東條昭平の暴走

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を取り上げます。

怪獣使いと少年」との出会い

この話を初めて見たのはいつなのかは覚えていません。ただ、最初に見たのは托鉢僧が怪獣ムルチへ向かって走っていく郷を見送るところからだったのは覚えています。なんだか不思議な感じがしました。覚えているのはこれだけです。それから時が経ちました。

「キミがめざす遠い星」との出会い

私は高校生になり、朝日ソノラマから1985年に出版された『24年目の復讐 上原正三シナリオ傑作集』(宇宙船文庫)を神保町の書泉グランデもしくは(今は亡き)書泉ブックマートで購入しました。どちらで買ったかは覚えておりません。これを読んで上原正三が「ウルトラセブン」で書いた「300年間の復讐」の存在を知り、また「怪奇大作戦」での諸作品を読みました。この本に収録されていたのが、第33話「怪獣使いと少年」のシナリオ「キミがめざす遠い星」でした。

「キミがめざす遠い星」は「帰ってきたウルトラマン」の普通の作品だと私は思いました。坂田兄妹は3人とも登場しますし、MATのメンバーも全員、普通に登場します。なので、大学生になった時に(今は亡き)NHK BS2で「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」を観た時、私はシナリオとあまりにも違う映像作品だったので非常に驚きました。その差異については後述しましょう。

東條昭平の監督デビュー

さて第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を観て見ましょう。この話はその前に放送された第32話「落日の決闘」(脚本:千束北男、監督・特殊技術:大木淳)と同時期に作られた話です。大木淳が両作の特殊技術を担当し、本編だけ1本ずつ、大木淳と東條昭平が担当したのです。大木淳は「ウルトラセブン」でも特殊技術を担当していましたが、本編を担当するのはこれが初めて。東條昭平は「帰ってきたウルトラマン」の特撮や本編の助監督を務めていました。なのでウルトラシリーズでは初めて本編監督を担当したわけです。もっとも、東條昭平は「戦え! マイティジャック」で監督を務めた実績があります。東條昭平が監督を務めたのは第7話「来るなら来てみろ!」(脚本:小滝光郎、特殊技術:佐川和夫)と第16話「来訪者を守りぬけ」(脚本:金城哲夫、特殊技術:佐川和夫)の2本。ただ円谷プロ出身の監督によく見られる「素直な監督」(安藤達己談)ではありませんでした。第16話「来訪者を守りぬけ」ではマイティジャックの今井進(山口暁)にモノロン星人がお礼としてプレゼントしたペットを上層部が危険視して射殺し、今井が悲しむという、金城哲夫が脚本に書いていない場面を追加して締めくくっています。脚本を咀嚼して作品を作るという、映像化で大事なことをしていたわけですが、思えば、これが第33話「怪獣使いと少年」での暴走に繋がってしまったのだと思います。

第33話「怪獣使いと少年

話の流れはこんな感じです。

激しい風雨の中、佐久間良少年(二瓶秀哉)が怪獣ムルチに追われていました。それを見かけたメイツ星人はムルチを念動力で地下に封じ込めました。

それから時が経ち、良は河原のボロ小屋に住み着いていました。良は河原で穴を掘っていました。ボロ小屋の中から良を老人(植村謙二郎)が覗いている様子が一瞬映りますが、本当に一瞬なので気づかないかもしれません。ロケ地は東名高速多摩川を渡るところの北側の右岸です。京浜工業地帯の工場から煙が出る様子がここでも後でも何度も流れます。さて良は宇宙人だという噂が流れていました。次郎達が物陰から良を遠巻きに見ています。とそこへボロボロの学ランを着た中学生3人が良のところまでやってきて、いじめ始めました。穴を掘って良を埋めて首だけ出した状態にし、泥水をかけるなどの嫌がらせをしています。それを見かねた郷が止め、調査することにしました。

さてシナリオでは、郷は坂田家を訪れ、坂田健が郷にこう言います。

坂田健「おれが小学校の頃、おれはアメリカ人との合の子にされたことがある。おれがアメリカ兵に道を教えているのを目撃した奴がいいふらしたんだ。坂田は英語がペラペラだ。そういや鼻が高く日本人離れしている。目もどことなく青い…(苦笑する)」

このセリフと前後していたかもしれませんが、例の中学生がまた良をイジメにやってきます。なお、前回、中学生の一人は「真空投げ」で一度宙に飛ばされています。良をいじめた後、これを思い出した中学生は連れてきた犬を消しかけ、襲わせ、自分達は外へ出ます。とその直後、犬は爆発四散したのでした。その様子を一人の托鉢僧が見ていました。この托鉢僧の正体は後でわかります。

良自身の言葉と郷の調査により、良は北海道の江差から行方不明になった父親を探しに来たことが判明します。その報告を聞くのは映像では伊吹隊長ただ一人…ですが、シナリオでは他の隊員もいます。東條昭平がそうしてしまったのです。伊吹は郷も父親がいなかった(これは第3話でも語られる設定です)と言いかけますが、郷はシナリオにはない、こんなセリフを言います。

郷「私にはMATという家があり、隊長という父があります。」

当然、東條昭平が付け足したものです。さて伊吹は父親を探しに来た孤独な少年が言われのない差別で情愛の心を踏み躙られるのは絶対に許せんというようなことを言った後、こう言います。

伊吹「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に剣を握ると、どんな残虐極まりない行為をすることか。」

これも東條昭平が追加したセリフです。伊吹は郷に全てを任せることにしました。で郷があのボロ屋へ行くと、良はいません。どこへ行ったのでしょうか?

雨が降る中、良はパン屋へパンを買いに行ってました。ところがパン屋は噂を気にして売ってくれません。仕方なく帰る良を追いかけ、パン屋の娘がパンを持ってやってきました。

良「同情なんかされたくないな。」
パン屋の娘「同情なんかしてないわ。売ってあげるだけよ。だってうちパン屋だもん。」

実はこのやりとり、シナリオでは良にパンを譲ってあげるのは坂田アキでした。そして、これは榊原るみのスケジュールの都合だったのかもしれませんが、当初、この場面は撮影されていませんでした。後述する理由で追加撮影されたもので、雨が降っているのは偶然なのだそうです。ここでCMに入ります。

さてCMが明けると良は郷がボロ屋の中に入っていることを知りました。ですが、老人金山十郎(植村謙二郎)は良に、郷が良が日本人であると調べ上げていたことなどを話します。そして金山は良と知り合った時の話をします。金山はメイツ星からやってきたメイツ星人でした。多摩川の河原に着陸し、宇宙船を念動力で埋めました。その直後、冒頭で流れた場面に遭遇したのです。メイツ星人は少年を救い、そのまま一緒に暮らしました。金山十郎というのは地球で名乗った名前で京浜工業地帯の工場で働いていました。「私はこのまま、地球に住み着いても良いとさえ思いました。」という金山。さて、シナリオと映像ではこの先のセリフが違います。まずシナリオではこう言います。

金山「私は宇宙人、今の地球では生きていけません。汚れた空気に蝕まれてしまったのです。」

ですが映像ではこう言います。

金山「しかし、秋が来て、枯れ葉が散るように、私の肉体も汚れた空気に蝕まれて、朽ち果てていく。あの車も。あの煙突も。シロアリのように私の肉体を…」

なので良は早く宇宙船を掘り出す必要があったわけです。

というわけで郷は良と穴を掘り出します。良はこの河原に怪獣も念動力で閉じ込められている話をします。とここで街から暴徒がやってきました。立派なスーツらしきものを着ている男(小笠原弘)や寿司屋の主人のような格好をした男(梅津栄)などが竹槍や鎌を手に持っています。さて、シナリオでは、次郎も穴掘りを手伝っていたようですが、映像ではこの場面には登場しません。閑話休題。暴徒は良に襲い掛かります。宇宙人を殺してしまえというのです。郷は良を庇おうとしました。とその時、金山がボロ屋の中から出てきました。シナリオでは郷、次郎、そして良を庇いながら、こう言います。

金山「やめろ、やめろ、お前たちは鬼だ! (と郷をかばって前進する)彼らにまで乱暴するのはやめてくれ、殺すなら私を殺せ!」

ところが映像では杖をついて必死に歩こうとするだけです。衰弱しきっているので、それがやっとなのです。金山は自分の方が宇宙人だと暴徒に打ち明けました。それを聞き

暴徒(梅津栄)「みんな、こいつを生かしとくと何をしでかすかわかんないぞ。何しろ宇宙人だ。」

そして金山は警官が撃った拳銃で射殺されました。ここは結果的にはシナリオ通りに映像化されたのですが、実は最初に映像化された時は暴徒が持つ竹槍でブスリと刺殺されたのです。これは試写時に問題になりました。閑話休題。衝撃を受ける郷、そして良。金山から流れ出た血が、時間が経つと緑色に変わりました。とその時、河原から怪獣ムルチが出現。金山の死により、念動力から解放されたからです。これでは金山が衰弱するのも無理はありませんよね。良を守るために念動力を使い続けていたのです。ムルチは暴徒に襲い掛かりました。口々に怪獣を倒してくれと叫びながら逃げる暴徒を見て郷はこう思います。

郷「勝手なことを言うな。怪獣を誘き出したのはあんた達だ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ。」

郷は動こうとしません。とそこへ托鉢僧がやってきました。その正体は伊吹でした。

托鉢僧「郷、街が大変なことになっているんだぞ…郷、わからんのか。」

それを聞き、郷は突進。托鉢層は笠をあげました。托鉢層は伊吹だったのです。

さて映像では上の通りになっていますが、シナリオでは伊吹は普通にマットジープで現場に駆けつけています。当然、隊員服を着ていたはずですし、他の隊員も一緒だったはずです。

郷はウルトラマンに変身。ここから先の戦いはワンカットで撮影されています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー 〜帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

きくち この回はまだ誰もやってない事をやろうと思って、1カット長回しに挑戦したんです。壊れないタンクは、実は中に壊れないように支え木を入れて補強したんです。雨の中でね。スタジオのギリギリのところまで利用して、ウルトラマンにもセブンにも無かったアクションをワンカットで撮ろうと持ちかけたら、大木監督(大木淳特撮監督)もスタッフも乗ってくれてね。スタジオ一杯にレールをひいて横移動。爆発するのでスーツを着ないで二人で何度も何度もテストをして、雨を降らしていよいよ本番。一回でOKでした。終った瞬間にはスタッフから拍手が出ましたよ。早く帰れるから。(笑)

戦いが終わった後、良は言います。

良「おじさんは死んだんじゃないんだ。メイツ星へ帰ったんだよ。おじさん、僕が着いたら迎えてくれよ。きっとだよ。」

そして良がアナを掘る様子を映しながら、声だけが流れます。

上野「一体、いつまで掘り続けるつもりだろう。」
郷「宇宙船を見つけるまではやめないだろうね。彼は地球にさよならが言いたいんだ。」

これで終わりです。郷と伊吹以外では上野が声だけ出ただけなんですね、この話は。

橋本洋二の怒り

この話、初号試写では大問題になりました。橋本洋二は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」では次の証言を残しています。

東條監督の「怪獣使いと少年」は僕には思い出に残る作品で、試写の時のことも克明に覚えています。その日、局の人間は僕だけで、東條監督と熊(谷健)ちゃんが来てたと思います。見終わってかなり怒った覚えがありますね。それは何故かというと、東條監督の顔が見えてこないからなんですよ。スタッフみんなで、東條監督に良いもの作らせようと思って一所懸命やっているのはわかりましたし、画のしつこさもよく出てたと思うんですけど、肝心の監督が見えてこない、つまり、監督自身が自分の目で見て、自分でイメージした主張というものがどうしても感じられないんです。そういうことを監督に質問したと思うんです。でもあの人は寡黙な人だし、熊ちゃんも何か言おうとして言い出せないでいる風。それでかなり気まずい雰囲気になってしまったんですね。この頃はイベント的なことをやったり新人監督を出したり、確かにシリーズにも余裕が出てきてきていろいろやってみた時だったんです。でもスタッフが乗ってくればそれだけに馴れ合いにならないように注意もしなくちゃならない。それをコントロールするのは〝監督〟です。でもちょっと言いすぎたかなと思って、外出てボーッと空眺めてたのを覚えてます。「あんなに言っちゃったけど良かったかなあ」と思って。そりゃあみんなが一所懸命にやったのはわかりましたから。あとで上原には「なんであんな風になっちゃったんだ?」とは言いましたけど。ホンが悪いなんて全然思っていなかったし言いませんよ。そういう問題ではなかったんですね、僕の気持ちとしては。

東條昭平は脚本を咀嚼して料理したはずなのに、「肝心の監督が見えない」と橋本はなぜ思ったのでしょうか? 私には明確な答えがありませんが、橋本洋二が最初に上原正三との打ち合わせを通して読んだであろうシナリオ「キミがめざす遠い星」と映像になった第33話「怪獣使いと少年」を比べてみるとわかるかもしれません。「キミがめざす遠い星」は普通の話でした。確かに差別がテーマの話です。金山というのは川崎に住む在日朝鮮人在日韓国人がよく使う名前です。なお鶴見には沖縄県民が移住してできた街もあります。それを東條昭平はテレビで放送しづらいレベルまで増幅してしまったのですね。それが橋本洋二が怒った原因であり、追加撮影を命じた理由だと私は思います。この部分を橋本は一番言いたかったのでしょう。

でもスタッフが乗ってくればそれだけに馴れ合いにならないように注意もしなくちゃならない。それをコントロールするのは〝監督〟です。

監督が暴走したわけですから、コントロールできていなかったと橋本は思ったんですね。私も橋本が怒ったのも無理はなかったと思います。

東條昭平が込めたもう一つのテーマ

さて東條昭平はもう一つのテーマをこの作品にこめていました。きくち英一著『ウルトラマンダンディー 〜帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から東條の証言を引用しましょう。

怪獣使いと少年』では、僕の初監督作品ということもあって上原正三さんが民族問題やその他いろんなことを考えて脚本を書いていたんですが、実はその他にも「地球には四季がある、でも宇宙には四季がない」っていうテーマもあるんです。
宇宙には四季がないはずなので宇宙人が地球に来るとしたら、夏はいいかもしれないけど、秋が来ればその変化についていけずに体が朽ち果ててしまうと思うんです。だからあの子供は早くおじちゃんを助けなくちゃだめなんですよ。

だから「怪獣使いと少年」で

金山「しかし、秋が来て、枯れ葉が散るように、私の肉体も汚れた空気に蝕まれて、朽ち果てていく。あの車も。あの煙突も。シロアリのように私の肉体を…」

という場面があったわけなんですね。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東條昭平、特殊技術:大木淳)を取り上げました。上原正三の訃報でこの話に言及した記事を多数見かけましたが、正直言って、あまりにも悲惨な内容なので私は好きではありません。あと「ウルトラマンレオ」で東條が演出したカーリー星人の話も私は好きではありません。でも東條が後に東映戦隊シリーズも手がけるのはこういう演出のやり方をしていたからだと思います。大木淳は最終的にはプロデューサーに転向しましたが、東條が最後まで演出家として長く活躍したのです。それは東條の暴走があったからなのだと私は思います。

adventar.org

朱川審が放った光

はじめに

この記事では第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)を取り上げます。

朱川審

さて朱川審とは誰なのでしょうか? 岸田森ペンネームだと本放送当時は紹介され、長い間、私も含め、皆そう思っていました。しかし、そうではありませんでした。実際には第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」は脚本家・山元清多が盟友である岸田のアイデアに基づいて書いたものと判明しています(武井崇著「岸田森 夭折の天才俳優・全仕事」洋泉社、2017年。P74-76。「特撮秘宝 Vol.7」洋泉社、2017年。P180、P207)。私は「特撮秘宝 Vol.7」でこの事を知り、驚きました。山元清多が脚本を書いたドラマで私が思い浮かぶのは「ムー」ムー一族」、「刑事ヨロシク」と言った作品で硬質なSFである第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」とは対極に位置するコメディー(というよりはバラエティー?)ばかりです。ただ岸田森が発想したのは確かなのでしょう。山元は「六月劇場」にもいましたから、そこでの繋がりで岸田が脚本執筆を持ちかけたのです。

第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」

さて第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」を観てみましょう。

世界各地で灯台が消える事件が頻発していました。その原因を坂田健は推測しており、郷に話し、郷はMATのメンバー(岸田、上野、丘)にも話していました。しかし、岸田達は懐疑的で、伊吹隊長の帰還を待ってから動いた方が良い、と郷に忠告していました。ここまでが次郎と郷の様子からわかる話です。なお、伊吹隊長は南を連れて世界防衛組織の世界会議に出て留守でした。

さて郷が休暇をとって坂田家へ向かっている頃、坂田家では健がビニール袋に水を入れてプリズムを作り、原理を説明をしていました。このプリズムを作る場面はシナリオにはなく、山際永三が追加したのだそうです。シナリオでは既にプリズムが作られていて、虹の光を放っていたのだそうです。閑話休題。郷は地図を指差しながら坂田と話します。地図にはバツ印と線が書かれています。そのバツ印を指差しながら郷が言います。

郷「初めが南極で気象観測船、次が南氷洋捕鯨船、それから次々に灯台がやられていく。ここ。ここ。何かが日本を目指しているような気がしてならないんです。」

その頃、伊吹と南の乗るマットアロー1号がマゼラン岬の辺りを飛んでいました。会話の様子から、世界防衛会議はマゼラン岬の事件に関するものだったようです。実は先ほど、郷はマゼラン岬の辺りを指差しています。南が「この辺はもう探し尽くしましたよ。もう手がかりなんか…」とぼやいていましたから、相当長く飛び回っていたんですね。とその時、伊吹は海上に人(エフ・ボサード)がいるのを発見。早速救助しますが、顔は変化し、七色のようになっています。よく考えるとこわい映像ですが、初見の時(小学校低学年の夏休みだったと思いますが)はそこまで感じませんでした。で救助された人は船員だったようですが

船員「白い、白い悪魔…われても、なくなる…白くいなくなる…」

と聞こえましたが、非常に苦しそうです。伊吹と南はMAT本部に連絡し、病院を手配し、病院に運び込みました。

さて次郎がヤカンからコップにお湯を入れたら、コップは割れてしまいました。

健「そりゃそうさ。冷たいものに急に熱を加えれば歪みが起こる。」

初見の際は全く気づきませんでしたが、これも伏線です。さて、次郎の宿題は終わっていません。プリズムの説明は宿題のために坂田健が行なったみたいですね。で次郎はレンズがないことに気がつきましたが、レンズが光を集めて雑誌に火がつき始めるのが映ります。さてシナリオではセルロイドのオモチャが燃えるのですが、これも山際が変更した場面なのでしょう。ここで

健「次郎、兄さん、ここで遠出をしてくる。」

次郎「郷さんと?」

健「うん。二人で。」

次郎「僕も連れてってよー。」

そりゃ、次郎は御不満ですよね。

健「お前は行ったってしょうがないよ。留守番しといてくれ。」

次郎は郷にも連れてってと頼みました。郷はそれには応えず

郷「もし何だったら、僕だけでも…」

一応、次郎の頼みを聞いてあげたんでしょうね。それから、これは後でわかりますが、危険が伴いますからね。しかし健の決意は固かったのです。

健「いや、今度ばかりは行ってみたいんだ。どうしても。」

そりゃあ、自分の出番が減りますからねえ(嘘)。余談ですが、この話は岸田森扮する坂田健の最後の見せ場となってしまいました、結果的に。閑話休題。この時、健は焦げ臭いにおいがするのに気がつきました。レンズのせいで雑誌が燃えてしまったのです。郷があわてて雑誌をどけた後、

健「次郎、光の悪戯だよ。光は生物にとってなくてはならないもんだけど、一箇所に集中すると、こう大きな破壊のエネルギーになる。」

というわけで

ナレーション「郷隊員と坂田の二人は一つの予感に突き動かされて南の海を目指して車を走らせていた。」

実はこのナレーション、微妙に間違っていることが後で発覚しますが、郷も坂田健も視聴者もそれに気がついていません。

で画面変わってマットビハイクルが走っています。思わず郷と坂田が乗っているのではないかと思ってしまいましたが、それは勘違い。

ナレーション「一方、その頃、太平洋上で救助した外国人船員が入院では…」

どう見ても日本人で日本語でうわ言を言っていたような気がしますが、それは瑣末な疑問に過ぎません。というか、後で見返したら、確かに外国人であるエフ・ボサードがキャストされていました。閑話休題。病院で驚愕の事件が起きたのです。病室のドアも窓も閉め切っていたはずなのに、船員が消え去ってしまったのです。いや、正確に言えば、布団をめくったら、パジャマが残っているのが見えました。マットビハイクルに乗ってやってきたのは伊吹と南で岸田は外で警護していました。伊吹と南は船員が急に苦しみ出したという知らせを受けてやってきたのです。さて布団をめくった時、伊吹は「やっぱり」と言っていました。既にそういう事件が起きていたと防衛会議で報告されていたのかもしれません。そして伊吹がパジャマをめくってみると、透明なゴツゴツした塊がありました。拳くらいの大きさです。医者が「透き通った何かの結晶のようですねえ。」と手を伸ばそうとするのを伊吹は遮り、

伊吹「およしなさい。そうっと運んで研究所で分析させます。それまでこの部屋は立ち入り禁止にします。」

南はブラインドを立てて光を遮り、全員外に退避。中であの塊が光を出して点滅しています。

その頃、郷と坂田の車は海岸に到着しました。もう夕暮れ。灯台が見えます。

さてMAT本部(?)では丘が物々しい防護服とゴーグルを着けてシャーレの蓋を開けています。他の隊員は部屋の外に出ています。物々しい警戒ぶりです。

上野「なんだ。何も入っていないじゃないか。」

そう見えました。確かに伊吹はあの物質を入れてきたはずなのですが。伊吹達が議論している、その時、

丘「隊長、部屋の照明を消してみてください。」

部屋の明かりを消してみると

南「あ、発光しているぞ。」

あの結晶はまだあったのです。肉眼に見えなかっただけだったのです。これもよく考えたらこわい場面ですが、幼かった私はあまりこわさを感じませんでした。

丘「初めは結晶としてあったものが、どんどん透明度を増して小さくなっていきます。」

伊吹「消えていく…」

丘「もう物質は完全にありません。全部光に変わって消滅したものと思われます。」

つまり、あの船員は結晶になり光と化してしまったのです。

そして夜になり

健「次郎のやつ、晩飯食ったかな。」

郷「なんとかやっているでしょう。」

健「うん。」

二人あることに気がついていませんでした。ですが

郷「坂田さん」

オーロラが出ました。日本の南側の海、多分太平洋でオーロラが出たんですよ。これだけでも驚きですが、この時、郷と健が乗ってきた車のトランクが何故か開きました。次郎が中に潜り込んでいたのです。で郷と坂田は何も明かりを持っていないのに、次郎は手に懐中電灯を持っています! そして「オーローラー」という女性みたいな叫び声とともに白い大きなものが現れました。

坂田健「やっぱり来たな。俺の推理もバカにしたもんじゃない。」

坂田健はこの大きなものの出現を予期してやって来たのです。あの大きな塊が灯台を光にして吸収してしまいました。

郷「MAT本部へ連絡します。」

郷と坂田健が車へ向かった、その時、郷や健の計算外の事態が起きてしまいました。

次郎「ああ、すごいや。あいつ、光怪獣だ。プリズ魔だ。」

次郎が命名したのですね(違います)。繰り返しますが、次郎は手に懐中電灯を持っています。健はトランクが開いていて、中に落ちていたものを見て、次郎が潜り込んでついて来た事に気がつきました。慌てて次郎を探しに行く健。健の懸念は的中。

プリズ魔「オーローラー」

次郎の懐中電灯に引き寄せられて近づいて来ました。健も郷も次郎がいることに気がつきました。郷は次郎に懐中電灯を投げ捨てるように言いました。そう言われて懐中電灯を投げ捨てる次郎。その途端、懐中電灯はプリズ魔に光と化されて吸い込まれてしまいました。恐ろしや。恐ろしや。

健は「以前やったところ」を痛めてしまいましたが、郷によって何とか車に戻ることが出来ました。そして健は次郎を乗せて車を発進させましたが、うっかり、ヘッドライトをつけてしまいました!

郷「坂田さん、ライトを消して!」

しかし、坂田健は逃げるのに夢中でライトがついていることに気がついていません。当然、プリズ魔が近づいて来ました。そしてついに坂田の車にプリズ魔の魔の手が伸びました(手はついていませんが、意味はわかるでしょう)。この絶体絶命の危機を迎えたところでCM突入です。

さてCM明けてもプリズ魔の魔手はのびています。ついに車は乗り上げて止まってしまいました。絶体絶命の危機。郷は信号弾を撃ってプリズ魔の気をひきます。その狙いは的中しましたが

郷「(プリズ魔に襲われ)うわあああああ。」

郷はウルトラマンに変身します。さてウルトラマンはプリズ魔と戦い、チョップやキックを繰り出しますが、全然歯が立ちません。ここで定番の疑問が起きるでしょう。いつも怪獣に入っている遠矢孝信さんは何をしていたのでしょうか。きくち英一が河崎実にこう明かしています。きくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

きくち プリズ魔ね。これ人間入ってない。遠矢(孝信)は後ろで押しただけでいつもと同じギャラを貰った。(笑)

河崎 後楽園ロケですね。プリズ魔って戦いようのない怪獣ですよね。

きくち これは全面プラスチックでできてましたね。

(中略)

きくち これは遠矢が腰までの長靴履いて水の中に入って押してるんですね、ただひたすら。僕らは「遠矢、見えるよ、見えるよ」なんて言って笑ってた。下からピアノ線で引けばよかったんだけど。

河崎 このシリーズではこのプリズ魔が最強じゃないかな。光のエネルギーを武器とするウルトラマンにとって光を吸収する怪獣の設定はまさに最強でしょう。その姿もベムスターなどとは違って顔や手足は無く物質そのもののイメージが強く、とらえどころのない雰囲気が最終回のゼットンより強そうですね。ウルトラマンも勝つには勝ったが、ずいぶん痛めつけられた。

河崎の意見に同意します。ただ当時河崎も知らなかったであろう事実がありますが、それは後ほど触れましょう。閑話休題ウルトラマンはしばらくプリズ魔と戦っていましたが、ついにプリズ魔はウルトラマンをも吸収しようとしました。最初にいつも流れる音楽が流れたかと思うと、後の「ミラーマン」のオープニングやら後のヤプールがいる異次元の映像やら、ありとあらゆる合成素材が流れまくる中、シルエットのウルトラマンが右往左往と動き回ります。さて、きくち英一と河崎実のお話をきくち英一著『ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜』から引用しましょう。

河崎 ハハハ、きくちさんこれ何やってるんですか。

きくち 踊ってる、バレエやってる。

河崎 どういうリクエストだったんですか?

きくち なにしろ踊ってくれって。動きの激しいやつを。

河崎 どれくらいカメラ回したんですか?

きくち けっこう回したなぁ。ほら、こう寝て、足上げて。

河崎 このバレエみたいなのどんな気持ちでやってるんですか。白鳥の湖かな? (笑)

きくち 気持ちも何も、とにかく踊ってくれって。

閑話休題。しかし、ウルトラマンはプリズ魔に吸収されませんでした。カラータイマーが赤にはなりましたが、なんとか脱出し、両手を合わせて霧状のものを噴射。これはウルトラフロストと書籍で紹介される技ですね。日の出とともにプリズ魔は姿を消しました。ここへやっとマットアロー1号が飛んできました。

坂田健「遅かったな。」

郷「どっちみちマットアローでは歯が立ちませんよ。」

どちらの意見も正しいと思います。

さてMATは早速プリズ魔を倒す作戦を立てます。郷が坂田の推理を説明します。プリズ魔は限りなく凝縮された光が物体化した怪獣で南極の氷山に閉じ込められ、長らくその活動を停止していたが、太陽の黒点が変動した影響で活動を再開したのです。自動車修理工の坂田健がこんな事を思いつくのがある意味すごい気もしますが、そんなのは瑣末な疑問に過ぎません。岸田森(と山元清多)の発想は素晴らしいです。閑話休題。議論が白熱する中

上野「なーるほど、頭を冷やさなければいかんな。」

これを聞いた丘が閃きました。

丘「待って。冷やす?」

これを聞き

伊吹「そうだ。奴は南極の氷の中に閉じ込められていたんだ。」

かくして急激にプリズ魔の周りを冷やして活動を停止させるという冷凍弾作戦が発案されました。余談ですが伊吹は「絶対温度マイナス273度」を作り出さなくてはならないと言っていますが、これは正しくは「絶対零度」でしょう。まあこれも瑣末な指摘に過ぎません。閑話休題

郷「絶対温度。活動を止めるだけじゃダメだ。破壊しなければ。」

というや否や、下田にプリズ魔が出現し灯台が被害に遭ったという連絡が入りました。もはや猶予はありません。

ナレーション「MATの要請によって東京周辺のあらゆる光が消されていった。暗黒の大都会。光怪獣プリズ魔を迎え撃つ捨て身の作戦が用意されていたのだ。」

MATは野球場にプリズ魔を誘き寄せる作戦を実行しました。ロケは後楽園球場で行なわれたように見えますが、セットのミニチュアは大昔にあった東京球場に似ています。とはいうものの今はどちらも現存しないのであくまでも私の印象ですが。これについては後述しましょう。閑話休題。狙い通り、プリズ魔は光を求めて現れました。郷と上野はスタンドの中。伊吹と丘、そして南と岸田が操縦するマットジャイロ2機が飛んでいます。マットジャイロが投下した冷却弾で野球場が冷やされ、プリズ魔は動けません。ですが、冷気が足りないのは否めず、破壊までは至りません。焦る郷の目に、上野が冷気にまかれて苦しむ姿が見えました。

郷「そうだ。こうなったら小さくなって奴の体の中に入り込むんだ。そして中で…」

というわけで郷はウルトラマンに変身。小さくなって中に入り込みました。そしてウルトラマンはプリズ魔の体内でスペシウム光線を発射。なおアップになったウルトラマンの身体中についているものは、きくちによれば雲母だそうです。

伊吹「プリズ魔が苦しんでる。爆発するぞ、危ない。上昇だ。」

慌てて上昇する2機のマットジャイロ。プリズ魔は爆発四散しました。うーむ。次郎がコップにお湯を入れてしまった時と同様、急激に冷やされたプリズ魔の体が急激に温められたため歪みが生じてしまったからです。山際永三恐るべし。次郎がコップにお湯を入れてしまう場面は脚本にはありません。山際が伏線として入れた場面だったのです。閑話休題ウルトラマンも飛んで脱出し、郷に戻りますが、郷はグランドの芝の上で這いつくばりながらこう言います。

郷「俺にとって、俺にとって、ギリギリの賭けだった。」

この場面。初見の際は衝撃を受け、凄いラストだなあ、と私は感動しました。ですが、そう思わない人もいたようで、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではこう書かれています。

ただ、前半から中盤の盛り上がりに比べて、クライマックスからラストにかけての展開が急すぎ、唐突なラストはユニークではあるが、ドラマの幕引きのボリュームを急速に下げすぎてしまった印象が強く残る。

でダメ押しとして

筆者たちの子供時代の印象。

「CMの後、まだ続きがあるかと思ったら終わっていた」(白石雅彦、当時小学5年生)。

「来週続きがあると思ったら、別の話だった」(荻野友大、当時小学2年生)。

とまで書かれています。まあ感性が私と違う人がいるのは仕方がありませんよねえ。

プリズ魔のデザイン

さてプリズ魔のデザインは井口昭彦が担当しましたが、実は米谷佳晃も検討用にデザインをしています。米谷佳晃著『華麗なる円谷特撮デザインの世界 ミラーマンジャンボーグA 米谷佳晃デザインワークス 1971〜1973』44ページにそのデザインが載っていますが、実際に映像と使われたものとは違って顔や足のある怪獣然としたものでした。ただモチーフであるプリズムを意識したのか、水晶のような形をした硬質なものが身体中から生えていました。ハリネズミが二本足で立ち上がり、腹にも背中にも水晶のようなものが生えているイメージと言えば伝わるでしょうか? シナリオでは「2本足の怪獣」と表現されていたプリズ魔ですから、これはシナリオに即して創られたと言えますが、完成作でのプリズ魔に馴染んでいた私には、このデザインのプリズ魔がウルトラマンと戦う映像を思い浮かべることは難しいです。こちらが採用されたら、かなり作品の雰囲気が変わったのは間違いありません。遠矢孝信さんが中に入って戦ったでしょうねえ、いや、作品自体の雰囲気が大きく変わったに違いありません。

坂田アキ

さて完成作では坂田アキは出ません。これは演じる榊原るみが「気になる嫁さん」のヒロインに起用されたため出られなくなったという、スケジュールの都合なのです。坂田アキは第27話を最後に第3クールでは登場しないようになります。第27話の次に登場したのが、坂田アキが衝撃の最期を遂げるあの第37話です。

で準備稿では坂田アキが登場していました。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から、その場面を引用しましょう。

坂田「お前の休みを利用して、少し遠出のドライブとしゃれこむか。(中略・アキに)郷と二人で行くよ。」

アキ「そう。(快活を装って)いいわ、行ってきても。(出ていく)」

郷「坂田さん、そうまでして…」

坂田「感じるんだ、妙に。行ってくれ、確信はないが…」

なんと。前半で坂田が郷と行く割を食うのは次郎ではなくてアキだったのですね。アキと次郎とでは当然場面の意味が変わります。準備稿ではさらにこんな場面が用意されていたのです。調理場でのやりとりを白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」から引用しましょう。

アキ「玉ねぎ奴、目にしみるったらたまらないわ。腕によりをかけてんだから、食べてってね。」

郷「もちろんだよ。そう聞いたとたん。腹の奴グーグー鳴きはじめた。」

アキ「どらどら!」

アキ、ふざけて郷の腹に耳をつけてみる。

でこの話は元々は第28話に予定されていたシナリオだそうです。第35話まで延びてしまったのは決戦が野球場で行なわれたからでしょうね、白石雅彦と荻野友大が書いている通り。第28話は10月15日に放送されていますから、撮影時、まだV9時代のプロ野球日本シリーズに入っていなかったはずです。奇しくも山際永三監督の作品の「ウルトラ特攻大作戦」が放送されています。

決戦が行なわれた野球場

さて決戦が行なわれた野球場ですが、私も河崎実と同様、後楽園球場だと思っていました。というのは当時はV9時代で東京読売巨人軍が強かった上に、最近まで巨人戦の中継が頻繁に行なわれていたため、野球と言えば巨人、そして巨人の本拠地の後楽園球場というイメージが強かったからです。また後楽園ゆうえんちでショーが行なわれた関係で東映作品では後楽園球場でロケされていた事が多く、それも影響したことは否めません。

ところが、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で佐川和夫がこう証言しています。

かなりハーフミラーで現場合成しています。この頃ロッテが、2年くらいしか使わなかった球場があったんですよ(東京スタジアム、南千住にあった)。その年の最終の試合に、試合が終わってお客さんが出るまでライトを消さないでもらっておいて撮影した覚えがありますよ。球場なんかライト当てられないじゃないですか。コダックが商品化テストで作った高感度フィルムを使って、増感(現像時間を2倍にする)してやって撮ったんですよ。でも半分はセットを作ったはずですよ。

編集の時、山極監督、いつ合成したの? って言ってましたね。だって現場で合成しているから(笑)。

光がワーッと当たると、それがスーッとなくなっちゃうとか、復活するとかいう話じゃなかったかなあ? 光線とかいろんな光をハーフミラー合成したというのが多いんじゃないですか?

なるほど。実際は東京スタジアムで撮影されたのですね。私の思い込みでした。

おわりに

この記事では第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」(脚本:朱川審、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)を取り上げました。初見の際はこの記事に書いたことなどほとんど知らずに観て楽しんでいました。色々と面白い事情があったのだなあと改めて思いました。

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伊上勝の紙芝居

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第9話「怪獣島SOS」(監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)と第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)の脚本を担当した伊上勝を取り上げます。

略歴

伊上勝は1931年7月14日。群馬県出身で群馬県立高崎高等学校を卒業後、明治大学に進学。文学部でフランス文学を専攻し、27歳で卒業。宣弘社に入社します。遅咲きだったんですねえ。さて宣弘社の本業は広告代理店でしたが「月光仮面」などのテレビ番組も制作していました。伊上も宣弘社の作品で脚本を書くようになり、後に「ウルトラQ」の放送枠になるタケダアワーで放送された「隠密剣士」も書いています。もっとも私は宣弘社時代の伊上勝作品を観たことは全くありません。

1965年に宣弘社を退職し、フリーの脚本家になります。1966年には「悪魔くん」の脚本を担当。ここで平山亨と出会います。元々平山は「隠密剣士」を観て伊上勝に興味を抱いており、朝日ソノラマ編集長の坂本一郎に伊上の紹介を要望し起用したそうです。以後は平山亨がプロデューサーを務める作品を執筆します。私には東映作品のイメージが強いです。

参加の経緯

実を言うと、私は伊上勝が参加した経緯を明確には知りません。ただ伊上勝は「柔道一直線」の前番組「妖術武芸帳」の脚本13本を全て執筆していました。その関係で橋本洋二と知り合ったのでしょう。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での田口成光の証言を紹介しましょう。

伊上勝さんは違う血を入れようと言うことで最初に入ったと思いますけど、苦戦してましたねえ。一さんがOKしても橋本さんがNGってことも多かったです。当時の伊上さんにそんなことできるのは橋本さんだけだったんですけど、自由奔放にパアッと書く人だから、話が打ち合わせ段階とどんどん変わって行っちゃったりするんですよ(笑)。僕の知り合いで伊上さんの原稿取りに行って朝一本、昼一本、夜一本なんてことがあったとかも聞きましたけど(笑)。もっともあの頃の30分ドラマというのは100メートル走みたいなもので、とにかく一息でパーッと書けって言われてましたからね。佐々木守さんも30分ものは3時間で書いていたようですよ。

まあ同時期に伊上勝がタケダアワーの「ガッツジュン」も担当したことから考えると「帰ってきたウルトラマン」に伊上勝を加入させたのは橋本洋二の意向だった可能性が高いと思います。なんとなくですが、金城哲夫と四つに組もうとしたように、伊上勝とも四つに組みたかったのだろうと思います。

ただ田口が指摘している通り、橋本洋二のテーマ主義に伊上勝がピタリとはまっていたとは言い難いと思います。伊上勝が書いていた東映作品を思い浮かべてみましょう。伊上勝の息子で同じく脚本家の井上敏樹は、伊上のシナリオはシーンの繋がりを考慮せず美味しい場面を羅列した「紙芝居的」な作風と評しており、紙芝居を作っていた時の手法のまま執筆していたのではないかと推測しています。で私も井上のその意見を読んだ時、その指摘は正しいと手を叩きました。本当に紙芝居のような作風だからです。

例えば佐々木剛演じる一文字隼人が初登場した「仮面ライダー」第14話「魔人サボテグロンの襲来」を思い出して見ましょう。一文字隼人は藤岡弘、が撮影中の事故で重傷を負って出演不能、と言うよりは俳優生命自体も危機に陥っていたために急遽登場したキャラクターです。スタッフは藤岡弘、演じる本郷猛を殺してしまおう、と言い、実際、石ノ森章太郎が描いた原作漫画では本郷猛は11人の仮面ライダーに襲われて怪我だらけになって肉体を失い、脳だけの姿になってしまいます。ですが子供の夢を壊したくないという平山亨の意見で本郷猛を殺す案は亡くなり、代わりに一文字隼人が登場することになったのです。そのような事情があったとは言え、伊上勝は一文字隼人に、本郷はショッカーを追ってヨーロッパへ行った、緑川ルリ子も後を追った、自分が日本を守る、とセリフで言わせただけで、この交代劇を描いているのです。この話を物心がついて「初めて」観た時、私は唖然としたのを覚えています。これって手抜きじゃないの? 似たような指摘は毎日放送からもされていたのだそうです。

ですが、伊上勝の書く話が面白かったのも確かです。「仮面ライダー」を思い出してください。ストーリーらしいストーリーなんてないでしょう。ただ仮面ライダー(本郷猛・一文字隼人)とショッカー(またはゲルショッカー)との戦いを描いているだけです。面白い場面が紙芝居のようにパッパと並び、しかもテンポ良く次々と変わっていくんです。これは伊上勝がメインになったから得られた作劇だったと私は思います。当初の予定通り、上原正三市川森一も参加していたら、後の「シルバー仮面」のような作品になっていたかもしれません。もしくは旧1号編のような話がずっと並んだ事でしょう。「仮面ライダー」のヒットは2号が作ったようなものですから、確実に時代は変わったに違いありません。

幻の第3話「呪われた怪獣伝説〝キングザウルス三世〟」

前置きが長くなってしまいました。話を「帰ってきたウルトラマン」に戻しましょう。さて伊上勝の初登板は第9話ですが、実はその前に第3話の予定で脚本を書いています。その名は「呪われた怪獣伝説〝キングザウルス三世〟」です。この怪獣の名前に聞き覚えがあるでしょう。そう。キングザウルス3世は元々伊上勝が書いた脚本に登場する怪獣だったのです。私はキングザウルス3世が元々伊上勝の書いた脚本に登場する怪獣だったことは知っていましたが、その詳細…と言えるものを知ったのはつい最近、白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」を読んでからです。と言うわけで同書から引用しましょう。

脚本は、宣弘社や東映作品でお馴染みの伊上勝で、準備稿の印刷は二月一日。伊上は本作品が、『帰ってきたウルトラマン』初登板だった。本作品に登場するキングザウルス三世は、ト書きに〝長く首を伸ばしたザウルス三世〟とあることから、池谷仙克が番組制作に先んじてデザインしていた四足歩行タイプの怪獣を念頭において執筆されたことは間違いない。骨格標本から甦ったキングザウルス三世は、アトランティスを滅ぼしたと言われる怪獣で、人語を解し、バリア(脚本表記は電磁防御網)を張り身を守ることが出来るという強烈なキャラクター性を持っていた。その意味ではシリーズ初期を飾るにふさわしいインパクトを持った怪獣だったが、内容はキングザウルス三世を意のままに操ろうとする茜博士を描く、典型的なマッドサイエンティストもので、『帰ってきたウルトラマン』初期のフォーマットには収まりにくい脚本だった。

なるほど。これは「一さんがOKしても橋本さんがNG」となりそうな話ですね。残念ながら私の知識もこれ以上はありませんが、それはとにかく、この脚本は準備稿でキャンセルとなり、怪獣のデザインが既に決まっていた関係で、上原正三が第4話「必殺! 流星キック」を書いたのでした。伊上勝は多忙だったこともあり、第9話を書いた後、「帰ってきたウルトラマン」からは一旦離れたようです。

第49話「宇宙戦士 その名はMAT」

ですが、終盤に突如伊上勝の脚本が映像化されます。この話はミステラー星人の戦闘隊の「エース」(人間態は村上不二雄、スーツアクターは斎藤忠治)が戦いに疲れ果てて娘(人間態は古屋まゆみ)を連れて地球へ逃亡、安らかに暮らしていたところを、MATやウルトラマン目当てに戦闘員を補充しに地球へやって来たミステラー星人の「戦闘隊長」(人間態は森本景武、スーツアクターは遠矢孝信)に見つかり、娘を「人質」にすると脅されて渋々協力させられる、と言うのが大筋です。

この話、白石雅彦が「『帰ってきたウルトラマン』の復活」で指摘した通り、「隠密剣士」第6部6話「忍者変幻黒風斉」や「仮面の忍者赤影」第1部10話「怪忍者黒蝙蝠」で使われた、抜忍物のストーリーを流用したことは間違いないでしょう。忍者を脱走兵に置き換えたわけです。この説を私も支持します。というか、このプロットは後に「変身忍者 嵐」でも「忍者キャプター」でも使われているからです。また「仮面ライダーV3」第15話「ライダーV3 死の弱点!!」(監督:塚田正煕)に登場する岡島博士(有馬昌彦)も似たような経歴を持った人物です。しかも彼には岡島珠美(泉陽子)と言う娘までいます。

ですが、この話をよく見るともう一つのプロットも流用された可能性も見えて来ます。この当時、「仮面ライダー」も放送されていました。上原正三市川森一も企画に参加し、伊上勝がメインで脚本を書いていた、あの作品です。第49話が放送されたのは1972年3月17日。その年の正月、仮面ライダー1号が日本に復帰し、九州の宮崎と鹿児島で2号と共に死神博士と戦っています。第47話「マグマ怪人ゴースター 桜島大決戦」(監督:山田稔)で死神博士はゴースターに敗れた仮面ライダー1号を捕らえ、脳波コントロール装置を頭に取り付けて仮面ライダー2号と戦わせています。第49話でミステラー星人「戦闘隊長」は郷以外のMATの隊員を捕らえて操り、ミステラー星人「エース」の娘を上野と丘に拐かそうとさせたり、ウルトラマンと戦わせようとしたりもしています。よって第49話は「仮面ライダー第47話「マグマ怪人ゴースター 桜島大決戦」のプロットも流用した可能性があるのではないかと私は思います。

井上敏樹は、伊上勝は紙芝居を作っていた時の手法のまま執筆していたのではないかと推測していましたが、これは紙芝居の絵を並び替えて色んな話を書いていたことも指しているのだろうと思います。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第9話「怪獣島SOS」(監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)と第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)の脚本を担当した伊上勝を取り上げました。

伊上勝が活躍したのは意外と短く、私の認識では1980年の「仮面ライダースーパー1」が実質的な最後だったと思います。私が今見返してみても、1979年の「仮面ライダー(スカイライダーの方)」では限界に達しており、プロデューサーに復帰した阿部征司がメインを江連卓に交代させたのも無理はなかったと思います。実際、本放送当時、私は「仮面ライダー(スカイライダーの方)」が放送開始されたと聞いて「『仮面ライダー』はストロンガーで終わったんじゃなかったの?」と思ったものです。でお話自体もさほど面白くはなく、伊上勝の存在など当時は知りませんでしたが、両親からそろそろ子供向け番組から卒業するようにと強制されたことも相俟って、途中から観なくなりました。で大人になってから見返しても「仮面ライダー(スカイライダーの方)」には「仮面ライダー」が持っていたパワーはなかったけれども「仮面ライダースーパー1」は独自の世界を構築して面白かったなあと思います。

ただ伊上勝の脂が乗り切った時期に書かれた作品が面白かったのは間違いなく、東映チャンネルなどで放送されるときは何度も何度も繰り返して観てしまいます。「仮面ライダー」は何回観たのかもうわかりませんね。つい最近もMXで放送されたのを観続けてしまいました。

さて次は誰を取り上げようか、少々迷っております。

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金城哲夫の苦悩

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第11話「毒ガス怪獣出現」を書いた金城哲夫を取り上げます。

対馬丸事件を書けず…

金城哲夫円谷一のコンビが「怪奇大作戦」の第1話を結果的に制作できなかった話は以前書きました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

その時は端降りましたが、「人喰い蛾」を書く前、金城は「海王奇談」と言う話を書いていました。自信満々で金城はこの話を書いていたのですが、橋本はOKを出しませんでした。金城はショックを受けましたが、「海王奇談」に欠けていたテーマを彼なりに考え、対馬丸事件を取り上げる事を思いつきました。太平洋戦争中の1944年8月、対馬丸という船が疎開船として民間人や児童ら計約1,700名を乗せて那覇から長崎へ向かう途中、アメリカ海軍からの魚雷攻撃を受け沈没した事件です。金城は橋本に連絡し、橋本もこれにOKを出しました。ですが、金城は対馬丸を題材とした脚本を書き上げることができず、結局、「人喰い蛾」が書かれたのでした。この件について、上原正三白石雅彦著「『怪奇大作戦』の挑戦」で、こう推測しています。

上原 それは金城が沖縄戦を体験していたからだと思うよ。僕は九州の方に疎開していたから、沖縄戦を知らない。だから戦争をテーマにしたものが書けたんだよ。しかも金城のお母さんのツル子さんは、アメリカの機銃掃射で片足をなくしているだろう。

金城の母親ツル子の足を奪ったのは米軍飛行機の機銃掃射でしたが、逃げる金城一家を保護して引き合わせたのも米軍でした。沖縄戦で金城は辛い体験をしました。上原の言う通り、対馬丸事件はそのトラウマを刺激するものだったのかもしれません。

レッドハット作戦

金城哲夫が「怪奇大作戦」の放送中に沖縄へ帰郷したのは以前書きました。金城は日本と沖縄の架け橋になりたいと思っていました。その思いもあって帰郷したのでしょう。その金城が帰った沖縄はアメリカの占領下にありました。

1969年7月18日、沖縄県美里村の知花弾薬庫(現・沖縄市の嘉手納弾薬庫地区)内の「レッド・ハット・エリア」で致死性のVXガス放出事故が起き、アメリカ軍人ら24人が病院に収容されたことをウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。これにより、知花弾薬庫に毒ガス兵器が存在することが明らかになり、アメリカ軍もこれを認めました。貯蔵量は致死性のものを含め1万3千トン、アメリカ合衆国以外で配備されているのは沖縄だけだと伝えられて、知花弾薬庫付近の住民は不安と恐怖に包まれ、怒りの声が広がりました。当然、反対運動が盛り上がりました。そのため、アメリカ軍は毒ガスを知花弾薬庫から移送することになりました。それがレッドハット作戦です。移送作業自体は1971年1月と7月の2回行なわれました。金城が帰郷した時、沖縄では、この騒動が物議を醸していたのです。

第11話「毒ガス怪獣出現」

さて金城哲夫が一時的に上京した時がありました。その時に書かれた脚本を元に制作されたのが第11話「毒ガス怪獣出現」(監督:鍛治昇、特殊技術:高野宏一)です。脚本執筆を依頼したのは満田かずほだと上原正三も証言しています。

あらすじはこんな感じです。パトロールの途中で帰ってきた上野を岸田は叱責します。岸田はオジが長官を務めていることからも分かる通り、軍人一家なのです。激怒した岸田はそのまま上野を残し、代わってマットアロー2号で飛び、山の中で時代劇のロケ隊が全員変死を遂げていたのを発見しました。岸田の通報で郷と南も現場へ飛びました。なお、脚本では現場近くで郷や南が謎の崖崩れを目撃したり、何かの咆哮を聴く場面があったそうですが、映像では後にセリフで語られるのみです。閑話休題。現場には撮影フィルムが残っており、MATは現像して撮影された映像を見ました。現場に霧状のガスが立ち込めてスタッフ・キャストが倒れていく様子や、怪獣らしき巨大なものが見えるのがフィルムには残されていました。そこへ佐竹参謀が入ってきました。調査の結果、ロケ隊の死因は旧日本軍が開発したイエローガスであることが判明したと言うのです。岸田は何か言いかけますが、毒ガスの恐ろしさを糾弾する南の言葉を聞いて、何も言い出せず、鎮痛な表情になります。帰宅した岸田は母に問いただします。岸田には自殺した兄がいました。その動機は岸田の父がイエローガス製造に関わっていたからではないかと。そして岸田は父の日記を読み、事件が起きた辺りにイエローガスが投棄されていたことも知ります。それからしばらく経ったある日、事件現場付近で岸田はチェーンソーを使う木こりに警告しますが、その懸念は的中。怪獣モグネズンが現れ、ガスをはきます。岸田は確信しました。モグネズンがイエローガスを食べ、はいているのだと。岸田はこの事件は自分一人で決着をつけると。そして岸田はマットアロー2号で単身出撃。その様子を見た郷は岸田の様子がおかしいことに気づきます。岸田はマットアロー2号でモグネズンと戦いますが、結局、叩き落とされ、重傷を負います。そして郷は岸田の母から、岸田家の忌まわしい過去を聴き、今度は自分が岸田に代わって怪獣を倒すことを決意します。そしてマットアロー1号に乗る加藤隊長と丘は郷がマットアロー2号で出撃するのを目撃します。郷は特殊ネットでモグネズンの口を塞ぎ、地上からマットシュートで攻撃しました。しかし、モグネズンはネットを外し、イエローガスをはきました。苦しむ郷。ピンチに陥ったその時、郷はウルトラマンに変身しました。しかし

ナレーター「怪獣のはく毒ガスはウルトラマンの生命をも刻一刻と奪おうとしていた。立て、ウルトラマン。」

この場面を観た時、私はウルトラマンの姿が金城哲夫とダブりました。金城哲夫が苦悩しているように見えたのです。この話を初めて観たのは大学生になってから。中央公論ルポルタージュ金城哲夫の生涯を私は知っていました。沖縄に帰った金城哲夫が苦悩したことを知っていました。それとダブって見えたのです。閑話休題。その時、加藤隊長は南と上野が乗るマットジャイロが飛んでくるのに気がつきました。

南「あ、ウルトラマンが危ない。」

上野「可燃ガス投下準備よし。」

そして可燃ガス弾が投下されました。

南「さあ、ウルトラマンスペシウム光線で点火するんだ。」

この南のセリフがカッコイイです。南の声が聞こえたのか、それまで毒ガスに苦しんでいたウルトラマンは立ち上がり、スペシウム光線を発射。可燃ガスは燃え上がり、と同時に「ワンダバ」BGMが流れます。モグネズンはイエローガスをはきまくりますが、燃える可燃ガスの威力で効力は失われました。形勢逆転。ウルトラマンは勝利しました。

事件解決して、ここはMAT国連病院。松葉杖をつきながらも岸田が退院します。

岸田「チームワークを乱して、申し訳ありませんでした、隊長。」

加藤「もう何も言うな。怪獣は死んだんだ。毒ガスという名の憎むべき怪獣もな。これでみんな、安らかな眠りにつける。」

岸田「はい。本当に。」

岸田は郷を黙って見ました。そしてMATのメンバーは岸田を連れてマットビハイクルで去るのでした。

上原正三の感想

さて上原正三はこの話に複雑な感想を抱いたようです。白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」でこう語っています。

上原「毒ガス怪獣出現」は、上京した金城に、満田が書かせたものなんだけど、無理をしているね。つまり橋本洋二に合わせているんだよ。『怪奇大作戦』のリベンジじゃないだろうけどね。彼はメインライターじゃなかったし、あの雰囲気では難しかったんだろうね。金城の場合は、彼がメインライターで、第一話から書いてもらわないと駄目なんだよね。

また、これに先立って出版された白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではさらに踏み込んで、次のように語っています。

メインライターとして、他の作家はどんなものを書くのか常に目を配る必要がある。同じ様な素材だと困るからね。その場合、ゲスト作家の作品を優先して自分の素材を引っ込める。ゲスト作家に自由に書いてもらうのがルールというかエチケットというか。だから2クールに入って子供を意識してきたというのは、逆に言えばこの辺で一皮剥けて来たのかも知れないね。余裕が出てきたというかな? メインライターとしての自覚というか、少し慣れたといえばおかしいけど。

金城哲夫、1本書いているけど書きにくそうだったな。自分が企画したウルトラマンじゃないからね。メインライターというのは企画の立ち上げから自分の世界観を確立してそれに沿って書き進めるわけだけど。あの時の金城は他人(ボク)が創り上げた企画を書くわけで、それは彼にとって初めての経験だったんじゃないかな。しかも金城の場合は一度ウルトラマンを捨てている。でもオレのウルトラマンのほうが面白かったと心のどこかで思っている。ウルトラの星だった男のプライドだよね。脚本(『毒ガス怪獣出現』)を読んだとき、金城哲夫の作品じゃないと思ったもんね。だからもっと伸び伸び書かせてやりたかったなって。変に橋本さんを意識したんじゃないのかな? それに応えようとしたんじゃないのかな? それにしてもあの頃の金城哲夫は元気なかったな。借りてきた猫みたいに。だからもの凄く淋しい思いをして沖縄へ帰ったと思うよ。

確かにこの話は「ウルトラマン」で書いていたような太陽のように一点の曇りもなく、ピュアなエンターテイメントではありません。上述したレッドハット作戦を元にこの話を書いたのは間違いありません。私も無理して書いたのではないかと思います。ただ岸田家の忌まわしい過去を独りで清算しようとした岸田の姿はそれまで金城が描いてきた登場人物にダブるような気もします。

あと、上原の感想を見て思ったのは、上原自身も本当は郷と岸田の和解を書きたかったのではないかなということです。白石雅彦も指摘していますが、第10話までの「帰ってきたウルトラマン」ではMAT隊員の内面に焦点を合わせた話はほとんどありませんでした。まあ第9話「怪獣島SOS」で南が主人公になったくらいです。まあ一応、郷の父親のような存在の加藤隊長、郷に優しい南、郷とは対立する岸田、郷とは対立もするし仲良くもする上野、郷と岸田のどちらにも中立な丘、といった色分けはされていましたが。もっとも、金城が岸田を主人公にしたのは毒ガス事件を扱うのに最適な、軍人一家という設定を岸田が持つからであって、深く考えてMAT隊員の内面に焦点を合わせたわけではないのでしょう。ですが、上原もこれ以後は郷とMAT隊員が対立する話は書かなくなったも確かです。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第11話「毒ガス怪獣出現」とその脚本を書いた金城哲夫を取り上げました。

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小山内美江子の願い

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」最大の怪作とも言える第48話「地球頂きます!」(脚本:小山内美江子、監督:佐伯孚治、特殊技術:真野田陽一)の脚本を書いた小山内美江子を取り上げます。

略歴

小山内美江子は1930年1月8日生まれで神奈川県横浜市鶴見区出身。高校卒業後、1951年に映画のスクリプターになりました。長男の理重剛を出産後、離婚し、シングルマザーとなり、脚本家になりました。子育てをしながら脚本を書いていたからか、Wikipediaにも書かれていますが、手がけた作品の中には教育や子育てへの思いを込めたものがあり、『3年B組金八先生』をはじめ誤算シリーズ(『親と子の誤算』『父母の誤算』)などのテレビドラマによって、教育界でも知られるようになりました。
さて「帰ってきたウルトラマン」でプロデューサー補を務めた熊谷健とは友達であり、その関係から円谷プロの作品も数本書いています。「ウルトラQ」の「あけてくれ!」は円谷一を「ウルトラQ」制作に導いたのは先述しました。他に「恐怖劇場アンバランス」の「死を予告する女」と「地方紙を買う女」を書いています。第48話「地球頂きます!」を書いたのも熊谷からの依頼があったからです。

ですが円谷プロで作っていた作品が小山内の資質に合っていたとは言い難く、「ウルトラQ」からは怪獣路線に転換すると同時に降板していますし、これから描く第48話「地球頂きます!」も他の「帰ってきたウルトラマン」とは異質な話になっています。ですが、教育や子育ての思いを込めた作品という意味では小山内らしい作品なのかもしれません。佐伯孚治の演出も「富士に立つ怪獣」以上にぶっ飛んでいたこともあり、強烈な印象を残しています。

第48話「地球頂きます!」

実質的な主人公は怠け者の少年勝(田村明彦)です。彼は次郎の同級生でしたが、学校へも行かずにお寺の境内の地面に怠け者怪獣ヤメタランスの絵ばかり描いています。ご丁寧にもザ・ドリフターズの「誰かさんと誰かさん」の替え歌を歌っています。さて神社のそばにはご丁寧にもマットビハイクルがとまっており、誰もいない車内からはカーラジオでザ・ドリフターズの「誰かさんと誰かさん」が流れています。マットビハイクルに乗ってきたのは郷。郷も仕事をサボってお団子を買いに行っていたのです。郷は勝に気づき、話を聞き「どうせ書くなら頑張り怪獣ヤッタルデーでも描けよ。」と言いますが、勝は「お前もやはりママゴンの仲間だな。」と返します。なお、カーラジオがつけっぱなしになっている描写は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」によれば、決定稿には書かれていないそうです。また勝のモデルは小山内の息子の剛その人だそうです。勝はママゴン(要するに母親)がガミガミうるさいとこぼしますが、小山内もママゴン同様、息子の怠けぶりに手を焼いていたのは間違いないでしょう。その小山内の願いは息子が怠け者でなくなること。その願いは思わぬ形で叶います。と同時に「帰ってきたウルトラマン」史上最大の怪事件が起きることになるのです。

さて油を売っていた郷のところに通信が入ります。伊吹は郷がサボっていたことを叱った後、東京に怪物体が落ちたのが観測されたので調査するようにと命じます。怪電波を発信していますが、落ちる速度からみて、パラシュートがついているかもしれません。というわけで勝と郷は別れますが、その勝が見たものは

勝「あ、カプセルだ。」

なんとパラシュートのついたカプセルが落ちてくるのが見えました。勝はカプセルが落ちるところへ急行。そしてカプセルを開けると中にいたのは

勝「ヤ、ヤメタランス。」

ヤメタランスは実在したんですねえ。そしてなんか、「キーキー」言っていますが勝にはその言葉が通じません。そのうち気がつくと勝の顔はソバカスだらけになり、しゃっくりをします。ここ重要な場面なので覚えておきましょう。なおマットビハイクルに乗る郷には

ヤメタランス「やめろ。僕をカプセルから出すな。」

という叫びが聞こえています。いささかご都合主義のような気がしますが、その後が面白いので目を瞑りましょう。なおもヤメタランスは叫びますが、勝には「キーキー」としか聞こえません。勝はカプセルの下半分をヤメタランスごと運び出してしまいました。

ヤメタランス「頼む。僕をカプセルに入れて送り返すのだ。でないと地球は今に大変なことになるのだ。」

そして遂に

勝「やめた。」

と言ってカプセルを放り投げ、

勝「ごめんよ。なんだか知らないけど、君と遊ぶのをやめる。怠けるのもやめる。せっかく、友達になったんだけど、僕、学校へ行く。勉強しなくちゃ。バイバイ。またな。」

小山内美江子も息子にこう言って欲しかったに違いありません。ところが話はそれで終わりではありません。

ヤメタランス「ダメなのだ。君が行くとみんなに移ってしまうのだ。」

さあ、困ったことになりました。MATはカプセルを見つけました。もちろん、中身は空です。郷は警戒し、汚染物質が入っていたかもしれない、と言います。伊吹も合意し、警視庁に連絡して慎重に扱うことにしました。団地のそばで見つけたこともあったからです。とここで空飛ぶ宇宙船登場。

宇宙人「さすがはウルトラマン。しかし、もう遅い。お前ら地球人に俺達の新兵器がわかってたまるか。」

さて勝は学校へと急いで走りますが、途中で泥棒(不破万作)と遭遇。手ぬぐいを頭にかぶって鼻の頭で結び、若草色の風呂敷包を背負っています。わかりやすいですね。泥棒は勝とぶつかり転倒。

泥棒「気をつけろ、馬鹿野郎。」

とその顔にはソバカスがたくさんついています。そしてしゃっくりしました。もしかして…

と思ったら、場面は学校。勝が教室に到着しました。先生は遅刻してきた勝を叱り、クラスの皆が勝をからかいますが、先生の顔はソバカスだらけになり、しゃっくりまで始めました。そして次郎を含めたクラス全員、しゃっくりを始めました。もしかしてパンデミックですか? 見ると次郎の顔、そしてクラス全員の顔はソバカスだらけ。

と思う間もなく場面が切り替わり、先ほどの泥棒をお巡りさんが追いかけています。必死に逃げていた泥棒でしたが、しゃっくりをして立ち止まり、風呂敷づつみを置いて座り込み

泥棒「やめた。」

逃げるのをやめてしまいました。でこれ幸いと警官は手錠をかけようとしましたが

警官「こいつ、窃盗現行犯で逮捕する…やめた。」

見ると警官の顔にもソバカスがたくさんついています。警官も座り込んでしまいました。さて学校では

先生「やーめた。」

クラスのみんな「やめた。」

勝「ダメだよ、君達。生徒が勉強しないでどうするんだよー。」

厳密には小学校に通うのは児童なのですが、そんなのは瑣末な指摘に過ぎません。宇宙人は高笑いします。

仕方なく勝は団地にある自分の部屋に帰ります。当然、料理の真っ最中だったママゴンは勝が学校をサボって帰ってきたと思い、叱りますが、途中でしゃっくりをしてしまい、

ママゴン「やーめた。」

この騒動を団地の人達が外に出て見ていました。この時、勝は気がつきました。

勝「なんか、臭いよ。」

ママゴン「ああ、天ぷらが揚がり過ぎているんじゃない。」

あわてて勝が部屋に戻ると天ぷら鍋が燃えています。というわけで消防車が出動しますが、全員途中で「やめた」と叫んで止まってしまいました。こういう騒動があらゆるところで起こりました。結婚式も聖火ランナーも通勤客も皆「やめて」しまいました。聖火ランナーは聖火を放り投げています。火事になったらどうするのでしょうか。消防署は…やめてましたね。

場面が変わってヤメタランスが映ります。おや。先ほどよりも大きくなっています。等身大です。

ヤメタランス「やめるのをやめるのだ。僕を大きくするのをやめてくれえ。」

宇宙人「バカめ。それが我々の狙いだ。もっと大きくなれ。もっと大きくなれ。」

ヤメタランス「ダメだあ。僕を大きくすると地球が壊れてしまう。やめてくれえ。」

気のせいか、ヤメタランスは更に大きくなっているような気がします。

さて場面変わってMAT本部には通報の電話が殺到していましたが、なぜか通報してきた人は皆、途中で「やめた」と言って電話を切ってばかりでした。困惑するMATの皆さん。郷はあのカプセルの中に地球人の労働意欲をなくす病原菌が入っていたと推定しますが、伊吹は「そんなバカな。」と言って取り合いません。とここでMAT本部が揺れ、なぜか法螺貝が鳴り響きました。これは見返すまで忘れ去っていました。おもしろすぎます(大笑)。場面が変わると、あーら、ヤメタランスはとうとう団地よりも大きくなってしまいました。逃げる人々。でも勝だけはヤメタランスに向かっていきます。でここでCM挿入です。法螺貝が鳴ったのは出動ということなんでしょうかねえ。わかりませんが。

CMが明けるとMATは出動しています。ですがいつもと雰囲気が違います。いつもの「ワンダバ」BGMがやたらと早回しで流れているのです。空をマットアロー1号2機、陸をマットビハイクルが進みます。

勝「撃つな。撃たないでくれ。」

逃げるヤメタランス。

伊吹「攻撃開始。」

南「攻撃開始します。」

しばらく攻撃が続いたのですが、突如BGMがいつもよりスローテンポになり

岸田「やめた。」

南「やめた!」

この2人の言い方、岸田は落ち着いた感じなのに、南は力がこもっています。キャラクターの違いなんでしょうね。でもう一機の方でも

伊吹「やーめた。」

上野「はあ。やーめた。」

マットアロー1号は2機とも墜落してしまいました。4人全員脱出しますが、パラシュートで落ちながら、こんな逝かれた会話をします。

南「おーい、気分はどうだい。」

上野「おーい、最高だーい。」

岸田「工場も仕事をやめたせいか青空だなあ。久しぶりに空気がキレイだ。」

南「ああ、いい気持ちだ。」

勝はマットビハイクルと遭遇。そのため丘も

丘「やめたわ。」

攻撃しようとする郷を止める勝。

勝「あいつは何もしないんだよ。ただ大きくなっちまっただけなんだよー。」

ヤメタランス「そうなのだ。僕は何もしない。僕を地球へ送ったのは宇宙人なのだ。僕の体には人間を怠け者にする放射能がいっぱい入っている。だからみんな、ほらヤメタランス。」

郷「そうか。それでこの子は逆に怠けるのをやめたんだな。」

ヤメタランス「そうなのだ。今に地球人が全部怠け者になった時、宇宙人達が攻めてくるのだ。」

さあ、事件の真相がわかりました。郷と勝はMATのメンバー全員にそれを伝えようとしますが、皆、ブランコに乗ったりして言う事を聞きません。戦うのをやめたからです。この時の会話も傑作です。

南「それはわかったけどなあ、俺達が働かなくなってから攻撃してくるとは、宇宙人も相当怠け者ではないか。」

郷「そんなこと言っている場合じゃないでしょう。」

上野「まあ、いいから、いいから。」

岸田「そうむきになるなよ、郷。みんな仕事をやめたおかげで交通事故はゼロ。素晴らしいじゃないか。」

丘「そうよ。ついでにその宇宙人にもヤメタランス病を移したらいいんだわ。」

合間に流れる笑い声同様、全員、逝っちゃってます。と言うわけで、まーたワンダバのスローが流れる続ける中

勝「ダメだよ、郷さん。正気なのは僕と郷さんしかいない。二人でやっつけるんだ、宇宙人を。」

と言うわけで勝は郷と二人で宇宙人を倒そうとしますが、郷もしゃっくりをしてしまいました。ああ。もちろん、顔はソバカスだらけです。

郷「やめた。」

これには宇宙人もご満悦です。

宇宙人「それでいい。それでいいのだ、ウルトラマン。」

そのとき、郷にはヤメタランスのキーキー言う声が聞こえました。

郷「ちくしょう。ウルトラマンがこんなのに負けてはいけないんだ。」

仕方なく勝はマットガンでヤメタランスを攻撃。

ヤメタランス「殺すなと言ってくれ、ウルトラマン。僕を僕の星に帰してくれえ。」

郷「わかった。しかし、どうやって。」

ヤメタランス「早くしてくれえ。お腹が空いて、また地球を壊してしまうのだ。」

このヤメタランスの懇願が効いたのか、郷はウルトラマンに変身しました。しかし、登場したウルトラマンの顔にはソバカスがたくさんついています。うーむ。なおBGMもまた、ウルトラマンがヤメタランスを抱えて倒れると同時にスローになってしまいました。佐伯の演出は徹底しております。

勝「しっかり。ウルトラマン。頑張って。」

ウルトラマンは気力を振り絞って立ち上がりました。と同時にBGMの速さも元に戻りました。佐伯の演出は徹底しております。ウルトラマンはウルトラブレスレットでヤメタランスを縮小。宇宙へ投げ返しました。

宇宙人「ちくしょう。ウルトラマンめ。」

仕方なく、今度は宇宙人がウルトラマンと戦います。さてよく見るとウルトラマンの顔からソバカスが消えています。と言うことは…ここからワンダバが流れますがスローから普通のスピードに戻っていくと同時に、南、岸田、上野、丘、そして伊吹が正気に戻ります。後ろに昔懐かしい東急3000系が止まっていますから、鷺沼あたりでロケをしたようです。MATもウルトラマンを援護し始めました。宇宙人はスペシウム光線で倒されました。

最後は元の怠け者に戻ってしまった勝のそばで非常召集がかかってしまった郷がしゃっくりをしてしまい、慌ててバックミラーで自分の顔にソバカスがついていないことを確かめる場面が流れた後、本部へ戻るマットビハイクルが映っておしまいです。

おわりに

この記事では第48話「地球頂きます!」とその脚本を書いた小山内美江子について取り上げました。書き忘れましたが、この話はナレーションが一切入りません。それはヤメタランスと宇宙人のセリフで状況がわかってしまうからなのでしょうね。なお、脚本では宇宙人には名前がつけられていません。熊谷健はサービスのつもりで小山内の本名にちなんで宇宙人の名前をササヒラーと名づけました。ところが今度はそれが原因で小山内の姪(小山内の兄の娘)がからかわれてしまい、小山内は兄嫁から怒られたという逸話が残っています。小さな親切大きなお世話だったと言うことなのでしょうかねえ。難しいですね。

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大暴れ石堂淑朗

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」後半で脚本を書いた石堂淑朗を取り上げます。

略歴

石堂淑朗は1932年7月17日生まれで広島県尾道市久保町出身です。東京大学文学部独文学科に入学し、卒業。1955年に松竹大船撮影所に入社しました。脚本家デビューは1960年の「太陽の墓場」です。ここで大島渚などとともに映画革新運動である松竹ヌーヴェルバーグの中心として活躍しました。余談ですが、大島渚佐々木守とも仕事をしています。「日本の夜と霧」では大島渚と共同で脚本を書いています。つまり、元々は反権力の人だったのです。1965年以後は松竹をやめてフリーになり、テレビでも活躍します。

円谷プロの作品では「怪奇大作戦」から登板しています。放送されたのは「美女と花粉」、「呪いの壺」ですが、この他に「平城京のミイラ」という話を書いています。

さて石堂淑朗佐々木守大島渚とつき合いがあったと書きました。石堂がウルトラシリーズで書いた話は佐々木の作風とは微妙に違います。佐々木守は「恐怖の宇宙線」のように、怪獣を人間世界に放り込んで人間世界を傍観するような作風でしたが、石堂は「人間世界を傍観する」ことは一切しません。また佐々木守は娯楽性も重視した脚本家で「ウルトラマン」ではそれまであまり活躍することがなかった小型ビートルも出動させ、ビートルと小型ビートルの2機で怪獣と戦わせています。それまでの話ではビートル1機で怪獣と戦う話が多かったので、その方が子供達も喜ぶのは間違いありません。この影響からか、以後は複数のビートルが怪獣と戦う話が「ウルトラマン」で増えます。ですが、石堂淑朗にはそのようなサービス精神など微塵もありません。自分の描きたい話を自分の力技で描き上げた話ばかりです。さらに反権力志向なので権力の象徴であるウルトラマンやMATも酷い目にあっています。またウルトラマンやMATが戦う宇宙人は、「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」で登場した宇宙人のような知的なキャラクターとは違い、自分勝手に自分の好きな事をしに暴れ回るチンピラのような存在です。その作風が顕著に現れたのが、今回取り上げる第42話「富士に立つ怪獣」(監督:佐伯孚治、特殊技術:佐川和夫)です。この話を演出した佐伯孚治は東映で組合活動に熱心に参加していた人でした。熱心な労働組合員が反権力の人が書いた脚本を演出したら、どうなるのか。非常に強烈な作品が出来上がりました。

第42話「富士に立つ怪獣」

冒頭、交通事故が起こります。駐車していた乗用車にトラックが突っ込んできたのです。駐車していた乗用車の持ち主は激怒し、トラックの運転手を「キチガイ」と罵りますが、トラックの運転手は、道路の左側を真っ直ぐ走ってきたんだ、と言い張って譲りません。その様子を山道から見ていたカップルは山道を真っ直ぐ歩いて行きましたが、森の中で崖を滑り落ちてしまい、怪我をしてしまいました。山道を真っ直ぐ歩いて行ったにも関わらず、なぜか道を踏み誤ってしまったのです。喧嘩する乗用車の持ち主とドラックの運転手を仲裁するお巡りさん(柳谷寛)のところへ先ほどのカップルが「赤チンを貸してくれ。」とやってきました。4人の話を聞いたお巡りさんは困惑してこう言います。

お巡りさん「不思議なこともあればあるずら。ぶつけたり、落ちたり、このひと月の間に不思議なことがかれこれ10件もあったずら。」

そして場面が変わってMAT本部。伊吹隊長が富士山で交通事故が頻発している話をし、郷に調査を命じます。さてここで注目すべきなのが岸田です。なんと電気カミソリでヒゲを剃りながら伊吹の話を聞いているのです。なんと不真面目な態度なのでしょう。これは後の伏線なので覚えておきましょうね。で、さらにこんな会話を交わしています。

南「そうだ。この辺(事故が起きたところ)一帯が一種のミステリーゾーンになっているっていうわけだな。」

岸田「ミステリーゾーンか。しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」

この部分、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」によれば、岸田の「しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」はシナリオでは南が言っていた言葉だったのだそうです。これを佐伯は岸田に振り替えたわけです。ここも重要なポイントですね。もちろん、視聴者にはその意図がこの時点でわかるわけはありません。

さて郷は調査に出かけました。そしてマットビハイクルで走っている途中、道の左側を走っていたにも関わらず、乗用車と激突してしまいました。マットビハイクルも乗用車も爆発炎上。郷は無傷で済みましたが、相手の運転手は病院に運び込まれました。見舞いに行った郷は気にしないでくださいと運転手に言いました。運転手は謝りましたが、彼も、道の左側を真っ直ぐ走っていたことと、彼の目にはマットビハイクルの方が道を間違えているように見えたことが、この時、判明します。

次に郷は測候所へ行きました。そこで郷は事故が起きるのは晴天の時で富士山の頂上には笠雲がかかっていたことを知りました。郷が富士山を見ると頂上に笠雲がかかっているのが見えました。郷が持っていたレーザーガンSP-70を笠雲に向かって撃つと笠雲は消え、富士山頂上に怪獣が姿を現しました。それにしてもレーザーガンSP-70って射程距離が長いんですね(棒)。まあ石堂は深く考えずに書いたのでしょう。閑話休題。早速郷は本部に連絡しました。

郷「富士山頂に怪獣が現れました。この怪獣は不思議な力を持っているようです。晴れた日に現れ、富士山の笠雲の中に隠れているんです。」

ここから、MATが怪獣、いや、石堂淑朗に翻弄されて酷い目に遭うことになりますが、そんなこと、MATも村の人も視聴者も知るはずがありません。閑話休題。村の人達はなぜか神社に集まっています。やってきたMATの戦闘機は4機。いつもと比べてやけに多いです。その構成はマットアロー1号2機(伊吹と岸田)、マットジャイロ2機(南と上野)です。

お巡りさん「MATだ。おーい、頼むぞー。頼むぞー。」

交通事故を起こして酷い目に遭っている郷は

郷「隊長。光は曲げられている恐れがあります。有視界飛行による攻撃は危険です。計器飛行に切り替えてください。」

と警告しますが

伊吹「大丈夫だ。これだけはっきり見えているんだ。」

と意に介しません。ですが郷の懸念は的中。伊吹(マットアロー1号)と南(マットジャイロ)は衝突してマットアローとマットジャイロは爆発炎上。まあ二人とも脱出に成功してはいます。その二人の目の前で今度は岸田(マットアロー1号)と上野(マットジャイロ)も衝突しかかりますが、こちらは何とか衝突を回避し、2機とも着陸しました。

日没とともに怪獣は消えました。怪獣が太陽光線を利用しているのは間違いありません。MATの面々は作戦を練ることにしました。岸田は何かを飲んでいます。瓶のように見えますが、まさか…後でしっかり映りますが、なんとポケットサイズのウィスキーの小瓶です。さて

伊吹「明朝の日の出とともにまた怪獣は姿を表すだろう。衝突事故が起こらぬうちにまた仕留めよう。」

と言うや否や宇宙人が現れました。以下、MATとのやりとりです。

ストラ星人「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。それがMATの連中にできるかな。光線が曲がるなど、貴様ら地球人には想像もつくまい。」
伊吹「(マットシュートを構えて)貴様、何者だ。」
ストラ星人「私は第7銀河星のストラ星人だ。この地球に混乱を起こして滅ぼそうとパラゴン怪獣を送り込んだのだ。」

郷「この地球をどうしようと言うのだ。」
ストラ星人「この地球は山あり、谷あり。まことに綺麗な星だ。この地球をわしらの星座の別荘にしようと思ってな。どうだね、MATの諸君。無駄な抵抗をやめてすんなり地球を明け渡さないかね。そうすれば地球人の命だけは保証するよ。」
南「黙れ。そんなことはMATの命にかけて(とマットシュートを構えるが)」
ストラ星人「撃っても無駄だぞ。私には光を曲げる力があると言っておるのに。なに、本当の私はどこだと? ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。この岩の裏側だよ。」

こう言ってストラ星人は消えました。ストラ星人は別荘を作るために地球にやってきたのです。

場面が変わり、MATのメンバーが話の続きをしています。岸田はウィスキーを飲みながらこう言います。

岸田「ちきしょう。この地球はあんな化け物の別荘にされてたまるか!」

物凄く興奮しています。酔っ払っているのではないかと思うほどです。これも大事な伏線なので覚えておきましょう。

南「だがこれは容易ならぬ敵だぞ。奴が自由に光を曲げられるとすれば、我々に怪獣の位置がどうしてわかる? ねえ、隊長。」
伊吹「うん。俺も今、そのことを考えていた。富士山頂にいる怪獣はストラ星人が作り出した蜃気楼かもしれんぞ。」
上野「すると我々は忍者と戦っているようなものですね。」
伊吹「いや、手がかりはあるんだ。(地図を持ち)山頂と事故現場を結ぶ、どこかに怪獣は潜んでいるはずだ。明日、俺と岸田はレーダーで探索しよう。」
岸田「はい。」
伊吹「君達は山頂に向かって我々の位置を確認してくれたまえ。」
岸田「よーし。(またウィスキーを飲みながら)俺達の目がダメなら、後は電波という手がある。誘導ミサイルで必ず仕留めてやるぞ。」

興奮高まる岸田でしたが、ここで郷が冷静に指摘します。

郷「しかし…」
岸田「なんだ。」
郷「ストラ星人が自由に光を変えられるならば、電波も…」
岸田「郷、お前、我々の科学を信じないのか?」
郷「いえ、科学的な心配をしてるんです。」
岸田「(ウィスキーの小瓶を投げながら)よさないか!(これと前後してウィスキーの小瓶がパリンと割れる音がする)仮にも俺達はMAT隊員なんだぞ。」

パリンと割れる音がしっかり聞こえました。やはり岸田は相当興奮しています。郷の指摘にも冷静に答えようとはしません。郷と岸田の対立は初期によく見られましたが、あの時は彼なりに理屈がありました。今回はやたらと思い込みが激しいように見られます。これが後の騒動に繋がります。見かねた伊吹は

伊吹「(見かねて)やめろ! 早く休んで明日の攻撃に備えろ!」

というわけで翌朝。伊吹がマットジャイロ、岸田がマットアロー1号に乗り、出撃しました。南、上野、そして郷は地上から伊吹と岸田を誘導する役割です。また神社に村人が集まっています。

お巡りさん「MAT、しっかり頼むぞー。」

怪獣が富士山頂に姿を現しています。

岸田「(マットアロー1号で)隊長、レーダーが怪獣を捉えました。やはり山頂の怪獣は蜃気楼です。本物は山梨側の8合目あたりの模様です。」
伊吹「(マットジャイロから)よーし、誘導ミサイルの発射準備。まず俺が攻撃する。」

というわけで伊吹は誘導ミサイルを撃ちましたが、誘導ミサイルはなんと

南「こっちへ落ちてくるぞ。」

レーダーが捉えていたのは怪獣ではなかったのです。誘導ミサイルは南達のすぐそばに命中し爆発。その数は何発もあり、下手したら南、上野、郷は死んでいたところです。

南「攻撃中止。攻撃中止。」
ストラ星人「バカめ。我々は光波も電波も赤外線も、全ての電磁波を自由に変えられるのだ。」

そう。怪獣やストラ星人は全ての電磁波を自由に変えられるのです。これに伊吹も気がつき、攻撃をやめたのですが…

南「岸田、中止だ。直ちに攻撃中止。」
岸田「ちきしょう。俺は蜃気楼なんかには騙されんぞ。」

また攻撃開始。当然、怪獣パラゴンには当たりません。南達のところに何発も何発も命中します。可哀想な南達。

ストラ星人「レーダーが狂っているのに、何にも知らないんだ。」

ついに誘導ミサイルは村人のところまで飛んできました。逃げ回る村人達。

お巡りさん「うわあ。助けてくれえ。」

お巡りさんのところも何発も何発も誘導ミサイルが命中して爆発。この話、火薬の使用量は莫大だったことでしょう。

伊吹「岸田、中止だ。レーダーも狂ってるんだ。」

それでも岸田は

岸田「ちくしょう。しぶとい奴だ。」

攻撃をやめません。沈着冷静な人がキレるとこわいですね。村人達のところにも容赦なく誘導ミサイルが命中し、ついにある村人がキレました。

村人「ちくしょう。MATの奴め。」

この村人は持っていた猟銃を空に向けました。マットアロー1号を狙っているようです。石堂淑朗は村人にMATへ刃を向けさせたのです。石堂の反権力の思想が色濃く現れた場面だと思います。閑話休題。病院から郷と事故を起こした人もその様子を見ていました。

郷と事故を起こした人「MATは狂っている。」

今回は矢鱈とキチガイだとか狂っているといった言葉が出てくるような気がします。

さて郷はウルトラマンに変身。ウルトラマンを見たお巡りさんは

お巡りさん「お、ウルトラマンだ。ばんざーい。」

お巡りさんはなぜか両手に一つずつ小さい大根を持っています。この大根、大根とは思えないほど小さく、人参より大きい程度のものです。でも色を見たら真っ白なので大根です。

さてウルトラマンは空を飛び、富士山の頂上に立ちました。パラゴンは巨大でウルトラマンの頭はパラゴンの前脚の膝より下に見えます。さてここで白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での石堂淑朗の証言を紹介しましょう。

スケールが大きいというか、橋本洋二に本当に呆れられたけれども、(怪獣の)幻影が富士山の頂上に出てくるんですよ。富士山から考えたら、1000メートルくらいの怪獣で、それとやり合うウルトラマンって書いたら、(橋本が)「ウルトラマンの身長いくらか知っているか?」って言うから「知らない」「そうだろうなぁ」だって(笑)。だから富士山のやつは、橋本洋二にやっつけられたから一番よく覚えている。

怪奇大作戦』は普通のドラマだと思ってやったけど、こっちは一種のおとぎ話だからね。ああいうこと平気でやっちゃうんだよな。

橋本洋二に呆れられたので石堂は後付けで設定をつけています。それが、(どちらの能力かは明確に描かれてはいませんが)怪獣やストラ星人は光(も含めた全ての電磁波)を自由に操ることができるという能力があることです。ここでお話に戻りましょう。ウルトラマンはウルトラブレスレットを取り出しました。そして

ナレーター「ウルトラマンのブレスレットは太陽光線に強烈な振動を与えたのである。」

ストラ星人「どうしたわけだ。光線が曲がらなくなった。」

ナレーター「怪獣はとうとう本当の位置に姿を現した。」

というわけでウルトラマンは怪獣パラゴンの本体と戦闘開始。パラゴンは4本足の怪獣ですが「ウルトラマン」に登場したドドンゴのように人間が2人入る構造になっています。ウルトラマンを演じたきくち英一のインタビューをまとめた「ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜」に当時の写真が載っていますが、遠矢孝信が後ろに入り、前には有川兼光が入っているのが紹介されています。閑話休題。最終的にウルトラマンスペシウム光線でパラゴンの足元の岩を崩し、パラゴンは火口に落下。マグマの高熱で焼死しました。と同時にストラ星人も(なぜか)消滅。事件は無事に解決したのでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」での石堂淑朗の活躍を描きました。こうしてみると田口成光は真面目に橋本洋二の言う事を聞いていたけれど、石堂淑朗はそうではなくて我が道を突き進んでいたのだなあ、と思いました。私はどちらかといえば石堂の書いた話の方が好きですが、それは彼が我が道を突き進んだからではないかなあと思います。対する田口は真面目に橋本洋二が敷こうとした路線を進んで行こうとしたのでしょう。そう思います。

ただ私は上原正三市川森一の書いた話の方が大好きですけどね。

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田口成光のデビュー

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で脚本家としてデビューした田口成光について取り上げます。

円谷プロに入社して

田口成光は1944年2月4日生まれ。長野県飯田市出身で日本大学芸術学部を卒業後、脚本家を志望して1967年に円谷プロに入社しました。研究室の助手をしていた先輩から金城哲夫を紹介してもらい、入社したのだそうです。ただ企画文芸室には入れず、特撮助監督の仕事に回され、「ウルトラセブン」や「怪奇大作戦」を担当しました。「怪奇大作戦」の途中から文芸部に出入りするようになったそうです。「怪奇大作戦」で仕事が途絶えた円谷プロではリストラが断行され、田口成光も無給状態に陥りましたが、なぜかなんとなく円谷プロに出入りしていました。そして円谷プロ金城哲夫が辞める直前、「雪が見たい」と言う金城の頼みで彼を自分の実家へ連れて行っています。それについては以前、触れました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

やがて円谷プロから金城哲夫上原正三も去り、気がつけば田口は円谷プロの文芸担当になっていました。その後は企画書を書いては放送局や広告代理店へ売り込む日々が続いたそうです。そして実った企画の一つが「帰ってきたウルトラマン」であり「ミラーマン」であったわけです。当時は陽の目を見ませんでしたが、後に「ジャンボーグA」となる企画も手がけていたのは間違いありません。また「戦え! ウルトラセブン」と言う「ウルトラセブン」の続編も日本テレビなどに売り込んでいましたが、この企画内容は武器などの設定が「ミラーマン」にも流用されています。

第8話「怪獣時限爆弾」

さて最初は企画書を書いていた田口でしたが、念願の脚本家デビューの機会が訪れます。それが第8話「怪獣時限爆弾」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)です。この話、後の田口成光作品の特徴が全て表れている話だと思います。

あらすじはこうです。怪獣ゴーストロンが現れます。その容貌を遠隔監視のカメラで見たMATのメンバーは弱そうな奴だとバカにします。そして岸田が開発したX弾を使用することになり、X弾を積んだマットアロー2号で郷は出撃しました。郷が出撃するために部屋を出るのを見届けた後、加藤隊長は南にこう言います。

加藤隊長「南、今夜はお袋さんが上京するんだったな。」

南は照れ笑い。一応、最後の場面に繋がるセリフですので、覚えておきましょう。

郷は怪獣に近づきます。がこの時、油断した郷は怪獣に近づき過ぎてしまいました。それまでノロマで身動きをしなかったゴーストロンは突如、マットアロー2号の方を向き、火の玉(のようなもの)をはきました。慌てて郷はX弾を発射。X弾は確かにゴーストロンの尻尾に命中…はしたのですが、なぜか爆発はしませんでした。ゴーストロンはそのまま地中に潜ってしまいました。当然、この件は問題になり、マットアローの点検などが行なわれました。そしてビデオレコーダーに記録されていた郷の動きの解析により、郷が誤ってX弾を時限装置付で発射していたことが判明しました。時限装置により、怪獣はあと10時間で爆発することが判明。南は「よかったな、郷。怪獣はあと10時間で天国へ急行だ。」と郷を慰めましたが、加藤隊長はその甘さを一喝し、怪獣が街中で爆発したらどうすると指摘します。その直後、郷は加藤隊長と柔道の組手をしますが、郷は加藤隊長を投げられません。この話のテーマの一つは油断大敵なのです。さて映像では、それを加藤隊長に指摘された郷が加藤を投げる事ができて加藤がニヤリとします。

困ったことに怪獣は東京を吹っ飛ばしてしまうほどの量のニトログリセリンがあるダイナマイト工場の目の前に現れ、文字通り、居座ってしまいました。そのため、東京には避難命令が出されました。それを受け、坂田健は次郎に大事なものを持って逃げろと言います。次郎は一番大事なものを持ちました。それは

次郎「郷さんの花だ。」

坂田健「アキと次郎の宝物だな、その花は。」

と言う鉢植えの花でした。なお、この話には坂田アキは登場しません。

加藤隊長と一緒にマットジャイロに乗った郷は怪獣に近づき、分析するために写真を撮りまくりますが、20mのところまで近づいた途端、また怪獣は火の玉をはき、慌ててマットジャイロは退散する羽目に陥りました。

さてMATは作戦を立てました。100mまで近づいたくらいでは反応はせず20mまで近づかないと見えないらしい、と加藤隊長は判断。作戦としてはどこかへ誘き出す作戦と、怪獣の動きを止めて尻尾からX弾を取り出す方法の2種類が考えられると加藤が言ったところで、郷は「音には反応するのではないでしょうか。」と指摘します。これに岸田が噛みつき、根拠はあるのかと郷に質問。郷はその根拠を説明できません。「そんな感じがします」と思っただけだからです。なので加藤隊長は「感じでものを言うやつがあるか。私は多少でも可能性の強い方法を作戦として採用する。」と郷の意見には耳も貸しません。加藤隊長は岸田が発案した麻酔弾作戦を採用しました。うーむ。上原正三が描いた加藤隊長は父親みたいな存在で、真偽を確かめるために自分で現場へ行ったり、郷を叱る時でも密かに坂田健に連絡してサポートさせるなど郷への気遣いは怠らない人だったはずなのに、この話の加藤隊長はそうではないようです。まあ現場へは郷と一緒に行ってはいますけどね。なおも誘き出し作戦の採用を直訴する郷にダメ押しとしてこう告げて立ち去ります。

加藤隊長「私は安全確実な作戦に決めた。お前は少し休め。疲れているよ。」

これでは郷は孤立するだけです。その後、郷は自分なりに状況を思い返し、やはり怪獣は視覚は弱くても聴覚には敏感だという結論を弾き出し、独りで、そう、本当に独りでマットジープを改造し始めます。

その頃、次郎のところに友達(矢崎知紀)が来ていました。友達は親戚の女の子を連れてきていました。女の子は友達のところに逃げてきていたのです。近くに怪獣が現れたからです。次郎は、おうちに帰りたいだろうと同情しますが、それを受けて友達は、こう言います。

友達「MATがいけないんだ。怪獣なんか逃すからだよ。うちでもみんな、MATが悪いって言っているよ。」

このセリフの途中で次郎は襟につけたMATのバッジを思わず隠してしまいます。友達が立ち去った後、次郎は

次郎「ちくしょう。郷さんのバカ。」

次郎はバッジを外して投げ捨て、さらには郷とアキの花を植木鉢ごと投げ捨てて割ってしまいます。うーむ。郷のあずかり知らないところでこんな騒動も起きていたんですね。

さて刻一刻と爆発の時刻は迫ります。郷は単独で出撃。他の5人は麻酔弾作戦を決行しています。郷不在なのを咎める人は誰もいません。先に麻酔弾が怪獣に打ち込まれましたが、麻酔弾は全く効きそうになく、寝ていた怪獣を刺激して、かえって暴れさせてしまう始末です。そのとき、郷が乗ったジープが現れます。郷は怪獣に近づくとジープに積んだサイレンを鳴らしました。そして郷の読み通り、怪獣はサイレンの音に反応し、ジープを追いかけて行きました。必死にダイナマイト工場から離れるジープと、それを追いかける怪獣。郷の作戦は成功したかに見えましたが、郷の乗ったジープは溝の手前でジャンプした格好になり、その勢いで転倒。ジープは怪獣がはいた火の玉で爆発してしまいました。さらに間の悪い事に今度は工場からサイレンが鳴り出しました。折角の郷の作戦も水の泡と消え、怪獣は工場の方へ引き返してしまいました。

とここでウルトラマン登場。ウルトラマンは怪獣としばらく戦いますが、怪獣が工場の前に文字通り居座ってしまうと今度は手も足も出せずにジッとしたままです。

ナレーター「時限爆弾を抱えた怪獣にスペシウムは使えない。ウルトラマンは何を考えているのだろう?」

このナレーションの直前と途中からの計2回、時計が映って時間が経ってウルトラマンスペシウム光線を発射して怪獣が爆発し、ダイナマイト工場も誘爆するという映像が流れます。もちろん、隊員がそう思っていたというイメージ映像です。

さて実際はというとウルトラマンのカラータイマーが赤になり、突然、ウルトラマンは回転して地中に潜ります。そしてウルトラマンは地中から怪獣を抱えて空へ飛び、怪獣は空中で爆発。東京の危機は去ったのでした。郷は無事に現れ、それを確かめた加藤隊長は唐突にこう言います。

加藤隊長「南、お袋さんの汽車は未だ間に合うか?」

南「はあ。」

南は怪訝な表情ながらも間に合うと返事をしました。

加藤隊長「郷の奴、何をもたついているんだ。早く呼んでこい。さもないと汽車に乗り遅れてしまうぞ。」

ようやく加藤隊長の意図を理解した南が郷を迎えに行き、一同が合流したところで話は終わるのでした。

 

田口成光は橋本洋二と議論して10回も直したそうです。田口も橋本も大変だった事でしょう。まあ橋本は「10回」ではないと否定してますけどね。でも残念ながらこの話、細部で綻びが目立ちます。

私がこの話を観たのは多分大学生になってからだと思いますが、その前に、子供の頃に「ウルトラマン」第25話「怪彗星ツイフォン」(脚本:若槻文三、監督:飯島敏宏、特殊技術:高野宏一)を見ていたので、初見の際は「水爆を飲み込んだレッドキングみたいに怪獣を八つ裂き光輪でバラバラにして空へ運べばいいじゃないか」と疑問に思ったものです。「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンも第3話と第4話で八つ裂き光輪を使っています。だから余計にそう思いました。

他にも冒頭で語られた、南の母親が上京すると言うのも最初と最後の場面で語られるだけで話全体には絡んでいませんし、郷はMATのみんなに責められ、あずかり知らないところで次郎の友達にも次郎にも責められ、最終的には独りで独自の作戦を立てて出動しています。なんか見ていてスカッとはしないのです。面白そうな場面を並べてはいますが、バラバラに並んでいるだけで有機的に結びついていないのです。

さてこの話、今まで上原正三が書いていた話、特にウルトラマンが冒頭で敗北する第4話に似ています。田口の発案だったのか、橋本洋二の発案だったのかは定かではありませんが。ただ不思議なことに、私は第4話を初めて見た時、それは子供の時でしたが、「ウルトラマンは空を飛べるのになぜジャンプ力を鍛えなければならないのだ?」と言う定番のツッコミは思い浮かべず、普通に特訓の話を受け入れていました。これがなぜだかよくわかりません。でも改めて見返すと、各場面はそれぞれ有機的に結びついていて、特訓をするのも、精神的な弱さを克服する目的もあったからではないのかなあ、と子供心に感じたからではないかと、個人的には思います。また、この話では坂田兄妹が全員登場し、郷の特訓を見守ります。坂田健は行きませんが、アキと次郎に場所の当たりをつけて教えてあげます。これと前後してアキが丘隊員に嫉妬する場面が入ります。郷と暖かく接する人や彼らの見せ場も上原正三は用意していたのです。これも効いていたのだと思います。

さて主人公のことを他の登場人物が誰も信じず理不尽に責められるという話は後に田口成光が書いた話で頻出します。ウルトラマンA(ヒッポリットが登場する話など)でもウルトラマンタロウ(バードンの話など)でも、そしてウルトラマンレオでもそういう話が並びます。あくまでも私見ですが、知らず知らずのうちに、田口成光は第8話「怪獣時限爆弾」をひきづってしまったのでしょう。でこういう人間ドラマが田口に向いていたかというと、そうではなかったのではないかと私は思います。それを田口が自覚していたかどうかはわかりません。おそらくそうではなかったのかなあと思います。

おわりに

なんだか辛口な論評になってしまいました。まあ田口が第2期ウルトラシリーズを支えた功労者の一人だという事実は変わらないとは思います。さて次はホラを吹いて大暴れした石堂淑朗を取り上げましょう。

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