上原正三も帰ってきた - 帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021 -

はじめに

この記事では、「帰ってきたウルトラマン」でメインシナリオライターを務めた上原正三の同作品での足跡を取り上げます。

円谷プロを退職して

上原正三はかつて円谷プロに在籍していましたが、かつて自分を招聘した金城哲夫円谷プロを辞めた頃、自分も退職しました。その上原を橋本洋二は「柔道一直線」に呼び寄せ、脚本を書かせました。これが後々、上原の一生に影響を与えます。詳細は以前書いた、こちらをご覧ください。

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さて「帰ってきたウルトラマン」の企画に上原が関わっていなかったのは先述しましたが、企画が固まった頃、上原は橋本洋二や円谷一に呼び寄せられました。その時、上原は「ウルトラマン」を生み出した金城哲夫をかなり意識したのは間違いありません。そして金城哲夫が書いた、太陽のように明るい、ポジティブでエンターテイメントの作品ではなく、その対局の人間ドラマを描くという橋本洋二のテーマ主義に沿った路線を打ち出すことにしたのです。金城哲夫が生み出したハヤタには科学特捜隊の副隊長という設定があったことからわかる通り、優秀な隊員という設定がありました。上原正三が生み出した郷秀樹は元は自動車修理工場の工員でレーサーを目指す普通の青年でした。MATには後から入隊していますが、当初は未熟でした。また金城哲夫が生み出した科学特捜隊は基本的には和気藹々とした雰囲気で隊員同士の対立はあまり描かれませんでした。まあイデが悩んだり(第13話、第22話、第37話)、アラシが暴走したり(第36話)したくらいでしょう。ですが、上原正三が描いたMATは違いました。第3話「恐怖の怪獣魔境」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では、霧吹山上空で怪獣の咆哮を(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)聴いた郷と、咆哮など聴こえなかった上野、そして上野と同調した岸田との対立が描かれています。この話では南と丘は郷の意見には賛成も反対もしないという立場をとっており、加藤隊長も郷対上野と岸田の対立に頭を痛め、単独で霧吹山に登頂するという行動に出ます。自らの目で事実を確かめたいと考えたからです。加藤隊長がいなくなったと聞いた郷は加藤隊長の真意を悟りますが、郷のその意見を聞いた岸田は根拠がないと否定します。なんと芸の細かいことでしょう、上原は。そんな郷を霧吹山上空まで南は送ってあげます。

さて以前も書きましたが、MAT隊員と郷のドラマは第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)で頂点に達します。

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第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」

第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」はこういう話です。この記事では前回よりももう少し丹念にこの話を掘り下げます。この話では郷、岸田、上野、坂田健、坂田アキ、そして加藤隊長の心情がよく描かれています。

マットビハイクルでパトロールに出た郷と岸田は坂田家近くの工事現場で「アンモン貝」(アンモナイトのことでしょう)の化石がついた、繭のような形をした岩のようなものが出ているところに遭遇します。工事現場の作業員に意見を求められた岸田はスコップで叩いてみて、ただの岩石と判断しますが、「念の為」にマットシュートから放った光線で焼いておきます。直後に郷は岩石に耳をつけてみて、(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)心臓の鼓動のような音を聴いてしまいました。なので郷は放置するのは危険だと岸田に言いますが、岸田は聞き入れようとはしません。

その後、今度は奥多摩に怪獣グドンが出現。郷と岸田はマットアロー1号で出動します。岸田はMN爆弾を撃つように郷に指示しますが、郷は(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)グドンの近くで少女が走っているのを目撃し、MN爆弾を撃つのを躊躇しました。その間にグドンは地底へ潜ってしまいました。当然、これを岸田は問題視します。岸田には少女など見えなかったからです。対立する郷と岸田を見て、加藤隊長は郷に謹慎を命じました。

謹慎を受けた郷は坂田家へ向かいます。加藤隊長から連絡を受けていた坂田健はこう郷に言います。

坂田健「俺にも経験がある。小学校4年の時だったかな。俺は職員室の窓ガラスを割ったというんで、廊下に立たされた。いくら俺じゃないと言っても信じてくれないんだなあ。そこで俺は1週間学校に行かずに抗議した。とうとう1週間目に真犯人のガキ大将が名乗り出たがね。」

坂田健「少女を見たんなら、どこまでも見たと押し通すべきだ。3日、4日の謹慎を食らったて、胸を張ってればいいさ。」

郷がやってきたことを喜んだ坂田健の妹のアキは地下ショッピングセンターへ服を買いに行きます。郷はあの岩石を思い出し、止めますが、アキは郷の制止を聞かず、友達と共に出掛けてしまいます。不幸にも郷の懸念は的中。岩石は巨大化し、その影響でアキは地下ショッピングセンターに閉じ込められた上に負傷してしまいます。そして郷は非常召集を受け、MAT基地に戻ります。そこで聞かされたのは、あの巨大化したものは怪獣グドンが餌にしている怪獣ツインテールの卵に間違いないということでした。MAT基地には岸田のオジでもある岸田長官や佐竹参謀、そしてもう一人の参謀もいました。岸田長官はMN爆弾の使用を命じますが、郷は坂田アキが閉じ込められていることを理由に、命令に従うことを拒否。なお岸田長官はこんなことまで言っています。

岸田長官「なーに、いざという時はウルトラマンが来てくれるさ。心配いらんよ。」

郷は首についたMATのバッジを外して出て行ってしまいます。これを上野が追いかけ、郷にこう言います。

上野「そうじゃないか。何か気に食わないことがあると辞めるのか。腹が立つのはお前だけじゃない。お前、何のためにMATに入った。MATには一体何をしたっていうんだ。帰るところがあるからって、それでは無責任すぎるではないか。」

上野がこう言うのは理由がありますが、それは後で触れましょう。加藤隊長はMN爆弾の使用をせず、アキ達の救出を優先させることに決めます。長官の命令を無視するのかという岸田に加藤隊長はこう言います。

加藤「私はMATの隊長だ。MATが犯した不始末はMATのやり方で収拾をつける。」

さて郷は坂田と共にツルハシをふるい、アキを救出しようとしていました。そこに上野が駆けつけ、ツルハシを振るう郷に言います。

上野「俺はお前のように帰るうちがない。だから絶対にMATは辞めん。これでもMATに命をかけているんだ。」

上野「MATに戻れよ。一緒にやろう。」

上野は孤児だったのです。この設定を活かした話はその後はあまり書かれませんでしたが、最終回間際にまた取り上げられる設定です。さて上野は後から駆けつけた南、丘、加藤隊長と共に救出活動を手伝います。この時、岸田はいなかったように思います。

ですが救出作業を行なっているその時、地震が起こりました。外へ出た郷はツインテールが卵から孵化して現れたことを知ります。郷はウルトラマンに変身し、ツインテールと戦い始めますが、ウルトラマンのカラータイマーが赤になったその時、地中からグドンが現れます。二大怪獣に挟まれたウルトラマンを映したところで第5話は終了。第6話に移ります。

さてウルトラマンはエネルギーが尽き、姿を消しました。逃げるツインテールとそれを追うグドン。それを見た加藤隊長はウルトラマンが敗けたことにショックを受けますが、続けて郷の救出を隊員に命じます。郷は外に倒れていたところをMATの隊員に見つけられます。

郷「MATを辞めた俺を、すみません。」
南「何を言ってるんだ。俺たちは仲間じゃないか。」
上野「郷、お前はMATを辞めたつもりだろうが、俺はお前をMATの一員だと思っている。」

第3話では郷と対立した上野でしたが、この話では郷へのわだかまりは解けています。南は第2話でも見せた通り、郷に対する態度は優しいものです。この後、アキは救出されますが、重傷を負っていたため、入院しました。

さてグドンに対してMN爆弾が使用されましたが、グドンの強靭な体はMN爆弾の効き目はありませんでした。これを聞いた岸田長官は強力兵器スパイナーの使用を決断しました。スパイナーは強力な兵器ですが東京で使えば東京そのものが灰燼と化す強力な兵器です。まさに水爆級の威力です。確かに怪獣を倒せるかもしれませんが、都民も安心はできないでしょう。直ちに都民に避難命令が出ました。当然、アキも避難しなければなりませんが、容態が重すぎて搬送することはできません。坂田健は避難を拒否し、アキに付き添うことにしました。郷と、坂田の元に駆けつけたMATのメンバーに坂田健はこう話します。

坂田健「昭和20年3月。空襲の時、私はまだ3歳でした。私のお袋はどうしても疎開するのが嫌で、空襲のたびに庭の防空壕に隠れて、この子だけは空を飛ぶB29に祈ったそうです。私もお袋に似てるんですね。」

ここで原爆投下直後の広島の様子の映像が流れています。もうお分かりでしょう。上原正三が込めたこの話のテーマは戦争に翻弄される市民の姿です。上原は沖縄戦が繰り広げられた沖縄出身で大学時代は東京で沖縄出身であることを理由に差別を受けています。岸田長官達参謀は旧日本軍上層部の象徴で坂田健や坂田アキは戦争の被害を受けた東京都民の象徴です。富田義治は上原の意図を汲み取り、演出したのです。坂田健の話が聞こえたのか、意識不明の坂田アキは大粒の涙を流します。その後、郷と加藤隊長はこう言う会話をします。

郷「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか。」
加藤「私と一緒に来てくれ。共にMATの誇りを守り、任務を遂行しよう。」

日本のためとか正義のためという言葉を上原正三は使いません。そんなものは上原は好きではなかったからです。

さて加藤隊長は岸田長官にスパイナーの使用停止を進言。怪獣に接近して麻酔弾を撃ち込む作戦を作戦を決行することを伝えます。当然、岸田長官は最初は反対しますが、岸田の説得(唐突に岸田が加藤隊長に同調したようにも受け取れますが、それは瑣末なことに過ぎず、ここは坂田健の言葉に心を動かされたと解釈しましょう)もあり、失敗したらMATの解散を条件に作戦の決行を認めます。

そしてMATは出動しました。郷はウルトラマンに変身し、グドンツインテールを相手に戦いますが、劣勢は否めません。その時、麻酔弾がツインテールの両目に命中しました。両目が潰れたツインテールは弱体化。グドンに倒されてしまいます。形成逆転。ウルトラマングドンと戦い、勝利しました。

東京の危機は去りました。加藤隊長は片脚を負傷して引きずりながらも隊員を労うのでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」でメインライターを務めた上原正三が目指したものを簡単に取り上げました。こうして番組は始まり、路線は固まりましたが、これに異を唱えた者がいました。それは上原と共に「仮面ライダー」の企画に参加しながら「仮面ライダー」の脚本を一本しか書かなかった市川森一です。次は市川森一の参上とそれに対する上原の反応を取り上げようと思っています。

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