加藤隊長

はじめに

この記事では、MAT日本支部の初代隊長を務めた加藤勝一郎(かとうかついちろう)について取り上げます。

設定と描かれたドラマ

年齢38歳。ということは郷秀樹より15歳年上です。これだけ離れているので郷秀樹の父親のような存在だと私は思ったのでしょうね。で実際、物語では郷とは父親のように接します。もっとも、上原正三は自分の父親に対しては複雑な思いを抱いていたそうで、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではそれが理由で「刑事くん」を書くのを拒否したと証言しています。

閑話休題。劇中では語られていませんが、元は陸上自衛隊の一佐だったという設定がありました。また、以前はMATのニューヨーク本部に勤務していた事が最終登場話となった第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)で語られています。

ヘルメットの番号は「1」です。

第1話「怪獣総進撃」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)で郷秀樹と知り合い、彼の勇気ある行動と生命力に感銘を受け、MATへの入隊を薦めました。温厚な人物ですが、任務に対する責任感が強く、規律には厳しい面もあり、それが第2話「タッコング大逆襲」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)で描かれています。思い上がった郷は南の制止も振り切って、独断で勝手にタッコングを攻撃して逃すという過失を犯してしまいます。南は「艇長は私です。」と言って庇いますが、加藤はドライブレコーダーを再生して郷の独断専行であったことを指摘し、郷を「除隊」しています。ただ加藤は郷の後見人的存在である坂田健に連絡を入れており、郷のサポートは怠りません。ドライブレコーダーには郷が「こうなったら、ウルトラマンになってやる。」と言うのも録音されていたはずですが、この時、加藤はそのことを指摘しませんでした。これは瑣末な指摘なのかもしれませんが、後述する理由もあってか、劇中では上記の描写にとどまっています。

第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では怪獣の存在を指摘する郷の意見を巡ってメンバーが対立するのを見兼ねて単身霧吹山に登って自分の目で確かめようとします。和をもって尊しと成す性格のようです。

部下思いの性格は第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)でも描かれています。この話でも郷を謹慎させますが、坂田には連絡を入れています。また岸田長官の強引な指令に対する態度にも、部下思いの性格が現れています。それについては先述しました。

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第15話「怪獣少年の復讐」(脚本:田口成光、監督:山際永三、特殊技術:高野宏一)では兄が鉄道会社の社長をしていることが語られており、兄の息子、すなわち加藤の甥も劇中には登場します。

第18話「ウルトラセブン参上!」(脚本:市川森一、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)では宇宙ステーションの隊長を務めている旧友・梶(南広)が冒頭で登場しますが、彼はベムスターに宇宙ステーションごと飲み込まれてしまいました。その復讐に加藤は燃えますが、ベムスターは強敵でした。ウルトラマンも敗れ、苦戦を強いられます。それでも戦う加藤隊長でしたが力及ばず、加藤の乗るマットアロー2号は墜落してしまいます。その危機を救ったのが、太陽から戻ったウルトラマンでした。思わず加藤はこう言います。

加藤「ウルトラマンが帰ってきた。」

そして第22話「この怪獣は俺が殺る」(脚本:市川森一、監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)でMATステーションに転任したのです。

塚本信夫が考えた裏設定

さて演じた塚本信夫は制作当時、監督の筧正典と議論したことがあったと『ウルトラマン大全集II』(講談社・1987年)215頁の座談会で明かされています。この座談会には二人とも出席しています。で筧と塚本は「やっぱり隊長は(郷がウルトラマンであると)知っているんだ」という結論に達したそうですが、画面の中では「隊長は郷がウルトラマンであるとは知らない」ことにして描くことにしたと述べています。第2話を演出したのは筧ではありませんが、塚本信夫は加藤隊長を演じる時にそんなことまで考えて演じていたのは確かです。

おわりに

この記事ではMAT日本支部の初代隊長を務めた加藤勝一郎について取り上げました。塚本信夫が降板した理由は定かではありません。坂田健同様、郷秀樹の後見人だったのは確かでした。隊長の交代劇の脚本を書いたのは市川森一ですが、もしかしたら上原正三は郷秀樹は後見人がいなくても行動できる立派な人物になったと考えていたのかもしれません。坂田健が郷を励ます場面が第22話以降はあまり描かれなくなったのも確かですし、あの悲劇の第37話に繋がったのかもしれません。もっともこれはふと思った私見に過ぎませんが。

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