(番外編)上原正三、一般ドラマへの誘い

はじめに

今まで上原正三が子供向け番組で活躍してきた様子を書いてきましたが、実は大人向けの一般ドラマへ誘われたことがありました。少なくとも2回あります。2回目があったのは本当につい最近知りました。この記事ではそのことについて書きましょう。

東芝日曜劇場への誘い

上原正三市川森一と仲が良かったことは今まで何度も書いてきました。「快獣ブースカ」で出会い、以後、「ウルトラセブン」、「怪奇大作戦」、「恐怖劇場アンバランス」、「仮面ライダー」(の企画)、「帰ってきたウルトラマン」、「シルバー仮面」、そして「ウルトラマンA」で一緒に仕事をしています。「ウルトラマンA」が終わった後、市川は同じアパートに住んでいた萩原健一の紹介で「太陽にほえろ!」に参加し、以後はずっと大人向けの一般ドラマを書いていました。その市川はある時、上原正三東芝日曜劇場へ参加しないかと言ってきたことがありました。私がこの話を知ったのは切通理作が編集に加わっていた『夢回路 魔法・怪獣・怪奇・ウルトラマン・青春・犯罪』(1989年、柿の葉会)という市川森一の脚本集に収録されていた上原へのインタビューを読んだのが初めてです。ウルトラマン屈指の異色作 沖縄出身脚本家・上原正三さんが挑んだタブー | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス から引用しましょう。

■心の中に謝名親方がいる
 ―子ども番組ではなく、大人のドラマを書こうとは思わなかったのか。

 「ある時、市川森一が『子ども番組を卒業し、東芝日曜劇場を書かないか』と言ってきたんだ。なら、沖縄戦を描いた『収骨』ができるのか。絶対にできないわけだよ。かと言って、ヤマトの人の暮らしぶりを琉球人の自分が書いても、ろくな作品はできない。それよりも、自分を必要としてくれる子ども番組で頑張ろうと決めた。『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年4月~77年3月)などは当初、プロデューサーが不安がっていたわけだよ。絶対にヒットするからと説き伏せた結果、今も続く戦隊ヒーロー物の先駆けになった」

 ―沖縄と日本の関係について、どう考えるか。

 「独立も含めて一度関係をリセットし、どうするかを真剣に考える時期が来ている。薩摩侵攻で、琉球王国を占拠した400年前の強引さが今も続く。民意を顧みず、基地を押し付ける政府の態度は沖縄を植民地としてしか見ていない証拠だ。これが差別なんだ」

 「薩摩侵攻の時に捕らえられ、2年間幽閉されても薩摩への忠誠を拒否したため、処刑された謝名親方(琉球王国の大臣)が僕の先祖。18歳の時、琉球人の誇りを持って東京に来てから60年、僕の心の中にはいつも謝名がいる」

そう。上原は市川の誘いを断ったのです。上原は1970年10月3日から同年12月26日までフジテレビ系列で放送されていた「紅い稲妻」というドラマで琉球空手の手解きを得た少女・松村奈美を主役にし、行方不明になった父親を探すために船で当時は本土復帰前だった沖縄から密航・不法入国させる話を書き、挫折したという過去があります。私はこのドラマを全く見ていないので推測に過ぎませんが、この苦い経験も背景にあったのではないかと思います。また既に書いた通り、円谷一に一般ドラマで沖縄問題を取り上げるのは難しいと言われていたのも影響していたのでしょう。

ただ市川自身は以後も上原や金城には友情を感じていました。それは上原も同様です。「知ってるつもり」という日本テレビ系列で放送されていた番組で金城哲夫が取り上げられた時は市川森一藤本義一とともにゲスト出演し、金城の話をしています。また後に1993年にはNHKで放送された「私が愛したウルトラセブン」の脚本を書いています。このドラマは虚実織り込まれていた物ですが、円谷プロの作品を書いたことを大切にしていたこともうかがえます。橋本洋二とはテーマ主義をめぐって対立しましたが、それも彼には良い思い出だったのです。なお橋本も「夢回路」などで市川に対してコメントを寄せています。

必殺シリーズへの誘い

さて一般ドラマへの誘いはもう一つありました。それは必殺シリーズへの参加の誘いです。「それゆけ!レッドビッキーズ」が朝日放送の希望で放送が延長されたことには既に触れましたが、朝日放送のプロデューサーは辰野悦央でした。1982年3月28日に「それゆけ!レッドビッキーズ」は放送が終わりましたが、辰野は1982年10月8日から放送が始まる「必殺仕事人III」から、前作「新・必殺仕舞人」までの仲川利久に代わって、必殺シリーズのプロデューサーになりました。その関係もあって辰野は上原にも声をかけたのです。ただ残念ながらこれも実現しませんでした。時期も流れた理由もわかりませんが、私は上原が他の番組の関係で多忙だったことが理由として挙げられるのではないかと思います。

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ただ私は実現したら面白かったのではないかなあと思います。辰野が担当する前のいわゆる前期必殺シリーズには琉球出身の棺桶の錠が「必殺仕置人」で登場します。琉球出身という設定がうまくいかされた話はなかったのですが、必殺シリーズのような時代劇なら沖縄問題を盛り込んだ話を描けたのではないかなあと思います。

余談ですが、必殺シリーズの前番組の「君たちは魚だ」や「お荷物小荷物」では佐々木守が脚本を書いており、その関係で「必殺仕置人」の脚本に佐々木守を参加させることをプロデューサーの山内久司は考えていたそうです。佐々木の作風も緩急自在でしたから、実現していたら面白い話が生まれたのではないかなあと思います。

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