ウルトラセブン -上原正三 Advent Calendar 2020 4日目-

はじめに

この記事では「ウルトラマン」の後継企画となった「ウルトラセブン」での上原正三の軌跡を取り上げます。

ウルトラマン」終了

ウルトラマン」は「ウルトラQ」以上の人気作となりました。最高視聴率は第37話「小さな英雄」(脚本:金城哲夫、監督:満田かずほ、特殊技術:有川貞昌)で記録した42.8%。最低視聴率は第5話「ミロガンダの秘密」(脚本:藤川桂介、監督:飯島敏宏、特技監督:的場徹)で記録した29.0%。この数字からもわかる通り、常時30%以上を記録していました。平均視聴率は35.6%でした。まさに怪物番組です。演出した監督もTBS映画部から派遣された円谷一、飯島敏宏、実相寺昭雄、樋口裕三、東宝から出向してきた野長瀬三藦地、そして円谷プロの社員だった満田かずほ、鈴木俊継が腕をふるい、冴えた話を連発していました。円谷英二が監修として参加し、特に特撮については納得の行かないカットには撮り直しを命じるなど、品質にこだわった事も功を奏したのでしょう。しかし、この英二のこだわりは制作日程の過密化や制作費超過に繋がるという短所でもありました。

まず制作費超過について書きましょう。「ウルトラQ」「ウルトラマン」の制作費としてTBSから円谷プロに出されていた金額は1本あたり538万円でした。これは当時のテレビ映画では破格の金額でTBSもかなり頑張っていたことがうかがえます。ですが、実際はそれでは制作費を賄いきれず、毎回200万円近い赤字を円谷プロは出していました。これが積もり積もればどれだけの金額になるのか。単純に計算しただけでも1億円を超えています。

次に制作日程の過密化について書きましょう。「ウルトラマン」の制作は飯島敏宏監督の演出した第2話「侵略者を撃て」(脚本:千束北男こと飯島敏宏)、第3話「科特隊出撃せよ」(脚本:山田正弘)、そして第5話「ミロガンダの秘密」の3本持ちで始まりました。特技監督として的場徹がクレジットされていますが、スタッフは本編と一緒の一班体制でした。そのため飯島は本編の監督でありながら特撮にも関わり、スペシウム光線のポーズを発案したりもしています。一班体制の3本持ちになったのは予算削減を狙ってのものだったのですが、制作はうまく行かなかったようで、次からは本編と特撮の2班体制になり、3本持ちではなく2本持ちになりました。そして特撮の方も上述した通り、円谷英二のこだわりで再撮影が重なった結果1班ではまかないきれなくなり、2班、一説には最大3班体制になったと言われています。第19話「悪魔はふたたび」ではクレジットは高野宏一になっていますが、円谷英二自ら国立競技場でのアボラスとバニラの戦いなどの特撮を担当しています。そして同じ頃に制作された第18話「遊星から来た兄弟」の特撮にも英二は大木淳に指示を出しています。第37話「小さな英雄」と第38話「宇宙船救助命令」の特撮を東宝有川貞昌が担当したのもそうした事情があったことを、白石雅彦著「ウルトラマンの飛翔」の中で満田かずほが認めています。

TBSも円谷プロも制作費超過と制作日程の逼迫を危惧していました。「ウルトラマン」は当初は2クール分26話の制作が決まりましたが、2クールを過ぎた段階で決まった延長分はもう1クールの3クール目のみ。先述した通り、「ウルトラマン」は人気作となっていましたから、TBSとしては4クール目も「ウルトラマン」で行きたかったはずですが、同時にその制作が難しいことも危惧していたのです。

東映の中継ぎ作品「キャプテンウルトラ

結局、「ウルトラマン」は3クール39話で終了しました。後番組は東映が制作した「キャプテンウルトラ」です。題名に「ウルトラ」とついているのは「ウルトラQ」「ウルトラマン」と続いたため、TBSがこの枠をウルトラシリーズとして売り出す思惑があったからです。「キャプテンウルトラ」は宇宙を舞台にした話で、キャプテンウルトラ(演じたのは中田博久)が3体に分離する宇宙船シュピーゲル号の乗って宇宙からの侵略者や宇宙怪獣と戦うという話です。他のレギュラーはロボットのハック、宇宙人のキケロのジョー(演じたのは小林稔侍)、そしてあかね隊員(演じたのは城野ゆき)でした。この企画、ほぼ同時期に日本でも放送された「サンダーバード」の影響があったような気もします。ちなみに東映は「キャプテンウルトラ」を制作費350万円で請け負っていますが、「ウルトラマン」よりも少ない金額だったため、当然、大赤字となりました。ですがTBSに制作会社として認知されたことで後に「キイハンター」「アイフル大作戦」「バーディー大作戦」「Gメン'75」と言った番組の制作に繋がるのでした。まずは放送局との縁を作るため、ダンピングして売り込んで作られた番組だったのでした。

こうして「キャプテンウルトラ」の放送が開始されましたが、その後番組は円谷プロ制作の番組となりました。「キャプテンウルトラ」の平均視聴率は25.6%。そんなに低い数字ではなかったとは私も思いますが、「ウルトラマン」の平均視聴率35.6%の後だったため、あまり良い印象を残せませんでした。こうなった理由は明白で主人公が巨大化した宇宙人ではなく等身大の人間だったことに加え、初期の敵も等身大のバンデル星人で「ウルトラマン」に比べてスケールダウンした印象を当時の子供達に与えてしまったからです。バンデル星人が操る巨大怪獣が登場した第1話の視聴率が31.7%、巨大怪獣が登場しなかった第2話が32.2%とまずまずの数字を記録していますが、第2話には怪獣が登場しなかったからか、第3話では29.9%を記録。以後、視聴率は低下の一途をたどってしまったのです。TBSや東映も視聴率向上のため、1クールでバンデル星人編を終了させ、人気のなかったキケロのジョー(演じたのは小林稔侍)を降板させ、怪獣続々登場編と銘打って路線変更を行ないましたが、2クールの予定より2話短い24話が最終回となってしまいました。

キャプテンウルトラ」は再放送に恵まれなかったため、私が見たのは大人になってからです。宇宙が舞台の話でロケーションは一切なく全場面でセットが組まれて製作されていました。これが制作費超過の要因になったのは間違い無いでしょう。後に円谷プロの作品でも活躍する矢島信男が特撮を担当していますが、実は彼は松竹から東映に来た人で松竹在籍時代に円谷英二と一緒に仕事をしたことがあったのだそうです。ただ特撮の出来は円谷プロより劣ったのは否めませんでした。後に上原正三東映作品で仕事をした時にプロデューサーの平山亨にその理由を尋ねたそうですが、当時はあれが精一杯だった、という答えが返ってきたそうです。

ウルトラセブン

放送開始

ウルトラセブン」の第1話「姿なき挑戦者」(脚本:金城哲夫、監督:円谷一、特殊技術:高野宏一)は1967年10月1日に放送されました。視聴率は33.7%で、まずまずのスタートを切りました。私は小学校4年生の頃、毎週土曜日の朝7時に行なわれた再放送が初見です。風来坊モロボシダンがウルトラ警備隊のフルハシとソガと遭遇し、クール星人と戦いを開始する中盤までは円谷一監督の演出もあって面白かったのですが、ダン操るカプセル怪獣ウィンダムがクール星人の小型円盤群の攻撃に敗れたり、ダンが変身したウルトラセブンが等身大のままクール星人の円盤の中に潜り込み、さしたる抵抗をクール星人が見せぬままアイスラッガーで倒されるという流れは物足りなさを感じたのを覚えています。実はその後、ウルトラセブンは巨大化してクール星人の円盤を宇宙へ運んで破壊しているのですが、巨大化したとわかるのがほんの少ししかないため、私は長い間、「ウルトラセブンは第1話では等身大のままだった」と思い込んでいました。なおクール星人は着ぐるみではなくて操演で釣られた宇宙人でした。なのでウルトラセブンとの戦いを表現するのが難しかったのかもしれません。

この第1話は「ウルトラセブン」が「ウルトラマン」ほどの視聴率を当時得られなかった理由の一端を物語っているように思います。私もそうでしたが、本放送当時の子供達が望んでいたのは「ウルトラマン」のような、着ぐるみの巨大怪獣とウルトラマンが戦う話でした。なのに「ウルトラセブン」は後述する理由もあって本放送当時の子供達が観たかったものとはズレた作品になってしまい、後に視聴率低下を招き苦しむことになります。

さてウルトラセブンの演出陣を観てみましょう。第1クールに参加したのは制作順で書くと野長瀬三摩地、満田かずほ、円谷一、鈴木俊継、実相寺昭雄の5人。東宝から参加した野長瀬とTBSから参加した円谷一実相寺昭雄円谷プロの社員だった満田と鈴木俊継という内訳になっています。「ウルトラマン」でTBS映画部から参加した飯島敏宏と樋口裕三は参加していませんでした。樋口は映画部から編成に異動したので企画では「ウルトラセブン」には参加していましたが、飯島敏宏は別の番組に参加していたことも理由に挙げられますが、円谷プロ側の事情も透けて見えます。白石雅彦著「ウルトラセブンの帰還」で満田かずほはこう証言しています。

満田  円谷英二社長としては、「ウルトラセブン」はできるだけ身内で回したかったらしいんですよ。その頃は、私も鈴木俊継さんも監督になっていたし。ですから私達の担当回が多いんです。二人とも十四本撮っているんですが、私は二本前後編が入っているでしょう。だからエピソードでは鈴木さんの方が多い。会社としては、どうせ給料を払うならなるべく多くやらせた方がいいだろうって考え方じゃないかな? あとはわずかに監督手当を出せばいいんだから(笑)

第2クールでは実相寺昭雄は京都で制作された「風」という時代劇の制作に飯島敏宏とともに参加するため、「ウルトラセブン」を一時離れます。また野長瀬も後述する通り、「マイティジャック」の制作に映ったため、「ウルトラセブン」の制作から一時離れます。そのため、第2クールは円谷一以外は満田と鈴木が演出した話が多くなったのです。これも「ウルトラセブン」の制作費を抑えようとした円谷プロの意図を感じてしまう話です。ですが、この制作費を抑える施策は成功だったとは言いがたく、後述する通り、視聴率低下の要因ともなりました。

第9話「アンドロイド0指令」

上原正三の初参加は11月26日放送の第9話「アンドロイド指令」(脚本:上原正三、監督:満田かずほ、特殊技術:的場徹)でした。制作順は第11話です。ここまで遅くなった理由は「快獣ブースカ」の制作がまだ続いていたからです。白石雅彦著「ウルトラセブンの帰還」で上原は「快獣ブースカ」制作当時を振り返って、こう証言しています。

上原 脚本の発注から直しまで、「ウルトラQ」や「ウルトラセブン」で金城がやっていたことを僕が引き受けていたわけです。というのも金城は「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」の方が忙しいでしょう。そっちは会社のメインの作品で、「快獣ブースカ」は言ってしまえばB級扱いですから、僕なんかに仕事が回ってきたんだろうね。

ところが金城哲夫が手がけた作品と比べて潤沢な状況ではなかったようです。同著では続けてこういう証言が載っています。

上原 満田や鈴木(俊継)、それに僕なんかは若手だからね、会社は「金をかけるな」って言って来るわけですよ。この頃は累積赤字がかなりあったからね。ですから「アンドロイド0指令」も"予算のかからないものを書け"と言われた覚えがありますよ。僕なんかひねくれ者だから、だったらこういう手があるじゃないか、ってやっちゃうんだよね。

なので、なんと「アンドロイド0指令」は1班体制で制作された作品でした。流石に同時制作の「魔の山へ飛べ」(脚本は金城哲夫)は2班体制に戻っていますが。

大筋は、宇宙からやってきたチブル星人がアンドロイド少女ゼロワン(演じたのは小林夕岐子)を操って モロボシダンことウルトラセブンの暗殺を図り、同時に子供達におもちゃに見せかけた武器を配って洗脳し、侵略を進めようというものです。クライマックスはダンとソガがデパート(ロケ地は松屋デパート)のおもちゃ売り場で戦闘機や戦車の攻撃を受ける場面です。なのでわざわざ2班を組んで行なう必要がなかったため、1班体制だったというわけです。的場徹と戦闘機や戦車を操演するスタッフを特撮班から回してもらって撮影がなされました。この場面は非常に迫力があり、ダンとソガは絶体絶命のピンチに陥ります。ただダンがウルトラセブンに変身した後はチブル星人があっさり倒されてしまい、少々呆気なかった結末でした。

第17話「地底GO! GO! GO!」

次に上原が書いたのが第17話「地底GO! GO! GO!」(脚本:上原正三、監督:円谷一、特殊技術:大木淳)です。監督が円谷一ということからもわかる通り、この話も円谷一主導で行なわれました。この話ではモロボシダンのモデルとなった青年薩摩次郎が登場します。この話では、山登りの最中、滑落した薩摩次郎が仲間の命を救うために自らザイルを切って200メートルの谷底へ落ちていったのに生き残ったという逸話が語られています。実は次郎はウルトラセブンに救出されており、次郎の行為に感動したセブンは彼の姿と魂をモデルにモロボシダンにしたのです。この話を作ろうと言い出したのは円谷一だと上原は証言しています。金城も交えた3人(金城は同時制作された「空間X脱出」を執筆)で議論して決めたようです。この話では地底都市の守りにロボットが複数体出現しますが、作られた着ぐるみは一体だけで胸のマークを変えて複数体だと表現するという手法も円谷一の発案です。ただ「薩摩次郎」という名は上原の発案です。「ウルトラQ」と「ウルトラマン」でプロデューサーを務めた栫井巍が鹿児島出身だったため、それにちなんでつけたのです。

金城哲夫の代役として

第2クール途中から、上原正三は「ウルトラセブン」の制作に関わることが多くなります。それはフジテレビから特撮ドラマ「マイティジャック」制作が発注され、金城哲夫はそちらに注力せざるを得なくなったからです。よってそれまで金城が行なっていた「ウルトラセブン」の脚本の発注やなおしは金城から上原に代わりました。同時に上原は脚本も多数書くことになります。映像化された話を並べてみましょう。

この中で第34話と第43話には怪獣も宇宙人も登場しません。また第46話で登場するのはニセウルトラセブンカプセル怪獣アギラのみで、ありものを流用した話になっています。こうなった理由は制作費を抑えるためでした。先述した通り、累積債務は溜まる一方。円谷プロとしてはできる限り制作費を抑えたかったのです。ましてやこの時期はフジテレビで「マイティジャック」が放送されており、初の大人向けドラマということで会社がそちらに力を入れていたのも間違いない事実です。そのため、段々と怪獣が暴れる話よりも人間ドラマやSFドラマに重きを置いた話が増えていきました。

ですが、この施策は視聴率低下という形で見事に裏目に出ます。本放送当時の子供達が観たかったのは「ウルトラマン」のような巨大怪獣とヒーローとの戦いでした。視聴率は「ウルトラセブン」第24話「北へ還れ!」(脚本:市川森一、監督:満田かずほ 、特殊技術:高野宏一)の30.1%を最後に低下を続け、第30話「栄光は誰れのために」(脚本:藤川桂介、監督:鈴木俊継 、特殊技術:的場徹)では22.1%まで下がってしまいます。いったん持ち直したものの、視聴率低下は止まらず第36話「必殺の0.1秒」(脚本:山浦弘靖、監督:野長瀬三摩地、特殊技術:高野宏一)で16.8%を記録。これはシリーズ最低です。以後は10%台後半が定位置となってしまいます。「北へ還れ!」はカプセル怪獣ウインダムがカナン星人に操られてウルトラセブンと戦ったり、フルハシと母との交流を重視した作劇になっていますが、脚本を書いた市川自身はこういったやり方を「貧すればドンす」と酷評しています。「栄光は誰れのために」と「必殺の0.1秒」はいずれも地球防衛軍の隊員がウルトラ警備隊の隊員を敵視または妬むというのが話の主題でした。再放送で大人になった人からは見応えがあると評価された話もありますが、当時の子供達には難しすぎてわかりにくかったのが正直なところでしょう。

もちろん、TBSは手をこまねいていたわけではありません。TBSのプロデューサー三輪俊道は、かつて「ウルトラマン」を演出した飯島敏宏と実相寺昭雄の再登板を要請し、実現させています。飯島が演出したのは第38話「勇気ある戦い」(脚本:佐々木守、特殊技術:高野宏一)、第39話「セブン暗殺計画 前篇」第40話「セブン暗殺計画 後編」(脚本:藤川桂介、特殊技術:高野宏一)の3本。実相寺は先述の第43話と第45話を演出すると同時に脚本も書いています。川崎高というのは実相寺のペンネームなのでした。ですが、時期は遅すぎました。「風」の制作があったという事情があったので仕方がありませんが、第2クール前半辺りで飯島や実相寺が参加していれば、風向きは変わったかもしれません。

幻の脚本その1「300年間の復讐」

さて話を少し前に戻します。第23話「明日を捜せ」と同時期に制作予定で上原が書いた脚本が存在します。それが「300年間の復讐」です。これはなぜか映像化されず、1993年に市川森一が書いたドラマ「私が愛したウルトラセブン」で一部分だけが引用という形で映像化されます。その内容は、300年前に地球に流れ着いたトーク星人は髪の毛が赤いというだけの理由で妹のシシーを殺され、その後、ずっと人間に復讐されるための武器を作り続けていたという話です。この話はアンヌが主役で殺されたシシーに似ているため、トーク星人はアンヌに妹の面影を観るというのも見どころです。人種差別がテーマですが、上原は明らかに琉球が薩摩や本土の支配に置かれていたことを裏テーマに持ってきています。それを市川森一も汲み取っていたのか、「私が愛したウルトラセブン」では「薩摩への琉球の復讐」というテーマを財津一郎演じる三国プロデューサー(「コメットさん」も担当していたということから橋本洋二がモデルではないかとも言われています)が問題視したのが未映像化の理由だと描かれています。ですが、実際はそうではなかったようです。まず白石雅彦著「ウルトラセブンの帰還」での上原の証言です。

上原 これは野長瀬さんが結構やりたがっていたんだよ。制作中止となったからといって、他の監督には渡さなかったよね。ただ、実相寺さんに見せたら「フン」って言われたんだね。僕には面と向かって言わなかったけれども「弱い民族だな」っていっていたことは聞いた。「こんな弱い民族がやられるのは当たり前だ」ってね。

先述したとおり、「300年間の復讐」は第23話「明日を捜せ」と同時制作の予定でした。この直後、野長瀬は「マイティジャック」の制作第1話の演出に駆り出されます。白石雅彦さんは「ウルトラセブンの帰還」で、その結果、当初2本制作の予定が1本になり、南川竜こと野長瀬が脚本を書いた「明日を捜せ」が優先されてしまったため、「300年間の復讐」が制作中止となった、と推測しています。私もこの説を支持します。

幻の脚本その2「宇宙人15+怪獣35」

さて幻の脚本は他にもあります。最後にそれを紹介しましょう。それは「宇宙人15+怪獣35」という題名で脚本の名義は川崎高と上原正三の共作です。川崎高というのは実相寺昭雄ペンネーム。文字通り、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」に登場した宇宙人や怪獣が生き返り、地球を襲うという話です。冒頭、満月の夜にバルタン星人を追跡してきたセブンはケロニア、ギガス、ギャンゴ、キーラ、ウー、メフィラス星人に取り囲まれてしまいます。なんとかバルタン星人以外の宇宙人や怪獣を倒すことにセブンは成功しますが、重傷を負って倒れてしまいます。ダンはメディカルセンターに運ばれ、その間に東京は怪獣王国になってしまいました。その時、ピグモンも復活し、地球防衛軍に謎の宇宙人が復活させたと話したり、怪獣達の闘争本能を刺激すべきだという作戦を発案したります。作戦は実行に移され、興奮剤の影響で興奮した結果、怪獣軍団は自滅しますが、それでもレッドキングペギラジェロニモンネロンガエレキングが生き残ってしまいます。そこでウルトラセブンカプセル怪獣ウインダムとアギラとともに登場。ですが、カプセル怪獣は怪獣軍団には敵わず、セブンも重傷が癒えていなかったため、エネルギーを消耗して倒れてしまいました。とその時、宇宙の彼方から黄金に輝くゴードが登場。ゴードは5大怪獣を一蹴して倒し、また大空の彼方へ飛び去ったのでした。なお、この脚本ではガッツ星人に倒されたウインダムが登場していますが、当初、ガッツ星人に倒されるのはミクラスだったというのがウインダム登場の理由だったようです。

これは上原によれば実相寺昭雄が「どうも現場がチマチマした感じだから、お祭りみたいなものを作ろう。いっそのこと、怪獣倉庫にあるやつを全部出したらどうだ?」と言ったことがきっかけで始まったそうです。とはいうものの実質的には上原独りで書いています。ですが、制作部から、(スーツアクターの)人件費がかかるし第一倉庫にそんなに使える着ぐるみは残っていない、と待ったがかけられ、未映像化に終わりました。代わりに制作されたのが上原正三がほぼ単独で書いた「第四惑星の悪夢」や実相寺昭雄がほぼ単独で書いた「円盤が来た」と言った作品でした。「第四惑星の悪夢」では着ぐるみは一切登場しませんし、「円盤が来た」にはペロリンガ星人は登場するものの戦う場面が少し挿入されただけ。両作とも異色作としてファンに知られていますが、これが制作された背景には「宇宙人15+怪獣35」の未映像化というのがあったのでした。

 

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