大暴れ石堂淑朗

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」後半で脚本を書いた石堂淑朗を取り上げます。

略歴

石堂淑朗は1932年7月17日生まれで広島県尾道市久保町出身です。東京大学文学部独文学科に入学し、卒業。1955年に松竹大船撮影所に入社しました。脚本家デビューは1960年の「太陽の墓場」です。ここで大島渚などとともに映画革新運動である松竹ヌーヴェルバーグの中心として活躍しました。余談ですが、大島渚佐々木守とも仕事をしています。「日本の夜と霧」では大島渚と共同で脚本を書いています。つまり、元々は反権力の人だったのです。1965年以後は松竹をやめてフリーになり、テレビでも活躍します。

円谷プロの作品では「怪奇大作戦」から登板しています。放送されたのは「美女と花粉」、「呪いの壺」ですが、この他に「平城京のミイラ」という話を書いています。

さて石堂淑朗佐々木守大島渚とつき合いがあったと書きました。石堂がウルトラシリーズで書いた話は佐々木の作風とは微妙に違います。佐々木守は「恐怖の宇宙線」のように、怪獣を人間世界に放り込んで人間世界を傍観するような作風でしたが、石堂は「人間世界を傍観する」ことは一切しません。また佐々木守は娯楽性も重視した脚本家で「ウルトラマン」ではそれまであまり活躍することがなかった小型ビートルも出動させ、ビートルと小型ビートルの2機で怪獣と戦わせています。それまでの話ではビートル1機で怪獣と戦う話が多かったので、その方が子供達も喜ぶのは間違いありません。この影響からか、以後は複数のビートルが怪獣と戦う話が「ウルトラマン」で増えます。ですが、石堂淑朗にはそのようなサービス精神など微塵もありません。自分の描きたい話を自分の力技で描き上げた話ばかりです。さらに反権力志向なので権力の象徴であるウルトラマンやMATも酷い目にあっています。またウルトラマンやMATが戦う宇宙人は、「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」で登場した宇宙人のような知的なキャラクターとは違い、自分勝手に自分の好きな事をしに暴れ回るチンピラのような存在です。その作風が顕著に現れたのが、今回取り上げる第42話「富士に立つ怪獣」(監督:佐伯孚治、特殊技術:佐川和夫)です。この話を演出した佐伯孚治は東映で組合活動に熱心に参加していた人でした。熱心な労働組合員が反権力の人が書いた脚本を演出したら、どうなるのか。非常に強烈な作品が出来上がりました。

第42話「富士に立つ怪獣」

冒頭、交通事故が起こります。駐車していた乗用車にトラックが突っ込んできたのです。駐車していた乗用車の持ち主は激怒し、トラックの運転手を「キチガイ」と罵りますが、トラックの運転手は、道路の左側を真っ直ぐ走ってきたんだ、と言い張って譲りません。その様子を山道から見ていたカップルは山道を真っ直ぐ歩いて行きましたが、森の中で崖を滑り落ちてしまい、怪我をしてしまいました。山道を真っ直ぐ歩いて行ったにも関わらず、なぜか道を踏み誤ってしまったのです。喧嘩する乗用車の持ち主とドラックの運転手を仲裁するお巡りさん(柳谷寛)のところへ先ほどのカップルが「赤チンを貸してくれ。」とやってきました。4人の話を聞いたお巡りさんは困惑してこう言います。

お巡りさん「不思議なこともあればあるずら。ぶつけたり、落ちたり、このひと月の間に不思議なことがかれこれ10件もあったずら。」

そして場面が変わってMAT本部。伊吹隊長が富士山で交通事故が頻発している話をし、郷に調査を命じます。さてここで注目すべきなのが岸田です。なんと電気カミソリでヒゲを剃りながら伊吹の話を聞いているのです。なんと不真面目な態度なのでしょう。これは後の伏線なので覚えておきましょうね。で、さらにこんな会話を交わしています。

南「そうだ。この辺(事故が起きたところ)一帯が一種のミステリーゾーンになっているっていうわけだな。」

岸田「ミステリーゾーンか。しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」

この部分、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」によれば、岸田の「しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」はシナリオでは南が言っていた言葉だったのだそうです。これを佐伯は岸田に振り替えたわけです。ここも重要なポイントですね。もちろん、視聴者にはその意図がこの時点でわかるわけはありません。

さて郷は調査に出かけました。そしてマットビハイクルで走っている途中、道の左側を走っていたにも関わらず、乗用車と激突してしまいました。マットビハイクルも乗用車も爆発炎上。郷は無傷で済みましたが、相手の運転手は病院に運び込まれました。見舞いに行った郷は気にしないでくださいと運転手に言いました。運転手は謝りましたが、彼も、道の左側を真っ直ぐ走っていたことと、彼の目にはマットビハイクルの方が道を間違えているように見えたことが、この時、判明します。

次に郷は測候所へ行きました。そこで郷は事故が起きるのは晴天の時で富士山の頂上には笠雲がかかっていたことを知りました。郷が富士山を見ると頂上に笠雲がかかっているのが見えました。郷が持っていたレーザーガンSP-70を笠雲に向かって撃つと笠雲は消え、富士山頂上に怪獣が姿を現しました。それにしてもレーザーガンSP-70って射程距離が長いんですね(棒)。まあ石堂は深く考えずに書いたのでしょう。閑話休題。早速郷は本部に連絡しました。

郷「富士山頂に怪獣が現れました。この怪獣は不思議な力を持っているようです。晴れた日に現れ、富士山の笠雲の中に隠れているんです。」

ここから、MATが怪獣、いや、石堂淑朗に翻弄されて酷い目に遭うことになりますが、そんなこと、MATも村の人も視聴者も知るはずがありません。閑話休題。村の人達はなぜか神社に集まっています。やってきたMATの戦闘機は4機。いつもと比べてやけに多いです。その構成はマットアロー1号2機(伊吹と岸田)、マットジャイロ2機(南と上野)です。

お巡りさん「MATだ。おーい、頼むぞー。頼むぞー。」

交通事故を起こして酷い目に遭っている郷は

郷「隊長。光は曲げられている恐れがあります。有視界飛行による攻撃は危険です。計器飛行に切り替えてください。」

と警告しますが

伊吹「大丈夫だ。これだけはっきり見えているんだ。」

と意に介しません。ですが郷の懸念は的中。伊吹(マットアロー1号)と南(マットジャイロ)は衝突してマットアローとマットジャイロは爆発炎上。まあ二人とも脱出に成功してはいます。その二人の目の前で今度は岸田(マットアロー1号)と上野(マットジャイロ)も衝突しかかりますが、こちらは何とか衝突を回避し、2機とも着陸しました。

日没とともに怪獣は消えました。怪獣が太陽光線を利用しているのは間違いありません。MATの面々は作戦を練ることにしました。岸田は何かを飲んでいます。瓶のように見えますが、まさか…後でしっかり映りますが、なんとポケットサイズのウィスキーの小瓶です。さて

伊吹「明朝の日の出とともにまた怪獣は姿を表すだろう。衝突事故が起こらぬうちにまた仕留めよう。」

と言うや否や宇宙人が現れました。以下、MATとのやりとりです。

ストラ星人「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。それがMATの連中にできるかな。光線が曲がるなど、貴様ら地球人には想像もつくまい。」
伊吹「(マットシュートを構えて)貴様、何者だ。」
ストラ星人「私は第7銀河星のストラ星人だ。この地球に混乱を起こして滅ぼそうとパラゴン怪獣を送り込んだのだ。」

郷「この地球をどうしようと言うのだ。」
ストラ星人「この地球は山あり、谷あり。まことに綺麗な星だ。この地球をわしらの星座の別荘にしようと思ってな。どうだね、MATの諸君。無駄な抵抗をやめてすんなり地球を明け渡さないかね。そうすれば地球人の命だけは保証するよ。」
南「黙れ。そんなことはMATの命にかけて(とマットシュートを構えるが)」
ストラ星人「撃っても無駄だぞ。私には光を曲げる力があると言っておるのに。なに、本当の私はどこだと? ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。この岩の裏側だよ。」

こう言ってストラ星人は消えました。ストラ星人は別荘を作るために地球にやってきたのです。

場面が変わり、MATのメンバーが話の続きをしています。岸田はウィスキーを飲みながらこう言います。

岸田「ちきしょう。この地球はあんな化け物の別荘にされてたまるか!」

物凄く興奮しています。酔っ払っているのではないかと思うほどです。これも大事な伏線なので覚えておきましょう。

南「だがこれは容易ならぬ敵だぞ。奴が自由に光を曲げられるとすれば、我々に怪獣の位置がどうしてわかる? ねえ、隊長。」
伊吹「うん。俺も今、そのことを考えていた。富士山頂にいる怪獣はストラ星人が作り出した蜃気楼かもしれんぞ。」
上野「すると我々は忍者と戦っているようなものですね。」
伊吹「いや、手がかりはあるんだ。(地図を持ち)山頂と事故現場を結ぶ、どこかに怪獣は潜んでいるはずだ。明日、俺と岸田はレーダーで探索しよう。」
岸田「はい。」
伊吹「君達は山頂に向かって我々の位置を確認してくれたまえ。」
岸田「よーし。(またウィスキーを飲みながら)俺達の目がダメなら、後は電波という手がある。誘導ミサイルで必ず仕留めてやるぞ。」

興奮高まる岸田でしたが、ここで郷が冷静に指摘します。

郷「しかし…」
岸田「なんだ。」
郷「ストラ星人が自由に光を変えられるならば、電波も…」
岸田「郷、お前、我々の科学を信じないのか?」
郷「いえ、科学的な心配をしてるんです。」
岸田「(ウィスキーの小瓶を投げながら)よさないか!(これと前後してウィスキーの小瓶がパリンと割れる音がする)仮にも俺達はMAT隊員なんだぞ。」

パリンと割れる音がしっかり聞こえました。やはり岸田は相当興奮しています。郷の指摘にも冷静に答えようとはしません。郷と岸田の対立は初期によく見られましたが、あの時は彼なりに理屈がありました。今回はやたらと思い込みが激しいように見られます。これが後の騒動に繋がります。見かねた伊吹は

伊吹「(見かねて)やめろ! 早く休んで明日の攻撃に備えろ!」

というわけで翌朝。伊吹がマットジャイロ、岸田がマットアロー1号に乗り、出撃しました。南、上野、そして郷は地上から伊吹と岸田を誘導する役割です。また神社に村人が集まっています。

お巡りさん「MAT、しっかり頼むぞー。」

怪獣が富士山頂に姿を現しています。

岸田「(マットアロー1号で)隊長、レーダーが怪獣を捉えました。やはり山頂の怪獣は蜃気楼です。本物は山梨側の8合目あたりの模様です。」
伊吹「(マットジャイロから)よーし、誘導ミサイルの発射準備。まず俺が攻撃する。」

というわけで伊吹は誘導ミサイルを撃ちましたが、誘導ミサイルはなんと

南「こっちへ落ちてくるぞ。」

レーダーが捉えていたのは怪獣ではなかったのです。誘導ミサイルは南達のすぐそばに命中し爆発。その数は何発もあり、下手したら南、上野、郷は死んでいたところです。

南「攻撃中止。攻撃中止。」
ストラ星人「バカめ。我々は光波も電波も赤外線も、全ての電磁波を自由に変えられるのだ。」

そう。怪獣やストラ星人は全ての電磁波を自由に変えられるのです。これに伊吹も気がつき、攻撃をやめたのですが…

南「岸田、中止だ。直ちに攻撃中止。」
岸田「ちきしょう。俺は蜃気楼なんかには騙されんぞ。」

また攻撃開始。当然、怪獣パラゴンには当たりません。南達のところに何発も何発も命中します。可哀想な南達。

ストラ星人「レーダーが狂っているのに、何にも知らないんだ。」

ついに誘導ミサイルは村人のところまで飛んできました。逃げ回る村人達。

お巡りさん「うわあ。助けてくれえ。」

お巡りさんのところも何発も何発も誘導ミサイルが命中して爆発。この話、火薬の使用量は莫大だったことでしょう。

伊吹「岸田、中止だ。レーダーも狂ってるんだ。」

それでも岸田は

岸田「ちくしょう。しぶとい奴だ。」

攻撃をやめません。沈着冷静な人がキレるとこわいですね。村人達のところにも容赦なく誘導ミサイルが命中し、ついにある村人がキレました。

村人「ちくしょう。MATの奴め。」

この村人は持っていた猟銃を空に向けました。マットアロー1号を狙っているようです。石堂淑朗は村人にMATへ刃を向けさせたのです。石堂の反権力の思想が色濃く現れた場面だと思います。閑話休題。病院から郷と事故を起こした人もその様子を見ていました。

郷と事故を起こした人「MATは狂っている。」

今回は矢鱈とキチガイだとか狂っているといった言葉が出てくるような気がします。

さて郷はウルトラマンに変身。ウルトラマンを見たお巡りさんは

お巡りさん「お、ウルトラマンだ。ばんざーい。」

お巡りさんはなぜか両手に一つずつ小さい大根を持っています。この大根、大根とは思えないほど小さく、人参より大きい程度のものです。でも色を見たら真っ白なので大根です。

さてウルトラマンは空を飛び、富士山の頂上に立ちました。パラゴンは巨大でウルトラマンの頭はパラゴンの前脚の膝より下に見えます。さてここで白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での石堂淑朗の証言を紹介しましょう。

スケールが大きいというか、橋本洋二に本当に呆れられたけれども、(怪獣の)幻影が富士山の頂上に出てくるんですよ。富士山から考えたら、1000メートルくらいの怪獣で、それとやり合うウルトラマンって書いたら、(橋本が)「ウルトラマンの身長いくらか知っているか?」って言うから「知らない」「そうだろうなぁ」だって(笑)。だから富士山のやつは、橋本洋二にやっつけられたから一番よく覚えている。

怪奇大作戦』は普通のドラマだと思ってやったけど、こっちは一種のおとぎ話だからね。ああいうこと平気でやっちゃうんだよな。

橋本洋二に呆れられたので石堂は後付けで設定をつけています。それが、(どちらの能力かは明確に描かれてはいませんが)怪獣やストラ星人は光(も含めた全ての電磁波)を自由に操ることができるという能力があることです。ここでお話に戻りましょう。ウルトラマンはウルトラブレスレットを取り出しました。そして

ナレーター「ウルトラマンのブレスレットは太陽光線に強烈な振動を与えたのである。」

ストラ星人「どうしたわけだ。光線が曲がらなくなった。」

ナレーター「怪獣はとうとう本当の位置に姿を現した。」

というわけでウルトラマンは怪獣パラゴンの本体と戦闘開始。パラゴンは4本足の怪獣ですが「ウルトラマン」に登場したドドンゴのように人間が2人入る構造になっています。ウルトラマンを演じたきくち英一のインタビューをまとめた「ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜」に当時の写真が載っていますが、遠矢孝信が後ろに入り、前には有川兼光が入っているのが紹介されています。閑話休題。最終的にウルトラマンスペシウム光線でパラゴンの足元の岩を崩し、パラゴンは火口に落下。マグマの高熱で焼死しました。と同時にストラ星人も(なぜか)消滅。事件は無事に解決したのでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」での石堂淑朗の活躍を描きました。こうしてみると田口成光は真面目に橋本洋二の言う事を聞いていたけれど、石堂淑朗はそうではなくて我が道を突き進んでいたのだなあ、と思いました。私はどちらかといえば石堂の書いた話の方が好きですが、それは彼が我が道を突き進んだからではないかなあと思います。対する田口は真面目に橋本洋二が敷こうとした路線を進んで行こうとしたのでしょう。そう思います。

ただ私は上原正三市川森一の書いた話の方が大好きですけどね。

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