市川森一参上! - 帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021 -

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で市川森一が書いた話を取り上げます。

帰ってきたウルトラマン」の前

さて「帰ってきたウルトラマン」に入る直前、市川は何をしていたのでしょうか。実は上原と共に「仮面ライダー」の企画に参加していました。ですが、橋本洋二に呼ばれて「仮面ライダー」の脚本執筆から引き上げることになり、一本だけ共作という形で参加しただけです。共作することになったのは、自分の代わりに紹介した島田真之が最初に書いた脚本が使い物にならないと阿部征司が判断したためです。なお阿部は市川が島田の師匠に当たるという発言をしていますが、実際は知り合いだっただけのようです。市川は滝川真理も紹介していますが、のちに二人とも東映の特撮作品で活躍します。また「仮面ライダー」のオープニングにある「人間の自由のために」という言葉は市川の発案によるものだそうです。そういえば上原正三も第6話で「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか。」という台詞を書いていますね。つまり、元々、上原と市川は共通点があったわけです。

hirofumitouhei.hatenablog.com

ただ市川自身は上原が打ち出したスポ根ドラマやホームドラマ的要素は嫌っていました。市川は「ウルトラマンの頃に戻りたい」という意見を抱いていました。市川も上原同様、金城哲夫が描いた「ウルトラマン」を意識していたのです。金城とは違うものを敢えて書こうとした上原と、金城とは違うものを否定しようとした市川。方向性は違いますが、二人とも金城哲夫(と円谷一)が打ち出した路線を意識していたのです。

さて「帰ってきたウルトラマン」は第17話までは上原正三がほとんどの脚本を書いていました。市川は同時期、やはり橋本洋二がプロデューサーを務めていた「刑事くん」の脚本を書いていました。で白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で市川はこう証言しています。

『刑事くん』のほうも、アンチヒーローと言いますか、むしろ犯罪というのは、犯罪によって刑事が試されていくというんでしょうか。人間的なものというのがむしろ犯罪者側にあって、それを取り締まっていく側が、絶えず人間的な試練を与えられていくことを、とりあえず念頭において『刑事くん』を書いていましたし、それを書きながらの『帰ってきたウルトラマン』でした。

上原正三がこれだけ『帰ってきたウルトラマン』を書いたというのは、上原正三は、同じ橋本プロデュースの中で『刑事くん』を拒否してきましたからね。その分だけ、『帰ってきたウルトラマン』に専念させられたんだと思います。「ウルトラの星光る時」、これが彼にとって事実上の最終回ですね。

市川森一参上!

とはいうものの、視聴率は高いものではありませんでした。当初20%台半ばだった視聴率は第4話で10%台後半に下降し、以後、中々上昇しませんでした。「帰ってきたウルトラマン」を主に見ていたのは「ウルトラファイト」にも夢中になった小学校低学年層でしたが、彼らの目当てはやはりウルトラマンと怪獣の戦いです。MAT隊員と郷秀樹が対立し、父親のような加藤隊長や坂田健が郷を支えるという人間ドラマの方に興味が行っていたかと、そうではないと思います。またこれは上原の責任ではありませんが、予算削減のため、怪獣が出現するのはセットが安価で済む山岳部が多くなり、画面が地味になってしまったことも要因となったのでしょう。なので2クール目からは岸田が郷秀樹と対立するような話はなくなり、怪獣は東京に現れるようになりました。上原は堂々と東京を破壊する話を書けるようになったわけですが、視聴率は中々上向きませんでした。そこで橋本は市川を「帰ってきたウルトラマン」にも参加させたのです。

市川が書いた話は意外に少なく、次の6本です。

  • 第18話「ウルトラセブン参上!」(監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)
  • 第21話「怪獣チャンネル」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)
  • 第22話「この怪獣は俺が殺る」(監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)
  • 第25話「ふるさと 地球を去る」(監督:富田義治、特殊技術:大木淳)
  • 第27話「この一発で地獄へ行け!」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)
  • 第31話「悪魔と天使の間に....」(監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)

ですが、どれも強烈な印象を残す話です。生前市川は、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」の中で、どの話も鮮明に覚えていると証言しています。

まず第18話はウルトラセブンやウルトラブレスレットが登場するイベント編です。ウルトラセブンの登場は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」の97ページによれば、

ウルトラセブンを出したのは、橋本とのディスカッションの中で、市川森一が出したアイデアだったという。

と書かれていますが、市川自身は同書の268ページでは

ウルトラセブンで殴り込みをかけたらどうか」とか、橋本さんにおだてられたりして、それで僕は「ホームドラマは書けませんよ、スポ根ものは嫌いですよ。それでいいんですね。」というようなことで入ったんだと思います。僕は、ウルトラマンは、よりサイエンティフィクションであるべきだと主張してきましたから、アメリカのテレビ映画みたいなタッチでやりたいというのはありました。多少人間ドラマを入れるにしろ、あまりベタベタしたタッチを入れるのは嫌だ。だから特に「ウルトラセブン参上!」は、怪獣が暴れるだけの話になっちゃったんじゃないでしょうか(笑)。

と証言しており、実際は橋本の方が発案したのではないか、とも受け取れる発言をしています。まあいずれにしろ、橋本に唆されて敢えて「帰ってきたウルトラマン」の基本路線から外れた話を書いたのは間違いありません。かつて「ウルトラマン」でも金城哲夫円谷一や飯島敏宏が築いた基本路線から敢えて外れた話が作られました。実相寺昭雄佐々木守による話です。それは実相寺自身がそう言っています。それにより、「ウルトラマン」の作品の幅がぐっと広がりました。橋本の狙いも作品の幅を広げることにありました。

では市川の作品が金城の作品と同じようなものだったかと言うと、それも違います。それを象徴する逸話が伝えられています。ベムスターに敗れたウルトラマンは自分に力をくれと太陽に近づきますが、太陽に近づきすぎ、太陽の引力圏に入ってしまい、燃え盛る太陽に落ちかけます。幸い、ウルトラマンウルトラセブンに救われますが。これを見た金城哲夫が市川に電話してきて「太陽の子であるウルトラマンが太陽に殺されかけるとは何事だ!」と抗議した、と言う話が伝わっています。金城を否定した上原を否定した市川は金城と同値ではなかったのです。

さて市川は坂田兄妹の出番も大幅に減らしています。第18話、第21話、第25話、そして第31話では全く登場しませんし、第22話はワンシーンに次郎とアキが出るだけ。例外的に第27話は坂田アキにスポットが当てられた話となっていますが、その話は恋敵(郷秀樹)から教わった技を意地で敢えて使わずに敗れたキックボクサーが故郷へ戻る話を描くために登場させたためです。市川はスポ根ドラマを否定するために敢えてこういう話を書いたのです。こうしてみると上原が重用した坂田健の出番がないようですね。

第19話「宇宙から来た透明大怪獣」

さて上原は市川の話もしっかり見ていました。第18話と同時期に書かれたのが第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)です。この話ではMATに憧れる坂田次郎の目の前でMATは宇宙怪獣サータンになすすべもなく敗れ去ります。重傷を負っていた次郎はこの光景を見て症状が悪化。郷は坂田健に弱音を吐きますが、坂田健はこんなことを言っています。

坂田健「お前、MATに入ってダメな男になったな。」

郷秀樹「今度の怪獣は得体の知れない宇宙怪獣です。とても手には負えません。」

坂田健「レーサーがレース中に考えていることは勝利の一字だけだ。もし負けの字を思い浮かべたら、その途端にハンドルは岩のように硬くなり、コーナーでスピンしてしまうだろう。だからレーサーは、たとえビリを走っていても、ゴールまで勝利を信じて走り続けねばならん。(郷が何かを言いかけるが)お前は尻尾を巻くのか。流星号に乗っていれば、たとえスピンしても、お前は勝利のゴールを目指したに違いない。いや、お前はそういう男だった。」

郷秀樹「坂田さん…」

坂田健「次郎の机の上にはねえ、お前の写真が飾ってある。学校に出かける時は、行って参ります、帰って来れば、ただいま、と挨拶する。次郎にとってお前は心の支えだ。夢なんだ。」

こんなことを言われてしまったら

郷秀樹「俺やります。もう一度やってみます。」

と言わざるを得ませんよねえ。まあ地味な話であることは否めませんが、私はこの話は上原が残した佳作だと思います。市川の参加に刺激を受けたわけです。そしてしばらく、上原と市川は交互に話を書いていきます。

市川森一と「帰ってきたウルトラマン

市川は当時を振り返り、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

シリーズのトータルで言えば、『ウルトラセブン』のほうが全体の価値は高いというのがあると思うんですけど、僕個人の評価でいうと『ウルトラセブン』よりも、『帰ってきたウルトラマン』で書いた6本のほうが、ドラマを書いたという気持ちは強いですね。多分、こっちの方が乗って書いたんじゃないでしょうか。

それと監督が一流ですよね。そういう意味も含めて、『帰ってきたウルトラマン』はもう少し再認識されてもいいんですよ。

私もそう思います。少なくとも市川森一が書いた話はそうだと思います。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に市川森一が参加した話について取り上げました。さて「帰ってきたウルトラマン」に参加した脚本家は上原正三市川森一だけではありません。おいおい、他の脚本家についても取り上げていきましょう。ただ私、上原と市川は好きなのですが、そうではない人もおりますので、記事の書き方もそれなりになってしまいます。

adventar.org