イナズマンF 第12話「幻影都市デスパー・シティ」を観た
今回はイナズマンF 第12話「幻影都市デスパー・シティ」(脚本:上原正三、監督:塚田正煕、擬斗:高橋一俊 (C) 東映、東映エージェンシー)を紹介しましょう。この話は東映まんがまつりでも映画館で公開された話で『イナズマンF』を語るファンの間で人気の高い話ですが、私は子供の頃に観た記憶が残っていません。話の内容から明らかなように元ネタはウルトラセブン 第43話「第四惑星の悪夢」(脚本:川崎高と上原正三、監督:実相寺昭雄、特殊技術:高野宏一 (C) 円谷プロ)なのでしょうが、それをきちんと理解したのは大人になってから。子供の頃は難しすぎてわからなかったのかもしれません。
さて冒頭は渡五郎と荒井誠がデスパー軍団の輸送車を襲撃する場面。しかし幌付トラックの積荷は食料品。偽情報だったのではないかと考える荒井誠。とその時、トラックの幌の中から現れたのは
村野ユキ(久万里由香)「連絡したのは私です。」
そして外へ飛び降り
村野ユキ「これはデスパーシティー住民の食糧です。」
視聴者に初めて明かされた「デスパーシティー」という言葉。「何?」と尋ねた荒井でしたが直後に胸を押さえてしまいました。その様子を観て瞬時に
村野ユキ「あなたはサイボーグですね。」
と見抜く村野ユキ。ただものではないようです。そしてどこかの建物の中に移動してユキが荒井の体内を調べると
返ってきた答えは
村野ユキ「この部品は人間がサイボーグ化する時、同時に作られるんです。おそらくデスパー基地にもストックはないものと思われます。」
怒涛の如く入ってきた情報に翻弄される渡五郎と荒井誠。
渡五郎「じゃあ、荒井さんはこのまま?」
村野ユキ「動力回路を直結させれば24時間は生き延びられます。」
渡五郎「24時間、たった?」
荒井誠はこう言って五郎を諭します。
荒井誠「サイボーグだから24時間生きられるんだ。そうだろう?」
続けて荒井誠はユキに尋ねます。
荒井誠「君はさっき、デスパーシティー市民の食糧とか言っていたねえ。」
荒井誠には何か思うところがあるようですが、視聴者にも説明するかのように、ユキがデスパーシティーのことを渡五郎(と荒井誠)に説明してくれます。
村野ユキ「デスパーシティーには5万人の人間が住んでいるんです。」
渡五郎「5万人。」
村野ユキ「私も市民の一人です。」
荒井誠は何かを思い出したようです。
荒井誠「デスパーシティー。いつか聞いた名だ。」
しかし思い出せません。私も年老いていつの間にか人の名前が出てこなくなったり漢字が読めなくなったり書けなくなったりしましたが、そういうわけではもちろんありません。後でわかりますが荒井は記憶を失っていたのです。
村野ユキ「ガイゼルが管理する、恐るべき実験都市なのです。」
荒井誠「恐るべき実験都市? 君もデスパーの幹部じゃないか。それに勲章まで着けている。」
ユキはたしかにそういう格好をしていました。ユキは無言で機械になった上半身を見せました。
荒井誠「私と同じなのか、君も。」
驚く荒井誠。
村野ユキの決意はそこまで固かったのです。当然、渡五郎がイナズマンである事や荒井誠が彼の協力者である事も知っていたのでしょう。
渡五郎「5万人の人間の住むデスパーシティー。とても信じられない事だ。」
さて荒井誠は懐から写真(第2話で渡五郎が拾ったものとは別のもの。しかし父と母と娘の写真)を取り出して
荒井誠「君、こんな親子を見かけなかったかね。」
とユキに尋ねました。
村野ユキ「仲間にきけばわかると思います。」
これを聞き、荒井は決断しました。
荒井誠「頼む。動力回路と直結してくれ。」
それを聞き
渡五郎「荒井さん、俺が行ってくる。」
しかし荒井の決意も固いもの。
荒井誠「いや、私が行きたいんだ。頼む。」
というわけでトラックの積荷に渡五郎と荒井誠は隠れ、ユキがトラックを運転してデスパーシティーへ潜入です。
村越伊知郎のナレーション「デスパーシティーには5万人もの人間がガイゼル総統の実験材料にされているのだ。五郎の血は怒りにたぎった。また荒井誠も24時間しか生きられない命を妻と子の、そしてデスパー都市5万の市民の解放に賭けようとした。」
途中、デスパー兵士がトラックを止め、積荷を点検しようとしましたが
村野ユキ「良いわ。荷物を全部おろして調べてみなさい。その代わり…」
というハッタリブラフ攻撃が効き、無事に通過。トンネル(ロケ地は今の中央大学多摩キャンパスを突っ切る道路)を出ると夜だった筈なのに明るいのです。人工太陽による光です。トラックを降りた渡五郎と荒井誠。
村野ユキ「ここから先は啓介じいさん(鮎川浩)が案内します。」
ユキとは一旦別れ、渡五郎と荒井誠は啓介じいさんの運転する車で町に出ました。啓介じいさんは村野ヨシオ(神ひろし)を二人に引き合わせました。
村野ヨシオ「あなたがイナズマンですね。ようこそ。」
仲間も出てきました。自分達を解放してくれだの、ガイゼルを倒してくれと頼む仲間達。私服に着替えていたユキも出てきました。
村野ヨシオ「姉さん、うまく行ったね。」
村野ユキは荒井誠を促し、皆に例の写真を見せさせました。すると
村野ヨシオ「あ、75号と76号だ。」
村野ユキによれば
村野ユキ「ここでは普通、名前を呼びません。みんな、番号で登録されてるんです。」
とのこと。
荒井誠「場所はどこですか?」
村野ヨシオ「35街区ですよ。」
村野ユキ「間違いないわね。」
村野ヨシオ「ああ。アルバイトで荷物届けた時、みたことがあるよ。」
とその時、少年二人が走って逃げてきました。ユキは渡五郎と荒井誠を中に引き入れて隠れさせました。少年達を追いかけてきたのは後でわかりますがデスパーシティーの市長も務めるサデスパー(声:岩名雅記)。少年はサイボーグになることを拒否して逃げてきたのですが
サデスパー「何にも恐い事はないんだよ。」
と顔のマークを光らせると態度が豹変し
逃げていた少年「行きますよ、サデスパー市長。」
と素直に着いて行ってしまいました。催眠光線にやられたのです。
渡五郎「サデスパー市長。新しい幹部か。」
と視聴者の声を代弁する渡五郎。
村野ユキ「ここでは15歳になるとみんなサイボーグにされてしまうんです。」
荒井誠と渡五郎は35街区へ向かいました。すると75番と書かれた部屋が。中に入ろうとすると荒井の妻の荒井千津子(野口ふみえ)と娘のルミ(土田里美)がデスパー兵士に攫われるのが見えました。慌てて追いかける荒井と五郎。車で拉致されたのですが、うまい具合に車があり、荒井と五郎は追跡します。さてここからロケ地は横浜港へ。走る2台の車。車を運転する荒井誠の記憶が蘇りました。
荒井誠の心の声「思い出したぞ。何年か前の事だ。平和な生活を奪われて俺は家族を連れてこの町から脱出を図ったんだ。」
白黒の映像が流れます。荒井誠はトラックを運転。助手席に千津子とルミが乗っています。デスパー兵士の設置した検問も突破。ロケ地は横浜新港倉庫、赤レンガ倉庫などがあるみなとみらい21地区辺り。しかし車の追跡は続きます。
荒井誠の心の声「デスパーからの脱出は不可能だった。車に追跡装置がつけられていたのだ。」
それに気がついた荒井は千津子とルミを降ろし、自分は囮となって逃げたのです。
荒井誠「気がついた時、私は病院のベッドの上だった。脱出した時の記憶すら失っていたのだ。それをやっと思い出した。やっと会えた。」
車が追いつき、止めるのに成功し、デスパー兵士も倒したのですが、中に載っていたのはマネキン。千津子とルミは偽者だったのです。この時かかる曲は五郎と荒井誠が出会った時にかかっていたハーモニカの曲。この曲は荒井誠のテーマなのでしょう。荒井誠は中に入っていた人形(マネキンではないもの)を手に持ち、呆然とします。ルミに買ってあげたものを思い出したのです。その様子を渡五郎はしばらく見ていましたが
渡五郎「荒井さん」
と肩に手をやりました。とその時、銃声が。荒井は肩を撃ち抜かれ
ボイラーデスパー(声:岸野一彦)「騙されて悔しいか、インターポール。」
怪我した荒井を逃して渡五郎はデスパー軍団と戦闘開始。しばらく戦った後、荒井誠をユキが救出したのを確認。ボイラーデスパーから離れた後、渡五郎は荒井誠やユキ達と合流し、倉庫街に隠れました。
CMが明けるとウデスパー兄弟とボイラーデスパーが登場。啓介じいさんと仲間が二人、連行されました。渡五郎と荒井誠を手引きした疑いがあったからです。ところが村野ユキと村野ヨシオはそのまま。
ウデスパーα「お前達が反乱分子の一部であることはわかっているんだあ。いいか、お前達、正直に言えば死なずに済む。どこへ隠した。」
仲間は白状しません。そこへ村野ヨシオが駆けつけ
村野ヨシオ「彼らは潔白だ。俺が証言する。」
しかし
ウデスパーα「ええい、うるさい。」
とヨシオは突き飛ばされ、最終的には啓介じいさん達は自白せず、銃殺されました。村野ヨシオはそのままです。ウデスパー兄弟達は立ち去りました。その様子を村野ユキがしっかり観ていました。
村野ユキとヨシオは渡五郎と荒井誠のところに戻りました。まずユキはガイゼル総統も主席する幹部会議があることを告げます。他の出席者はウデスパー兄弟、サデスパー、そしてボイラーデスパー。そして
村野ユキ「ウデスパー兄弟は私が引き離します。」
そんなことができるのかと尋ねる五郎に「やってみます」と答えるユキ。ユキの言葉は本物のようです。ですが話はそれで終わりではありません。
村野ヨシオ「そうと決まれば出発だ。」
村野ユキ「待って。出発の前に片づけるものがあるわ。」
それは何か。
村野ユキ「この中に裏切り者がいる。渡さんと荒井さんをデスパーに売り、啓介じいさん達を密告した。」
それは誰か。
村野ヨシオ「まさか。ここにいる者はみんな信用できるよ。」
しかしユキは振り返ってヨシオをじっと見ました。つまり
村野ヨシオ「な、なんだ。俺を疑っているのかよう、姉さん。」
村野ユキはその根拠を述べました。
村野ユキ「啓介じいさんが密告された時、なぜ私は助かったの? まず一番に密告されて良いはずよ。」
村野ヨシオ「だから俺だって言うのか?」
さらに決定的な根拠がありました。
村野ユキ「35街区の75号、75号と言うのは出鱈目だった。」
それを聞き、顔を背けるヨシオ。
村野ユキ「なぜ。なぜ渡さんと荒井さんをデスパーに売ったの? 渡さんは私達の救世主なのよ、ヨシオ。」
ついに観念したヨシオは自白しました。
村野ヨシオ「俺はこのデスパーシティーの外へ行ってみたかったんだ。そのために俺も姉さんのようなバッジを貰いたかったんだ。」
なんという身勝手な理由。皆、無言。その雰囲気に耐えきれなくなったヨシオは更にこんな事を言います。
村野ヨシオ「モルモットみたいな生活は嫌だ。俺だって、人間なんだ。」
もっともらしいことをほざくヨシオにユキはこう反論します。
村野ユキ「自分だけ良ければ、みんなはどうなったって良いっていうの?」
ヨシオは反論できず、最終的にはこう言います。
村野ヨシオ「どうしろって言うんだ、姉さん。俺にどうしろって。」
ユキは答えません。ついにヨシオは拳銃を構えて逃げようとし
村野ヨシオ「俺は嫌だ。嫌だ。死にたくない。」
そしてドアを開けて外へ出て行きました。ユキは銃を持ってヨシオを追いかけ外へ出ました。
渡五郎「待て。待つんだ、ユキさん。」
しかし、ユキはドアを閉めて皆を中に閉じ込め、最終的にはヨシオを射殺しました。五郎達が外へ出た時はヨシオが射殺された後。赤レンガ倉庫でユキはこう言います。
村野ユキ「荒井さん。ダイオードVS3が手に入りました。」
さてどうやって?
荒井誠「どこで?」
村野ユキ「先ほどの少年達のためにデスパーが用意したものです。」
荒井誠は怪訝に思いながら立っているだけ。
村野ユキ「時間がありません。」
ユキは強引にダイオードVS3を荒井誠に渡しました。
村野ユキ「支度してきます。」
そして三人が向かった先は幹部会議が行なわれるところ。ロケ地は横浜市にあるこどもの国の施設です。ここは最終回にも登場します。
村野ユキ「ここにいてください。」
荒井誠「大丈夫かね?」
村野ユキ「頑張ってください。成功を祈ります。」
会議場へ向かうユキを見ながら、荒井と五郎には感じるものがあるようです。村野ユキは思い出していました。啓介じいさんが銃殺される様子を。そしてヨシオを射殺した時の事を。さらにダイオードVS3を荒井誠に渡した時の様子を。流れる涙を拭って会議場に入るユキ。何か決意しているようです。ユキはウデスパーβに耳打ち。そしてユキはウデスパー兄弟の連れ出しに成功。ユキはウデスパー兄弟を乗せてジープを走らせていました。その様子を物陰から見る荒井誠と渡五郎。ユキはジープを止め、ウデスパー兄弟にこう告げました。
村野ユキ「私と一緒に死んで。」
ユキは爆弾でウデスパー兄弟と一緒に自爆。
渡五郎「ユキさん。」
荒井誠は瞬時に悟りました。
爆音を聞き、サデスパーとボイラーデスパーも外へ出てきました。それを見て
荒井誠「許さん!」
飛び出そうとした荒井を止め
渡五郎「荒井さん。」
荒井誠「放せ。」
渡五郎「荒井さん、ここは。」
ユキの死を前にして冷静さを失った荒井を突き飛ばし
渡五郎「剛力! 将来!」
五郎はサナギマンに変転しました。戦うサナギマン。出動するサナギマンを見て冷静さを取り戻したのか、荒井誠は飛び出さず、ショットガンで援護射撃します。
ちなみにこのナレーションが流れたのは『イナズマンF』では初めてにして最後。しばらく攻防が続いた後
サナギマン「超力! 将来!」
そういえばサデスパーと戦うのは初めて。彼はイナズマンの存在を知っていました。まあ当然でしょうね。そしてデスパー兵士を倒した後はボイラーデスパーと戦うイナズマン。荒井誠もデスパー兵士と格闘。意外にもボイラーデスパーはイナズマンの飛び蹴りで倒されました。
ですが、ウデスパー兄弟はサデスパーとガイゼル総統とともに高笑いして登場。生きていたのです。
ガイゼル総統「イナズマン。デスパーを甘く見るではないぞ。」
サデスパー「貴様達は邪魔だ。消えてもらおう。」
サデスパーが怪光線を放ちました。何故か会議場も爆発しました。
さて渡五郎と荒井誠が気がつくと二人は砂浜にうつ伏せに横たわった状態でした。五郎は荒井を起こしました。
荒井誠「ここはどこだ?」
場所は辻堂辺りのような気がします。
渡五郎「デスパーシティーから弾き飛ばされたようですねえ。」
立ち上がりながら荒井誠はこう言いました。
荒井誠「デスパーシティーが存在することは確かだ。」
しばらく海岸を歩く二人でしたが、荒井が人形を見つけました。その人形は
荒井誠「この人形は俺がルミに買ってやったものなんだ。(人形を握りしめ)千津子とルミはきっと生きている。俺は命のある限り、何度でもガイゼルに挑戦するぞ。」
渡五郎は頷きました。荒井誠の言葉は続きます。
荒井誠「俺にダイオードを渡して死んでいったユキさんのためにもな。」
荒井誠に新たな使命が付け加わった瞬間でした。
実を申しますと私は子供の頃にサデスパーを観た記憶が残っていません。合体ウデスパーが倒されてサデスパーが中心になってからは難解な話が増え、私の印象に残らなかったからかもしれません。
この話、村野ユキの行動が上原正三さんの描きたかった事であることは明白ですが、このような生き方はかなり大変なのも事実でしょう。ヨシオの行動はたしかに身勝手ですが彼の犠牲になった啓介じいさんの遺志も継いで荒井誠に命を託すと言うのはかなり大変な行動。ここまで己を律する事が可能なのかどうか。そうでない人が多いから、今のような世の中になったのかもしれません。
さてここで講談社が出版した『スーパー戦隊 Official Mook 20世紀』《1975 秘密戦隊ゴレンジャー》に上原正三さんが生前に寄稿した記事「スーパー戦隊制作の裏舞台 上原正三」の文章を引用しましょう。
『イナズマンF』はだいぶ上向きというか、左翼的な作風でしたね。力を入れたシリーズです。時代が追いついてきたというのも変な表現ですが、この作品で僕が書いたような世の中の動き方とか家族のありようが、最近現実になっているみたいなんです。なんか、突き放すようなことが、日常で起こるようになってしまっているんですね。複雑な心境です。
この話のしばらく後から、話が先鋭化するのがその証拠なのかもしれません。