東條昭平の暴走

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を取り上げます。

怪獣使いと少年」との出会い

この話を初めて見たのはいつなのかは覚えていません。ただ、最初に見たのは托鉢僧が怪獣ムルチへ向かって走っていく郷を見送るところからだったのは覚えています。なんだか不思議な感じがしました。覚えているのはこれだけです。それから時が経ちました。

「キミがめざす遠い星」との出会い

私は高校生になり、朝日ソノラマから1985年に出版された『24年目の復讐 上原正三シナリオ傑作集』(宇宙船文庫)を神保町の書泉グランデもしくは(今は亡き)書泉ブックマートで購入しました。どちらで買ったかは覚えておりません。これを読んで上原正三が「ウルトラセブン」で書いた「300年間の復讐」の存在を知り、また「怪奇大作戦」での諸作品を読みました。この本に収録されていたのが、第33話「怪獣使いと少年」のシナリオ「キミがめざす遠い星」でした。

「キミがめざす遠い星」は「帰ってきたウルトラマン」の普通の作品だと私は思いました。坂田兄妹は3人とも登場しますし、MATのメンバーも全員、普通に登場します。なので、大学生になった時に(今は亡き)NHK BS2で「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」を観た時、私はシナリオとあまりにも違う映像作品だったので非常に驚きました。その差異については後述しましょう。

東條昭平の監督デビュー

さて第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を観て見ましょう。この話はその前に放送された第32話「落日の決闘」(脚本:千束北男、監督・特殊技術:大木淳)と同時期に作られた話です。大木淳が両作の特殊技術を担当し、本編だけ1本ずつ、大木淳と東條昭平が担当したのです。大木淳は「ウルトラセブン」でも特殊技術を担当していましたが、本編を担当するのはこれが初めて。東條昭平は「帰ってきたウルトラマン」の特撮や本編の助監督を務めていました。なのでウルトラシリーズでは初めて本編監督を担当したわけです。もっとも、東條昭平は「戦え! マイティジャック」で監督を務めた実績があります。東條昭平が監督を務めたのは第7話「来るなら来てみろ!」(脚本:小滝光郎、特殊技術:佐川和夫)と第16話「来訪者を守りぬけ」(脚本:金城哲夫、特殊技術:佐川和夫)の2本。ただ円谷プロ出身の監督によく見られる「素直な監督」(安藤達己談)ではありませんでした。第16話「来訪者を守りぬけ」ではマイティジャックの今井進(山口暁)にモノロン星人がお礼としてプレゼントしたペットを上層部が危険視して射殺し、今井が悲しむという、金城哲夫が脚本に書いていない場面を追加して締めくくっています。脚本を咀嚼して作品を作るという、映像化で大事なことをしていたわけですが、思えば、これが第33話「怪獣使いと少年」での暴走に繋がってしまったのだと思います。

第33話「怪獣使いと少年

話の流れはこんな感じです。

激しい風雨の中、佐久間良少年(二瓶秀哉)が怪獣ムルチに追われていました。それを見かけたメイツ星人はムルチを念動力で地下に封じ込めました。

それから時が経ち、良は河原のボロ小屋に住み着いていました。良は河原で穴を掘っていました。ボロ小屋の中から良を老人(植村謙二郎)が覗いている様子が一瞬映りますが、本当に一瞬なので気づかないかもしれません。ロケ地は東名高速多摩川を渡るところの北側の右岸です。京浜工業地帯の工場から煙が出る様子がここでも後でも何度も流れます。さて良は宇宙人だという噂が流れていました。次郎達が物陰から良を遠巻きに見ています。とそこへボロボロの学ランを着た中学生3人が良のところまでやってきて、いじめ始めました。穴を掘って良を埋めて首だけ出した状態にし、泥水をかけるなどの嫌がらせをしています。それを見かねた郷が止め、調査することにしました。

さてシナリオでは、郷は坂田家を訪れ、坂田健が郷にこう言います。

坂田健「おれが小学校の頃、おれはアメリカ人との合の子にされたことがある。おれがアメリカ兵に道を教えているのを目撃した奴がいいふらしたんだ。坂田は英語がペラペラだ。そういや鼻が高く日本人離れしている。目もどことなく青い…(苦笑する)」

このセリフと前後していたかもしれませんが、例の中学生がまた良をイジメにやってきます。なお、前回、中学生の一人は「真空投げ」で一度宙に飛ばされています。良をいじめた後、これを思い出した中学生は連れてきた犬を消しかけ、襲わせ、自分達は外へ出ます。とその直後、犬は爆発四散したのでした。その様子を一人の托鉢僧が見ていました。この托鉢僧の正体は後でわかります。

良自身の言葉と郷の調査により、良は北海道の江差から行方不明になった父親を探しに来たことが判明します。その報告を聞くのは映像では伊吹隊長ただ一人…ですが、シナリオでは他の隊員もいます。東條昭平がそうしてしまったのです。伊吹は郷も父親がいなかった(これは第3話でも語られる設定です)と言いかけますが、郷はシナリオにはない、こんなセリフを言います。

郷「私にはMATという家があり、隊長という父があります。」

当然、東條昭平が付け足したものです。さて伊吹は父親を探しに来た孤独な少年が言われのない差別で情愛の心を踏み躙られるのは絶対に許せんというようなことを言った後、こう言います。

伊吹「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に剣を握ると、どんな残虐極まりない行為をすることか。」

これも東條昭平が追加したセリフです。伊吹は郷に全てを任せることにしました。で郷があのボロ屋へ行くと、良はいません。どこへ行ったのでしょうか?

雨が降る中、良はパン屋へパンを買いに行ってました。ところがパン屋は噂を気にして売ってくれません。仕方なく帰る良を追いかけ、パン屋の娘がパンを持ってやってきました。

良「同情なんかされたくないな。」
パン屋の娘「同情なんかしてないわ。売ってあげるだけよ。だってうちパン屋だもん。」

実はこのやりとり、シナリオでは良にパンを譲ってあげるのは坂田アキでした。そして、これは榊原るみのスケジュールの都合だったのかもしれませんが、当初、この場面は撮影されていませんでした。後述する理由で追加撮影されたもので、雨が降っているのは偶然なのだそうです。ここでCMに入ります。

さてCMが明けると良は郷がボロ屋の中に入っていることを知りました。ですが、老人金山十郎(植村謙二郎)は良に、郷が良が日本人であると調べ上げていたことなどを話します。そして金山は良と知り合った時の話をします。金山はメイツ星からやってきたメイツ星人でした。多摩川の河原に着陸し、宇宙船を念動力で埋めました。その直後、冒頭で流れた場面に遭遇したのです。メイツ星人は少年を救い、そのまま一緒に暮らしました。金山十郎というのは地球で名乗った名前で京浜工業地帯の工場で働いていました。「私はこのまま、地球に住み着いても良いとさえ思いました。」という金山。さて、シナリオと映像ではこの先のセリフが違います。まずシナリオではこう言います。

金山「私は宇宙人、今の地球では生きていけません。汚れた空気に蝕まれてしまったのです。」

ですが映像ではこう言います。

金山「しかし、秋が来て、枯れ葉が散るように、私の肉体も汚れた空気に蝕まれて、朽ち果てていく。あの車も。あの煙突も。シロアリのように私の肉体を…」

なので良は早く宇宙船を掘り出す必要があったわけです。

というわけで郷は良と穴を掘り出します。良はこの河原に怪獣も念動力で閉じ込められている話をします。とここで街から暴徒がやってきました。立派なスーツらしきものを着ている男(小笠原弘)や寿司屋の主人のような格好をした男(梅津栄)などが竹槍や鎌を手に持っています。さて、シナリオでは、次郎も穴掘りを手伝っていたようですが、映像ではこの場面には登場しません。閑話休題。暴徒は良に襲い掛かります。宇宙人を殺してしまえというのです。郷は良を庇おうとしました。とその時、金山がボロ屋の中から出てきました。シナリオでは郷、次郎、そして良を庇いながら、こう言います。

金山「やめろ、やめろ、お前たちは鬼だ! (と郷をかばって前進する)彼らにまで乱暴するのはやめてくれ、殺すなら私を殺せ!」

ところが映像では杖をついて必死に歩こうとするだけです。衰弱しきっているので、それがやっとなのです。金山は自分の方が宇宙人だと暴徒に打ち明けました。それを聞き

暴徒(梅津栄)「みんな、こいつを生かしとくと何をしでかすかわかんないぞ。何しろ宇宙人だ。」

そして金山は警官が撃った拳銃で射殺されました。ここは結果的にはシナリオ通りに映像化されたのですが、実は最初に映像化された時は暴徒が持つ竹槍でブスリと刺殺されたのです。これは試写時に問題になりました。閑話休題。衝撃を受ける郷、そして良。金山から流れ出た血が、時間が経つと緑色に変わりました。とその時、河原から怪獣ムルチが出現。金山の死により、念動力から解放されたからです。これでは金山が衰弱するのも無理はありませんよね。良を守るために念動力を使い続けていたのです。ムルチは暴徒に襲い掛かりました。口々に怪獣を倒してくれと叫びながら逃げる暴徒を見て郷はこう思います。

郷「勝手なことを言うな。怪獣を誘き出したのはあんた達だ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ。」

郷は動こうとしません。とそこへ托鉢僧がやってきました。その正体は伊吹でした。

托鉢僧「郷、街が大変なことになっているんだぞ…郷、わからんのか。」

それを聞き、郷は突進。托鉢層は笠をあげました。托鉢層は伊吹だったのです。

さて映像では上の通りになっていますが、シナリオでは伊吹は普通にマットジープで現場に駆けつけています。当然、隊員服を着ていたはずですし、他の隊員も一緒だったはずです。

郷はウルトラマンに変身。ここから先の戦いはワンカットで撮影されています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー 〜帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

きくち この回はまだ誰もやってない事をやろうと思って、1カット長回しに挑戦したんです。壊れないタンクは、実は中に壊れないように支え木を入れて補強したんです。雨の中でね。スタジオのギリギリのところまで利用して、ウルトラマンにもセブンにも無かったアクションをワンカットで撮ろうと持ちかけたら、大木監督(大木淳特撮監督)もスタッフも乗ってくれてね。スタジオ一杯にレールをひいて横移動。爆発するのでスーツを着ないで二人で何度も何度もテストをして、雨を降らしていよいよ本番。一回でOKでした。終った瞬間にはスタッフから拍手が出ましたよ。早く帰れるから。(笑)

戦いが終わった後、良は言います。

良「おじさんは死んだんじゃないんだ。メイツ星へ帰ったんだよ。おじさん、僕が着いたら迎えてくれよ。きっとだよ。」

そして良がアナを掘る様子を映しながら、声だけが流れます。

上野「一体、いつまで掘り続けるつもりだろう。」
郷「宇宙船を見つけるまではやめないだろうね。彼は地球にさよならが言いたいんだ。」

これで終わりです。郷と伊吹以外では上野が声だけ出ただけなんですね、この話は。

橋本洋二の怒り

この話、初号試写では大問題になりました。橋本洋二は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」では次の証言を残しています。

東條監督の「怪獣使いと少年」は僕には思い出に残る作品で、試写の時のことも克明に覚えています。その日、局の人間は僕だけで、東條監督と熊(谷健)ちゃんが来てたと思います。見終わってかなり怒った覚えがありますね。それは何故かというと、東條監督の顔が見えてこないからなんですよ。スタッフみんなで、東條監督に良いもの作らせようと思って一所懸命やっているのはわかりましたし、画のしつこさもよく出てたと思うんですけど、肝心の監督が見えてこない、つまり、監督自身が自分の目で見て、自分でイメージした主張というものがどうしても感じられないんです。そういうことを監督に質問したと思うんです。でもあの人は寡黙な人だし、熊ちゃんも何か言おうとして言い出せないでいる風。それでかなり気まずい雰囲気になってしまったんですね。この頃はイベント的なことをやったり新人監督を出したり、確かにシリーズにも余裕が出てきてきていろいろやってみた時だったんです。でもスタッフが乗ってくればそれだけに馴れ合いにならないように注意もしなくちゃならない。それをコントロールするのは〝監督〟です。でもちょっと言いすぎたかなと思って、外出てボーッと空眺めてたのを覚えてます。「あんなに言っちゃったけど良かったかなあ」と思って。そりゃあみんなが一所懸命にやったのはわかりましたから。あとで上原には「なんであんな風になっちゃったんだ?」とは言いましたけど。ホンが悪いなんて全然思っていなかったし言いませんよ。そういう問題ではなかったんですね、僕の気持ちとしては。

東條昭平は脚本を咀嚼して料理したはずなのに、「肝心の監督が見えない」と橋本はなぜ思ったのでしょうか? 私には明確な答えがありませんが、橋本洋二が最初に上原正三との打ち合わせを通して読んだであろうシナリオ「キミがめざす遠い星」と映像になった第33話「怪獣使いと少年」を比べてみるとわかるかもしれません。「キミがめざす遠い星」は普通の話でした。確かに差別がテーマの話です。金山というのは川崎に住む在日朝鮮人在日韓国人がよく使う名前です。なお鶴見には沖縄県民が移住してできた街もあります。それを東條昭平はテレビで放送しづらいレベルまで増幅してしまったのですね。それが橋本洋二が怒った原因であり、追加撮影を命じた理由だと私は思います。この部分を橋本は一番言いたかったのでしょう。

でもスタッフが乗ってくればそれだけに馴れ合いにならないように注意もしなくちゃならない。それをコントロールするのは〝監督〟です。

監督が暴走したわけですから、コントロールできていなかったと橋本は思ったんですね。私も橋本が怒ったのも無理はなかったと思います。

東條昭平が込めたもう一つのテーマ

さて東條昭平はもう一つのテーマをこの作品にこめていました。きくち英一著『ウルトラマンダンディー 〜帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から東條の証言を引用しましょう。

怪獣使いと少年』では、僕の初監督作品ということもあって上原正三さんが民族問題やその他いろんなことを考えて脚本を書いていたんですが、実はその他にも「地球には四季がある、でも宇宙には四季がない」っていうテーマもあるんです。
宇宙には四季がないはずなので宇宙人が地球に来るとしたら、夏はいいかもしれないけど、秋が来ればその変化についていけずに体が朽ち果ててしまうと思うんです。だからあの子供は早くおじちゃんを助けなくちゃだめなんですよ。

だから「怪獣使いと少年」で

金山「しかし、秋が来て、枯れ葉が散るように、私の肉体も汚れた空気に蝕まれて、朽ち果てていく。あの車も。あの煙突も。シロアリのように私の肉体を…」

という場面があったわけなんですね。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を取り上げました。上原正三の訃報でこの話に言及した記事を多数見かけましたが、正直言って、あまりにも悲惨な内容なので私は好きではありません。あと「ウルトラマンレオ」で東條が演出したカーリー星人の話も私は好きではありません。でも東條が後に東映戦隊シリーズも手がけるのはこういう演出のやり方をしていたからだと思います。大木淳は最終的にはプロデューサーに転向しましたが、東條が最後まで演出家として長く活躍したのです。それは東條の暴走があったからなのだと私は思います。

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