料にしていることなども熟知していたのです。郷が酸素を封じて消火した事により、地下にいたゴキネズラの酸素が封じられてしまい、ゴキネズラが地上に姿を表してしまいました。なお、郷も伊吹もMATのメンバーもゴミ処理場職員(うえずみのる)も、これに先立ってピエロ(三谷昇)がゴキネズラに襲われていたことなど知りません。で郷が「この怪獣は俺が殺る」と無断で出撃し、右腕を負傷しても、「階段から転げ落ちたんだろう。」「だからそれでいいじゃないか。私も気をつけるとしよう、MATの階段を駆け上がる時はな。」と言ってそれを咎めませんでした。これに先立ち、日本ではマットアロー2号(黄色い線が入った隊長機)で駆けつけ早々、ゴキネズラを翻弄し、右腕を怪我してウルトラブレスレットが使えず苦戦するウルトラマンを援護し、勝利をもたらす活躍を見せています。なお、これにより、ピエロが救われたことは誰も知りません。

伊吹美奈子

伊吹隊長を語る上で外せないのが第31話「悪魔と天使の間に....」(脚本:市川森一、監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)と第43話「魔神 月に咆える」(脚本:石堂淑朗、監督:筧正典、特殊技術:真野田陽一)に登場する娘の美奈子(大木智子)です。教会に通う美少女でまさに天使のような存在です。その純真無垢な心をゼラン星人に利用され、郷秀樹は窮地に陥ります。第43話では休暇を無理矢理取らされた伊吹と伊吹の妻葉子(本山可久子)と一緒に伊吹の妻の実家がある蓮根湖(御神渡りが劇中で登場することから諏訪湖がモデルでしょう)付近へ向かう車中で、将来はMATの隊員になる、とまるで坂田次郎のようなことを言っています。ただ、石堂が書いた美奈子は市川が書いた美奈子と微妙に性格が違うような気がします。なお余談ですが、第43話で伊吹が娘の話を聞く車中でカーラジオからペギー葉山が歌う「南国土佐を後にして」が流れ、伊吹が楽しそうに思わずリズムを取るシーンがあります。伊吹竜を演じる根上淳の妻はペギー葉山。明らかにスタッフは遊んでいますね。なおペギー葉山は後にウルトラの母の人間体である緑のおばさん(と東光太郎の母)を演じ、ウルトラの母の声も務めています。ファミリー劇場の「ウルトラ情報局」にペギー葉山が出演した時、半分冗談だったのでしょうが、私の方が偉いのよ、と言っていたのをよく覚えております。

さて、伊吹美奈子はあの第38話「ウルトラの星 光る時」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)の冒頭に脚本では登場しています。郷がいなくなり、ウルトラマンがナックル星へ連れ去られたと嘆く次郎を慰めるのです。実は当初、あの第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:大木淳)と第38話は元々は坂田アキと坂田健が死ぬ場面はありませんでした。決定稿が書かれた後、最終稿が書かれ、その時に坂田アキと坂田健が死ぬ場面が付け加えられたのです。そして決定稿では坂田次郎の登場は全くなく、あの前後編はウルトラマンが宇宙人、そしてその宇宙人の操る怪獣と戦って敗れ、それを初代ウルトラマンウルトラセブンが救うという話だったのです。宇宙人の名前もマルチ星人で、第37話前半でウルトラマンが戦うのはシーゴラス、グドンベムスターの3体だったのです。でも完成作を知っている私には、その筋書きだけではあそこまでの傑作にはならなかったのではないかと白石雅彦と荻野友大同様、思います。閑話休題。伊吹美奈子は決定稿にも登場していますが、その場面は最終稿とは違って最後に登場します。伊吹が隊員達を教会へ連れて、美奈子ら聖歌隊が歌うクリスマスキャロルを聴かせるのです。このことから、上原正三市川森一が書いた話をきちんと見ていたことがわかります。

第33話「怪獣使いと少年

これまた伊吹隊長を語る上で外せないのが第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)でしょう。この話で伊吹は托鉢僧の姿になります。上原正三が書いたシナリオでは普通に登場していたことは先述しましたし、郷がシナリオでは「私にはMATという家があり、隊長という父があります。」とは言っていなかったことも触れました。これは東條昭平が、伊吹は郷を見守っている、という設定にしたからです。身勝手な群衆に怒る郷を叱咤するために、東條昭平は伊吹をあの姿にしたのだそうです。

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おわりに

この記事ではMATの2代目隊長を務めた伊吹竜を取り上げました。第4クールの伊吹は郷がウルトラマンであるのを知っていたのではないかという気が私にはしました。もっとも最終話での言動を見る限りではそうではなかったようですが。私には加藤隊長の方が郷の父親のような存在に見えますが、東條昭平の見方はそうではなかったようですね、と改めて思いました。

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