伊上勝の紙芝居

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第9話「怪獣島SOS」(監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)と第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)の脚本を担当した伊上勝を取り上げます。

略歴

伊上勝は1931年7月14日。群馬県出身で群馬県立高崎高等学校を卒業後、明治大学に進学。文学部でフランス文学を専攻し、27歳で卒業。宣弘社に入社します。遅咲きだったんですねえ。さて宣弘社の本業は広告代理店でしたが「月光仮面」などのテレビ番組も制作していました。伊上も宣弘社の作品で脚本を書くようになり、後に「ウルトラQ」の放送枠になるタケダアワーで放送された「隠密剣士」も書いています。もっとも私は宣弘社時代の伊上勝作品を観たことは全くありません。

1965年に宣弘社を退職し、フリーの脚本家になります。1966年には「悪魔くん」の脚本を担当。ここで平山亨と出会います。元々平山は「隠密剣士」を観て伊上勝に興味を抱いており、朝日ソノラマ編集長の坂本一郎に伊上の紹介を要望し起用したそうです。以後は平山亨がプロデューサーを務める作品を執筆します。私には東映作品のイメージが強いです。

参加の経緯

実を言うと、私は伊上勝が参加した経緯を明確には知りません。ただ伊上勝は「柔道一直線」の前番組「妖術武芸帳」の脚本13本を全て執筆していました。その関係で橋本洋二と知り合ったのでしょう。白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での田口成光の証言を紹介しましょう。

伊上勝さんは違う血を入れようと言うことで最初に入ったと思いますけど、苦戦してましたねえ。一さんがOKしても橋本さんがNGってことも多かったです。当時の伊上さんにそんなことできるのは橋本さんだけだったんですけど、自由奔放にパアッと書く人だから、話が打ち合わせ段階とどんどん変わって行っちゃったりするんですよ(笑)。僕の知り合いで伊上さんの原稿取りに行って朝一本、昼一本、夜一本なんてことがあったとかも聞きましたけど(笑)。もっともあの頃の30分ドラマというのは100メートル走みたいなもので、とにかく一息でパーッと書けって言われてましたからね。佐々木守さんも30分ものは3時間で書いていたようですよ。

まあ同時期に伊上勝がタケダアワーの「ガッツジュン」も担当したことから考えると「帰ってきたウルトラマン」に伊上勝を加入させたのは橋本洋二の意向だった可能性が高いと思います。なんとなくですが、金城哲夫と四つに組もうとしたように、伊上勝とも四つに組みたかったのだろうと思います。

ただ田口が指摘している通り、橋本洋二のテーマ主義に伊上勝がピタリとはまっていたとは言い難いと思います。伊上勝が書いていた東映作品を思い浮かべてみましょう。伊上勝の息子で同じく脚本家の井上敏樹は、伊上のシナリオはシーンの繋がりを考慮せず美味しい場面を羅列した「紙芝居的」な作風と評しており、紙芝居を作っていた時の手法のまま執筆していたのではないかと推測しています。で私も井上のその意見を読んだ時、その指摘は正しいと手を叩きました。本当に紙芝居のような作風だからです。

例えば佐々木剛演じる一文字隼人が初登場した「仮面ライダー」第14話「魔人サボテグロンの襲来」を思い出して見ましょう。一文字隼人は藤岡弘、が撮影中の事故で重傷を負って出演不能、と言うよりは俳優生命自体も危機に陥っていたために急遽登場したキャラクターです。スタッフは藤岡弘、演じる本郷猛を殺してしまおう、と言い、実際、石ノ森章太郎が描いた原作漫画では本郷猛は11人の仮面ライダーに襲われて怪我だらけになって肉体を失い、脳だけの姿になってしまいます。ですが子供の夢を壊したくないという平山亨の意見で本郷猛を殺す案は亡くなり、代わりに一文字隼人が登場することになったのです。そのような事情があったとは言え、伊上勝は一文字隼人に、本郷はショッカーを追ってヨーロッパへ行った、緑川ルリ子も後を追った、自分が日本を守る、とセリフで言わせただけで、この交代劇を描いているのです。この話を物心がついて「初めて」観た時、私は唖然としたのを覚えています。これって手抜きじゃないの? 似たような指摘は毎日放送からもされていたのだそうです。

ですが、伊上勝の書く話が面白かったのも確かです。「仮面ライダー」を思い出してください。ストーリーらしいストーリーなんてないでしょう。ただ仮面ライダー(本郷猛・一文字隼人)とショッカー(またはゲルショッカー)との戦いを描いているだけです。面白い場面が紙芝居のようにパッパと並び、しかもテンポ良く次々と変わっていくんです。これは伊上勝がメインになったから得られた作劇だったと私は思います。当初の予定通り、上原正三市川森一も参加していたら、後の「シルバー仮面」のような作品になっていたかもしれません。もしくは旧1号編のような話がずっと並んだ事でしょう。「仮面ライダー」のヒットは2号が作ったようなものですから、確実に時代は変わったに違いありません。

幻の第3話「呪われた怪獣伝説〝キングザウルス三世〟」

前置きが長くなってしまいました。話を「帰ってきたウルトラマン」に戻しましょう。さて伊上勝の初登板は第9話ですが、実はその前に第3話の予定で脚本を書いています。その名は「呪われた怪獣伝説〝キングザウルス三世〟」です。この怪獣の名前に聞き覚えがあるでしょう。そう。キングザウルス3世は元々伊上勝が書いた脚本に登場する怪獣だったのです。私はキングザウルス3世が元々伊上勝の書いた脚本に登場する怪獣だったことは知っていましたが、その詳細…と言えるものを知ったのはつい最近、白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」を読んでからです。と言うわけで同書から引用しましょう。

脚本は、宣弘社や東映作品でお馴染みの伊上勝で、準備稿の印刷は二月一日。伊上は本作品が、『帰ってきたウルトラマン』初登板だった。本作品に登場するキングザウルス三世は、ト書きに〝長く首を伸ばしたザウルス三世〟とあることから、池谷仙克が番組制作に先んじてデザインしていた四足歩行タイプの怪獣を念頭において執筆されたことは間違いない。骨格標本から甦ったキングザウルス三世は、アトランティスを滅ぼしたと言われる怪獣で、人語を解し、バリア(脚本表記は電磁防御網)を張り身を守ることが出来るという強烈なキャラクター性を持っていた。その意味ではシリーズ初期を飾るにふさわしいインパクトを持った怪獣だったが、内容はキングザウルス三世を意のままに操ろうとする茜博士を描く、典型的なマッドサイエンティストもので、『帰ってきたウルトラマン』初期のフォーマットには収まりにくい脚本だった。

なるほど。これは「一さんがOKしても橋本さんがNG」となりそうな話ですね。残念ながら私の知識もこれ以上はありませんが、それはとにかく、この脚本は準備稿でキャンセルとなり、怪獣のデザインが既に決まっていた関係で、上原正三が第4話「必殺! 流星キック」を書いたのでした。伊上勝は多忙だったこともあり、第9話を書いた後、「帰ってきたウルトラマン」からは一旦離れたようです。

第49話「宇宙戦士 その名はMAT」

ですが、終盤に突如伊上勝の脚本が映像化されます。この話はミステラー星人の戦闘隊の「エース」(人間態は村上不二雄、スーツアクターは斎藤忠治)が戦いに疲れ果てて娘(人間態は古屋まゆみ)を連れて地球へ逃亡、安らかに暮らしていたところを、MATやウルトラマン目当てに戦闘員を補充しに地球へやって来たミステラー星人の「戦闘隊長」(人間態は森本景武、スーツアクターは遠矢孝信)に見つかり、娘を「人質」にすると脅されて渋々協力させられる、と言うのが大筋です。

この話、白石雅彦が「『帰ってきたウルトラマン』の復活」で指摘した通り、「隠密剣士」第6部6話「忍者変幻黒風斉」や「仮面の忍者赤影」第1部10話「怪忍者黒蝙蝠」で使われた、抜忍物のストーリーを流用したことは間違いないでしょう。忍者を脱走兵に置き換えたわけです。この説を私も支持します。というか、このプロットは後に「変身忍者 嵐」でも「忍者キャプター」でも使われているからです。また「仮面ライダーV3」第15話「ライダーV3 死の弱点!!」(監督:塚田正煕)に登場する岡島博士(有馬昌彦)も似たような経歴を持った人物です。しかも彼には岡島珠美(泉陽子)と言う娘までいます。

ですが、この話をよく見るともう一つのプロットも流用された可能性も見えて来ます。この当時、「仮面ライダー」も放送されていました。上原正三市川森一も企画に参加し、伊上勝がメインで脚本を書いていた、あの作品です。第49話が放送されたのは1972年3月17日。その年の正月、仮面ライダー1号が日本に復帰し、九州の宮崎と鹿児島で2号と共に死神博士と戦っています。第47話「マグマ怪人ゴースター 桜島大決戦」(監督:山田稔)で死神博士はゴースターに敗れた仮面ライダー1号を捕らえ、脳波コントロール装置を頭に取り付けて仮面ライダー2号と戦わせています。第49話でミステラー星人「戦闘隊長」は郷以外のMATの隊員を捕らえて操り、ミステラー星人「エース」の娘を上野と丘に拐かそうとさせたり、ウルトラマンと戦わせようとしたりもしています。よって第49話は「仮面ライダー第47話「マグマ怪人ゴースター 桜島大決戦」のプロットも流用した可能性があるのではないかと私は思います。

井上敏樹は、伊上勝は紙芝居を作っていた時の手法のまま執筆していたのではないかと推測していましたが、これは紙芝居の絵を並び替えて色んな話を書いていたことも指しているのだろうと思います。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第9話「怪獣島SOS」(監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一)と第49話「宇宙戦士 その名はMAT」(監督:松林宗恵、特殊技術:真野田陽一)の脚本を担当した伊上勝を取り上げました。

伊上勝が活躍したのは意外と短く、私の認識では1980年の「仮面ライダースーパー1」が実質的な最後だったと思います。私が今見返してみても、1979年の「仮面ライダー(スカイライダーの方)」では限界に達しており、プロデューサーに復帰した阿部征司がメインを江連卓に交代させたのも無理はなかったと思います。実際、本放送当時、私は「仮面ライダー(スカイライダーの方)」が放送開始されたと聞いて「『仮面ライダー』はストロンガーで終わったんじゃなかったの?」と思ったものです。でお話自体もさほど面白くはなく、伊上勝の存在など当時は知りませんでしたが、両親からそろそろ子供向け番組から卒業するようにと強制されたことも相俟って、途中から観なくなりました。で大人になってから見返しても「仮面ライダー(スカイライダーの方)」には「仮面ライダー」が持っていたパワーはなかったけれども「仮面ライダースーパー1」は独自の世界を構築して面白かったなあと思います。

ただ伊上勝の脂が乗り切った時期に書かれた作品が面白かったのは間違いなく、東映チャンネルなどで放送されるときは何度も何度も繰り返して観てしまいます。「仮面ライダー」は何回観たのかもうわかりませんね。つい最近もMXで放送されたのを観続けてしまいました。

さて次は誰を取り上げようか、少々迷っております。

adventar.org

金城哲夫の苦悩

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第11話「毒ガス怪獣出現」を書いた金城哲夫を取り上げます。

対馬丸事件を書けず…

金城哲夫円谷一のコンビが「怪奇大作戦」の第1話を結果的に制作できなかった話は以前書きました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

その時は端降りましたが、「人喰い蛾」を書く前、金城は「海王奇談」と言う話を書いていました。自信満々で金城はこの話を書いていたのですが、橋本はOKを出しませんでした。金城はショックを受けましたが、「海王奇談」に欠けていたテーマを彼なりに考え、対馬丸事件を取り上げる事を思いつきました。太平洋戦争中の1944年8月、対馬丸という船が疎開船として民間人や児童ら計約1,700名を乗せて那覇から長崎へ向かう途中、アメリカ海軍からの魚雷攻撃を受け沈没した事件です。金城は橋本に連絡し、橋本もこれにOKを出しました。ですが、金城は対馬丸を題材とした脚本を書き上げることができず、結局、「人喰い蛾」が書かれたのでした。この件について、上原正三白石雅彦著「『怪奇大作戦』の挑戦」で、こう推測しています。

上原 それは金城が沖縄戦を体験していたからだと思うよ。僕は九州の方に疎開していたから、沖縄戦を知らない。だから戦争をテーマにしたものが書けたんだよ。しかも金城のお母さんのツル子さんは、アメリカの機銃掃射で片足をなくしているだろう。

金城の母親ツル子の足を奪ったのは米軍飛行機の機銃掃射でしたが、逃げる金城一家を保護して引き合わせたのも米軍でした。沖縄戦で金城は辛い体験をしました。上原の言う通り、対馬丸事件はそのトラウマを刺激するものだったのかもしれません。

レッドハット作戦

金城哲夫が「怪奇大作戦」の放送中に沖縄へ帰郷したのは以前書きました。金城は日本と沖縄の架け橋になりたいと思っていました。その思いもあって帰郷したのでしょう。その金城が帰った沖縄はアメリカの占領下にありました。

1969年7月18日、沖縄県美里村の知花弾薬庫(現・沖縄市の嘉手納弾薬庫地区)内の「レッド・ハット・エリア」で致死性のVXガス放出事故が起き、アメリカ軍人ら24人が病院に収容されたことをウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。これにより、知花弾薬庫に毒ガス兵器が存在することが明らかになり、アメリカ軍もこれを認めました。貯蔵量は致死性のものを含め1万3千トン、アメリカ合衆国以外で配備されているのは沖縄だけだと伝えられて、知花弾薬庫付近の住民は不安と恐怖に包まれ、怒りの声が広がりました。当然、反対運動が盛り上がりました。そのため、アメリカ軍は毒ガスを知花弾薬庫から移送することになりました。それがレッドハット作戦です。移送作業自体は1971年1月と7月の2回行なわれました。金城が帰郷した時、沖縄では、この騒動が物議を醸していたのです。

第11話「毒ガス怪獣出現」

さて金城哲夫が一時的に上京した時がありました。その時に書かれた脚本を元に制作されたのが第11話「毒ガス怪獣出現」(監督:鍛治昇、特殊技術:高野宏一)です。脚本執筆を依頼したのは満田かずほだと上原正三も証言しています。

あらすじはこんな感じです。パトロールの途中で帰ってきた上野を岸田は叱責します。岸田はオジが長官を務めていることからも分かる通り、軍人一家なのです。激怒した岸田はそのまま上野を残し、代わってマットアロー2号で飛び、山の中で時代劇のロケ隊が全員変死を遂げていたのを発見しました。岸田の通報で郷と南も現場へ飛びました。なお、脚本では現場近くで郷や南が謎の崖崩れを目撃したり、何かの咆哮を聴く場面があったそうですが、映像では後にセリフで語られるのみです。閑話休題。現場には撮影フィルムが残っており、MATは現像して撮影された映像を見ました。現場に霧状のガスが立ち込めてスタッフ・キャストが倒れていく様子や、怪獣らしき巨大なものが見えるのがフィルムには残されていました。そこへ佐竹参謀が入ってきました。調査の結果、ロケ隊の死因は旧日本軍が開発したイエローガスであることが判明したと言うのです。岸田は何か言いかけますが、毒ガスの恐ろしさを糾弾する南の言葉を聞いて、何も言い出せず、鎮痛な表情になります。帰宅した岸田は母に問いただします。岸田には自殺した兄がいました。その動機は岸田の父がイエローガス製造に関わっていたからではないかと。そして岸田は父の日記を読み、事件が起きた辺りにイエローガスが投棄されていたことも知ります。それからしばらく経ったある日、事件現場付近で岸田はチェーンソーを使う木こりに警告しますが、その懸念は的中。怪獣モグネズンが現れ、ガスをはきます。岸田は確信しました。モグネズンがイエローガスを食べ、はいているのだと。岸田はこの事件は自分一人で決着をつけると。そして岸田はマットアロー2号で単身出撃。その様子を見た郷は岸田の様子がおかしいことに気づきます。岸田はマットアロー2号でモグネズンと戦いますが、結局、叩き落とされ、重傷を負います。そして郷は岸田の母から、岸田家の忌まわしい過去を聴き、今度は自分が岸田に代わって怪獣を倒すことを決意します。そしてマットアロー1号に乗る加藤隊長と丘は郷がマットアロー2号で出撃するのを目撃します。郷は特殊ネットでモグネズンの口を塞ぎ、地上からマットシュートで攻撃しました。しかし、モグネズンはネットを外し、イエローガスをはきました。苦しむ郷。ピンチに陥ったその時、郷はウルトラマンに変身しました。しかし

ナレーター「怪獣のはく毒ガスはウルトラマンの生命をも刻一刻と奪おうとしていた。立て、ウルトラマン。」

この場面を観た時、私はウルトラマンの姿が金城哲夫とダブりました。金城哲夫が苦悩しているように見えたのです。この話を初めて観たのは大学生になってから。中央公論ルポルタージュ金城哲夫の生涯を私は知っていました。沖縄に帰った金城哲夫が苦悩したことを知っていました。それとダブって見えたのです。閑話休題。その時、加藤隊長は南と上野が乗るマットジャイロが飛んでくるのに気がつきました。

南「あ、ウルトラマンが危ない。」

上野「可燃ガス投下準備よし。」

そして可燃ガス弾が投下されました。

南「さあ、ウルトラマンスペシウム光線で点火するんだ。」

この南のセリフがカッコイイです。南の声が聞こえたのか、それまで毒ガスに苦しんでいたウルトラマンは立ち上がり、スペシウム光線を発射。可燃ガスは燃え上がり、と同時に「ワンダバ」BGMが流れます。モグネズンはイエローガスをはきまくりますが、燃える可燃ガスの威力で効力は失われました。形勢逆転。ウルトラマンは勝利しました。

事件解決して、ここはMAT国連病院。松葉杖をつきながらも岸田が退院します。

岸田「チームワークを乱して、申し訳ありませんでした、隊長。」

加藤「もう何も言うな。怪獣は死んだんだ。毒ガスという名の憎むべき怪獣もな。これでみんな、安らかな眠りにつける。」

岸田「はい。本当に。」

岸田は郷を黙って見ました。そしてMATのメンバーは岸田を連れてマットビハイクルで去るのでした。

上原正三の感想

さて上原正三はこの話に複雑な感想を抱いたようです。白石雅彦著「『帰ってきたウルトラマン』の復活」でこう語っています。

上原「毒ガス怪獣出現」は、上京した金城に、満田が書かせたものなんだけど、無理をしているね。つまり橋本洋二に合わせているんだよ。『怪奇大作戦』のリベンジじゃないだろうけどね。彼はメインライターじゃなかったし、あの雰囲気では難しかったんだろうね。金城の場合は、彼がメインライターで、第一話から書いてもらわないと駄目なんだよね。

また、これに先立って出版された白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」ではさらに踏み込んで、次のように語っています。

メインライターとして、他の作家はどんなものを書くのか常に目を配る必要がある。同じ様な素材だと困るからね。その場合、ゲスト作家の作品を優先して自分の素材を引っ込める。ゲスト作家に自由に書いてもらうのがルールというかエチケットというか。だから2クールに入って子供を意識してきたというのは、逆に言えばこの辺で一皮剥けて来たのかも知れないね。余裕が出てきたというかな? メインライターとしての自覚というか、少し慣れたといえばおかしいけど。

金城哲夫、1本書いているけど書きにくそうだったな。自分が企画したウルトラマンじゃないからね。メインライターというのは企画の立ち上げから自分の世界観を確立してそれに沿って書き進めるわけだけど。あの時の金城は他人(ボク)が創り上げた企画を書くわけで、それは彼にとって初めての経験だったんじゃないかな。しかも金城の場合は一度ウルトラマンを捨てている。でもオレのウルトラマンのほうが面白かったと心のどこかで思っている。ウルトラの星だった男のプライドだよね。脚本(『毒ガス怪獣出現』)を読んだとき、金城哲夫の作品じゃないと思ったもんね。だからもっと伸び伸び書かせてやりたかったなって。変に橋本さんを意識したんじゃないのかな? それに応えようとしたんじゃないのかな? それにしてもあの頃の金城哲夫は元気なかったな。借りてきた猫みたいに。だからもの凄く淋しい思いをして沖縄へ帰ったと思うよ。

確かにこの話は「ウルトラマン」で書いていたような太陽のように一点の曇りもなく、ピュアなエンターテイメントではありません。上述したレッドハット作戦を元にこの話を書いたのは間違いありません。私も無理して書いたのではないかと思います。ただ岸田家の忌まわしい過去を独りで清算しようとした岸田の姿はそれまで金城が描いてきた登場人物にダブるような気もします。

あと、上原の感想を見て思ったのは、上原自身も本当は郷と岸田の和解を書きたかったのではないかなということです。白石雅彦も指摘していますが、第10話までの「帰ってきたウルトラマン」ではMAT隊員の内面に焦点を合わせた話はほとんどありませんでした。まあ第9話「怪獣島SOS」で南が主人公になったくらいです。まあ一応、郷の父親のような存在の加藤隊長、郷に優しい南、郷とは対立する岸田、郷とは対立もするし仲良くもする上野、郷と岸田のどちらにも中立な丘、といった色分けはされていましたが。もっとも、金城が岸田を主人公にしたのは毒ガス事件を扱うのに最適な、軍人一家という設定を岸田が持つからであって、深く考えてMAT隊員の内面に焦点を合わせたわけではないのでしょう。ですが、上原もこれ以後は郷とMAT隊員が対立する話は書かなくなったも確かです。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」第11話「毒ガス怪獣出現」とその脚本を書いた金城哲夫を取り上げました。

adventar.org

小山内美江子の願い

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」最大の怪作とも言える第48話「地球頂きます!」(脚本:小山内美江子、監督:佐伯孚治、特殊技術:真野田陽一)の脚本を書いた小山内美江子を取り上げます。

略歴

小山内美江子は1930年1月8日生まれで神奈川県横浜市鶴見区出身。高校卒業後、1951年に映画のスクリプターになりました。長男の理重剛を出産後、離婚し、シングルマザーとなり、脚本家になりました。子育てをしながら脚本を書いていたからか、Wikipediaにも書かれていますが、手がけた作品の中には教育や子育てへの思いを込めたものがあり、『3年B組金八先生』をはじめ誤算シリーズ(『親と子の誤算』『父母の誤算』)などのテレビドラマによって、教育界でも知られるようになりました。
さて「帰ってきたウルトラマン」でプロデューサー補を務めた熊谷健とは友達であり、その関係から円谷プロの作品も数本書いています。「ウルトラQ」の「あけてくれ!」は円谷一を「ウルトラQ」制作に導いたのは先述しました。他に「恐怖劇場アンバランス」の「死を予告する女」と「地方紙を買う女」を書いています。第48話「地球頂きます!」を書いたのも熊谷からの依頼があったからです。

ですが円谷プロで作っていた作品が小山内の資質に合っていたとは言い難く、「ウルトラQ」からは怪獣路線に転換すると同時に降板していますし、これから描く第48話「地球頂きます!」も他の「帰ってきたウルトラマン」とは異質な話になっています。ですが、教育や子育ての思いを込めた作品という意味では小山内らしい作品なのかもしれません。佐伯孚治の演出も「富士に立つ怪獣」以上にぶっ飛んでいたこともあり、強烈な印象を残しています。

第48話「地球頂きます!」

実質的な主人公は怠け者の少年勝(田村明彦)です。彼は次郎の同級生でしたが、学校へも行かずにお寺の境内の地面に怠け者怪獣ヤメタランスの絵ばかり描いています。ご丁寧にもザ・ドリフターズの「誰かさんと誰かさん」の替え歌を歌っています。さて神社のそばにはご丁寧にもマットビハイクルがとまっており、誰もいない車内からはカーラジオでザ・ドリフターズの「誰かさんと誰かさん」が流れています。マットビハイクルに乗ってきたのは郷。郷も仕事をサボってお団子を買いに行っていたのです。郷は勝に気づき、話を聞き「どうせ書くなら頑張り怪獣ヤッタルデーでも描けよ。」と言いますが、勝は「お前もやはりママゴンの仲間だな。」と返します。なお、カーラジオがつけっぱなしになっている描写は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」によれば、決定稿には書かれていないそうです。また勝のモデルは小山内の息子の剛その人だそうです。勝はママゴン(要するに母親)がガミガミうるさいとこぼしますが、小山内もママゴン同様、息子の怠けぶりに手を焼いていたのは間違いないでしょう。その小山内の願いは息子が怠け者でなくなること。その願いは思わぬ形で叶います。と同時に「帰ってきたウルトラマン」史上最大の怪事件が起きることになるのです。

さて油を売っていた郷のところに通信が入ります。伊吹は郷がサボっていたことを叱った後、東京に怪物体が落ちたのが観測されたので調査するようにと命じます。怪電波を発信していますが、落ちる速度からみて、パラシュートがついているかもしれません。というわけで勝と郷は別れますが、その勝が見たものは

勝「あ、カプセルだ。」

なんとパラシュートのついたカプセルが落ちてくるのが見えました。勝はカプセルが落ちるところへ急行。そしてカプセルを開けると中にいたのは

勝「ヤ、ヤメタランス。」

ヤメタランスは実在したんですねえ。そしてなんか、「キーキー」言っていますが勝にはその言葉が通じません。そのうち気がつくと勝の顔はソバカスだらけになり、しゃっくりをします。ここ重要な場面なので覚えておきましょう。なおマットビハイクルに乗る郷には

ヤメタランス「やめろ。僕をカプセルから出すな。」

という叫びが聞こえています。いささかご都合主義のような気がしますが、その後が面白いので目を瞑りましょう。なおもヤメタランスは叫びますが、勝には「キーキー」としか聞こえません。勝はカプセルの下半分をヤメタランスごと運び出してしまいました。

ヤメタランス「頼む。僕をカプセルに入れて送り返すのだ。でないと地球は今に大変なことになるのだ。」

そして遂に

勝「やめた。」

と言ってカプセルを放り投げ、

勝「ごめんよ。なんだか知らないけど、君と遊ぶのをやめる。怠けるのもやめる。せっかく、友達になったんだけど、僕、学校へ行く。勉強しなくちゃ。バイバイ。またな。」

小山内美江子も息子にこう言って欲しかったに違いありません。ところが話はそれで終わりではありません。

ヤメタランス「ダメなのだ。君が行くとみんなに移ってしまうのだ。」

さあ、困ったことになりました。MATはカプセルを見つけました。もちろん、中身は空です。郷は警戒し、汚染物質が入っていたかもしれない、と言います。伊吹も合意し、警視庁に連絡して慎重に扱うことにしました。団地のそばで見つけたこともあったからです。とここで空飛ぶ宇宙船登場。

宇宙人「さすがはウルトラマン。しかし、もう遅い。お前ら地球人に俺達の新兵器がわかってたまるか。」

さて勝は学校へと急いで走りますが、途中で泥棒(不破万作)と遭遇。手ぬぐいを頭にかぶって鼻の頭で結び、若草色の風呂敷包を背負っています。わかりやすいですね。泥棒は勝とぶつかり転倒。

泥棒「気をつけろ、馬鹿野郎。」

とその顔にはソバカスがたくさんついています。そしてしゃっくりしました。もしかして…

と思ったら、場面は学校。勝が教室に到着しました。先生は遅刻してきた勝を叱り、クラスの皆が勝をからかいますが、先生の顔はソバカスだらけになり、しゃっくりまで始めました。そして次郎を含めたクラス全員、しゃっくりを始めました。もしかしてパンデミックですか? 見ると次郎の顔、そしてクラス全員の顔はソバカスだらけ。

と思う間もなく場面が切り替わり、先ほどの泥棒をお巡りさんが追いかけています。必死に逃げていた泥棒でしたが、しゃっくりをして立ち止まり、風呂敷づつみを置いて座り込み

泥棒「やめた。」

逃げるのをやめてしまいました。でこれ幸いと警官は手錠をかけようとしましたが

警官「こいつ、窃盗現行犯で逮捕する…やめた。」

見ると警官の顔にもソバカスがたくさんついています。警官も座り込んでしまいました。さて学校では

先生「やーめた。」

クラスのみんな「やめた。」

勝「ダメだよ、君達。生徒が勉強しないでどうするんだよー。」

厳密には小学校に通うのは児童なのですが、そんなのは瑣末な指摘に過ぎません。宇宙人は高笑いします。

仕方なく勝は団地にある自分の部屋に帰ります。当然、料理の真っ最中だったママゴンは勝が学校をサボって帰ってきたと思い、叱りますが、途中でしゃっくりをしてしまい、

ママゴン「やーめた。」

この騒動を団地の人達が外に出て見ていました。この時、勝は気がつきました。

勝「なんか、臭いよ。」

ママゴン「ああ、天ぷらが揚がり過ぎているんじゃない。」

あわてて勝が部屋に戻ると天ぷら鍋が燃えています。というわけで消防車が出動しますが、全員途中で「やめた」と叫んで止まってしまいました。こういう騒動があらゆるところで起こりました。結婚式も聖火ランナーも通勤客も皆「やめて」しまいました。聖火ランナーは聖火を放り投げています。火事になったらどうするのでしょうか。消防署は…やめてましたね。

場面が変わってヤメタランスが映ります。おや。先ほどよりも大きくなっています。等身大です。

ヤメタランス「やめるのをやめるのだ。僕を大きくするのをやめてくれえ。」

宇宙人「バカめ。それが我々の狙いだ。もっと大きくなれ。もっと大きくなれ。」

ヤメタランス「ダメだあ。僕を大きくすると地球が壊れてしまう。やめてくれえ。」

気のせいか、ヤメタランスは更に大きくなっているような気がします。

さて場面変わってMAT本部には通報の電話が殺到していましたが、なぜか通報してきた人は皆、途中で「やめた」と言って電話を切ってばかりでした。困惑するMATの皆さん。郷はあのカプセルの中に地球人の労働意欲をなくす病原菌が入っていたと推定しますが、伊吹は「そんなバカな。」と言って取り合いません。とここでMAT本部が揺れ、なぜか法螺貝が鳴り響きました。これは見返すまで忘れ去っていました。おもしろすぎます(大笑)。場面が変わると、あーら、ヤメタランスはとうとう団地よりも大きくなってしまいました。逃げる人々。でも勝だけはヤメタランスに向かっていきます。でここでCM挿入です。法螺貝が鳴ったのは出動ということなんでしょうかねえ。わかりませんが。

CMが明けるとMATは出動しています。ですがいつもと雰囲気が違います。いつもの「ワンダバ」BGMがやたらと早回しで流れているのです。空をマットアロー1号2機、陸をマットビハイクルが進みます。

勝「撃つな。撃たないでくれ。」

逃げるヤメタランス。

伊吹「攻撃開始。」

南「攻撃開始します。」

しばらく攻撃が続いたのですが、突如BGMがいつもよりスローテンポになり

岸田「やめた。」

南「やめた!」

この2人の言い方、岸田は落ち着いた感じなのに、南は力がこもっています。キャラクターの違いなんでしょうね。でもう一機の方でも

伊吹「やーめた。」

上野「はあ。やーめた。」

マットアロー1号は2機とも墜落してしまいました。4人全員脱出しますが、パラシュートで落ちながら、こんな逝かれた会話をします。

南「おーい、気分はどうだい。」

上野「おーい、最高だーい。」

岸田「工場も仕事をやめたせいか青空だなあ。久しぶりに空気がキレイだ。」

南「ああ、いい気持ちだ。」

勝はマットビハイクルと遭遇。そのため丘も

丘「やめたわ。」

攻撃しようとする郷を止める勝。

勝「あいつは何もしないんだよ。ただ大きくなっちまっただけなんだよー。」

ヤメタランス「そうなのだ。僕は何もしない。僕を地球へ送ったのは宇宙人なのだ。僕の体には人間を怠け者にする放射能がいっぱい入っている。だからみんな、ほらヤメタランス。」

郷「そうか。それでこの子は逆に怠けるのをやめたんだな。」

ヤメタランス「そうなのだ。今に地球人が全部怠け者になった時、宇宙人達が攻めてくるのだ。」

さあ、事件の真相がわかりました。郷と勝はMATのメンバー全員にそれを伝えようとしますが、皆、ブランコに乗ったりして言う事を聞きません。戦うのをやめたからです。この時の会話も傑作です。

南「それはわかったけどなあ、俺達が働かなくなってから攻撃してくるとは、宇宙人も相当怠け者ではないか。」

郷「そんなこと言っている場合じゃないでしょう。」

上野「まあ、いいから、いいから。」

岸田「そうむきになるなよ、郷。みんな仕事をやめたおかげで交通事故はゼロ。素晴らしいじゃないか。」

丘「そうよ。ついでにその宇宙人にもヤメタランス病を移したらいいんだわ。」

合間に流れる笑い声同様、全員、逝っちゃってます。と言うわけで、まーたワンダバのスローが流れる続ける中

勝「ダメだよ、郷さん。正気なのは僕と郷さんしかいない。二人でやっつけるんだ、宇宙人を。」

と言うわけで勝は郷と二人で宇宙人を倒そうとしますが、郷もしゃっくりをしてしまいました。ああ。もちろん、顔はソバカスだらけです。

郷「やめた。」

これには宇宙人もご満悦です。

宇宙人「それでいい。それでいいのだ、ウルトラマン。」

そのとき、郷にはヤメタランスのキーキー言う声が聞こえました。

郷「ちくしょう。ウルトラマンがこんなのに負けてはいけないんだ。」

仕方なく勝はマットガンでヤメタランスを攻撃。

ヤメタランス「殺すなと言ってくれ、ウルトラマン。僕を僕の星に帰してくれえ。」

郷「わかった。しかし、どうやって。」

ヤメタランス「早くしてくれえ。お腹が空いて、また地球を壊してしまうのだ。」

このヤメタランスの懇願が効いたのか、郷はウルトラマンに変身しました。しかし、登場したウルトラマンの顔にはソバカスがたくさんついています。うーむ。なおBGMもまた、ウルトラマンがヤメタランスを抱えて倒れると同時にスローになってしまいました。佐伯の演出は徹底しております。

勝「しっかり。ウルトラマン。頑張って。」

ウルトラマンは気力を振り絞って立ち上がりました。と同時にBGMの速さも元に戻りました。佐伯の演出は徹底しております。ウルトラマンはウルトラブレスレットでヤメタランスを縮小。宇宙へ投げ返しました。

宇宙人「ちくしょう。ウルトラマンめ。」

仕方なく、今度は宇宙人がウルトラマンと戦います。さてよく見るとウルトラマンの顔からソバカスが消えています。と言うことは…ここからワンダバが流れますがスローから普通のスピードに戻っていくと同時に、南、岸田、上野、丘、そして伊吹が正気に戻ります。後ろに昔懐かしい東急3000系が止まっていますから、鷺沼あたりでロケをしたようです。MATもウルトラマンを援護し始めました。宇宙人はスペシウム光線で倒されました。

最後は元の怠け者に戻ってしまった勝のそばで非常召集がかかってしまった郷がしゃっくりをしてしまい、慌ててバックミラーで自分の顔にソバカスがついていないことを確かめる場面が流れた後、本部へ戻るマットビハイクルが映っておしまいです。

おわりに

この記事では第48話「地球頂きます!」とその脚本を書いた小山内美江子について取り上げました。書き忘れましたが、この話はナレーションが一切入りません。それはヤメタランスと宇宙人のセリフで状況がわかってしまうからなのでしょうね。なお、脚本では宇宙人には名前がつけられていません。熊谷健はサービスのつもりで小山内の本名にちなんで宇宙人の名前をササヒラーと名づけました。ところが今度はそれが原因で小山内の姪(小山内の兄の娘)がからかわれてしまい、小山内は兄嫁から怒られたという逸話が残っています。小さな親切大きなお世話だったと言うことなのでしょうかねえ。難しいですね。

adventar.org

大暴れ石堂淑朗

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」後半で脚本を書いた石堂淑朗を取り上げます。

略歴

石堂淑朗は1932年7月17日生まれで広島県尾道市久保町出身です。東京大学文学部独文学科に入学し、卒業。1955年に松竹大船撮影所に入社しました。脚本家デビューは1960年の「太陽の墓場」です。ここで大島渚などとともに映画革新運動である松竹ヌーヴェルバーグの中心として活躍しました。余談ですが、大島渚佐々木守とも仕事をしています。「日本の夜と霧」では大島渚と共同で脚本を書いています。つまり、元々は反権力の人だったのです。1965年以後は松竹をやめてフリーになり、テレビでも活躍します。

円谷プロの作品では「怪奇大作戦」から登板しています。放送されたのは「美女と花粉」、「呪いの壺」ですが、この他に「平城京のミイラ」という話を書いています。

さて石堂淑朗佐々木守大島渚とつき合いがあったと書きました。石堂がウルトラシリーズで書いた話は佐々木の作風とは微妙に違います。佐々木守は「恐怖の宇宙線」のように、怪獣を人間世界に放り込んで人間世界を傍観するような作風でしたが、石堂は「人間世界を傍観する」ことは一切しません。また佐々木守は娯楽性も重視した脚本家で「ウルトラマン」ではそれまであまり活躍することがなかった小型ビートルも出動させ、ビートルと小型ビートルの2機で怪獣と戦わせています。それまでの話ではビートル1機で怪獣と戦う話が多かったので、その方が子供達も喜ぶのは間違いありません。この影響からか、以後は複数のビートルが怪獣と戦う話が「ウルトラマン」で増えます。ですが、石堂淑朗にはそのようなサービス精神など微塵もありません。自分の描きたい話を自分の力技で描き上げた話ばかりです。さらに反権力志向なので権力の象徴であるウルトラマンやMATも酷い目にあっています。またウルトラマンやMATが戦う宇宙人は、「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」で登場した宇宙人のような知的なキャラクターとは違い、自分勝手に自分の好きな事をしに暴れ回るチンピラのような存在です。その作風が顕著に現れたのが、今回取り上げる第42話「富士に立つ怪獣」(監督:佐伯孚治、特殊技術:佐川和夫)です。この話を演出した佐伯孚治は東映で組合活動に熱心に参加していた人でした。熱心な労働組合員が反権力の人が書いた脚本を演出したら、どうなるのか。非常に強烈な作品が出来上がりました。

第42話「富士に立つ怪獣」

冒頭、交通事故が起こります。駐車していた乗用車にトラックが突っ込んできたのです。駐車していた乗用車の持ち主は激怒し、トラックの運転手を「キチガイ」と罵りますが、トラックの運転手は、道路の左側を真っ直ぐ走ってきたんだ、と言い張って譲りません。その様子を山道から見ていたカップルは山道を真っ直ぐ歩いて行きましたが、森の中で崖を滑り落ちてしまい、怪我をしてしまいました。山道を真っ直ぐ歩いて行ったにも関わらず、なぜか道を踏み誤ってしまったのです。喧嘩する乗用車の持ち主とドラックの運転手を仲裁するお巡りさん(柳谷寛)のところへ先ほどのカップルが「赤チンを貸してくれ。」とやってきました。4人の話を聞いたお巡りさんは困惑してこう言います。

お巡りさん「不思議なこともあればあるずら。ぶつけたり、落ちたり、このひと月の間に不思議なことがかれこれ10件もあったずら。」

そして場面が変わってMAT本部。伊吹隊長が富士山で交通事故が頻発している話をし、郷に調査を命じます。さてここで注目すべきなのが岸田です。なんと電気カミソリでヒゲを剃りながら伊吹の話を聞いているのです。なんと不真面目な態度なのでしょう。これは後の伏線なので覚えておきましょうね。で、さらにこんな会話を交わしています。

南「そうだ。この辺(事故が起きたところ)一帯が一種のミステリーゾーンになっているっていうわけだな。」

岸田「ミステリーゾーンか。しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」

この部分、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」によれば、岸田の「しかし、光線が歪んで物体があるべきところからずれて見えるなんてことが有り得るのかなあ。」はシナリオでは南が言っていた言葉だったのだそうです。これを佐伯は岸田に振り替えたわけです。ここも重要なポイントですね。もちろん、視聴者にはその意図がこの時点でわかるわけはありません。

さて郷は調査に出かけました。そしてマットビハイクルで走っている途中、道の左側を走っていたにも関わらず、乗用車と激突してしまいました。マットビハイクルも乗用車も爆発炎上。郷は無傷で済みましたが、相手の運転手は病院に運び込まれました。見舞いに行った郷は気にしないでくださいと運転手に言いました。運転手は謝りましたが、彼も、道の左側を真っ直ぐ走っていたことと、彼の目にはマットビハイクルの方が道を間違えているように見えたことが、この時、判明します。

次に郷は測候所へ行きました。そこで郷は事故が起きるのは晴天の時で富士山の頂上には笠雲がかかっていたことを知りました。郷が富士山を見ると頂上に笠雲がかかっているのが見えました。郷が持っていたレーザーガンSP-70を笠雲に向かって撃つと笠雲は消え、富士山頂上に怪獣が姿を現しました。それにしてもレーザーガンSP-70って射程距離が長いんですね(棒)。まあ石堂は深く考えずに書いたのでしょう。閑話休題。早速郷は本部に連絡しました。

郷「富士山頂に怪獣が現れました。この怪獣は不思議な力を持っているようです。晴れた日に現れ、富士山の笠雲の中に隠れているんです。」

ここから、MATが怪獣、いや、石堂淑朗に翻弄されて酷い目に遭うことになりますが、そんなこと、MATも村の人も視聴者も知るはずがありません。閑話休題。村の人達はなぜか神社に集まっています。やってきたMATの戦闘機は4機。いつもと比べてやけに多いです。その構成はマットアロー1号2機(伊吹と岸田)、マットジャイロ2機(南と上野)です。

お巡りさん「MATだ。おーい、頼むぞー。頼むぞー。」

交通事故を起こして酷い目に遭っている郷は

郷「隊長。光は曲げられている恐れがあります。有視界飛行による攻撃は危険です。計器飛行に切り替えてください。」

と警告しますが

伊吹「大丈夫だ。これだけはっきり見えているんだ。」

と意に介しません。ですが郷の懸念は的中。伊吹(マットアロー1号)と南(マットジャイロ)は衝突してマットアローとマットジャイロは爆発炎上。まあ二人とも脱出に成功してはいます。その二人の目の前で今度は岸田(マットアロー1号)と上野(マットジャイロ)も衝突しかかりますが、こちらは何とか衝突を回避し、2機とも着陸しました。

日没とともに怪獣は消えました。怪獣が太陽光線を利用しているのは間違いありません。MATの面々は作戦を練ることにしました。岸田は何かを飲んでいます。瓶のように見えますが、まさか…後でしっかり映りますが、なんとポケットサイズのウィスキーの小瓶です。さて

伊吹「明朝の日の出とともにまた怪獣は姿を表すだろう。衝突事故が起こらぬうちにまた仕留めよう。」

と言うや否や宇宙人が現れました。以下、MATとのやりとりです。

ストラ星人「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。それがMATの連中にできるかな。光線が曲がるなど、貴様ら地球人には想像もつくまい。」
伊吹「(マットシュートを構えて)貴様、何者だ。」
ストラ星人「私は第7銀河星のストラ星人だ。この地球に混乱を起こして滅ぼそうとパラゴン怪獣を送り込んだのだ。」

郷「この地球をどうしようと言うのだ。」
ストラ星人「この地球は山あり、谷あり。まことに綺麗な星だ。この地球をわしらの星座の別荘にしようと思ってな。どうだね、MATの諸君。無駄な抵抗をやめてすんなり地球を明け渡さないかね。そうすれば地球人の命だけは保証するよ。」
南「黙れ。そんなことはMATの命にかけて(とマットシュートを構えるが)」
ストラ星人「撃っても無駄だぞ。私には光を曲げる力があると言っておるのに。なに、本当の私はどこだと? ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。この岩の裏側だよ。」

こう言ってストラ星人は消えました。ストラ星人は別荘を作るために地球にやってきたのです。

場面が変わり、MATのメンバーが話の続きをしています。岸田はウィスキーを飲みながらこう言います。

岸田「ちきしょう。この地球はあんな化け物の別荘にされてたまるか!」

物凄く興奮しています。酔っ払っているのではないかと思うほどです。これも大事な伏線なので覚えておきましょう。

南「だがこれは容易ならぬ敵だぞ。奴が自由に光を曲げられるとすれば、我々に怪獣の位置がどうしてわかる? ねえ、隊長。」
伊吹「うん。俺も今、そのことを考えていた。富士山頂にいる怪獣はストラ星人が作り出した蜃気楼かもしれんぞ。」
上野「すると我々は忍者と戦っているようなものですね。」
伊吹「いや、手がかりはあるんだ。(地図を持ち)山頂と事故現場を結ぶ、どこかに怪獣は潜んでいるはずだ。明日、俺と岸田はレーダーで探索しよう。」
岸田「はい。」
伊吹「君達は山頂に向かって我々の位置を確認してくれたまえ。」
岸田「よーし。(またウィスキーを飲みながら)俺達の目がダメなら、後は電波という手がある。誘導ミサイルで必ず仕留めてやるぞ。」

興奮高まる岸田でしたが、ここで郷が冷静に指摘します。

郷「しかし…」
岸田「なんだ。」
郷「ストラ星人が自由に光を変えられるならば、電波も…」
岸田「郷、お前、我々の科学を信じないのか?」
郷「いえ、科学的な心配をしてるんです。」
岸田「(ウィスキーの小瓶を投げながら)よさないか!(これと前後してウィスキーの小瓶がパリンと割れる音がする)仮にも俺達はMAT隊員なんだぞ。」

パリンと割れる音がしっかり聞こえました。やはり岸田は相当興奮しています。郷の指摘にも冷静に答えようとはしません。郷と岸田の対立は初期によく見られましたが、あの時は彼なりに理屈がありました。今回はやたらと思い込みが激しいように見られます。これが後の騒動に繋がります。見かねた伊吹は

伊吹「(見かねて)やめろ! 早く休んで明日の攻撃に備えろ!」

というわけで翌朝。伊吹がマットジャイロ、岸田がマットアロー1号に乗り、出撃しました。南、上野、そして郷は地上から伊吹と岸田を誘導する役割です。また神社に村人が集まっています。

お巡りさん「MAT、しっかり頼むぞー。」

怪獣が富士山頂に姿を現しています。

岸田「(マットアロー1号で)隊長、レーダーが怪獣を捉えました。やはり山頂の怪獣は蜃気楼です。本物は山梨側の8合目あたりの模様です。」
伊吹「(マットジャイロから)よーし、誘導ミサイルの発射準備。まず俺が攻撃する。」

というわけで伊吹は誘導ミサイルを撃ちましたが、誘導ミサイルはなんと

南「こっちへ落ちてくるぞ。」

レーダーが捉えていたのは怪獣ではなかったのです。誘導ミサイルは南達のすぐそばに命中し爆発。その数は何発もあり、下手したら南、上野、郷は死んでいたところです。

南「攻撃中止。攻撃中止。」
ストラ星人「バカめ。我々は光波も電波も赤外線も、全ての電磁波を自由に変えられるのだ。」

そう。怪獣やストラ星人は全ての電磁波を自由に変えられるのです。これに伊吹も気がつき、攻撃をやめたのですが…

南「岸田、中止だ。直ちに攻撃中止。」
岸田「ちきしょう。俺は蜃気楼なんかには騙されんぞ。」

また攻撃開始。当然、怪獣パラゴンには当たりません。南達のところに何発も何発も命中します。可哀想な南達。

ストラ星人「レーダーが狂っているのに、何にも知らないんだ。」

ついに誘導ミサイルは村人のところまで飛んできました。逃げ回る村人達。

お巡りさん「うわあ。助けてくれえ。」

お巡りさんのところも何発も何発も誘導ミサイルが命中して爆発。この話、火薬の使用量は莫大だったことでしょう。

伊吹「岸田、中止だ。レーダーも狂ってるんだ。」

それでも岸田は

岸田「ちくしょう。しぶとい奴だ。」

攻撃をやめません。沈着冷静な人がキレるとこわいですね。村人達のところにも容赦なく誘導ミサイルが命中し、ついにある村人がキレました。

村人「ちくしょう。MATの奴め。」

この村人は持っていた猟銃を空に向けました。マットアロー1号を狙っているようです。石堂淑朗は村人にMATへ刃を向けさせたのです。石堂の反権力の思想が色濃く現れた場面だと思います。閑話休題。病院から郷と事故を起こした人もその様子を見ていました。

郷と事故を起こした人「MATは狂っている。」

今回は矢鱈とキチガイだとか狂っているといった言葉が出てくるような気がします。

さて郷はウルトラマンに変身。ウルトラマンを見たお巡りさんは

お巡りさん「お、ウルトラマンだ。ばんざーい。」

お巡りさんはなぜか両手に一つずつ小さい大根を持っています。この大根、大根とは思えないほど小さく、人参より大きい程度のものです。でも色を見たら真っ白なので大根です。

さてウルトラマンは空を飛び、富士山の頂上に立ちました。パラゴンは巨大でウルトラマンの頭はパラゴンの前脚の膝より下に見えます。さてここで白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」での石堂淑朗の証言を紹介しましょう。

スケールが大きいというか、橋本洋二に本当に呆れられたけれども、(怪獣の)幻影が富士山の頂上に出てくるんですよ。富士山から考えたら、1000メートルくらいの怪獣で、それとやり合うウルトラマンって書いたら、(橋本が)「ウルトラマンの身長いくらか知っているか?」って言うから「知らない」「そうだろうなぁ」だって(笑)。だから富士山のやつは、橋本洋二にやっつけられたから一番よく覚えている。

怪奇大作戦』は普通のドラマだと思ってやったけど、こっちは一種のおとぎ話だからね。ああいうこと平気でやっちゃうんだよな。

橋本洋二に呆れられたので石堂は後付けで設定をつけています。それが、(どちらの能力かは明確に描かれてはいませんが)怪獣やストラ星人は光(も含めた全ての電磁波)を自由に操ることができるという能力があることです。ここでお話に戻りましょう。ウルトラマンはウルトラブレスレットを取り出しました。そして

ナレーター「ウルトラマンのブレスレットは太陽光線に強烈な振動を与えたのである。」

ストラ星人「どうしたわけだ。光線が曲がらなくなった。」

ナレーター「怪獣はとうとう本当の位置に姿を現した。」

というわけでウルトラマンは怪獣パラゴンの本体と戦闘開始。パラゴンは4本足の怪獣ですが「ウルトラマン」に登場したドドンゴのように人間が2人入る構造になっています。ウルトラマンを演じたきくち英一のインタビューをまとめた「ウルトラマンダンディー帰ってきたウルトラマンを演った男〜」に当時の写真が載っていますが、遠矢孝信が後ろに入り、前には有川兼光が入っているのが紹介されています。閑話休題。最終的にウルトラマンスペシウム光線でパラゴンの足元の岩を崩し、パラゴンは火口に落下。マグマの高熱で焼死しました。と同時にストラ星人も(なぜか)消滅。事件は無事に解決したのでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」での石堂淑朗の活躍を描きました。こうしてみると田口成光は真面目に橋本洋二の言う事を聞いていたけれど、石堂淑朗はそうではなくて我が道を突き進んでいたのだなあ、と思いました。私はどちらかといえば石堂の書いた話の方が好きですが、それは彼が我が道を突き進んだからではないかなあと思います。対する田口は真面目に橋本洋二が敷こうとした路線を進んで行こうとしたのでしょう。そう思います。

ただ私は上原正三市川森一の書いた話の方が大好きですけどね。

adventar.org

田口成光のデビュー

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で脚本家としてデビューした田口成光について取り上げます。

円谷プロに入社して

田口成光は1944年2月4日生まれ。長野県飯田市出身で日本大学芸術学部を卒業後、脚本家を志望して1967年に円谷プロに入社しました。研究室の助手をしていた先輩から金城哲夫を紹介してもらい、入社したのだそうです。ただ企画文芸室には入れず、特撮助監督の仕事に回され、「ウルトラセブン」や「怪奇大作戦」を担当しました。「怪奇大作戦」の途中から文芸部に出入りするようになったそうです。「怪奇大作戦」で仕事が途絶えた円谷プロではリストラが断行され、田口成光も無給状態に陥りましたが、なぜかなんとなく円谷プロに出入りしていました。そして円谷プロ金城哲夫が辞める直前、「雪が見たい」と言う金城の頼みで彼を自分の実家へ連れて行っています。それについては以前、触れました。

hirofumitouhei.hatenablog.com

やがて円谷プロから金城哲夫上原正三も去り、気がつけば田口は円谷プロの文芸担当になっていました。その後は企画書を書いては放送局や広告代理店へ売り込む日々が続いたそうです。そして実った企画の一つが「帰ってきたウルトラマン」であり「ミラーマン」であったわけです。当時は陽の目を見ませんでしたが、後に「ジャンボーグA」となる企画も手がけていたのは間違いありません。また「戦え! ウルトラセブン」と言う「ウルトラセブン」の続編も日本テレビなどに売り込んでいましたが、この企画内容は武器などの設定が「ミラーマン」にも流用されています。

第8話「怪獣時限爆弾」

さて最初は企画書を書いていた田口でしたが、念願の脚本家デビューの機会が訪れます。それが第8話「怪獣時限爆弾」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)です。この話、後の田口成光作品の特徴が全て表れている話だと思います。

あらすじはこうです。怪獣ゴーストロンが現れます。その容貌を遠隔監視のカメラで見たMATのメンバーは弱そうな奴だとバカにします。そして岸田が開発したX弾を使用することになり、X弾を積んだマットアロー2号で郷は出撃しました。郷が出撃するために部屋を出るのを見届けた後、加藤隊長は南にこう言います。

加藤隊長「南、今夜はお袋さんが上京するんだったな。」

南は照れ笑い。一応、最後の場面に繋がるセリフですので、覚えておきましょう。

郷は怪獣に近づきます。がこの時、油断した郷は怪獣に近づき過ぎてしまいました。それまでノロマで身動きをしなかったゴーストロンは突如、マットアロー2号の方を向き、火の玉(のようなもの)をはきました。慌てて郷はX弾を発射。X弾は確かにゴーストロンの尻尾に命中…はしたのですが、なぜか爆発はしませんでした。ゴーストロンはそのまま地中に潜ってしまいました。当然、この件は問題になり、マットアローの点検などが行なわれました。そしてビデオレコーダーに記録されていた郷の動きの解析により、郷が誤ってX弾を時限装置付で発射していたことが判明しました。時限装置により、怪獣はあと10時間で爆発することが判明。南は「よかったな、郷。怪獣はあと10時間で天国へ急行だ。」と郷を慰めましたが、加藤隊長はその甘さを一喝し、怪獣が街中で爆発したらどうすると指摘します。その直後、郷は加藤隊長と柔道の組手をしますが、郷は加藤隊長を投げられません。この話のテーマの一つは油断大敵なのです。さて映像では、それを加藤隊長に指摘された郷が加藤を投げる事ができて加藤がニヤリとします。

困ったことに怪獣は東京を吹っ飛ばしてしまうほどの量のニトログリセリンがあるダイナマイト工場の目の前に現れ、文字通り、居座ってしまいました。そのため、東京には避難命令が出されました。それを受け、坂田健は次郎に大事なものを持って逃げろと言います。次郎は一番大事なものを持ちました。それは

次郎「郷さんの花だ。」

坂田健「アキと次郎の宝物だな、その花は。」

と言う鉢植えの花でした。なお、この話には坂田アキは登場しません。

加藤隊長と一緒にマットジャイロに乗った郷は怪獣に近づき、分析するために写真を撮りまくりますが、20mのところまで近づいた途端、また怪獣は火の玉をはき、慌ててマットジャイロは退散する羽目に陥りました。

さてMATは作戦を立てました。100mまで近づいたくらいでは反応はせず20mまで近づかないと見えないらしい、と加藤隊長は判断。作戦としてはどこかへ誘き出す作戦と、怪獣の動きを止めて尻尾からX弾を取り出す方法の2種類が考えられると加藤が言ったところで、郷は「音には反応するのではないでしょうか。」と指摘します。これに岸田が噛みつき、根拠はあるのかと郷に質問。郷はその根拠を説明できません。「そんな感じがします」と思っただけだからです。なので加藤隊長は「感じでものを言うやつがあるか。私は多少でも可能性の強い方法を作戦として採用する。」と郷の意見には耳も貸しません。加藤隊長は岸田が発案した麻酔弾作戦を採用しました。うーむ。上原正三が描いた加藤隊長は父親みたいな存在で、真偽を確かめるために自分で現場へ行ったり、郷を叱る時でも密かに坂田健に連絡してサポートさせるなど郷への気遣いは怠らない人だったはずなのに、この話の加藤隊長はそうではないようです。まあ現場へは郷と一緒に行ってはいますけどね。なおも誘き出し作戦の採用を直訴する郷にダメ押しとしてこう告げて立ち去ります。

加藤隊長「私は安全確実な作戦に決めた。お前は少し休め。疲れているよ。」

これでは郷は孤立するだけです。その後、郷は自分なりに状況を思い返し、やはり怪獣は視覚は弱くても聴覚には敏感だという結論を弾き出し、独りで、そう、本当に独りでマットジープを改造し始めます。

その頃、次郎のところに友達(矢崎知紀)が来ていました。友達は親戚の女の子を連れてきていました。女の子は友達のところに逃げてきていたのです。近くに怪獣が現れたからです。次郎は、おうちに帰りたいだろうと同情しますが、それを受けて友達は、こう言います。

友達「MATがいけないんだ。怪獣なんか逃すからだよ。うちでもみんな、MATが悪いって言っているよ。」

このセリフの途中で次郎は襟につけたMATのバッジを思わず隠してしまいます。友達が立ち去った後、次郎は

次郎「ちくしょう。郷さんのバカ。」

次郎はバッジを外して投げ捨て、さらには郷とアキの花を植木鉢ごと投げ捨てて割ってしまいます。うーむ。郷のあずかり知らないところでこんな騒動も起きていたんですね。

さて刻一刻と爆発の時刻は迫ります。郷は単独で出撃。他の5人は麻酔弾作戦を決行しています。郷不在なのを咎める人は誰もいません。先に麻酔弾が怪獣に打ち込まれましたが、麻酔弾は全く効きそうになく、寝ていた怪獣を刺激して、かえって暴れさせてしまう始末です。そのとき、郷が乗ったジープが現れます。郷は怪獣に近づくとジープに積んだサイレンを鳴らしました。そして郷の読み通り、怪獣はサイレンの音に反応し、ジープを追いかけて行きました。必死にダイナマイト工場から離れるジープと、それを追いかける怪獣。郷の作戦は成功したかに見えましたが、郷の乗ったジープは溝の手前でジャンプした格好になり、その勢いで転倒。ジープは怪獣がはいた火の玉で爆発してしまいました。さらに間の悪い事に今度は工場からサイレンが鳴り出しました。折角の郷の作戦も水の泡と消え、怪獣は工場の方へ引き返してしまいました。

とここでウルトラマン登場。ウルトラマンは怪獣としばらく戦いますが、怪獣が工場の前に文字通り居座ってしまうと今度は手も足も出せずにジッとしたままです。

ナレーター「時限爆弾を抱えた怪獣にスペシウムは使えない。ウルトラマンは何を考えているのだろう?」

このナレーションの直前と途中からの計2回、時計が映って時間が経ってウルトラマンスペシウム光線を発射して怪獣が爆発し、ダイナマイト工場も誘爆するという映像が流れます。もちろん、隊員がそう思っていたというイメージ映像です。

さて実際はというとウルトラマンのカラータイマーが赤になり、突然、ウルトラマンは回転して地中に潜ります。そしてウルトラマンは地中から怪獣を抱えて空へ飛び、怪獣は空中で爆発。東京の危機は去ったのでした。郷は無事に現れ、それを確かめた加藤隊長は唐突にこう言います。

加藤隊長「南、お袋さんの汽車は未だ間に合うか?」

南「はあ。」

南は怪訝な表情ながらも間に合うと返事をしました。

加藤隊長「郷の奴、何をもたついているんだ。早く呼んでこい。さもないと汽車に乗り遅れてしまうぞ。」

ようやく加藤隊長の意図を理解した南が郷を迎えに行き、一同が合流したところで話は終わるのでした。

 

田口成光は橋本洋二と議論して10回も直したそうです。田口も橋本も大変だった事でしょう。まあ橋本は「10回」ではないと否定してますけどね。でも残念ながらこの話、細部で綻びが目立ちます。

私がこの話を観たのは多分大学生になってからだと思いますが、その前に、子供の頃に「ウルトラマン」第25話「怪彗星ツイフォン」(脚本:若槻文三、監督:飯島敏宏、特殊技術:高野宏一)を見ていたので、初見の際は「水爆を飲み込んだレッドキングみたいに怪獣を八つ裂き光輪でバラバラにして空へ運べばいいじゃないか」と疑問に思ったものです。「帰ってきたウルトラマン」に登場したウルトラマンも第3話と第4話で八つ裂き光輪を使っています。だから余計にそう思いました。

他にも冒頭で語られた、南の母親が上京すると言うのも最初と最後の場面で語られるだけで話全体には絡んでいませんし、郷はMATのみんなに責められ、あずかり知らないところで次郎の友達にも次郎にも責められ、最終的には独りで独自の作戦を立てて出動しています。なんか見ていてスカッとはしないのです。面白そうな場面を並べてはいますが、バラバラに並んでいるだけで有機的に結びついていないのです。

さてこの話、今まで上原正三が書いていた話、特にウルトラマンが冒頭で敗北する第4話に似ています。田口の発案だったのか、橋本洋二の発案だったのかは定かではありませんが。ただ不思議なことに、私は第4話を初めて見た時、それは子供の時でしたが、「ウルトラマンは空を飛べるのになぜジャンプ力を鍛えなければならないのだ?」と言う定番のツッコミは思い浮かべず、普通に特訓の話を受け入れていました。これがなぜだかよくわかりません。でも改めて見返すと、各場面はそれぞれ有機的に結びついていて、特訓をするのも、精神的な弱さを克服する目的もあったからではないのかなあ、と子供心に感じたからではないかと、個人的には思います。また、この話では坂田兄妹が全員登場し、郷の特訓を見守ります。坂田健は行きませんが、アキと次郎に場所の当たりをつけて教えてあげます。これと前後してアキが丘隊員に嫉妬する場面が入ります。郷と暖かく接する人や彼らの見せ場も上原正三は用意していたのです。これも効いていたのだと思います。

さて主人公のことを他の登場人物が誰も信じず理不尽に責められるという話は後に田口成光が書いた話で頻出します。ウルトラマンA(ヒッポリットが登場する話など)でもウルトラマンタロウ(バードンの話など)でも、そしてウルトラマンレオでもそういう話が並びます。あくまでも私見ですが、知らず知らずのうちに、田口成光は第8話「怪獣時限爆弾」をひきづってしまったのでしょう。でこういう人間ドラマが田口に向いていたかというと、そうではなかったのではないかと私は思います。それを田口が自覚していたかどうかはわかりません。おそらくそうではなかったのかなあと思います。

おわりに

なんだか辛口な論評になってしまいました。まあ田口が第2期ウルトラシリーズを支えた功労者の一人だという事実は変わらないとは思います。さて次はホラを吹いて大暴れした石堂淑朗を取り上げましょう。

adventar.org

市川森一参上! - 帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021 -

はじめに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」で市川森一が書いた話を取り上げます。

帰ってきたウルトラマン」の前

さて「帰ってきたウルトラマン」に入る直前、市川は何をしていたのでしょうか。実は上原と共に「仮面ライダー」の企画に参加していました。ですが、橋本洋二に呼ばれて「仮面ライダー」の脚本執筆から引き上げることになり、一本だけ共作という形で参加しただけです。共作することになったのは、自分の代わりに紹介した島田真之が最初に書いた脚本が使い物にならないと阿部征司が判断したためです。なお阿部は市川が島田の師匠に当たるという発言をしていますが、実際は知り合いだっただけのようです。市川は滝川真理も紹介していますが、のちに二人とも東映の特撮作品で活躍します。また「仮面ライダー」のオープニングにある「人間の自由のために」という言葉は市川の発案によるものだそうです。そういえば上原正三も第6話で「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか。」という台詞を書いていますね。つまり、元々、上原と市川は共通点があったわけです。

hirofumitouhei.hatenablog.com

ただ市川自身は上原が打ち出したスポ根ドラマやホームドラマ的要素は嫌っていました。市川は「ウルトラマンの頃に戻りたい」という意見を抱いていました。市川も上原同様、金城哲夫が描いた「ウルトラマン」を意識していたのです。金城とは違うものを敢えて書こうとした上原と、金城とは違うものを否定しようとした市川。方向性は違いますが、二人とも金城哲夫(と円谷一)が打ち出した路線を意識していたのです。

さて「帰ってきたウルトラマン」は第17話までは上原正三がほとんどの脚本を書いていました。市川は同時期、やはり橋本洋二がプロデューサーを務めていた「刑事くん」の脚本を書いていました。で白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」で市川はこう証言しています。

『刑事くん』のほうも、アンチヒーローと言いますか、むしろ犯罪というのは、犯罪によって刑事が試されていくというんでしょうか。人間的なものというのがむしろ犯罪者側にあって、それを取り締まっていく側が、絶えず人間的な試練を与えられていくことを、とりあえず念頭において『刑事くん』を書いていましたし、それを書きながらの『帰ってきたウルトラマン』でした。

上原正三がこれだけ『帰ってきたウルトラマン』を書いたというのは、上原正三は、同じ橋本プロデュースの中で『刑事くん』を拒否してきましたからね。その分だけ、『帰ってきたウルトラマン』に専念させられたんだと思います。「ウルトラの星光る時」、これが彼にとって事実上の最終回ですね。

市川森一参上!

とはいうものの、視聴率は高いものではありませんでした。当初20%台半ばだった視聴率は第4話で10%台後半に下降し、以後、中々上昇しませんでした。「帰ってきたウルトラマン」を主に見ていたのは「ウルトラファイト」にも夢中になった小学校低学年層でしたが、彼らの目当てはやはりウルトラマンと怪獣の戦いです。MAT隊員と郷秀樹が対立し、父親のような加藤隊長や坂田健が郷を支えるという人間ドラマの方に興味が行っていたかと、そうではないと思います。またこれは上原の責任ではありませんが、予算削減のため、怪獣が出現するのはセットが安価で済む山岳部が多くなり、画面が地味になってしまったことも要因となったのでしょう。なので2クール目からは岸田が郷秀樹と対立するような話はなくなり、怪獣は東京に現れるようになりました。上原は堂々と東京を破壊する話を書けるようになったわけですが、視聴率は中々上向きませんでした。そこで橋本は市川を「帰ってきたウルトラマン」にも参加させたのです。

市川が書いた話は意外に少なく、次の6本です。

  • 第18話「ウルトラセブン参上!」(監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)
  • 第21話「怪獣チャンネル」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)
  • 第22話「この怪獣は俺が殺る」(監督:山際永三、特殊技術:佐川和夫)
  • 第25話「ふるさと 地球を去る」(監督:富田義治、特殊技術:大木淳)
  • 第27話「この一発で地獄へ行け!」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)
  • 第31話「悪魔と天使の間に....」(監督:真船禎、特殊技術:高野宏一)

ですが、どれも強烈な印象を残す話です。生前市川は、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」の中で、どの話も鮮明に覚えていると証言しています。

まず第18話はウルトラセブンやウルトラブレスレットが登場するイベント編です。ウルトラセブンの登場は白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」の97ページによれば、

ウルトラセブンを出したのは、橋本とのディスカッションの中で、市川森一が出したアイデアだったという。

と書かれていますが、市川自身は同書の268ページでは

ウルトラセブンで殴り込みをかけたらどうか」とか、橋本さんにおだてられたりして、それで僕は「ホームドラマは書けませんよ、スポ根ものは嫌いですよ。それでいいんですね。」というようなことで入ったんだと思います。僕は、ウルトラマンは、よりサイエンティフィクションであるべきだと主張してきましたから、アメリカのテレビ映画みたいなタッチでやりたいというのはありました。多少人間ドラマを入れるにしろ、あまりベタベタしたタッチを入れるのは嫌だ。だから特に「ウルトラセブン参上!」は、怪獣が暴れるだけの話になっちゃったんじゃないでしょうか(笑)。

と証言しており、実際は橋本の方が発案したのではないか、とも受け取れる発言をしています。まあいずれにしろ、橋本に唆されて敢えて「帰ってきたウルトラマン」の基本路線から外れた話を書いたのは間違いありません。かつて「ウルトラマン」でも金城哲夫円谷一や飯島敏宏が築いた基本路線から敢えて外れた話が作られました。実相寺昭雄佐々木守による話です。それは実相寺自身がそう言っています。それにより、「ウルトラマン」の作品の幅がぐっと広がりました。橋本の狙いも作品の幅を広げることにありました。

では市川の作品が金城の作品と同じようなものだったかと言うと、それも違います。それを象徴する逸話が伝えられています。ベムスターに敗れたウルトラマンは自分に力をくれと太陽に近づきますが、太陽に近づきすぎ、太陽の引力圏に入ってしまい、燃え盛る太陽に落ちかけます。幸い、ウルトラマンウルトラセブンに救われますが。これを見た金城哲夫が市川に電話してきて「太陽の子であるウルトラマンが太陽に殺されかけるとは何事だ!」と抗議した、と言う話が伝わっています。金城を否定した上原を否定した市川は金城と同値ではなかったのです。

さて市川は坂田兄妹の出番も大幅に減らしています。第18話、第21話、第25話、そして第31話では全く登場しませんし、第22話はワンシーンに次郎とアキが出るだけ。例外的に第27話は坂田アキにスポットが当てられた話となっていますが、その話は恋敵(郷秀樹)から教わった技を意地で敢えて使わずに敗れたキックボクサーが故郷へ戻る話を描くために登場させたためです。市川はスポ根ドラマを否定するために敢えてこういう話を書いたのです。こうしてみると上原が重用した坂田健の出番がないようですね。

第19話「宇宙から来た透明大怪獣」

さて上原は市川の話もしっかり見ていました。第18話と同時期に書かれたのが第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)です。この話ではMATに憧れる坂田次郎の目の前でMATは宇宙怪獣サータンになすすべもなく敗れ去ります。重傷を負っていた次郎はこの光景を見て症状が悪化。郷は坂田健に弱音を吐きますが、坂田健はこんなことを言っています。

坂田健「お前、MATに入ってダメな男になったな。」

郷秀樹「今度の怪獣は得体の知れない宇宙怪獣です。とても手には負えません。」

坂田健「レーサーがレース中に考えていることは勝利の一字だけだ。もし負けの字を思い浮かべたら、その途端にハンドルは岩のように硬くなり、コーナーでスピンしてしまうだろう。だからレーサーは、たとえビリを走っていても、ゴールまで勝利を信じて走り続けねばならん。(郷が何かを言いかけるが)お前は尻尾を巻くのか。流星号に乗っていれば、たとえスピンしても、お前は勝利のゴールを目指したに違いない。いや、お前はそういう男だった。」

郷秀樹「坂田さん…」

坂田健「次郎の机の上にはねえ、お前の写真が飾ってある。学校に出かける時は、行って参ります、帰って来れば、ただいま、と挨拶する。次郎にとってお前は心の支えだ。夢なんだ。」

こんなことを言われてしまったら

郷秀樹「俺やります。もう一度やってみます。」

と言わざるを得ませんよねえ。まあ地味な話であることは否めませんが、私はこの話は上原が残した佳作だと思います。市川の参加に刺激を受けたわけです。そしてしばらく、上原と市川は交互に話を書いていきます。

市川森一と「帰ってきたウルトラマン

市川は当時を振り返り、白石雅彦と荻野友大編著「帰ってきたウルトラマン大全」でこう証言しています。

シリーズのトータルで言えば、『ウルトラセブン』のほうが全体の価値は高いというのがあると思うんですけど、僕個人の評価でいうと『ウルトラセブン』よりも、『帰ってきたウルトラマン』で書いた6本のほうが、ドラマを書いたという気持ちは強いですね。多分、こっちの方が乗って書いたんじゃないでしょうか。

それと監督が一流ですよね。そういう意味も含めて、『帰ってきたウルトラマン』はもう少し再認識されてもいいんですよ。

私もそう思います。少なくとも市川森一が書いた話はそうだと思います。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」に市川森一が参加した話について取り上げました。さて「帰ってきたウルトラマン」に参加した脚本家は上原正三市川森一だけではありません。おいおい、他の脚本家についても取り上げていきましょう。ただ私、上原と市川は好きなのですが、そうではない人もおりますので、記事の書き方もそれなりになってしまいます。

adventar.org

上原正三も帰ってきた - 帰ってきたウルトラマン Advent Calendar 2021 -

はじめに

この記事では、「帰ってきたウルトラマン」でメインシナリオライターを務めた上原正三の同作品での足跡を取り上げます。

円谷プロを退職して

上原正三はかつて円谷プロに在籍していましたが、かつて自分を招聘した金城哲夫円谷プロを辞めた頃、自分も退職しました。その上原を橋本洋二は「柔道一直線」に呼び寄せ、脚本を書かせました。これが後々、上原の一生に影響を与えます。詳細は以前書いた、こちらをご覧ください。

hirofumitouhei.hatenablog.com

さて「帰ってきたウルトラマン」の企画に上原が関わっていなかったのは先述しましたが、企画が固まった頃、上原は橋本洋二や円谷一に呼び寄せられました。その時、上原は「ウルトラマン」を生み出した金城哲夫をかなり意識したのは間違いありません。そして金城哲夫が書いた、太陽のように明るい、ポジティブでエンターテイメントの作品ではなく、その対局の人間ドラマを描くという橋本洋二のテーマ主義に沿った路線を打ち出すことにしたのです。金城哲夫が生み出したハヤタには科学特捜隊の副隊長という設定があったことからわかる通り、優秀な隊員という設定がありました。上原正三が生み出した郷秀樹は元は自動車修理工場の工員でレーサーを目指す普通の青年でした。MATには後から入隊していますが、当初は未熟でした。また金城哲夫が生み出した科学特捜隊は基本的には和気藹々とした雰囲気で隊員同士の対立はあまり描かれませんでした。まあイデが悩んだり(第13話、第22話、第37話)、アラシが暴走したり(第36話)したくらいでしょう。ですが、上原正三が描いたMATは違いました。第3話「恐怖の怪獣魔境」(監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)では、霧吹山上空で怪獣の咆哮を(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)聴いた郷と、咆哮など聴こえなかった上野、そして上野と同調した岸田との対立が描かれています。この話では南と丘は郷の意見には賛成も反対もしないという立場をとっており、加藤隊長も郷対上野と岸田の対立に頭を痛め、単独で霧吹山に登頂するという行動に出ます。自らの目で事実を確かめたいと考えたからです。加藤隊長がいなくなったと聞いた郷は加藤隊長の真意を悟りますが、郷のその意見を聞いた岸田は根拠がないと否定します。なんと芸の細かいことでしょう、上原は。そんな郷を霧吹山上空まで南は送ってあげます。

さて以前も書きましたが、MAT隊員と郷のドラマは第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」(監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)で頂点に達します。

hirofumitouhei.hatenablog.com

第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」

第5話「二大怪獣 東京を襲撃」第6話「決戦! 怪獣対マット」はこういう話です。この記事では前回よりももう少し丹念にこの話を掘り下げます。この話では郷、岸田、上野、坂田健、坂田アキ、そして加藤隊長の心情がよく描かれています。

マットビハイクルでパトロールに出た郷と岸田は坂田家近くの工事現場で「アンモン貝」(アンモナイトのことでしょう)の化石がついた、繭のような形をした岩のようなものが出ているところに遭遇します。工事現場の作業員に意見を求められた岸田はスコップで叩いてみて、ただの岩石と判断しますが、「念の為」にマットシュートから放った光線で焼いておきます。直後に郷は岩石に耳をつけてみて、(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)心臓の鼓動のような音を聴いてしまいました。なので郷は放置するのは危険だと岸田に言いますが、岸田は聞き入れようとはしません。

その後、今度は奥多摩に怪獣グドンが出現。郷と岸田はマットアロー1号で出動します。岸田はMN爆弾を撃つように郷に指示しますが、郷は(ウルトラマンと同体になったことに伴う超能力で)グドンの近くで少女が走っているのを目撃し、MN爆弾を撃つのを躊躇しました。その間にグドンは地底へ潜ってしまいました。当然、これを岸田は問題視します。岸田には少女など見えなかったからです。対立する郷と岸田を見て、加藤隊長は郷に謹慎を命じました。

謹慎を受けた郷は坂田家へ向かいます。加藤隊長から連絡を受けていた坂田健はこう郷に言います。

坂田健「俺にも経験がある。小学校4年の時だったかな。俺は職員室の窓ガラスを割ったというんで、廊下に立たされた。いくら俺じゃないと言っても信じてくれないんだなあ。そこで俺は1週間学校に行かずに抗議した。とうとう1週間目に真犯人のガキ大将が名乗り出たがね。」

坂田健「少女を見たんなら、どこまでも見たと押し通すべきだ。3日、4日の謹慎を食らったて、胸を張ってればいいさ。」

郷がやってきたことを喜んだ坂田健の妹のアキは地下ショッピングセンターへ服を買いに行きます。郷はあの岩石を思い出し、止めますが、アキは郷の制止を聞かず、友達と共に出掛けてしまいます。不幸にも郷の懸念は的中。岩石は巨大化し、その影響でアキは地下ショッピングセンターに閉じ込められた上に負傷してしまいます。そして郷は非常召集を受け、MAT基地に戻ります。そこで聞かされたのは、あの巨大化したものは怪獣グドンが餌にしている怪獣ツインテールの卵に間違いないということでした。MAT基地には岸田のオジでもある岸田長官や佐竹参謀、そしてもう一人の参謀もいました。岸田長官はMN爆弾の使用を命じますが、郷は坂田アキが閉じ込められていることを理由に、命令に従うことを拒否。なお岸田長官はこんなことまで言っています。

岸田長官「なーに、いざという時はウルトラマンが来てくれるさ。心配いらんよ。」

郷は首についたMATのバッジを外して出て行ってしまいます。これを上野が追いかけ、郷にこう言います。

上野「そうじゃないか。何か気に食わないことがあると辞めるのか。腹が立つのはお前だけじゃない。お前、何のためにMATに入った。MATには一体何をしたっていうんだ。帰るところがあるからって、それでは無責任すぎるではないか。」

上野がこう言うのは理由がありますが、それは後で触れましょう。加藤隊長はMN爆弾の使用をせず、アキ達の救出を優先させることに決めます。長官の命令を無視するのかという岸田に加藤隊長はこう言います。

加藤「私はMATの隊長だ。MATが犯した不始末はMATのやり方で収拾をつける。」

さて郷は坂田と共にツルハシをふるい、アキを救出しようとしていました。そこに上野が駆けつけ、ツルハシを振るう郷に言います。

上野「俺はお前のように帰るうちがない。だから絶対にMATは辞めん。これでもMATに命をかけているんだ。」

上野「MATに戻れよ。一緒にやろう。」

上野は孤児だったのです。この設定を活かした話はその後はあまり書かれませんでしたが、最終回間際にまた取り上げられる設定です。さて上野は後から駆けつけた南、丘、加藤隊長と共に救出活動を手伝います。この時、岸田はいなかったように思います。

ですが救出作業を行なっているその時、地震が起こりました。外へ出た郷はツインテールが卵から孵化して現れたことを知ります。郷はウルトラマンに変身し、ツインテールと戦い始めますが、ウルトラマンのカラータイマーが赤になったその時、地中からグドンが現れます。二大怪獣に挟まれたウルトラマンを映したところで第5話は終了。第6話に移ります。

さてウルトラマンはエネルギーが尽き、姿を消しました。逃げるツインテールとそれを追うグドン。それを見た加藤隊長はウルトラマンが敗けたことにショックを受けますが、続けて郷の救出を隊員に命じます。郷は外に倒れていたところをMATの隊員に見つけられます。

郷「MATを辞めた俺を、すみません。」
南「何を言ってるんだ。俺たちは仲間じゃないか。」
上野「郷、お前はMATを辞めたつもりだろうが、俺はお前をMATの一員だと思っている。」

第3話では郷と対立した上野でしたが、この話では郷へのわだかまりは解けています。南は第2話でも見せた通り、郷に対する態度は優しいものです。この後、アキは救出されますが、重傷を負っていたため、入院しました。

さてグドンに対してMN爆弾が使用されましたが、グドンの強靭な体はMN爆弾の効き目はありませんでした。これを聞いた岸田長官は強力兵器スパイナーの使用を決断しました。スパイナーは強力な兵器ですが東京で使えば東京そのものが灰燼と化す強力な兵器です。まさに水爆級の威力です。確かに怪獣を倒せるかもしれませんが、都民も安心はできないでしょう。直ちに都民に避難命令が出ました。当然、アキも避難しなければなりませんが、容態が重すぎて搬送することはできません。坂田健は避難を拒否し、アキに付き添うことにしました。郷と、坂田の元に駆けつけたMATのメンバーに坂田健はこう話します。

坂田健「昭和20年3月。空襲の時、私はまだ3歳でした。私のお袋はどうしても疎開するのが嫌で、空襲のたびに庭の防空壕に隠れて、この子だけは空を飛ぶB29に祈ったそうです。私もお袋に似てるんですね。」

ここで原爆投下直後の広島の様子の映像が流れています。もうお分かりでしょう。上原正三が込めたこの話のテーマは戦争に翻弄される市民の姿です。上原は沖縄戦が繰り広げられた沖縄出身で大学時代は東京で沖縄出身であることを理由に差別を受けています。岸田長官達参謀は旧日本軍上層部の象徴で坂田健や坂田アキは戦争の被害を受けた東京都民の象徴です。富田義治は上原の意図を汲み取り、演出したのです。坂田健の話が聞こえたのか、意識不明の坂田アキは大粒の涙を流します。その後、郷と加藤隊長はこう言う会話をします。

郷「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか。」
加藤「私と一緒に来てくれ。共にMATの誇りを守り、任務を遂行しよう。」

日本のためとか正義のためという言葉を上原正三は使いません。そんなものは上原は好きではなかったからです。

さて加藤隊長は岸田長官にスパイナーの使用停止を進言。怪獣に接近して麻酔弾を撃ち込む作戦を作戦を決行することを伝えます。当然、岸田長官は最初は反対しますが、岸田の説得(唐突に岸田が加藤隊長に同調したようにも受け取れますが、それは瑣末なことに過ぎず、ここは坂田健の言葉に心を動かされたと解釈しましょう)もあり、失敗したらMATの解散を条件に作戦の決行を認めます。

そしてMATは出動しました。郷はウルトラマンに変身し、グドンツインテールを相手に戦いますが、劣勢は否めません。その時、麻酔弾がツインテールの両目に命中しました。両目が潰れたツインテールは弱体化。グドンに倒されてしまいます。形成逆転。ウルトラマングドンと戦い、勝利しました。

東京の危機は去りました。加藤隊長は片脚を負傷して引きずりながらも隊員を労うのでした。

おわりに

この記事では「帰ってきたウルトラマン」でメインライターを務めた上原正三が目指したものを簡単に取り上げました。こうして番組は始まり、路線は固まりましたが、これに異を唱えた者がいました。それは上原と共に「仮面ライダー」の企画に参加しながら「仮面ライダー」の脚本を一本しか書かなかった市川森一です。次は市川森一の参上とそれに対する上原の反応を取り上げようと思っています。

adventar.org